岸辺露伴は動かない-雛見沢-

世の中には知らないほうが幸せなこともある
誰にだって不幸は訪れるものだから

世の中には知らないほうが幸せなことが多い
私は普通の人より不幸なのだから

世の中には知らないほうが幸せなことしかない
私は世界一不幸な少女なのだから

Frederica Bernkastel

君は知らないほうが幸せだ
なぜなら、結果はすでに記されているのだから

Rohan Kishibe

2007年12月

M県S市杜王町—-

1Kのアパートの一室。一人暮らしだろうか?
そこは若い男の一人暮らしにしては片付いた小奇麗な部屋だった。

「ふぁーあ、もう4時か・・・昼寝にしては寝すぎちゃったかな」

むくりとベットの上で体を起こし、背伸びをした男は、時計をみて呟く。

まぁ、待ち合わせの時間まではまだあるし、軽くネットでもしようか。
そんなことを考え、その男はベットから出るとパソコンの置いてある机に向かった。
すると、机の上に置いた彼の携帯電話のランプが点滅していた。

おっと、誰かからメールか電話かな?
そう思い、彼は携帯電話を開いてみた。

不在着信有り
岸辺露伴

彼は広瀬康一、23歳会社員。
10年近く前、この杜王町で起きていた連続殺人事件を解決したスタンド使いの一人だ。
だが、そんな彼もいまや成人し大学を卒業。平凡な社会人としての生活を送っていた。
岸辺露伴というのは彼の友人であり、この話の主人公である。
そう、こんなに出だしから目立っている彼、広瀬康一は主人公でもなんでもないのだ。

康一と露伴は先の連続殺人事件の時からの友人だ。
といっても、露伴が勝手に康一を気に入っただけなのだが、康一もこの付き合いの長い友人を悪くは思っていなかった。
康一が社会人になってからは、月に1,2度は二人きりで飲みに出かけるほどの仲である。
最近では露伴が破産した際に、康一のアパートに住み込むという事件もあったのだが、今回はそこには触れないでおこう。

この日の待ち合わせというのも、2週間ぶりに飲みに行こうという露伴からの誘いであった。

露伴先生のことだから、急用ができたから待ち合わせを遅らせたいとかって電話なんだろうな。
まぁ、どうせ漫画のネタを思いついたからもう少し取材したいなんていう理由なんだろうけど。
あの人は約束は絶対に守る変なプライドがあるからな。今日飲みにいく事に変更はないだろう。
今回は奢ってくれるって言ってたし、絶対にドタキャンはさせないぞ。
まぁ、あんまり遅くなりそうなら、もう少し寝直そうかな?
そんなことを考えながら康一は着信履歴の露伴の番号に電話をかけるのだった。

とおるるるる とおるるるるる ぶっ

露伴『もしもーし?康一君かい?』

康一「あ、もしもし、露伴先生ですか?」

露伴『他の誰かに聞こえるのかい?君は僕の携帯にかけたんじゃあないのか?』

康一「もう、意地悪しないでくださいよ。ちょっと昼寝してて電話気づきませんでしたよ。何の用ですか?・・・っていうか電波悪いですか?変な音がしますよ?」

露伴『あぁ、今ね、新幹線に乗ってるんだよ。新幹線の中でも携帯って使えるんだな、便利なもんだ。』

康一「新幹線って、露伴先生どこにいるんですか?今日飲みにいくんですよね?」

露伴『先生はやめてくれって言ってるだろ?露伴でいいよ、露伴で。』

康一「はぁ・・・、で?どこにいるんですか?飲みに行くんですよね?」

露伴『あぁ、そうそう、それなんだが、中止にしてほしいんだよ。今度飲みに行くときは奢るから、今回は勘弁してくれないかい?』

康一「えーッ!今回奢ってくれるって約束だったじゃないですかぁ?僕が彼女と別れたんでクリスマス前にフられた男の気持ちを取材させてくれって言ってましたよね?」

露伴『いやー、次の読み切り用にどうしても取材したいことができちゃってさ。描くって決めたらすぐに取材するのが僕のポリシーだから、いま新幹線に乗ってるってわけさ。』

康一「人に思い出したくないことを取材するのにドタキャンなんてひどいですよぉー!」

露伴『はは、ごめんごめん。読み切り描き終わったら、一番に康一君に読ませるからさ。それと2回飲みにいくの奢るよ。それでいいだろう?』

康一「前みたいに漫画にヘブンズドアー仕掛けといて読んだ途端にっていうのはやめてくださいよー?」

露伴『しないよ、しない。今回はいいネタが思いついてるからおもしろい漫画が描けると思うんだ。期待して待っててくれよ。』

康一「へー、露伴先生が自分で描く前から言うなんて珍しいですね。どんな漫画描くんですか?取材に行く場所も気になりますよ。おみやげ、忘れないでくださいよ?」

露伴『おいおい、2回の奢りに加えて、おみやげまで要求するのかい?ヤレヤレだぜって言うやつかな。まぁ、わかったよ。でも、おみやげなんてなさそうな場所なんだよなー。
雛見沢っていう場所なんだけど、康一君聞いたことあるかい?』

康一「名前くらいなら聞いたことがありますよ。なんだか数年前まで封鎖されていた村だとか、テレビでやってた気がします。」

露伴『康一君、社会人ならもっと勉強したほうがいいと思うよ?今から24年前、昭和58年の6月末に雛見沢村の沼から火山性ガスが発生して村が一晩で全滅。
そのまま平成17年まで村は政府に封鎖されてたってわけさ。』

康一「24年前って言ったら、僕まだ生まれてませんよ!そんな事件があったなんて知らなかったです。でもそんな怖い話取材するんですか?」

露伴『怖い話だから取材するのさ。今回は大災害に関する漫画を描こうと思ってね。その他にも妖怪伝説のために雪国関係の取材がしたくてね。
雛見沢って白川郷から近いんだぜ?まさに取材するのに打ってつけの場所ってわけさ。』

康一「あー、白川郷の近くなんですかぁ。僕も行きたかったなー。どうせなら連れてってくれればよかったのに。」

露伴『おいおい、漫画家の取材ってのは観光じゃあないんだぜ?それに1週間くらいは泊まりで取材する予定だから、康一君は会社があるだろう?』

康一「一週間ですか?露伴先生にしては長いですね。このまえは海外に取材に行くって言ってたのに3日で帰ってきたじゃないですか。」

露伴『あれは、取材するものがひとつしかなかったからね。観光じゃあないって言ってるだろ?今回はさ
大災害に雪国に、もうひとつ面白そうな話があるんだよ。そいつはちょっと聞き込みとか取材が大変そうなんで1週間行く事にしたのさ。』

康一「へぇ、もったいぶらないでくださいよ。なんなんですか?その面白そうなことって?」

露伴『インターネットの風説でしかないけどね。34号文書とか、竜宮礼奈説とかって検索すれば出てくるよ。
まぁ、漫画家の僕としては「オヤシロさまの祟り」って言い方が一番そそられるけどねぇ。』

康一「オヤシロさまの・・・祟り・・・ですか?」

露伴『そう、祟りさ。もし僕が取材から帰ってこなかったら』
ブツッ

ツーツー

康一『あれ?もしもし?露伴先生?電波悪いのかな?』

康一は携帯電話の履歴から再び露伴に電話をかけてみる。
しかし、彼の電話が露伴に繋がることはなかった。

 

岸辺露伴は動かない-雛見沢-

東海道新幹線客室内—-

露伴『そう、祟りさ。もし僕が取材から帰ってこなかったら祟りってことに・・・
ん・・・?トンネルに入ったのか。まぁ用件は済んだしいいか。』
それに、おもしろいタイミングで切れてくれたしな。
そんなことを考えながら露伴は携帯電話をポケットにしまった。

さてと、名古屋までは後どれくらいだろう?
名古屋からは行けるところまで電車で行って、今日はビジネスホテルにでも泊まるかな。
とりあえず電車に乗ってる間にもう少し「オヤシロさまの祟り」について考えておくか。
まだどこを取材するかきっちりとは決めてないしなぁ。

今後の予定を考えながら、露伴は新品のメモ帳を取り出した。
基本的に露伴は取材をしてもメモはとらない。話を聞いたときには漫画に必要なことは記憶されるからだ。
露伴はなんでもかんでもメモを取るやつが嫌いだったし、馬鹿なんだと思っていた。
だが、そんな露伴も今回の件にはメモが必要だと考えたらしい。まずは自分の知る情報を記していった。

露伴が思ったことをそのままメモに記していると、車内のアナウンスが名古屋への到着を告げる。

時間はまだ17時過ぎだったが、露伴は急激な眠気に襲われていた。
それもそのはず、昨日の夜にインターネットで雛見沢の話を見つけてから、露伴は一睡もしていないのである。
露伴は今日は名古屋のビジネスホテルに泊まることを決め、明日はレンタカーで岐阜に向かおうと計画するのだった。

 

■TIPS
露伴のメモ—-
雛見沢に関する情報

現時点でインターネットの情報をまとめた上での、
推測ではない客観的事実はこのくらいかな

雛見沢の住人が一晩で全滅した
この件に関する不審な情報はいまのところ見ていない。
おそらく親族に遺体などは引き渡されたであろうから、住人が全員死亡したのは間違いないだろう。

雛見沢大災害の前日に少女Aにより雛見沢の学校占拠事件が起きている
少女Aの名前は竜宮礼奈と噂されている。事実かはわからない。
学校占拠事件は実在のもののようだ。
この事件の発端として34号文書というものが存在すると噂されている。
そんなものが実在するのかはまったく不明だ。
だが、34号文書の内容に関しては妙に多くの情報が流れてる。ちょっと気になるかな。

 

雛見沢が20年以上も封鎖されていた
ガス発生源の沼はコンクリートで埋め立てられているらしい。
地質学的に意味がないという説があるらしい。
それが本当かはわからないが、なんとなく正しそうに思える。
そもそも埋め立てられた時期と封鎖の解除の時期があわなくないか?
そう考えると、封鎖期間が不自然に長いって言うのも同意できるな。

雛見沢で「オヤシロさまの祟り」と称される事件があった
1979年にダム工事の現場監督が殺害される。
1980年にダム賛成派の筆頭だった夫婦が事故で死亡。
1981年にオヤシロさまを祀る神社の神主が急死(死因は病死)、妻が後を追って自殺したが死体が見つからない?
と、3年連続で人が死んでいるらしい。
しかもこれが毎年オヤシロさまを祀る「綿流し」という祭りの日に起きるらしい。
たしかにこりゃあ祟りっぽいな。

 

こっから下は事実かは怪しい内容
34号文書
鷹野三四(実在するかすら不明)という人物が書き残したスクラップ帳らしい。
結論から言うと、鷹野三四が大災害の発生を予見している内容になっている。
まぁ、この予見っていうのは火山性ガスが発生してないって話だからちょっと怪しいな。
だが、この文章が実在するかすらわかっていないのに、この文書に関する情報は多い。
かつそれらの情報に一定の統合性がある。内容は宇宙人とかの話でメチャメチャだが。
実物を見つけるのは無理だろうが、調べてみる価値はあるかもしれない。

 

以下は、34文書が正しいとした上での学校占拠事件の真相
竜宮礼奈はこのスクラップ帳を見て犯行を決意。
そして県警に対し、大災害を防ぐための調査を要求したということだ。
まぁ、宇宙人がどうのこうのっていうのを信じるわけじゃあないが、
次の日に大災害が起きているのは興味深い。

 

ここまで書いて思ったんだが、アホの仗助の友人に宇宙人を名乗るやつがいたよな?
ミキタカとか言ってたっけ。あいつもスタンド使いだったと思う。
オヤシロさまってのはスタンドかなんかなのかもしれないな。
宇宙人とか言われてるのも大災害も全部スタンドの可能性を考慮しとこう。

 

そういえば最近、承太郎からレクイエムとかいうスタンドの話を聞いたっけ。
そいつなら村ひとつを飲み込むくらいのスタンドパワーがあってもおかしくない。
でも、スタンドだったら承太郎に漫画のネタにするなって言われるんだろうなぁ。
承太郎には気づかれないようにしよう。

 

××県鹿骨市興宮—-

康一が露伴からの不審な電話を受けた日から3日後。
白川郷の取材を終えた露伴の姿は、鹿骨市の図書館の中にあった。
鹿骨市というのは、雛見沢を含むかなり広大な面積の市である。
ここ興宮も鹿骨市に含まれており、鹿骨市の中心部ではないもののそこそこ栄えた街だ。
そしてなにより、雛見沢地区として封鎖された地域に隣接した街なのだ。
露伴はすでに興宮にホテルを取り、ここを拠点に雛見沢に関する取材をするつもりでいた。

露伴がなぜ図書館に来ているのかというと、実に簡単な理由である。
雛見沢の歴史・風土を調べる場所として、雛見沢に最も近い街の図書館を選んだのだ。

露伴は初めて来た図書館のはずなのに、てきぱきと資料を集め、必要な情報をメモ帳にまとめていく。
露伴のことを何も知らない人がみれば、まるで民俗学の学者か何かにでも見えるだろうか。

そんなとき、二人の男性が露伴のいる郷土資料のコーナーに入ってきた。
この二人の男性がどうにも不自然な組み合わせなのだ。
一人は体格のいい初老の男性。
もう一人は80は過ぎただろうか?まさにおじいさんと呼ぶに相応しい男性だった。

露伴は二人が入ってきたとき違和感を覚えたが、取材の邪魔をしなければいいと思い調べ物を再開した。
しかし、露伴の希望が叶うことはなかった。なんとその二人は雛見沢に関する本を必死に読み調べ始めたのだ。
露伴は世の中気に入らないことだらけだと思ったが、すぐに新しい違和感に気がついた。

その違和感とは、この二人の調べる様子であった。
最初は昔を懐かしみに来た父とその介護をする息子かと思った。
しかし、彼らの様子は過去を懐かしむ様子などまったくない。
まるで刑事が過去の犯罪者リストを洗うかのような鋭い眼差しで本を読み続けているのである。

この二人はおかしい。もちろん雛見沢を調べる人間なんていくらでもいる。
この図書館にだって、年にどれだけのオカルトマニアが雛見沢を調べにくるだろうか。
しかし、彼らは違う。年齢からしてもただのオカルトマニアとは思えない。
なにより、彼らの眼光の鋭さが言っている。彼らは自分以上に雛見沢の何かを知っている。
そしてそこに残る秘密を解き明かそうとしているのだということを。

 

露伴は意を決して話しかけようと考えた。
初老の男性はなんとも言えない迫力を持っていたが、同時に誠実さを感じさせている。
露伴はこの初老の男性に話しかけることにした。

露伴「あー、すみません。ちょっといいですか?僕、こういうものなんですが、地元の方ですか?」

そう言って露伴は名刺を差し出した。

男性「あ・・・いえ、私は地元の人間ではありませんよ。漫画家さん・・・ですか?」

露伴「えぇ、漫画の取材で来てましてね。お話、聞きたいんですけど、隣いいですか?」

男性「いや、先ほども言いましたが私は地元の人間ではありません。取材なさるなら、他を当たったほうがいいと思いますが?」

露伴「いえね、地元の人じゃあなくてもいいんですよ。雛見沢・・・ご存知ですよね?」

男性「ぇ・・・えぇ・・・名前くらいは・・・」

露伴「名前くらい?そんなことないだろ。さっきからアンタの手元にある本、雛見沢に関する本ばっかりじゃないか。」

男性「いや、これはなんというか・・・お恥ずかしい話だが、私、オカルトマニアってやつでして・・・」

露伴「違うな。あんたは違う。さっきから怪しいんだよ、アンタら二人・・・」

露伴「いい歳した男が二人そろってオカルト研究か?そんなわけないね。あんたらの目が物語ってるよ。
アンタらはただのオカルトマニアじゃない。雛見沢の何かを知っている。」

男性「・・・失礼な人だな。何も知らないし、あなたみたいな人に話す話はないですよ。」

露伴と男性の間に険悪なムードが漂い始めていた。
その時、もう一人の年老いた男性が二人に近づき、声をかけた。

老人「おんやぁ?雑談ですか?楽しそうですねぇ。赤坂さんはお若い人と仲がよくてうらやましい。」

赤坂「大石さん・・・、この方は取材をしているそうでしてね。僕は地元の人間じゃないので断っただけですよ。」

大石「そうですか、そうですか。そちらのお若いの、お名前はなんて言うんですかぁ?」

赤坂「大石さんッ!」

露伴「岸辺露伴だ・・・」

大石「岸辺さん・・・ですか。下の名前変わってますねぇ。はて、どこかで聞いたことがあるような気もするんですが・・・」

露伴「・・・漫画家をしているんでね。芸能人ほどじゃあないが、名前は売れてるほうだと思うよ。」

大石「漫画家さんですかぁ。有名な方にお会いするのなんて光栄ですねぇ。あー、ちなみに私、ここらへんの出身なんですけど、どうです?取材してみませんか?」

赤坂「ちょ、大石さんッ!ちょっとこっちに・・・」

赤坂「大石さん、だめですよ。あの漫画家、雛見沢について調べてるらしいんです。どうせオカルトマニアとかと一緒で興味で調べてるだけなんです。
何も話さないほうがいいですよ。」

大石「赤坂さん、私もあなたももういい年だ。このままじゃ私が死ぬまでに大災害の真実を暴くっていうのも怪しくなってきました。
私達ふたりの力じゃどうにもならないんですよ。」

赤坂「だからってあんな男を仲間にするなんて、僕は賛成できませんよ。というか、聞こえてたんですか?彼が雛見沢を調べてること。」

大石「おやおや、赤坂さんは大分相性が悪いみたいですねぇ。私はね、あの男から感じるものがあるんですよ。あの男なら必ず真実を暴いてくれる。
そんな気がしてしょうがないんですよ。」

赤坂「・・・」

大石「私達の次の世代に仕事を任せるっていう意味もありますよ。でもね、それ以上に、あの男なら今すぐにでも真実を見せてくれるような、そんな気がするんです。
それに、昔にあの男に似てる人物に会ったことがあるような気がするんですよ。」

赤坂「・・・わかりました。大石さんがそこまでおっしゃるなら話してみましょうか。」

大石「んっふっふっ。すみませんねぇ、いつも折れてもらっちゃって。赤坂さんはお年寄りにお優しいですからなぁ。」

赤坂と呼ばれた男は大石とやらをひっぱって何やらヒソヒソ話をしているようだった。
どうせ僕の悪口でも言ってるんだろう。大石ってやつからは何か聞けそうだったのにな。
まぁ、幸い図書館で人気もない。天国への扉(ヘブンズドアー)で読んじまうか。
露伴がそんなことを考えているうちに、二人の話し合いは終わったようだった。

二人が露伴に近づく。そして赤坂が話しかけた。
赤坂「あなたに私達の知るすべてをお教えしようと思います。ですが、ここではさすがに人目に触れる。私達の宿にいきましょうか。」

露伴はてっきり断られるものだと思っていたので拍子抜けだった。
うまく行き過ぎて何だか釈然としないものを感じながら露伴は彼らと共に図書館から出ることにした。

 

 

■TIPS
露伴のメモ—-
オヤシロ様の祟りについて調べる上で、
オヤシロ様信仰というのがいつからあるのか調べてみた
その上で雛見沢についてのおおまかな歴史を調べられたので書いておく
ただ、オカルトファンが多いせいか雛見沢に関する本は少ないようだった
図書館の検索システムで検索すると残っている本もあったため、
近年処分、または閲覧不可になったようだ
図書館の職員に食いついてみるかな・・・

雛見沢は昔から隔離された地域だったらしい
それがどれほど昔なのかは分からないが、明治以前からの風習のようだ
これにはオヤシロ様信仰が関わっているようである

オヤシロ様信仰に関する資料には矛盾なども見られるのだが、
村から出て行ってはいけない、村によそ者を入れてはいけない
という点についてはほとんどの資料に出てくる
そのため、この信仰がかなりの昔からあり、村は隔離された地域となっていたようだ
ただ、自分たちを仙人だと考えていた為にこのような考えを持ったという資料が多い
いけ好かない連中だったんだろうな

その雛見沢の信仰のなかに、雛見沢の住人は鬼の末裔であるというものがあるらしい
近代になるにつれて、この信仰により雛見沢は別の意味で隔離された地域となったらしい
わかりやすい言葉で言えば差別部落だ
まぁ、自分達を仙人だとか勘違いしてれば当然だよな
自業自得ってやつさ

このくらいまでしか雛見沢に関する資料ではわからなかった
あとは僕の知る知識だと近年にダム建設に反対する運動などに繋がっていくようだ
そしてそのダム建設の現場監督がオヤシロ様の祟りにあって死ぬ
オヤシロ様の祟りってやつは昔からの言い伝えに背いた者
つまり村から出て行った者などに起こるってことになってるらしい
だが、雛見沢の敵が死ぬっていう祟りは近年のようだ

一応僕の中では過去の祟りと、近年の祟りは別に考えておこう
近年の祟りはこのあとに書くが、スタンドの類の可能性があると考えられるしね

オヤシロ様信仰と歴史を調べる上で見つけたことを書いておこう
村の中において権力をもった家が3つほどあったらしい
その3つの家による合議制で村の重要な事項を決定していたようだ
その家とは、公由家、古手家、園崎家の3つの家らしい
この3家の中での多少の力関係などもあったようである
その名残に、近代に入ってからは公由家から村長を出すしきたりになっていたらしい

まぁ、そんなことはどうでもいいんだが
この3家の中で最もオヤシロ様の祟りに関係があるのは古手家だ

古手家は古手神社を継ぐ一族であり、
その古手神社こそが唯一のオヤシロ様を祀る神社なのだ
ちなみに3年目の祟りで神主が死んだという神社でもある
古手家の女子には奇妙な力があるとの資料があった

この力がスタンドだとすれば、この家系にスタンド使いが多いのだろうか?
スタンド使いが祟りを起こし、3年目には自分自身が死んだ?
妻の方がスタンド使いで夫を殺し、逃亡したと考えるのが妥当か?
いや、スタンド使いかどうかもまだわからないし決め付けるのはダメだな
とりあえず、この古手神社には行ってみることにしよう

露伴「えーっと、お二人が泊まっている宿っていうのはどこなんですか?」

二人が自分に話を聞かせてくれるとわかって露伴は敬語で喋るようになった。
赤坂はつくづく嫌なやつだと思ったが、大石ならこのくらい飄々とかわすのだろうと思うと、
自分は50過ぎになっても大石に勝てないのだなと痛感するのだった。

大石「興宮警察署ってわかりますかぁ?その近くなんですが。」

露伴「いえ、ここらへんに来たのは初めてなんで、ちょっと知らないですね。」

大石「ここからですとちょっと歩くんですが、タクシー呼びますか?それともそこらの警官に連れてってもらうってのもいいかもしれませんねぇ。」

露伴「冗談じゃない。僕は犯罪なんて犯してないんだ。警察に厄介になることはないですよ。
もしかしてお二人、警察に厄介になるほど訳ありなんですか?興宮署にいったら、僕のお手柄だったり?」

大石「・・・む・・んっふっふっふっ・・あっはっはっはっ。いやぁー、岸辺さんはおもしろいことを言いますねぇ。」

露伴「そんなおもしろいジョークのつもりじゃなかったんだが、やっぱり老人とは笑いのセンスが違うのか?」

さっぱりわからない露伴はうっかりと敬語をやめ聞き返した。
赤坂はそれがおもしろかったらしく顔を背けて苦笑しているようだ。

大石「あっはっはっ・・・ぃゃぁ、すみませんねぇ。露伴さんには自己紹介がまだでしたよね。
こちら、警視庁の赤坂さん。部署とかは一般の方には秘密なんですって。警視庁さんってのもいじわるですよねぇー。」

露伴「へぇ・・・確かにいい体格だと思ってましたが・・・。で、大石さんは興宮警察署に勤めていらっしゃった刑事さんってところですか?
それで僕が警視庁の捜査官と大石さんを警察に突き出すなんて言うからおもしろくて笑った、と。」

大石「おやおや、よくわかりましたねぇ。よければどうしてそう推理されたか聞かせてもらえませんか?」

露伴「推理なんてほどたいしたことじゃあないですよ。大石さんは部署は一般の方には秘密と言いましたよね?普通の人が一般の方って言い方をしますか?自分も含まれるのに。
ここから大石さんが、赤坂さんにとっての一般の方に含まれない可能性が高いと考えました。警察関係者なら、興宮署の出身だったほうがジョークとしてはおもしろい。
さらに言うなら、そうすると大石さんの警官に連れて行ってもらうという発言にも矛盾がありませんからね。ただそれだけですよ。別に確信も何もあったもんじゃないです。」

大石「なるほどなるほど、こりゃぁとんだ名探偵がいたもんですねぇ。ね?赤坂さん」

大石がなぜか嬉しそうな顔で赤坂に話をふったとき、
赤坂は偶然通りかかったタクシーを止めたところだった。

赤坂「さぁ、自分が助手席に乗りますので、お二人は後ろにどうぞ。」

大石「おんやぁ?まだ機嫌が悪いんですかぁ?仲良くしないといけませんよ。仲良く。私達は仲間なんですからねぇ。」

露伴「ちょっとまってください大石さん。私は取材してるだけで警察の方の仲間にされても困りますよ。」

露伴は苦笑しながら答えたが、大石は聞く耳も持たずタクシーに乗り込んだ。
露伴が赤坂のほうを見ると、赤坂はもう一度後ろを薦める仕草をしてから助手席に乗り込んだ。
どうにもできなくなった露伴が大石の隣に座るとタクシーはすぐに扉を閉めて走り出した。

車内に入って露伴はどうしたらいいものかと悩んでいた。
車内では運転手がいるため雛見沢に関することを喋るのを彼らは嫌うだろう。
だが、先ほどまで饒舌だった大石は車に乗ったとたんにパタリと喋るのをやめてしまったのだ。

露伴が何を話そうか悩んでいると赤坂が口を開いた。

赤坂「大石さんは、自分で運転してる車以外に乗るのは苦手なんですよ。」

大石「・・・赤坂さん・・・、あんまり老いぼれの過去を掘り起こさないでくださいよぉ?」

赤坂「何を言うんですか。僕らはこれから彼に全てを話すのでしょう?僕らの過去も含めて・・・。」

大石「おやおや、以外に仲良しじゃぁないですか。それじゃあ、お若い二人のお話をおいぼれは盗み聞きさせてもらいますかなぁ。」

赤坂「大石さんは・・・過去に部下を亡くされています。今から24年前、現役時代の大石さんが目をかけていた部下の方で、僕も知っている誠実な方でした。
いつも大石さんの乗る車はその方が運転されていました。ある日、その車が行方不明になってしまったんです。
勤務時間中にその運転手の方と一緒に・・・偶然にも大石さんは体調を崩してお休みをとられたときだったようで・・・
それ以来、大石さんは人の運転する車がお嫌いなようでして。タクシーを使うと言って僕に目配せしたときは少し驚きました。」

露伴「・・・そうですか。するとお二人は・・・」

露伴がそう言いかけると、
大石は笑顔で露伴の肩を叩き、よくあるジェスチャーでシーッっとやった。
露伴が気づいたことを聞けばタクシーの運転手に不審がられると思ったのだろう。
笑顔は、運転手に聞かれてもいい内容を上手く話すから聞いていろ、ということだろうか。

赤坂「そのころにですね・・・。露伴さんは知ってますかね?雛見沢大災害。大石さんはその時の興宮署の刑事さんなんですよ。
警察のほうも色々と大変だったようで、大石さんはなんで自分が定年を迎えるはずの翌年に起こらなかったんだ!なーんてぼやいてたそうですよ。」

大石「赤坂さん!そんな不謹慎なこと思っちゃぁいませんよ。岸辺さんが誤解されるようなこと言わないでください。」

露伴「ははは。赤坂さんもご冗談がお上手なようだ。僕はその当時4歳でして、ちょっと当時のことは知らないんですよね。
最近、雛見沢の封鎖が解除されたってニュースで見たくらいですよ。」

大石「なるほどなるほど。そうですよねぇ、あれから24年も経っています。ここ興宮も変わってしまいましたしねぇ。
ほら、あれが私達のホテルですよ。昔はあんな大きなホテルなかったんですがねぇ。雛見沢の封鎖が解除されてから、もの珍しさに来る人も増えたんですかねぇ。」

そんな話をしているうちにタクシーはホテルのロータリーへと入っていた。
タクシーが到着するとすぐに赤坂はフロントに鍵を受け取りにいき、
露伴は大石がゆっくりと車を降りるのを待っていた。
タクシー代は自分が出すと言ったのだが大石に断られてしまった。
露伴は一応、恩を売っておこうと考えたが、大石に一蹴されてしまう。
あとで高給取りの赤坂さんからもらうんで、私が払っときますよ。とのことだ。
あいつの財布から出るならそれもいいか、と露伴は考えるのだった。

その後、赤坂の元へ行き、二人の部屋に案内してもらう。

 

しかし、予想以上に大きい獲物が食いついた。
エレベーターの中で露伴はそう思い、嫌らしい笑みを浮かべるのだった。

大石達の部屋に入ると露伴が我先にと口を開いた。

露伴「先に聞きたいことがあります。なぜ私に話すつもりになったんですか?それとも、上手く嘘を教えて私を雛見沢から遠ざけようって魂胆ですかね?」

大石「おやおや、落ち着いてくださいよぉ。私達、そんなに悪者に見えますかぁ?」

露伴「・・・(赤坂はまだしも、あんたは悪役にしか見えない)」

大石「そんな怖い顔しないでくださいよぉ。お年寄りは労わるものだって言われませんでしたか?まぁ、座って座って。お茶でも飲みながらお話しましょうよ。長くなると・・・思いますよ?」

そう言うと大石は部屋の奥の椅子へと向かった。
赤坂もそれに続き、ホテルの備え付けのポットでお茶を煎れ始めた。

露伴は自分の思い通りに話が進まないのが気に食わなかったが、とりあえず椅子に座ることにした。

大石「何で話す気になったか?ですか。あなたに話すことを決めたのは私です。赤坂さんは反対していました。
なので、私がお答えしましょう。といっても、たいした理由はないんですよねぇ。あなたが真実を暴いてくれそうだから、としか言いようがないんですよ。」

露伴「そんな理由では・・・あなた達の話を信用できませんよ。」

大石「まぁまぁ、最後まで聞いてくださいよ。それと、敬語じゃなくていいですよぉ?あなた、人のこと尊敬してないでしょ。
そういう人はわかるんですよ、仕事柄ねぇ。ですので、無理に使わなくて結構ですよ。」

露伴「なんだか嫌味な言い方だが、お言葉に甘えるとするよ。それで?僕を信用させる何があるって言うんだい?」

大石「さっきのタクシーの中の会話でご存知かと思いますが、私は元警察官です。興宮署で刑事をしてました。まぁずっと興宮署に勤めていたものですから、
雛見沢は所轄でしてね。大災害よりもずぅーっと前から知ってるんですよ。」

露伴「赤坂・・・さんは、警視庁なんだろ?雛見沢出身でもないらしいし。」

赤坂「私は入庁以来、警視庁に所属していますが、大災害の数年前に一度雛見沢を訪れています。
それが今でも私が雛見沢大災害の真相を追っている理由にもなっているのですが、それはこのあとお話することになるでしょう。」

露伴「アンタ達が警察関係者で雛見沢とも縁があるってのはわかったよ。警察関係者しか知らない情報が聞けるかもしれないっていうのはわかった。だけど、僕を選んだ理由がないじゃないか。
だったら、あんた達の話を信用することはできないじゃあないかい?(まぁ、それでも天国への扉(ヘブンズドアー)で裏をとりゃいいんだけどな)」

大石「そうですなぁ。あなたを選んだ理由をはっきりと言うことはできませんなぁ。私の直感としか言いようがないですからねぇ。
でも、私達が知る全てをあなたに教えるつもりだということなら、証明できますよぉ?赤坂さん、アレ、持って来てますよね?」

赤坂「持ってきていますが・・・いいんですか?いきなり見せてしまっても。」

大石「いいですよぉ。どうせ私らの仲間になるんですからねぇ。んっふっふっふっ。」

大石が嫌な笑い方をすると赤坂は諦めたのか、自分のカバンから何かを取り出すのだった。

赤坂は取り出したそれを露伴に差し出す。
露伴は受け取るが最初はただの古びたノートにしか見えなかった。

露伴「中を見ても・・・いいんだろう?」

大石「えぇえぇ、いくらでも見てください。お仲間になるなら、写してもらっても構いませんよ。」

そう言って大石は赤坂に目配せをする。

赤坂「それはインターネット等で俗に、『34号文書』と呼ばれているものです。雛見沢について取材してらっしゃるのでしたら、ご存知でしょう?」

露伴「知っているが・・・これが本物・・・?たしかにノートの劣化を考えると大災害の頃のノートとも考えられるが・・・」

赤坂「それは雛見沢分校篭城事件の際に、犯人の少女Aから押収されたものです。押収された直後の大災害のゴタゴタで行方がわからなくなっていたものを
大石さんの後輩が発見してくださいました。我々が入手していることに関しては合法とは言えませんが・・・。」

大石「まぁまぁ、お堅いことは気にしちゃあいけませんよ。まぁ、岸辺さんには調べられないかもしれませんが、警察の記録を調べればちゃーんと本物だと証明できる代物ですよ、それは。」

露伴は親の仇であるかのように、そのノートを睨み付けながらページをめくる。
一見すれば狂気の科学者にしか見えないような構図だ。

大石「それが本物だって信じてもらえるのに時間がかかるようでしたら、お待ちしますよぉ?インターネットで調べ物がしたいなら、パソコンもお貸ししますし・・・」

大石がそう言いかけたとき、露伴がスッと大石の顔の前に手を出し遮った。
漫画家にしては綺麗でタコ一つない、柔らかそうな手だった。どこかの殺人鬼なら興奮するかもしれない。

露伴「いや・・・いい。信じよう。」

大石「おやおや、はやいですねぇ。いいんですかぁ?偽者かもしれませんよぉ?」

露伴「ここまで来て偽者を見せる必要性がない。僕がネットで言われる34号文書の内容を知っているなら、中身を見て偽者と気づいてしまうかもしれない。
また、ネットの内容と完全に同じ偽者なら、僕はそんなものに価値を見出さない。そんなものをアンタ達が見せるはずがない。
だから、本物だと信じるよ。これはどんなネット上の情報よりも詳細に書かれている。そしてネットの内容と矛盾がない。」

大石「んっふっふっ。やっぱり名探偵さんですねぇ。疑り深いところも、頭の回転が速いところも、名探偵さんです。推理小説みたいな漫画描いてるんですか?
まぁ、詳しい話に入りましょうか。」

露伴はこのとき既に後悔していた。
こいつはただの取材にしては大きすぎる魚がかかったな、と。

 

■TIPS

露伴のメモ—-

ここには図書館に残っていた新聞を確認した結果をメモしておく

 

  • 1年目のオヤシロ様の祟り 事実○
1979年=昭和54年 6月24日
1年目のオヤシロ様の祟りとされている
雛見沢ダム建設現場内で殺人事件が発生
建設作業員ら6人により、建設現場の監督が撲殺される
その後、作業員らにより遺体はバラバラにされ、遺棄された
主犯格の男とその男が遺棄した遺体の部位のみが見つかっていない
既に主犯格は時効かな?まぁ、こんな怖い殺され方はゴメンだな
監督ってのも大分恨まれてたんじゃないのか?
ネットだと村の綿流しの祭りの日っていう話だったが
新聞じゃそれは確認できない
聞き込みでもして確認しないとな
  • 2年目のオヤシロ様の祟り 事実○
1980年=昭和55年 6月22日
2年目のオヤシロ様の祟り
1年目よりは祟りっぽいかな
県立白川自然公園の展望台から北条夫妻が転落
夫は死亡、妻は行方不明だそうだ、法律上はもう死んだってことか
この件はあまり詳しいことは載っていなかった
ネットの情報だとこの夫妻はダム賛成派で村の仇敵だとかなんとか
そういう情報は新聞からは入手できないよなぁ
この日が綿流しってことも確認できない
  • 3年目のオヤシロ様の祟り 事実△
ネットの情報によると古手神社の神主が病死したらしい
新聞には載ってない
まぁ、病気で死んだくらいじゃあ載るわけないよな
これも聞き込みしてみるか
  • 学校篭城事件 事実○
1983年=昭和58年 6月25日
少女Aにより雛見沢分校で立てこもり事件が発生。
少女Aは学校の教諭を学校外に電話で呼び出し、その隙に全校生徒を人質に取る
その後、事件は急展開し解決する
人質の生徒のうち数人が暴行を受けたようだが軽症
25日の夕刊では事件発生だけが伝えられているが、
26日の朝刊では事件は解決したと伝えている
事件自体は昼ごろ発生し、夕方もしくは夜に解決したのだろう
そしてその日の夜に雛見沢大災害が発生
次の日からの新聞は大災害ばっかりでこの事件のことなんてちっとも載ってない
しかし、この少女Aっていうのは中々頭がいいやつなのかもしれないな
電話で教諭を呼び出し、その隙を突く・・・もっと煮詰めれば漫画に使えるかもな
  • 雛見沢大災害
ついでだし、新聞でどう報じられているのか気になったからメモしておこう
1983年=昭和58年 6月26日深夜から27日未明
雛見沢地区で火山性のガスが発生
雛見沢住人約2000人はみな寝静まっていたため誰一人逃げることなく全滅した
雛見沢地区の住人以外にも、朝に雛見沢地区に牛乳を配達しに行った者や
警察関係者にも行方不明者や死亡した人間がいるみたいだ
また、近隣の地区では卵の腐った匂い(硫化水素と考えられる)が報告されている

 

ちなみに、災害からしばらく経った新聞では、ガスの発生源は鬼ヶ淵、と呼ばれる沼だと書いてある
ガスの主成分は二酸化炭素とみられているらしい
へぇ、たしかに二酸化炭素ばっかりで酸素がなければ死ぬよなぁ、これも漫画で使えそうだな
あれ?どっかの漫画で純粋な酸素は毒ってのがあった気もする
うーむ、どうしたもんだろうか・・・
あと、牛乳配達とか警察関係者が巻き込まれるって言うのもリアリティがあるな
漫画で大災害を描くときには、その地域以外から偶然近づく人間も巻き込むのがベストだな

 

大石「それじゃぁですねぇ・・・」
大石がそう言いかけた時、露伴が不満そうに言い放った。
露伴「待てよ。まだ僕の質問が終わりだとはいってないだろう?あんたたちの言う、仲間ってことについてちゃんと話してもらおうか。
あとになって無理な協力を求められたり、金をたかられたらたまったもんじゃないからな。」

大石「なるほどなるほど、確かにそれも大切な話ですねぇ。でも、露伴さんに損させるようなことはありませんよぉ?ご自由に取材してくださって結構です。」

露伴「納得いかないな。それじゃ今と変わらないじゃないか。」

大石「いえいえ、ちゃーんと私と赤坂さんからは情報を差し上げますよ。あとはですね、ちょーっとだけ条件がありまして。できれば、でいいんですがね。できれば、で。
・・・私達の希望をね・・・叶えてほしいんですよ。」

露伴「僕は回りくどい言い方は嫌いなんだ。はっきり言ってくれよ。そのほうが後でもめることもない。(それにこの岸辺露伴にできないことがあるわけがない。)」

大石「そうですねぇ。はっきり言っちゃいましょうか?私たちはあなたにすべての情報を託します。取材は自由に続けてくださって結構です。嫌になったらやめてしまってもかまいません。
ただ、真実に辿り着いたときには、私と赤坂さんにお教えいただきたい。と、本当にそれだけです。金銭の要求もありませんし、
もし真実に辿り着けなければ、今後一切の連絡がなくてもかまいません。」露伴「・・・そりゃあ僕にとっちゃ、都合のいい話だが。あんたたちが何の得をするのかまったくわからない。」大石「ですからさっき言ったじゃないですかぁ?あなたなら真実を暴いてくれる気がしてるって。」露伴「・・・。」

大石「納得できないことはお嫌いですかなぁ?それだと生きていくの、大変じゃありませんかねぇ?」

露伴「・・・余計なお世話だ」

赤坂「私も、大石さんがそんなことを考えていたとは知らなかったんですが、いいじゃないですか、聞いてみて信じられなければ信じなければいいんですから。
まぁ、そんな風に私たちの持つ情報を無闇にひろめるのは反対ですがね。」

大石「んっふっふっふっ、赤坂さんお厳しいですねぇ。でも、赤坂さんのおっしゃるとおりですよ、岸辺さん。話だけ聞いて、さようなら、でも構いませんから。
どうですぅ?私と約束しちゃいませんか?真実に辿り着いたら教えてくださるってだけでいいんですよぅ?」

露伴「・・・いいだろう。約束するよ。言っておくが、赤坂が言ったから乗るわけじゃないからな。僕自身同じ考えを持っていただけだ。」

大石「はいはい、わかってますよぉ。岸辺さんは名探偵さんですからねぇ。んっふっふっふっふっ。」

大石が得意の嫌味な笑いをする。赤坂も苦笑しているようだった。
自分が馬鹿にされていると感じた露伴は、本題に入る前にトイレに行くといってお茶を濁すのだった。

赤坂「大石さん、そんな条件で彼に協力するなんて、正直納得できませんよ。」

大石「おんやぁ?言った時に反論しないんで、許してくれてると思ったんですが、やっぱりご機嫌ななめですかぁ?」

赤坂「絶対にやめろ、とは言いませんが、僕は賛成できないし納得もできないということです。」

大石「んっふっふっふっ。彼が納得させてくれますよ。そのうちね・・・。」

赤坂「大石さんはそんなにあの男を買っているんですか?彼にいったい何があるっていうんです?」

大石「そりゃぁ、彼が真実を暴いたときのお楽しみってやつですよ。赤坂さん。」

赤坂「・・・。まぁ、大石さんなりの考えがあるんでしょう。今は何も言わないでおきますよ。」

大石「すいませんねぇ。私も確証があるわけではないんで、はっきりは言えないんですよぉ。老年刑事の勘ってやつですかねぇ?」

赤坂「僕には昔からそういうものはありませんからね。大石さんに従いますよ。それで?どこから話すんですか?」

大石「まずはダム戦争の・・・」

露伴「また僕のいないところで打ち合わせかい?」

トイレに行ったはずの露伴が赤坂のベットの後ろ側に座っていた。
大石も赤坂も露伴の気配に気づかなかったようだ。
空手を始めてから背後をとられたことなどなかった赤坂は目を疑った。
この男には、何か秘密があるのかもしれない・・・。
赤坂はそう思うのだった。

大石「いえいえ、そんなことありませんよぉ。どこからお話するのがわかりやすいか、相談していたんですよ。」

露伴「ふん・・・まぁ、信じてやるよ。」

大石「そうですよぉ。私たちは仲間なんですから、信じあいましょう。んっふっふっふっ。美しい友情ってやつです。」

このじじぃは扱いづらいな。天国への扉(ヘブンズドアー)を使っちまいたい気分だ。
それが大石のやり方だと気づかずに、露伴は大石に苦手意識を感じ始めていた。
露伴は大石の言葉が聞こえない素振りで椅子に座るのだった。

露伴「じゃあ、本題に入ってくれよ。どこから話すか決めたんだろう?」

大石「そうですねぇ、まずは時系列に沿っておおまかなお話をしましょうか。質問は最後で受け付けますので、途中での受け答えはなしとしましょう。
まとめて説明したほうが早いこともありますのでねぇ。」

露伴「わかったよ。横から口を出すことはしない。さっさとはじめてくれ。僕が聞きたいことだけで今日一日じゃ足りないかもしれない。」

大石「そうですねぇ。岸辺さんは疑り深いですからねぇ。それじゃあまずは、ダム戦争の頃からお話しましょうか。」

大石「雛見沢は昔、ダムの底に沈む予定になったことがあるんですよ。当時の政府がダム計画を発表すると、村は直ちに反対を表明。ダム建設反対の住民運動が始まります。
まぁ、住民運動って呼ぶには過激なもんでしたがね。そんなダム戦争の中、赤坂さんが東京からいらっしゃるんですよ。それじゃ、赤坂さん。バトンタッチでお願いします。」赤坂「・・・。私は、警視庁から特務捜査の命を受け、雛見沢を訪れました。どうせ聞かれると思うので言ってしまいますが、当時の建設大臣の孫、犬飼寿樹君が誘拐されました。
警視庁は独自に誘拐を察知し、犯人である団体を調べるために私は派遣されました。捜査当初、警視庁では鬼ヶ淵死守同盟の線は薄いと考えていました。

鬼ヶ淵死守同盟というのは、住民運動の団体の名前ですね。鬼ヶ淵というのは・・・」

大石「赤坂さん。そんなに真面目に話さなくって大丈夫ですよぉ。岸辺さんは名探偵さんですからね。大まかな流れを説明すれば必要なことだけを質問してくださいますよ。ねぇ?」

露伴「ふん・・・。どっちでもかまわないよ。」

赤坂「では、結論だけ言わせていただきましょう。建設大臣の孫を誘拐したのはおそらく鬼ヶ淵死守同盟です。
私と大石さんは犯人らと銃撃になり、孫は救出できたものの犯人は捕まえられませんでした。
ですので、鬼ヶ淵死守同盟が犯人であるとは言い切れませんが、孫が雛見沢の近くで救出されたことは事実です。」

 

赤坂「そしてこの際に、私は一人の少女と出会っています。その少女の名前は古手梨花。彼女の予言により、今僕はここにいると言っても間違いではないでしょう。
その祟りの内容とは、その次の年以降毎年オヤシロ様の祟りが起こる。ということでした。詳細な内容を言い当てており、すべてその後の事件と一致しています。
私はその際、5年目の祟り、つまり雛見沢大災害の年に彼女自身が殺されること知っていた。つまり、彼女に助けをもとめられていたんです・・・。
それが、私が大災害の真相を追う理由です。」

露伴「あー、すまない。前言撤回だ。気になってしょうがないから途中で質問させてくれないか?」

大石「んー、まぁ、いいですけど。時間かかっちゃいますよぉ?」

露伴「思ってたより面白そうな話なんでね、時間は気にしないことにするよ。」

大石「そりゃ、どーも。私らにとってはちーっともおもしろくないんですがね。まぁ、何でも答えますよぅ?」

露伴「まずは、雛見沢ダムの建設は凍結されたと思うんだが、それは誘拐のせいかい?」

赤坂「警視庁としては、確実に取引が行われた証拠は掴んでいません。ですが・・・。私個人の私見として、取引が行われ、孫の救出劇のシナリオを僕らが演じさせられた。
そう考えています。」

露伴「へぇー。なるほどね。漫画の取材として銃撃の話を聞きたいんだけど、それはあとにするよ。次は、その少女についてなんだが・・・。何から聞いたらいいものか・・・。
僕の知る限り御三家というものが雛見沢にあるらしいんだが?」大石「よくご存知です。ただ、彼女についてはこのあとでも話が出てきますので、そのときでよろしいですかなぁ?」露伴「じゃあ、祟りだ。5年目の祟りなんて僕は知らないぞ?」大石「んっふっふっふ。そうですよねぇ。4年目以降の祟りは秘匿捜査指定がかかってますから、知らなくて当然ですよぉ。それについても、このあとお話しするのでご安心ください。」露伴「・・・。やっぱり質問するのはやめるよ・・。あとでまとめて聞くことにする。」大石「(おやおや、拗ねちゃいましたかねぇ。)それじゃあ続きにしましょうか。質問はご自由にどーぞ。次は1年目の祟りのお話ですかねぇ。」

露伴「新聞に載ってることくらいなら知ってるよ。僕の知らない事実があるなら説明してくれてかまわない。」

大石「おやおや、そうするとですねぇ。2年目の祟りまでは、新聞どおりということですかなぁ。3年目の祟りは新聞には載ってないと思うんですが、ご存知です?」

露伴「オヤシロ様を奉る古手神社の神主が病死、妻が後を追って自殺する。たしかそのくらいの情報しかもっていない。」

大石「それで十分ですよ。それ以上のことはなーんにもありませんからねぇ。ちなみに、その夫婦が先ほどの少女古手梨花さんのご両親です。
古手家は親類などもいないものですから、梨花さんは最後の古手家の人間になってしまったわけです。」

大石「そして4年目の祟り。ここからは秘匿捜査指定がかかっているのでご存知ないでしょう。2年目の祟りでお亡くなりになった北条さんのですね、弟さんの妻が撲殺されるんです。
犯人は逮捕されました。麻薬中毒の男が自供したとされています。あ、そういえばお話し忘れてましたよ。北条夫妻はですねぇ、ダム賛成派だったんです。
それで村中から嫌われていたんですよ。村八分ってやつです。嫌ですねぇ。」露伴「ふーん。北条夫妻の詳しいことはネットで見かけたんが事実だったようだな。」大石「おやおや、今じゃそこまで調べられるんですかぁ?ネットっていうのは怖いですねぇ。まぁ、とりあえず、4年目もきっちり村の仇敵が死んだわけです。綿流しの日に。」露伴「そうだ、その綿流しの日。図書館で確認できなかったんだが、祟りの事件と同一の日でいいんだな?」大石「えぇえぇ、4年目まではきっちり綿流しの日に人間が一人づつ死んでますよぉ。」露伴「一人?夫婦が犠牲になってるじゃあないか。」

 

大石「おおっと、また説明し忘れてますねぇ。やっぱり歳はとりたくないもんです。オヤシロ様の祟りはですね、毎年一人が死に、一人が行方不明になる。そういうものらしいんですよ。
まぁ、これは村人が言っていただけで私はよく知らないんですがね。」露伴「・・・たしかに新聞では夫婦の妻のほうは行方不明と書いてあったな、両方とも。1年目と4年目はどうなるんだ?」大石「1年目はですねぇ、主犯格の男が行方がわかっていません。4年目は死亡した北条さんのところに住んでた息子さん。
まぁ、義理の息子さんなんですがその方が家出されてるんですが、村ではこの方が行方不明になったと言われています。
ちなみにこの方、2年目の祟りで死亡した夫婦の実の息子さんでもあります。」露伴「なるほど。一応辻褄があうってわけか。ただの偶然じゃあないのかい?」大石「私も偶然だと信じたいんですがねぇ、村の方がおっしゃるんですよ。一人は祟りで死に、一人はオヤシロ様の祟りを静めるために生贄になったんだってね。
3年目の神主の妻が遺書にオヤシロ様の祟りを沈めるために自殺するって書いてるって事実もありますしねぇ。古い言い伝えにも、あるらしいんです。生贄の話。」露伴「つまり、村の人間は毎年の事件はオヤシロ様の教えに沿って起こってると、そう言うわけだ?」大石「んっふっふっふっ。その通りです。まぁ、細かい話はあとでしますので、5年目の祟りの話しちゃっていいですかぁ?」露伴「あぁ、続けてくれ、創作意欲が湧いてきた。」

 

大石「5年目はですねぇ、ちょっと被害者の方が多いんですよねぇ。簡潔に言いますと、綿流しの日に富竹ジロウさん、鷹野三四さんがお亡くなりになります。
富竹さんは首を自ら掻き毟るという変死体。鷹野さんは岐阜の山中で遺体を焼かれて発見されます。そして雛見沢大災害の当日の朝。古手梨花さんがお亡くなりになります。
古手神社の境内で生きたまま腹を割かれ、内臓を引きずり出すというこれまた変死体で発見されます。」露伴「・・・。雛見沢大災害が5年目の祟りかと思ったが、それとは別に事件は起きているという・・・。」大石「そうなんですよぉ。大災害のせいでこれらの事件の捜査はうやむやになっちまいましてねぇ。あぁ、それと、これ以外にもうひとつ。有名な学校篭城事件があります。
これは梨花さんがお亡くなりになる前の日ですなぁ。」露伴「ふむ。大体の流れはわかったよ。だけど、質問したいことが山ほどだ。僕もこのホテルに宿をとって話を聞くことにするよ。ちょっとフロントに行ってくる。」

 

露伴はそう言うと、大石たちの了解も取らずに部屋を出て行ってしまった。
残された大石と赤坂は苦笑しながら冷めたお茶をすするのだった。

 

■TIPS

露伴のメモ—-

大石と赤坂という刑事から話を聞くことができた。
ここには彼らの推理する雛見沢大災害の真相を書いておく。
ここに記すもの以外にも彼らは何通りかの説を考えているようだが、
これがもっとも自分たちの体験したことと矛盾がないと言っていた。

 

彼らの考えの根本には、園崎家が黒幕という考えがあるようだ。
図書館で調べたときは園崎家はノーマークだったんだがな・・・。

 

 

彼らが言うには、園崎家は戦後に勢力を拡大し、雛見沢ではもっとも力のある家系だったらしい。
園崎>公由>古手の順のようだ。まぁ、オヤシロ様関係は古手の順位があがるようだが。

 

彼らの言う真相とやらを簡略するとこうだ。
園崎家は雛見沢の風習「オヤシロ様」の復活を願っていた。
1~4年目の祟りはオヤシロ様信仰を復活させるため、村の仇敵を殺すことにした。
これは1年目より1年前。梨花が予言をした時点で決められていたことであり、梨花は何らかの形でこれを知っていた。
そして梨花自身も5年目に殺されることが決まっていた。これには34号文書の内容を考慮すると説明がつく。

 

34号文書によれば、雛見沢の住人は特殊な風土病に感染しているらしい。
また、園崎家の関与は記されていないが、この風土病を研究している人間がいることを示唆している。

 

園崎家はこの病原菌を使って、未曾有のバイオテロを起こそうとしたのである。
そして、そのバイオテロをオヤシロ様の祟りにするためのキーワードが梨花だ。
古手家には第一子に女子が8代続いたとき、その8代目はオヤシロ様の生まれ変わりである。
という言い伝えがあるらしい。このオヤシロ様の生まれ変わりが死ねば、村が滅ぶ祟りがおきる。
そこで、この34号文書のバイオテロの出番ってわけだ。

 

そして政府はこの前代未聞のバイオテロ行為を隠蔽し、
火山性のガスによる大災害というシナリオを流したのだ。

 

これはかなりインターネットの意見に近いものが含まれているし、非現実的だ。
そもそも、村を滅ぼしたら園崎家に何の得があるのかもわからないし、
オヤシロ様信仰も復活どころか、消滅してしまうと容易に考えられるだろう。

 

しかし、彼らが現実に持つ34号文書の中から宇宙人やUFOなどの情報を取り除くと、
たしかにこの仮説にたどり着くのかもしれない。
ちなみに、34号文書では園崎家については一切触れられていない。
園崎家が黒幕であるというのは、大石がオヤシロ様の祟りを捜査してきた情報と経験によるものだ。

 

僕は彼らの意見に賛成でも反対でもない。
これが真相である可能性もあるだろう。
しかし、僕は彼らの主観が入り混じったこの説をあまり重要視しないほうがいいだろう。
僕の漫画には彼らの主観は必要ないしね。読者が面白く感じる部分だけどうまく切り取ってやる。

 

学校篭城事件の真相—-

露伴「なるほどねぇ、そりゃぁその葛西辰由っていうのはすごいもんだなぁ・・・」

大石「そうですそうです、散弾銃の辰の異名で恐れられてましたからねぇ。」

 

露伴「あー、まぁ、大体わかったよ。じゃあ次は学校篭城事件について詳しく頼みたいんだが。」

大石「いいですとも、いいですとも。私、あのとき捜査の指揮取ってたんですよぉ。詳しく語っちゃいますよぉ?」

露伴「そりゃぁ漫画のいいネタになる。楽しみだね。」

 

すでに明け方、大石が露伴の相手をするということで、赤坂は仮眠をとっていた。
その間にこの二人は以外に仲を深めたようである。露伴は嫌味だが味方にするならおもしろいじいさんだな、と考えを改めていた。

 

大石「さきほどもちょっとお話したようにですね、私は犯人と面識がありました。」

露伴「あぁ、そうそう、犯人の名前が竜宮礼奈って噂は本当なのかい?」
大石「ありゃぁ、そこまでご存知ですかぁ。そうです竜宮礼奈さんです。竜宮さんはね、事件の前から私に話をしてくださってたんですよ。
34号文書の内容をですね、うまく私が信じるようにテロのところだけお話してくれてたんです。まぁ、いろいろあってですね、竜宮さんは私が味方だと思い込んでたってわけです。」

大石「竜宮さんは新聞の報道のように全校生徒を人質に取りました。そのあと人質全員を縄跳びで縛り、拘束。
その後に我々が到着し、電話で交渉を重ねるこう着状態に入りました。竜宮さんは当然交渉役に私を指名しました。私はなんとか味方だと思わせつつ会話を続けました。
するとですね、竜宮さんが友人の一人を仲間だと言って電話にだしたんですよ。それが前原圭一さんという方です。彼は人質の安全を考えて竜宮さんに従いつつも我々に協力してくれました。
まずは、私が交渉で34号文書をこちらに見せてくださるように交渉しました。その交渉はなんとか成功し、前原さんが校庭まで34号文書を持って出てきたんですよぉ。
わたしゃこの時を逃すか、とばかり前原さんに催涙スプレーと盗聴器を持たせましてね。それで中の様子がなんとかわかるようになったんです。」

 

大石「そしたらですね、なんとガソリンばら撒いちゃってるんですよぉ。教室中と人質に向かってガソリンぶち撒けちゃってましてね。そりゃ恐ろしいもんです。
知ってますかぁ?気化ガソリンって危ないんですよぉ?」露伴「ガソリンの発火点は約300度だが、引火点は-40度。気体になると空気より重く、通気性がなければ室内なら充満したままだ。
ライターで火をつけなくても、火花が出ただけで、ドカン、さ・・・。」大石「ありゃ、こりゃまた一本取られましたねぇ。よくご存知だ。まぁ、そんな緊張状態だったわけです。」

 

大石「その後は竜宮さんの要求をうまくなだめるばかりでしてね。彼女の要求はこうです。村の診療所で病原菌の研究をしているはずだから今すぐ一斉捜査に入れ。
自分は既にやつらになんらかの薬を服用させられてもう持たない。特効薬が見つかれば持ってきてほしい。時間までに捜査が行われない場合、自分は人質とともに自爆する。
いやぁ、あせりましたよ。最後には時間ギリギリになってきちゃいましてねぇ。県警からSWATの前身まで派遣されて、突入準備までしちゃってるんです。
そんなときですね。さきほどの前原さんがやってくれたんですよ。犯人の一瞬の隙をついてライターを奪い、催涙ガスを噴射。なんとか竜宮さんを押さえ込んだんです。
私たちが気づいたのは、子供たちが逃げ始めてきてからでした。自体が急変したとして、一斉突入。無事に全員を救出することができました。」

 

露伴「へぇ。なかなかドラマチックな展開だな。」

大石「んっふっふっふ。そうでしょ?そうでしょ?私はなーんにも活躍してないんですがねぇ。
お知り合いになった人に刑事時代の話をしてくれ、なんて言われると、ついこの話をしちゃうんですよぉ。」

露伴「竜宮礼奈ってのはまだ生きてるのかい?警察に捕まってたなら、大災害は避けられたんだろ?」

大石「それがですねぇ・・・。生きてはいらっしゃるんですが、篭城事件以来、精神に支障をきたしちゃいまして・・・。
大災害でお友達が全員お亡くなりになったショックもあるんでしょうねぇ。今でも白い壁の中でベットに座り込んだままみたいなんですよ。
赤坂さんと何度か、お話を伺いに行ったんですが、まともに会話ができませんでして・・・。」

露伴「ふぅん。気の毒なもんだ。じゃあ、次の質問をいいか?(・・・ある意味取材してみたいが・・・さすがに病院に侵入はまずいか・・・?)」

 

××県鹿骨市興宮某ホテル—-

露伴「よし、じゃあこのくらいで十分かな?」

大石「いやはや、長かったですねぇ。もうちょっと老体を労わってくださいよぉ。岸辺さん。」

 

大石がそう言うのも無理はない。
露伴と大石達が出会って2日が過ぎていた。
その間、大石と赤坂は交互に仮眠をとり、露伴の質問に答えた。
当の露伴は出会った日から、次の次の日、つまり今日の夕方まで一睡もせずに話を聞き続けたのだった。

露伴「もう今日は遅いし、荷物を置いてあるホテルに行って休むことにするよ。明日は雛見沢に取材にいくことにする。」大石「いやはや、露伴さんはお若いなんてもんじゃぁないですねぇ。普段からそんなお忙しくお仕事なさってるんですかぁ?」

露伴「逆だよ。普段は睡眠もたっぷり取るし土日は休日にしてある。どこかの漫画家みたいに連載を休むことはないけどね。」

大石「ほーぉ、漫画家さんっていうのは大変なお仕事だと聞いていましたが、言われてるほどではないんですねぇ。」

露伴「まぁ、流石に僕も眠いし、さっさとおいとまするよ。連絡先は、さっきもらった名刺でいいんだよな?」

大石「えぇえぇ、かまいませんよぉ。でも、よかったら地元に帰られる前に、一発どうですかぁ?」

 

露伴「時間があれば構わないけど、手を抜くつもりはないよ?」

大石「んっふっふっふっ。こう見えても私達、そこそこイケるんですよぉ?連絡が頂けるのを楽しみにしてますよ。私達は今月いっぱいは興宮にいるんで、いつでも連絡くださいねぇ。」

赤坂「大石さん、クリスマスは・・・孫に会いに行くって言ってありましたよね?」

大石「おやおや、忘れてましたねぇ。そういうことなんで、クリスマス以外にお暇があれば、お願いしますよ。」

露伴「クリスマスまでこっちはいないと思うよ。まぁ、暇があったらね。それじゃあ、帰るとするかなぁ。」

大石「私達も眠いんで、もうお休みさせてもらいたいですしねぇ。」

そう言って露伴はドアに向かって歩き出した。が、ドアの前で立ち止まる。

露伴「おっと、危ない危ない、忘れるところだった。」

大石「おんやぁ?忘れ物ですかぁ?」

露伴「いや、君らにすこーしばかりお礼をしようと思ってね。いろいろ教えてもらったお礼をさぁ。」

大石「お金ならけっこうですよぉ?私は年金もらってますし、赤坂さんはお給料いいですからねぇ。」露伴「そんなもんよりずっと価値のあることなんだけどな。いらないって言うなら、帰るよ。」

赤坂「待ってください。私は頂くことにしますよ。そのお礼。」

大石「いやいや、私だって頂きますよぉ。病気以外でしたらなんでもねぇ。」

露伴「じゃあ・・・あんまり”一般の方”には教えちゃあまずいんだが。アンタらも大分職務違反して教えてくれたみたいだしね。
僕の持つ情報をひとつだけ・・・あげることにするよ。」大石「ひとつだけですかぁ?私達は全部お話したのに。ケチな話ですねぇ。んっふっふっふっ。」
露伴「なんと言おうと、ひとつしか教えないよ。古手梨花は・・・僕と同じ種類の人間かもしれない。」
赤坂「それは・・どういうことですか・・・?」露伴「古手梨花は奇妙な力を持っていた。アンタらは、古手梨花が計画を知っていたと仮定していたが。
それは実際に予知能力だったのかもしれないってことさ。僕に予知能力はないが、君達には信じられないような能力を持っている。」
大石「へぇ。それでそれで?疑り深い岸辺さんなら、わかると思いますが・・・。私達を納得させること、してくれるんですよねぇ?」
露伴「・・・。赤坂さん、コーヒーを1杯淹れてもらえますか?ブラックで。」
赤坂「えぇ・・・いいですけど。コーヒーに何か関係が?」

 

そう言って赤坂はコーヒーを淹れはじめた。
露伴は不敵な笑みを浮かべたまま何も答えない。
赤坂が淹れ終わったコーヒーをテーブルに置いた。

 

露伴「大石さん、赤坂さん。これから僕はここを一歩も動きません。まずは、コーヒーが本物であることを、飲んで確かめてください。お二人とも一口はお飲みになるように。」
大石と赤坂は言われたとおりにコーヒーを交互に一口ずつ飲んだ。

露伴「お味はどうですか?」大石「普通のコーヒーですよ?なーんも入ってないブラックの。」

赤坂「えぇ、普通のインスタントコーヒーの味です。」

露伴「・・・。お味は・・・どうですか?甘いですか?苦いですか?しょっぱいですか?」

大石「あぁ、そういう意味ですか、苦いですよ。このくらいがちょうどいいですけどねぇ。」

赤坂「僕には・・・ちょっと苦すぎますが、苦かったです。」

露伴「よろしい。・・・それでは、もう一度飲んでください。」
大石「はぁ・・・何の意味があるんだか・・。」そう言って大石はカップに口をつけた途端、驚きの表情で赤坂にカップを手渡した。
赤坂もすぐにカップに口をつける。赤坂「甘いッ!!それも砂糖を入れたコーヒーではなく、甘味だけだ。まるでガムシロップのように甘いッ!!!」
露伴「これが僕の能力だよ。別に飲み物の味を変えるってわけじゃないからな。君達の感覚を操作させてもらった。今度はしょっぱくしてやるよ。」
天国への扉ッ(ヘブンズ・ドアー)!!!
ドシュシュッ、苦味を塩味に感じる。

大石「こりゃぁ・・・今度は海水を舐めてるようだ・・・。」

赤坂「カップに細工をしたような感じはしなかったが・・・。」

 

露伴「世の中には、こういう特殊な能力を持ったやつがいる。僕の知り合いには壊れた物を直したり、時を止めたりするやつがいる。古手梨花が僕と同じ種類の人間なら、
本当に予知の能力を持っていても不思議ではない。もちろんアンタらの推理が正しいって可能性もあるがな。」

大石「これは・・・ん・・んっふっふっふっ。岸辺さんの能力を信じるしか・・・ないですねぇ。」

赤坂「疑う余地は・・・なさそうです・・・。」

露伴「それじゃあ、僕は本当においとまする。じゃあな、僕が真実を暴くまでに死ぬなよ?じいさんたち。おっと、忘れないうちに元に戻さないとな。」
そう言って立ち止まったあと、露伴は部屋から出て行くのだった。
大石と赤坂は別れの言葉を言うのも忘れ、呆然と座り込んでいた。
まるで狐か狸にでも騙された気分だった。
ぼんやりと赤坂がコーヒーを口につけると、コーヒーの苦味は元に戻っていた。

××県鹿骨市雛見沢—-

露伴「こりゃぁ・・・いいなぁ・・・。
スケッチしとこう・・・。」

 

大石たちと別れた次の日、露伴は雛見沢を訪れていた。
いま露伴がいるのは鬼ヶ淵と呼ばれる沼だ。
といっても、すでに埋め立てられていて沼ではないのだが。
かなりの面積がコンクリートで埋め立てられており、その上には何もない。
インターネットではUFOの着陸場だとか言われているが、たしかに奇妙な景色だった。
広大なコンクリートの地面、その無機質な景色を露伴は楽しそうにスケッチしていた。どうみても不審者だ。
この沼は大災害の初期のころに埋め立てられた。
地質学的にはガスの発生源を埋め立ててもなんら意味はないらしい。
さらに言うなら、ガスの発生を止めるために沼を埋め立てたのに20年も雛見沢を封鎖するのはおかしい。
この埋め立てには何か別に意味があるんじゃあないか?
露伴はそこが気になっていた。
露伴「よし、このくらいでいいだろう。さーて、次はどこに行こうかなぁ。・・・。この地図からすると、一番近いのは学校。
いや、道を考えると古手神社を通って学校に行くのがちょうどいいようだな。」
露伴は古手神社にいくことを決め、車を走らせた。
雛見沢に入ってからは道は整備がされておらず、砂利道だった。
本当に雛見沢は昭和の終わりから時を止めたままのような場所なのだ。
古手神社の境内へと登る階段に露伴の車が到着した。
車から降りた露伴は、ため息を漏らす。
こんな高い階段の上にあるのかよ・・・。僕は文系なんだから勘弁してくれよなぁ。
露伴はそう思うと、ゆっくりと階段を登り始める。
古手神社は雛見沢の中で最も高い位置にある建築物だ。
古手神社の境内の裏手からは雛見沢を一望できる場所があると赤坂は言っていたが、そんなものに露伴は興味がなかった。
露伴が興味を持っていたのは、古手梨花の死んだ場所だということだけだった。
階段を登りきると、今にも朽ち果てそうな神社があった。
小さな村の神社にしては大きい社だが、それもオヤシロ様信仰が村で重視されていたことの表れなのかもしれない。
露伴は大石から聞いたとおりの梨花が死んだ場所、社の賽銭箱に近づいていく。
露伴「別に何も変わったところはないよな。ん・・・?賽銭箱のこのシミ・・・。血痕じゃあないか?」
クンクン・・・。露伴は匂いを嗅いでみたが、血痕なのかはよくわからなかった。
特に変わったこともなかったため、露伴の興味は賽銭箱から社の中身に移ったようだ。
露伴「あれが・・オヤシロ様か?ただの大仏かなんかにしか見えない・・・。ちッ、この扉鍵が掛かってやがる。」
露伴はガチャガチャと社の扉を開けようとする。
しまいにはイライラしたのか、扉を思いっきり蹴飛ばしてしまう。

 

バキッ!!ミシミシ、ズドォォォンッ!
扉が片方壊れ、自重で倒れてしまった。
露伴「こりゃあ、やりすぎたかな・・・。
まぁ、せっかく開いたんだし中に入るとするか・・・。」
露伴は倒した扉をまたぎ、社の中へと入っていった。
社の中は露伴が倒した扉に巻き上げられた埃が舞っていた。
高い格子から射し込む光が埃を照らし、幻想的な風景にも感じられた。
露伴「オヤシロ様ねぇ・・・・。見た目は特に変わったところはないよなぁ。」

 

露伴が御神像へと近づきながら呟いた。

シャン
そのとき、露伴は背後で鈴の音がしたような気がした。

 

露伴「誰だッ!誰かいるのかッ!!」

露伴はそう叫びながら振り返る。
しかし、露伴の背後には誰もいなかった。
露伴は走り出し、壊した扉も踏みつけて外に出る。

しかし、露伴があたりを見回しても何も見つけることはできない。
見つけるどころか、人の気配などまったく感じられなかった。

シャン

??「人の身には過ぎる力を持ちし者よ・・・。なぜこの地を訪れた・・・。」

 

今度は確実に聞き間違えではない。
再び背後から・・・、つまり今度は社の中から鈴の音と人の声が聞こえてきた。

バッ!!

露伴は振り返る。
そこには、小柄な少女が一人いるように見えた。
巫女のような装束に身を包んでいる。
しかし、彼女は本当に少女なのだろうか・・・。
人の心の底まで見透かしてしまうような、そんな恐ろしい瞳で露伴を見据えていた。

 

一瞬露伴は彼女の目に睨まれ、思考を停止してしまった。
しかし、すぐに冷静さを取り戻し、分析する。

彼女は・・・、浮いている!?

そう、その少女は地に足をつけることなく浮いていた。

それに、彼女の体は透けている・・・。
格子から射す日の光も彼女を通り抜けている。影があるべき場所にも影がないッ。
こいつ、スタンドか幽霊か・・・どちらにせよ、危険だッ!!!

露伴「天国への扉ッ(ヘブンズ・ドアー)!!!!!」

 

露伴「・・・何・・・だと・・・。」

過去に露伴のヘブンズ・ドアーが効かないことはなかった。
少なくとも、文字を飛ばせるように成長してからは、一度も攻撃が失敗したことはなかったのだ。
しかし、露伴の飛ばした文字は彼女をすり抜けた。彼女が露伴の攻撃を受け流したのではない。
露伴の攻撃は間違いなく彼女がいる場所を通過した。
そして彼女に触れることなくオヤシロ様の御神像へとぶつかったのだ。
先ほどから彼女を通り抜けている光と同じように。

 

??「愚かな者よ・・・。我が身は既にこの世には無きものであると知れ・・・。この姿は貴様の力と想いが引き寄せた幻想・・・。
まさか既に去った世界から干渉してくるほどの力を持つ者がいるとは思わなかったが・・・。なぜこの地を訪れた・・・。貴様の強い想い・・・何を求めているのだ・・・。」

露伴「・・・。おまえは、僕の敵なのか?」

??「・・・貴様の力が私に届かぬように、こちらからの干渉もできぬ・・・。さぁ、我が問いに答えよ・・・人の子よ・・・。」

露伴「・・・。雛見沢大災害の、いや、正確にはオヤシロ様の祟りの真相を暴きにきた。それが僕の望みだ。」

??「貴様の力なら梨花を助けることができるかもしれない・・・。貴様に一度だけ・・・真実を知る機会を与えよう・・・。」

謎の少女がそう言うと、露伴の体が光りだした。
そしてまるで彼女の体のように透けはじめる。

露伴「おいッ!!何をしたッ!!僕には干渉できないんじゃなかったのか!?う、うわァァァァァァアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」

 

露伴「ここは・・・。どこだ・・・?」

??「ここは、あなたの世界と僕の世界の間なのです。」

先ほどの少女が露伴の横に座っていた。
先ほどまであんなに露伴に恐怖を感じさせた目は、普通の目になっていた。
いまの少女はただの少女にしか見えない。頭に変なものがついているということ以外は。

露伴は体を動かそうとしたが金縛りにあっているかのように指一本も動かせなかった。
しかし、この空間はどこか心地よいものを、
まるで母親にでも見守られているかのような感覚を感じさせていた。
そのため露伴はあまり焦る気持ちや恐怖を抱くことがなかった。

露伴「言ってることがまったくわからない。それに動けない・・・。僕はどうなるんだ?」

??「あなたには、これから僕のいた世界、昭和58年の雛見沢に来てほしいのです。そこにはあなたの求める真実があるのです。」

露伴「・・・過去に戻すスタンド能力か。」

??「すたん・・・ど・・・?何を言っているのかよくわからないのです。あぅあぅ。」

露伴「あぁ、なんでもいい。そういう能力なんだろ?えっと・・・君の・・・。」

??「ちょっと違うのです。あなたの世界の過去ではないのです。あなたの世界にそっくりな、もうひとつの世界だとおもってください。
それと、僕の名前は羽入というのです。よろしくなのですよ。」

露伴「ふむ、違う世界ねぇ。違う世界なのに、僕の世界の真実が知れるのかい?」

羽入「あぅあぅ・・・。多分、としか言えないのです。少しは変わることもあると思うのですが、オヤシロ様の祟りはちゃんと起こりますですよ。」

露伴「取材にはなるか・・・。僕は露伴だ。岸辺露伴。」

羽入「ロハンですか?初めて聞くかっこいい名前なのです。」

露伴「ところで、僕は、元の世界に戻れるんだろうな?」

羽入「それは心配いらないのです。僕に頼めばちゃんと戻してあげますです。それと、一応、あなたが僕のいる世界で死んでしまった時も、元の世界に戻るのです。」

露伴「へぇ。そりゃぁ便利なもんだな。いろいろ楽しめそうだ・・・ふふふ。」

羽入「あぅあぅ。あんまりイタズラしちゃいけないのです。あなたには頑張ってもらいたいことがあるのです。」

露伴「おいおい、また頼み事かよ。」

露伴は大石と赤坂のことを思い出す。
彼らはこの20年間調べ続けてきたことを全て自分に託してくれた。
2日間の間に、彼らの熱意をヒシヒシと感じたし、彼らのこれまでの努力には尊敬すら感じている。
なにより、一生懸命に露伴に説明をしてくれる彼らに愛着が湧いていたのだ。

露伴「先約がいるんだよなぁ。あんまり変な頼み事は聞けないぜ?」

羽入「あぅあぅ。せっかく過去に連れて行ってあげるんだから約束してほしいのです。」

露伴「いいから言ってみろよ。聞いてみないとわからないだろう?」

羽入「梨花を・・・僕の友人の梨花を助けてほしいのです・・・。」

露伴「・・・。それは、オヤシロ様の祟りの真相を探りながら考えさせてくれ。」

羽入「・・・わかったのです・・・。さぁ、もうすぐ着きますですよ。僕の世界の雛見沢へ。」

羽入がそう言うと、露伴の意識は遠のいていった。

 

■TIPS
露伴のメモ—-
すごいことになってきた。
羽入という少女の能力で、昭和58年の雛見沢に着いた
ただ、僕のいた世界の過去というわけではないらしい
彼女の能力について説明を受けたのでメモしておく

 

彼女の能力は、違う世界の過去に移動するという能力のようだ
彼女自身は、古手梨花を救うためにこの能力を使用しているらしい
古手梨花が死亡した際に、この能力を使用して古手梨花と自分を過去に戻すのだそうだ

この違う世界というのは、基本的には同じ世界なのだが、細かい部分が違うらしい
同じ部分というのは、強い誰かの意志に基づき起こるものであり、
逆に細かい違いは強い意志が働いていないために揺らいでいる部分なのだそうだ
幸い、オヤシロ様の祟りは必ず起こるらしいので、取材できそうだ

ちなみに彼女の説明が正しいということは、僕自身が証明している
彼女が言うには、他の世界から僕が彼女に影響を及ぼしたことは無いらしい
これは僕がスタンド能力を持ったのは、僕が来た世界だけだということだ
彼女の説明のとおり、僕がスタンド能力を持つのは虹村形兆の気まぐれのようなものであり必然ではない
すると、僕がいくら雛見沢に興味を持っても、彼女に干渉することはできないということだ
なんだか矛盾がなくて気持ち悪いな

 

なお、過去に戻っても基本的には記憶は残る
能力を使用した付近の記憶は消えてしまうらしいが、僕の場合は過去に戻っても全ての記憶が残っていた
彼女が言うには、古手梨花が死ぬため、その死によるノイズで記憶が消えてしまうらしい
それが理由で彼女らは古手梨花を殺す犯人がわからず、死を回避できないのだと言う

古手梨花は既に数十年分の記憶を持っており、
古手梨花の精神年齢は肉体年齢とはかけ離れたものになっているらしい
ちなみに、この羽入という少女は幽霊のようなものみたいだ
年をとらないため、肉体年齢は関係ない。この少女についてはこのあと記す

古手梨花以外の人間に能力を発動することはできないらしい
僕に能力を発動できたのは、僕がスタンド能力を持っているせいだと彼女は言っていた
すると、古手梨花もスタンドの才能があるのだろう
スタンド使いは惹かれあうとはよく言ったものだ

 

羽入について
まだ詳しく話を聞いていないが、彼女は幽霊であると考えられる
杉本鈴美との共通点が多々あり、これらから彼女は幽霊であると推測できるのだ
また、本人は自分がオヤシロ様であると言っていた

頭に変なものがついているし、なんなんだろうな
詳しい話は今度聞こう

 

1983年(昭和58年)6月

××県鹿骨市雛見沢—-

羽入「ロハン、起きてくださいなのです。ロハーン?」

露伴「ん・・・?」

露伴が目を覚ますと、そこは古手神社の境内だった。
露伴が壊した扉は直っている。さらに言うなら、社全体が明らかに新しいものになっていた。

露伴「過去に戻ったと言うのは本当のようだな。今は昭和58年の何月何日なんだ?」

24 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2007/12/24(月) 17:32:14.51 ID:PjMXrIrr0

羽入「ちょっとわからないのです。僕がロハンの世界に惹かれたのは6月に入ったときだったのですが、
そのあと時間を移動している間にどれだけの日数が経過してるかわからないのです。あぅあぅ。」

露伴「まずはそれを調べることから始めないといけないな。6月26日までにどれだけの余裕があるのかが重要だ。」

羽入「6月26日ですか?たしかに梨花が死ぬのはその時期ですけど、毎回決まってるわけじゃないのです。」

露伴「そうなのかい?とりあえず、今日の日付を確認すること。僕が寝泊りする場所を確保すること。この二つを最初に済ませなきゃあならない。」

羽入「日付は梨花に聞けばわかるのですよ。泊まる場所も梨花のおうちでいいんじゃないのですか?」

露伴「あぁ、神主夫妻はもう死んでいるから家族がいないんだったな。北条沙都子も同居していると聞いた気がするが、古手梨花が許可してくれればそれでいいか。
じゃあその古手梨花の家に案内してくれよ。」

羽入「うーん。もし今日が平日なら、梨花は学校にいっちゃってるのです。家と学校を見てきますですよ。僕が梨花にお話してきますから、ロハンは待っててほしいのです。」

そう言うと、羽入は露伴の返答を待たずに走り出していった。

 

羽入はすぐに戻ってきた。古手梨花が家にいないことを確認してきたらしい。
それを伝えると、またすぐに学校に行くと言って走り去ってしまった。

やれやれ、学校に行ったら学校が終わるまで僕は待ってなきゃいけないじゃあないか。
とりあえず、村の中をいろいろと回らせてもらうかな。

露伴はそう思い、境内の階段を降りるのだった。

おいおい、僕の車がないぞ。
もしかして、僕はこれから大災害までの期間を徒歩ですごさなくっちゃあいけないのか?
時間が余れば生まれたばかりの仗助にイタズラしに行ってやろうと思っていたのにッ!
それに着替えや宿泊道具も全部車の中だ。財布は一応持ってるが、この金使えるのか?
おっと、携帯電話を持っていたと思ったが・・・ふん、やっぱり圏外か。
幸い、地図は持っているしな。とりあえず店でも探すか。

 

露伴「もう大分歩いたが・・・、喫茶店のひとつも無いって言うのか?この雛見沢って村は。くそッ!山と田んぼばっかりで、店なんて何軒かしか見つからなかったぞ・・・。」

露伴は、喫茶店かどこかで時間をつぶしながら店員に取材をしてみよう、そう考えていた。
しかし、露伴が見つけることができたのは豆腐屋や小さな電気屋、日用品を売る雑貨屋等、
露伴が気軽に入れるような店はひとつもなかった。

 

露伴は疲れ果て、バス停の椅子に座ることにした。

露伴「おいおい、バスの運行表が嫌に縦長だぜ。一時間に1本とか2本の村って、本当にあるもんだな。」

露伴は雛見沢に対する愚痴を考えながら、バス停でしばらく休んでいた。
すると、露伴の来た方向とは逆方向から、地図が正しいとすれば興宮の方角から一台の自転車がやってきた。
露伴は雛見沢に来てから、畑仕事をする爺さん婆さんと店の店員らしき村人にしか出会っていない。
道路を通過するのは自分だけだと思っていた露伴はその自転車を眺めていた。

 

自転車が近づくに連れて乗っている人間の性別がわかるようになる。
男だ。それにけっこういい体格をしている。

露伴がそうやって観察をしていると、その男はバス停の前まで来て急停止した。
露伴が不思議そうな顔で見ていると、男は話しかけてきた。

??「こんにちわ。立派なカメラをお持ちですね。野鳥の撮影かなにかですか?」

露伴「・・・。(カメラに興味を持ったのか。)いや、取材でね。僕は漫画家・・・を目指しているんだ。それで取材をしてて、ちょっと休んでるんだよ。」

??「そうなんですか!いやぁ、僕も似たようなものなんですよ。僕は富竹。フリーのカメラマンです。まぁ、まだ無名なのでお互い似たようなものですね。」

露伴「へぇ、富竹さんか。僕は岸辺露伴。露伴でいいですよ。(こいつが5年目の祟りの被害者、富竹ジロウか。いきなり大物に出会えたな。)」

富竹「露伴さんですか。変わった名前ですね。僕の下の名前はジロウと言います。どちらで呼んでくださっても構いませんよ。」

露伴「富竹さんは、何をしに来てるんです?この雛見沢へ。」

富竹「カメラマンって行ったじゃないですか、カメラマン。野鳥の撮影をしてるんですよ。他にも動植物を撮ったりしてます。
この雛見沢は貴重な写真が沢山取れるんですよ。ぜひ、取材してってください。」

露伴「雛見沢に詳しいようですね。僕の取材、受けてもらえます?」

富竹「えぇ、いいですよ。今日はこのあと予定があるんですが、暇な日なら村を案内しますよ。」

露伴「いえね、僕、オヤシロ様の祟りってやつを取材してるんですよ。雛見沢に詳しいんだったら、知ってますよね?オヤシロ様の祟り。」

富竹「・・・。あははは、参ったなぁ。漫画家さんってそんな嫌なこと調べるんですか?」

露伴「漫画の題材にしては、おもしろそうじゃないですか?」

富竹「うーん。困った人だなぁ。でも、僕はこの地域の人間じゃないんで、あんまり知りませんよ?
取材で調べられてるのでしたら、僕の知ってることは全部知ってると思うんですが。」

露伴「ふーん。何か知っているかと思ったんだがね・・・。」

富竹「ご期待に添えないようで、申し訳ないですね。そろそろ待ち合わせの時間なので、これで失礼します。
あ、野鳥や自然の取材がしたくなったらいつでも言ってくださいね。雛見沢のいい場所を案内しますよ。」

露伴「あぁ・・・。」

富竹は再び自転車にまたがり、漕ぎ出した。

露伴「(僕がこんな面白そうな獲物を逃がすわけがないだろうッ!天国への扉ッ(ヘブンズ・ドアー)!!!!!!)」

富竹は本になってしまった。

露伴「この村がいくら人気がないと言っても、ここは道路だ。さっさとこいつが5年目の祟りにあう理由を調べちまうか。」

そう言って露伴は富竹のページをめくろうとする。

露伴「ッ!!富竹ジロウ、陸上自衛隊調査部所属、階級は二尉。現在、雛見沢症候群を研究する入江機関の監査のために雛見沢を訪問中・・・」

露伴が富竹のページを読み始めたとき、人気がなかったにも関わらず露伴を制止する声が聞こえた。

羽入「ロハンッ!富竹に何をしているのですかッ!!」

露伴「あぁ、ちょうどいいところに来た。見えるか?こいつ雛見沢症候群の研究施設を知っているみたいだ。」

羽入「あぅあぅ。そのくらい僕たちも知っているのです。富竹は僕たちの仲間なのですよ。だから乱暴しちゃだめなのです。」

露伴「なんだって?それじゃあこいつの情報は役に立たないってのかよ。ちッ・・・めんどくさいことになる前に戻してやるか・・・。」

富竹「あれ・・・?僕は?」

露伴「大丈夫かい?富竹さん。自転車を漕ぎ出したとたんに倒れたから何事かと思ったよ。病院、行ったほうがいいんじゃあないのか?」

富竹「だ、大丈夫ですよ。いやはや、お恥ずかしい。おっしゃるとおり一応病院に行くことにします。それじゃあ、また。」

そう言って富竹は再び自転車にまたがり、露伴の元を離れていった。

露伴「おまえ、普通の人間には見えないのか?」

羽入「あぅあぅ。よくわかったのです。僕は梨花以外の人間には見えないのですよ。」

露伴「富竹が起きたとき、僕しかいないような仕草だったんでね。それに学校に行ったらこんな早く終わるわけないしな。それで、どうだったんだよ。」

羽入「そうなのです。僕は梨花に会ってきたのです。今日は昭和58年の6月11日の土曜日なのです。梨花はお昼に学校が終わったら帰ってくるので話をしたいと言っていましたのです。」

露伴「そうか。今が何時か知らないが、もう正午近くになるだろうな。待ち合わせ場所に行こうか?」

羽入「わかりましたです。梨花のおうちに案内しますですよ。」

露伴「北条沙都子も一緒か?」

羽入「沙都子は僕の存在を知らないのです。梨花が上手く先に帰ってくると言っていたのです。」

露伴「オーケー、わかったよ。いろいろ聞きたいことがある。歩きながら答えてくれ。」

羽入「僕の知っていることなら、なんでも教えてあげますですよ。」

露伴は羽入と共に来た道を戻り始める。

34号文書の内容は事実なのかもしれない。
そうなると、大石達の推理はあっているのだろうか。
まずは羽入と古手梨花から得られる情報をまとめなくてはならないな。

こりゃあ意外と早く真相に辿り着けるかもしれない、と露伴は上機嫌に羽入から話を聞くのだった。

 

■TIPS
露伴のメモ—-
羽入から聞いた情報のメモ

雛見沢症候群
この病気は雛見沢一帯の人間が感染している
通常は潜伏したままだが、一定の条件下で偶発的に発病する
発病する条件として、
女王感染者(追記)から離れる
精神的に極度のストレス状態にある
という2点が発病のための条件らしい
女王感染者の件はフェロモンのようなものらしく、離れる距離・期間等に影響を受けるようだ
ストレスに関しては個人差などもあるようである
この2点のいずれか、または両方の条件の下で、偶発的に発病するのだそうだ
ちなみに発病した際の症状としては、被害妄想・疑心暗鬼・認識障害などの精神的なものが現れる。
また、それらによる興奮状態に陥り、自傷行動や近くにいる人間に暴行を行う等、
手がつけられなくなるらしい

女王感染者
雛見沢症候群の病原菌の女王アリ的なものらしい
現在は古手梨花が女王感染者されている
古手梨花が死亡すると感染者は全員発症すると考えられている
古手梨花の体調の変化だけでも、他の感染者に影響を及ぼすことが確認されている

入江診療所
雛見沢村唯一の診療所である
実態は地下の研究施設で雛見沢症候群の研究をする自衛隊管轄の施設
雛見沢症候群の研究を日々行っており、発症者を保護することもあるらしい
富竹ジロウはこの施設の監査役らしく、時折雛見沢を訪れる
なお、この施設の職員は前述の理由で古手梨花の保護も目的としているらしい
大石さんが鷹野三四もこの施設の職員だと言っていた気がする

まさか34号文書に書かれていた病原菌が実在したとは思わなかった
しかもそれを研究しているのが自衛隊とは話が急に大きくなってきたな
大災害の真相は古手梨花が死亡したことによる村人全員の発症なのか?
その結果バイオテロが引き起こされた?

いや、羽入が知る限り園崎家は入江診療所との関連はないようだ
それが本当なら、発症による暴動の鎮圧ってところだろうか
政府による暴動の鎮圧の結果が住民2000人全滅となると大スキャンダルだぞ?

おもしろくなってきたな

 

露伴と羽入はゆっくり話をしながら古手神社に到着した。

古手梨花が住んでいる場所は、古手神社の裏手にある小さな小屋らしい。
露伴と羽入がその小屋へと辿り着いたとき、梨花は小屋の入り口で露伴を待っていた。

梨花「あなたが、ロハンね。」

露伴「おまえが、古手梨花か。天国への扉ッ(ヘブンズ・ドアー)!!」

梨花「な・・・何?その気持ち悪い少年は。」

露伴「やはりスタンドが見えるらしいな。気持ち悪いとは、センスのないやつだ。」

羽入「ロハン、それをしまってくださいなのです。」

露伴「わかったよ。僕は歩いて疲れてるんだ。中で麦茶でも出してくれ。」

梨花「図々しいやつね。まぁいいわ、入りなさい。」

露伴「そういうおまえも、態度がいけ好かないやつだな。」

羽入「あぅあぅ・・・。」

 

露伴は部屋に入るなり勝手に座りこみ、狭い部屋だとか、
寝室すらないのか、とか文句を言っていた。
梨花はイライラしながら露伴に麦茶を用意した。

梨花「で?この男が何をしてくれるっていうの?」

羽入「ロハンは僕たちを助けてくれるのですよ。」

露伴「そんな約束はしてないだろう。祟りの真相を探りながら考えるって言ったはずだ。」

梨花「祟りの真相なら、私たちが知ってるわよ。」

露伴「へぇ。おもしろい、教えてもらおうか?君の体の記憶でさッ!!!天国へのt(ヘブンズ・d)・・・」

羽入「ロハン!!やめたほうがいいのです!!!」

露伴「なんだよ、別に危害を加えようってわけじゃあないんだぜ?」

羽入「あぅ・・・。僕が言うのが遅れたのが悪いのです。聞いてください。ロハンが富竹に能力を使ったとき、僕にははっきりとわかりました。
ロハンが能力を使うと、僕の能力が乱されているのです。」

羽入「今、能力を使ったからどうなる、というわけじゃないのですが、能力を使いすぎれば僕の能力が消え、ロハンは元の世界に戻ってしまいます。
なので、あまり能力を使わないほうがいいのです。」

露伴「それは、ハッタリじゃなくて本当だろうな?」

羽入「ロハンの能力は僕たちにとっても有用なのです。だからハッタリでこんなことは言わないのですよ。」

露伴「ふむ。あとどのくらい使うとまずいのかはわかるか?」

羽入「あぅあぅ。ちょっとわからないのです。それに時間が経てば大丈夫なのかもしれないですし。今の段階ではなんとも言えないのです。」

露伴「そういうことなら、喋ってもらおうか。オヤシロ様の祟りの真相を。」

梨花「嫌よ。めんどうくさい。」

露伴「このガキッ!!さっきから態度がでかいと思っていたが、もう我慢できないぞ。この岸辺露伴が頭を下げて頼んでいるのに、めんどうくさいなんてぬかしやがった。
いいだろう、やはり天国への扉(ヘブンズ・ドアー)を使うしかないようだな。それに、その失礼な口を二度と開かなくしてやるッ!!!」

羽入「ロハン、やめてくださいなのです。二人とも仲良くしないとだめなのです。まずは・・・僕の話を聞いてくださいなのです。」

梨花「私は、嫌だと言っただけよ。勝手に興奮してるのはその男じゃない。」

露伴「このくそガキがァァァァアアーーーーッ!!!」

梨花「アンタなんかより生きてる時間は長いんじゃあないかしら?」

羽入「やめてくださいなのです。あぅあぅ。」

「露伴」と「梨花」ッ!この世にこれほど相性の悪いものがあるだろうかッ!
しかし、なんとか羽入が露伴と梨花をなだめ、話し始める。

羽入「まずは梨花。露伴は僕のような特殊な能力を持った人間です。さっきの少年がその能力を目で見たものだと思ってください。普通の人間には見えないので、僕と同じようなものです。」

露伴「君と違って、自我は持ってないがな。僕の親友には自我を持つスタンドを扱えるやつがいる。」

梨花「スタン・・ド・・?」

羽入「ロハンの世界では能力のことをスタンドと言っているみたいなのです。」

露伴「側に立つもの、という意味でスタンドと名付けられたらしい。僕のはちょっと違うが、背後霊のように能力者の後や横に出すのが一般的だからな。
僕は、運命に立ち向かう、という意味での「stand up to」から来ている、と考えている。」

梨花「運命に立ち向かう・・・ね。そういう意味ではアナタはスタンドじゃないみたいね、羽入。」

羽入「あぅあぅ。話を元に戻すのです。ロハンは非常に強い意志を持っていました。そして僕のように特殊な能力を持っている。そのため、
すでにロハンの世界を去り、数巡後の世界に来ていた僕にその意思が届いたのです。ロハンの強い意志とは、オヤシロ様の祟りの真相を知りたい、ということでした。
そこで、僕はロハンなら梨花を殺す人間を見つけ出し、梨花を助けてくれると考えたのです。」

梨花「ふぅん。でも、先約があるって言ってたじゃない。」

羽入「僕はそのことはまだ聞いていないのです。あぅあぅ。」

露伴「大石と、赤坂って知ってるか?二人とも古手梨花と面識があると言っていたが・・・。」

梨花「あ、赤坂って、あの警視庁の!?」

露伴「そう言っていたよ。大災害の後に、彼らは雛見沢で起こった全ての真相を調べていたようだ。
20年以上経った2007年の時点でも真相にたどり着く事はできていなかったけどね。その二人に真相を暴いて教えてくれって頼まれている。」

梨花「そう、赤坂が・・・。」

羽入「大災害って何なのですか?僕たちは知らないのです。」

露伴「あぁ、古手梨花が死んだら世界を移動しちまうんだっけか。僕の世界では、古手梨花が死んだ日の深夜。雛見沢で火山性のガスが発生。
村の住人全員が死亡するという災害が起きるんだよ。まぁ、政府の発表が火山性ガスってだけで、真相ではないという説もあるがね。
さっき羽入の話を聞いた感じ、君が死んだことによる村人の発症かなにかだと思うんだが。」

梨花「・・・そうなの・・・。いつの世界も私が死んでそれで終わりだと思っていたけれど、私が死ねば私の仲間たちも、みんな死んでいると言うの・・・?」

露伴「僕の知る情報では、警察に逮捕された竜宮礼奈だけが生き残っていたと思うが。まぁ、大半の村人は死ぬはずだ。」

梨花「レナが逮捕された世界。そう、あの世界から来たのね。」

露伴「あぁ、そうだ、その世界から来た。僕は”漫画の取材”のためにオヤシロ様の祟りの真相を暴きに来たんだ。」

羽入「オヤシロ様の祟りの真相を梨花が教えるのが嫌なら、僕が教えるのです。だから梨花を助けてほしいのです。」

梨花「いいわ。教えてあげる。私も私が死んだあとに何が起きているのか興味があるわ。あんたに助けを求めるつもりはないけど、情報を交換するならいいわ。」

露伴「気に入らないが、情報を交換したいのは僕も同じだ。まずは、毎年のオヤシロ様の祟りについて教えてもらおうか。」

梨花「私達の知っている情報はこのくらいかしら。おおまかにはこんなところよ。」

露伴「そうか、じゃあ今度は僕の話だな。と言っても、さっきのでほとんどなんだが・・・。」

梨花「もう一度、ちゃんと話して。私が死んだ後、何が起きているのかを。」

露伴「ッたく、わかったよ。話せばいいんだろ?話せば。1983年6月26日早朝、君は神社の賽銭箱付近で変死体で発見される。」

梨花「変死体?殺されるときの記憶はないのよ。教えてちょうだい。」

露伴「・・・。生きたまま、腹を裂かれ内蔵と引きずり出されて死んでいたそうだ。」

梨花「まさに、綿流し・・・ね。」

露伴「34号文書にもそんなことが書いてあったな。まぁ、そんなわけで君の変死体が見つかった。そしてその日の深夜から翌日未明にかけて、火山性のガスが発生して村人が全滅。
その大災害のゴタゴタで捜査はうやむやになっちまったそうだ。」

梨花「犯人は、わからないのね・・・。」

露伴「あぁ、捕まっていない。その後雛見沢は2005年まで危険があり封鎖されていた。ガス発生源の鬼ヶ淵は災害直後にコンクリートで埋め立てられている。
この長期の封鎖や沼の埋め立てには、不審なところが多々あると噂されている。」

露伴「他に大石や赤坂から聞いた話で関係がありそうなものは、
古手梨花が死亡したときに、正確には古手梨花の死体が見つかる前日の深夜から翌日未明に入江京介が自殺している。
また、大石の部下が雛見沢地区で行方不明になっている。それらも真相はわかっていないが、大災害とは別に起きた事件だ。」

梨花「入江がッ!どうして?」

露伴「僕に聞くなよ。まぁ、大石も理由はわからないと言っていた。警察の捜査では、原因は見つからなかったんだろ。」

梨花「そう・・・。わかったわ。他には何も知らないの?」

露伴「あぁ、知らないよ。ここまできて隠し事をするほど卑しいやつじゃないよ、僕は。僕は君らから話が聞けて、やっと祟りの真相に近づけた。
あとは、5年目の祟りの真相を、そして大災害は事実なのかを突き止めれば、全てがわかる。」

羽入「僕たちも、5年目だけがわからないのです。富竹や鷹野を助けることができれば、そして梨花を殺す人物が誰なのかわかれば、
僕たちの目的も達成できると思いますです。ロハンとは目的が一緒になりましたです。」

露伴「あぁ、目的はほとんど同じだが・・・、僕の助けはいらないと、そう言ったんじゃなかったかな?」

梨花「そうよ。あんたの助けはいらない。」

羽入「梨花ッ!そんなこと言っちゃだめなのです。ロハンの力なら助けてくれるかもしれないのです。」

梨花「無駄よ・・・。どうせ何をしても私は助からないわ。あなたが未来から呼んだその男、たしかに私が死んだ後のことを知っていたわ。
でも、それだけじゃだめなのよ。真相を知らなければ、犯人を知らなければ、私を助けることはできないわ。この男が持ってきたのは不幸の手紙。
私は私のせいで仲間が死んだなんて知りたくなかった。知らなくていいことを伝えに来ただけなのよ。ほんと、余計なお世話だわ。」

露伴「おい、小娘。この岸辺露伴にできないことがあるって、そう言いたいのか?」

梨花「そうよ。私達が何度昭和58年の6月を過ごしたと思っているの?あんたのちょっとした能力くらいじゃ犯人なんてわかりゃしないわ。
しかも、その能力も使いすぎたら元の世界に戻ってしまう。どーしようもないわね。あんたも羽入も。ぜんっぜん使えないんだから。」

露伴「・・・そうかい。じゃあ話は終わりだ。僕は自分で犯人を見つける。君を助けることはしない。
君が腹を割かれて内臓を引きずり出されるのを楽しんで見させてもらうとするよッ!」

梨花「そうね。うちの羽入が迷惑かけて済まなかったわね。お詫びに好きなだけこの世界にいるといいわ。自由に犯人を捜すといい。
そして、自分の無力さを知ったら帰るといいわ。」

露伴「お言葉に甘えさせてもらうことにするよ。あと、ひとつ。泊まる場所がないんだ。今晩だけここに泊めるか、どこか泊まる場所を教えてくれ。」

梨花「しょうがないわね。今夜だけよ。そのあとは自分で探しなさい。見つからなかったら、神社の社ででも寝ればいいんじゃないかしら?」

露伴「嫌味なガキだ・・・。ところで、ちょっと相談に乗ってくれよ。僕が持ってきたこの金、使えると思うか?」

羽入「(やっぱり、梨花は僕の言うことは全然聞いてくれないのです・・・。僕がロハンに付きまとって、ロハンと一緒に真相を突き止めるしかないのです。)」

羽生は一人決意を固めるのだった。

 

■TIPS
露伴のメモ—-
祟りの真相を梨花から聞いたので書いておく
基本的には1~4年目の祟りはこれで解明されたと思う
あとは5年目の真相か・・・

1年目
深夜、殺された現場監督が発症し犯人らに襲い掛かった
犯人らは過剰防衛により現場監督を殺してしまう
犯行中および犯行後の精神的不安定より主犯格の男が発症
入江診療所で保護され研究の対称になったようだ

2年目
梨花の見解によると
発症した北条沙都子が両親を突き落としたらしい
その後沙都子は発症するが、その後、沙都子はなんとか治療により普通の生活ができるようになったそうだ

梨花の見解というのは、梨花が沙都子や入江から聞いた話を総合した内容のようだ
大石も確かに沙都子の事件当時の証言に矛盾があると言っていた

3年目
父は病死。
母は父の死を騒ぎ立てたため、入江診療所直属の部隊「山狗」に処分されたそうだ。

特にこの件に変わった点はないそうだ

4年目
北条悟史が北条玉枝を撲殺。
事件後北条悟史が発症し、入江診療所で保護された。
警察の捜査が入江診療所まで及ぶのを恐れ、麻薬中毒者を犯人に偽装したらしい
北条悟史は現在も治療中とのこと

一応気になることもある。
梨花達が転生する際にこれらはかならず起こっているらしい。
2年目と4年目は北条兄妹の強い意志が働いていれば確実に起きると考えられるが、
1年目と3年目はどうなのだろうか?1年目は現場監督になにか強い意志があったのだろうか?
また、3年目の病死はどうなるのだろう。羽入の能力が正確にわからない以上、推測できない。

 

さて、4年間を振り返ってみて園崎家の影はどこにもない。
梨花曰く、園崎家家訓に”園崎家頭首は如何なる天災も全て自らの差し金であるように振舞うべし”という家訓があるそうだ。
大石はまさにこの家訓に振り回され、いままで間違った推測をし捜査をしてきたようである。
園崎は梨花が知る限りでは白だ。
それでは誰が梨花を殺すのか。ゆっくり考える時間が必要だな。

??「ただいま帰りましたわー。梨ぃ花ぁ、この靴はどなたの靴ですのー?」

露伴と梨花がお互い嫌味を言い合っていると、突如声が聞こえた。
沙都子が帰って来たに違いない。
どたどたと階段を登り、部屋へと入ってくる。

沙都子「梨ぃ花ぁ、いるならお返事しなさい・・・あら、お客様がいらしたんですか、失礼しましたわ。」

露伴「いや、勝手にお邪魔してすまない。僕は岸辺露伴だ。漫画家を目指している。」

沙都子「露伴さんと言いますのね、私は北条沙都子。梨花の友達で、一緒に住んでるんですわ。」

露伴「あぁ、知っているよ。今日泊めてもらう約束をしたからね。」

沙都子「ちょっと梨花ぁ、私に相談もなく決めないでくださいまし。梨花と露伴さんはどういったお知り合いですの?」

露伴「あぁ、漫画の取材でね雛見沢を取材してるんだよ。」

梨花「さっき取材してる露伴に会ったのです。露伴は泊まるところがなくてかわいそかわいそなのです。僕が泊めて上げないと風邪ひいてがくがくぶるぶるなのですよー。にぱー☆」

露伴「(なんだ、このキャラの変わり方は・・・。猫をかぶるってレベルじゃないぞ。)」

沙都子「事情はわかりましたわ。ですが、知り合ったばかりの殿方を泊めるというのは・・・。」

露伴「あぁ、そうだよな。これから夜までの間に沙都子ちゃんが僕を信用できなければ追い出してくれてかまわないよ。」

沙都子「いえ、追い出すなんてことはしませんですわよ。ただ、梨花が私に相談もせずに決めたのを責めているんでございますわ。」

露伴「まぁまぁ、とりあえず僕も信用してほしいしね。なにかお話でもしようよ。」

沙都子「そうですわね。雛見沢の外から来た方のお話を聞くのもおもしろそうですわ。漫画家さんってことは、なにか漫画描いていますの?」

露伴「いや・・・。僕はまだ見習いでね。有名な先生の手伝いとかしかしたことがないんだよ。今度雛見沢で取材したことを漫画にして投稿する予定さ。」

沙都子「雛見沢を取材しても面白い漫画なんて描けるんですの?もっと外国とかに行ったほうがいいんじゃありませんこと?」

露伴「いやいや、外国もいいけどね。こういう田舎の村をテーマにした漫画だって面白いものがかけるはずさ。」

沙都子「ふーん、よくわかりませんわねぇ。露伴さん絵は上手いんじゃあありませんこと?何か描いて下さいまし。」

露伴「あぁ、いいよ、沙都子ちゃんはどんな漫画とかアニメを見るんだい?」

沙都子「そうですわねぇ。最近だとレディジョージとか見ますわよ。男の子向けだとダンバインとかやってますわ。」

露伴「じゃあ両方描いてやるよ。なにか紙と描く物はあるかい?」

沙都子「この落書き帳でよければ使ってくださいまし。描く物は私の筆箱の中身なら使ってくださって結構ですわよ。」

露伴「じゃあ、まずはレディジョージかな。アベルとジョージィでいいかい?」

そう言うと露伴はあっというまに描き上げてしまう。
とても当時の漫画家が描くとは思えないほど描き込まれた繊細な絵だった。

沙都子「まぁ、素敵ですわねぇ。すごく綺麗ですわ。もしかして露伴さん、すごい人なのではありませんこと?」

露伴「ふふふ。将来は売れっ子漫画家になるんだよ、僕は。次はダンバインかな。」

そのあとも露伴は何枚も絵を描き、沙都子を喜ばせた。
沙都子はすっかり露伴が気に入ったようで、露伴の肩に抱きつきながら絵を描く様子を見ていた。

羽入「ロハンと沙都子は仲良しになれたのです。よかったのですよ。梨花もロハンと仲良くしてくださいなのです。」

梨花「あいつが猫をかぶるのがうまいだけよ。避けたりはしないけど、仲良くするのも無理ね。」

羽入「あぅあぅ。」

沙都子が露伴を気に入り、絵を描かせているうちに夕方になっていた。
すでに梨花は夕食の用意を始めていた。
さすがの露伴も子供をあやしながら絵を描くのは疲れたらしい。

露伴「沙都子ちゃん、そろそろ疲れたから休んでもいいかい?」

沙都子「まだまだだめですわよ。もっと可愛い絵を描いて下さいまし。」

露伴「おいおい、もうらくがき帳も鉛筆も大分減ってきちゃったぞ?今日はこのくらいで勘弁してくれよ。」

沙都子「んー、まぁ、仕方ありませんわね。雛見沢にいる間に私のためにいっぱい絵を描いて下さいまし。」

露伴「あぁ、今日以外で暇なときなら、いつでもいいよ。」

沙都子は露伴の背中から降りると、らくがき帳と筆箱を片付け始めた。

沙都子「露伴さんが雛見沢に来たのは今日からですの?」

露伴「あぁ、そうだよ。今日、こっちに来て神社を取材してたら梨花ちゃんと会ったんだよ。」

沙都子「そうなんですの。それじゃあまだまだいるんですわよね?」

露伴「あぁ、まだあと2週間ちょっとはこっちにいようと思うんだ。泊まる場所が決まっていないから、そんなに長くいられるかもわからないけどね。」

沙都子「あらあら。大丈夫ですわよ。いつまででも私たちの家に泊まっていってくださいまし。ねぇ、梨花ぁ?」

沙都子が台所に向かって話しかけるが、梨花は聞こえないフリをした。

露伴「いやぁ、僕も沙都子ちゃんと遊べるのはうれしいんだけど、ずっとお邪魔になるのは悪いしね。明日は村で泊まれる場所を探してみようと思ってるんだよ。」

沙都子「そうなんですの。残念ですわね。それでしたら、明日は日曜日ですから私が村を案内しますわ。私の友達に圭一さんという方がいるのですけれど、
みんなで圭一さんに村を案内することになっているんですわ。露伴さんもぜひ来てくださいまし。」

露伴「へぇ、案内してくれるのはありがたいんだが、いいのかい?友達みんなで行くなら、僕が混ざると迷惑だろう?」

沙都子「そんなことありませんわ。みんな露伴さんが絵を描けば、あっというまに露伴さんの虜ですのよ。ぜひ一緒に来てくださいまし。」

露伴「うーん。そう言ってくれるのは嬉しいんだけど。梨花ちゃんもそう言うなら行くかなぁ?」

沙都子「もちろんいいですわよね?梨花ぁ!!」

梨花「僕も賛成なのです。人数は多いほうが楽しいのですよ。にぱー☆」

さっきは聞こえなかったはずなのに、梨花が返事をしてきた。
沙都子は嬉しそうな顔をして、再び露伴の背中に抱きついた。

沙都子「決まりですわねっ。明日は露伴さんも一緒に遊びますわよぉ!!」

露伴「ははは、わかったよ。案内よろしく頼むよ。」

沙都子「お任せなさいですわ。村中どこでも案内しますわよ。裏山だって、露伴さんになら全部ご覧にいれますわぁ。」

露伴「おいおい、僕はあの靴しかないんだぜ。山は遠慮してくれよ。」

沙都子「それもそうですわね。山はまた今度案内しますわ。明日は、みんなでお昼を食べる予定ですのよ。私の友人のレナさんという方がいましてね・・・」

沙都子はそのあとも嬉しそうに露伴に話し続けるのだった。
沙都子が眠るまで露伴が開放されることはなかった。

 

■TIPS
沙都子の気持ち—-

露伴「ふぅ・・・やっと寝たか。」

沙都子を寝付かせるのに露伴はかなり苦労した。
露伴は子供の相手をするのは苦手だったのでその疲労も一際だ。

羽入「ロハン、沙都子と仲良くなれたのですね。」

露伴「仲良くなったってわけじゃない、この子が勝手に懐いてるだけだよ。」

露伴は沙都子と梨花を起こさないようにスタンドで羽入と会話する。

露伴「まぁ、子供は嫌いだったけど、懐かれて嫌な気はしないな。」

羽入「沙都子は、多分とても喜んでいるのです。」

露伴「そりゃあ見てればわかるよ。やっぱりいつの時代も子供は漫画が好きなんだな。」

羽入「それもあるのですが・・・。沙都子は村の大人達に相手にされないのです。」

露伴「ん?どういうことだ?」

羽入「北条家が村の敵と言われていたのは知っていますですか?」

露伴「あぁ、簡単にはね。だけど、この子の両親は死んだし、おばも殺されたんだろう?この子には何も罪はないだろ。」

羽入「だけれど、村での北条家の差別は続いているのです。村で沙都子に話しかけてくれる大人は、学校の先生と入江や富竹くらいしかいませんのです。」

露伴「それは、知らなかったな。不憫な子だ。」

羽入「はい・・・。そうなのです。だから、沙都子は露伴が自分と話をしようと言ってくれて嬉しかったのだと思います。
沙都子にとって、露伴は初めてできた大人の友達なのだと思います。だから、これからも沙都子とは仲良くしてやってほしいのです。」

露伴「僕が友達、ねぇ。僕は取材に来たのであって、友達を作りにきたんじゃないぞ?それに、真相を暴いてほしいんだろ?」

羽入「わかっているのです。だから、暇なときだけでいいのです。沙都子と仲良くしてあげて欲しいのです。」

露伴「・・・。」

沙都子「むぅ・・・ん・・・にーにー・・・。・・・露伴さんが・・・絵を・・・んぅ・・・。」

露伴「まぁ、その話は覚えとくよ・・・。」

羽入「ありがとうなのです。明日は、村のみんなとも仲良くしてあげて欲しいのです。」

露伴「あぁ、明日は竜宮礼奈や前原圭一と会えるみたいだからな。言われなくても仲良くするさ。」

羽入「それじゃあ僕も寝るのです。おやすみなさいなのです。」

露伴「あぁ・・・。」

露伴は沙都子の寝顔を眺めてみる。
こんな子供が、二人で生活してるのか・・・。
大の大人がこんな子供に差別をしてるなんて、僕は好きになれそうにないな、この村。
露伴はそう思いながら沙都子の寝顔を見ていると、意識が遠のいていくのだった。

沙都子「露伴さーん、もう朝ですわよー?起きてくださいまし。梨花も、起きるんですわよぉー。」

露伴が目を覚ますと、朝食のいい匂いが部屋いっぱいに広がっていた。
狭い家ならでは雰囲気である。

露伴「ん・・・。もう朝か。」

露伴が沙都子に起されると、羽入がそれを嬉しそうに見つめていた。

沙都子「さぁさぁ、露伴さん。私の作った朝食を召し上がってくださいまし。お口に合うかはわかりませんが、」

露伴「あ、あぁ、ん?パンじゃないのかい?」

沙都子「あら、露伴さん、普段の朝ごはんはパン食ですの?行けませんわよ。朝ごはんはしっかりご飯を食べないと、一日元気に過ごすエネルギーが出ませんでしてよ。」

露伴「ちゃんと同じカロリー取ればどっちでもいいと思うが・・・」

沙都子「んーもぅ、露伴さんは難しいことを言いますわね。とりあえず、うちにはご飯しかありませんでしてよ。うちに泊まっている間はご飯をお食べなさいませ。」

露伴「そんなに怒るなよ。で、僕の分はこれでいいのかい?」

沙都子「えぇ、露伴さんのは多めにしておきましたわ。ほーら、梨花ぁ、さっさと起きなさい。今日はお出かけするんですわよー?」

そう言って沙都子は梨花を叩き起こしに行く。
露伴は朝食に手をつけようとした。

沙都子「露伴さん、ちゃんといただきますを言いまして?私には聞こえなかった気がしますわよ?」

露伴「あぁ、悪かったよ。いただきます。」

沙都子「はい、ちゃんと言えました、召し上がれでございますわ。」

沙都子「露伴さん、どうですの?梨花以外に私のお料理を食べさせたことはありませんの。お口に合いまして?」

露伴「・・・・・・ぃょ・・・」

沙都子「聞こえませんですわよ?露伴さん、正直におっしゃってくださって結構ですからもっと大きい声で言ってくださいまし。」

露伴「美味しいって言ってるんだよ!!2度も言わせるな。2度同じことを言うってのは無駄なんだぞ。」

沙都子「そんなに怒らないでくださいまし。聞こえなかったから聞いただけですわよ、もう。」

そう言って沙都子は嬉しそうに頬を膨らました。

朝食を済まし、着替えて外出する準備を済ませる。

ちなみに露伴の着替えは羽入が夜の間になんとか露伴の世界から持ってきていた。
人間に比べて物なら移動するのが簡単だったようで、数着程度の小さな質量なら移動できたそうだ。
もちろん、僕のスタンドの余波がなければ元の世界を辿ることはできなかったらしいが。

露伴「それで、今日の予定はどうなってるんだい?案内してくれるんだろう?」

沙都子「えぇ、案内しますわよ。まず午前中は、近くにある診療所と学校をご案内しますわ。そのあと、神社に戻ってきて圭一さんたちと合流する予定でしてよ。」

露伴「そうだな、診療所は僕も知っておいたほうがいいかもしれないな。(むしろ、この雛見沢で今最も行くべき場所が診療所だからな)」

沙都子「そうですわね。露伴さんもいつ怪我をなさるかわかりませんし、診療所はしっかり覚えてくださいまし。」

梨花「それじゃあ、診療所まで出発なのです。」

露伴たちは診療所へ向けて出発した。

診療所にはすぐに到着した。
診療所は小さな村の診療所としては大きいほうなのかもしれない。
だが、とても未知の風土病を研究する施設のようには見えなかった。

沙都子「ここが診療所でしてよ。所長の監t・・・、入江先生はいい人ですから、露伴さんでもちゃーんと診てくれますわ。」

梨花「入江先生は、野球チームの監督をしているので、みんなには監督と呼ばれているのです。あと、沙都子が大好きなのです。そろそろ沙都子に気づいて出てくるころなのです。」

梨花がそう言うのと同時に、診療所の入り口から白衣の男が飛び出してきた。

??「沙都子ちゃーん、今日はどうしたんですかぁ?もしかして、ご主人様に会いたくなっちゃったのかなぁー?」

沙都子「監督は私のご主人様ではないですわよ。露伴さんが誤解するようなことはやめてくださいませ。」

沙都子がいかにも不機嫌という顔であしらう。
彼が梨花が死亡するのと同時に自殺する入江京介のようだ。

入江「露伴さん?おっと、あなたですか?初めてお会いしますね。」

露伴「えぇ、初めまして。岸辺露伴と言います。漫画家を目指していまして、雛見沢には取材できました。」

入江「あぁ、富竹さんが言っていた漫画家さんですね。お話は聞いていますよ。初めまして、入江京介といいます。この診療所で医師をしております。」

露伴「立派な診療所ですね。村の方もこれだけ大きな診療所があれば安心でしょう。」

入江「いえいえ、まだまだ私も若輩者でして、毎日が勉強ですよ。今日は、どうかされたんですか?」

露伴「いえいえ、体調はいいのですが、沙都子ちゃんたちが村を案内してくれると言ってくれましてね。
診療所の場所は覚えておこうと思ったんですよ。あと2週間くらいは取材していく予定ですからね。」

入江「なるほど。何かありましたら、万全の体制で治療させていただきますよ。もちろん、ご無事を祈ってますけどね。」

露伴「ありがとうございます。やはり旅先での病気や怪我は厄介ですからね。できればお世話になりたくないものですよ。」

沙都子「露伴さん、あんまり長話している時間はありませんことよ?もう学校にいく時間があるか怪しいですわ、お昼には神社に戻らなくてはなりませんもの。」

露伴「あぁ、そうだね。ごめんよ。それでは入江先生、・・・”また”・・・お会いしましょう。」

入江「えぇ、医師としてではなく、個人としてお会いできることを期待していますよ。またお会いしましょう。それでは。」

そう言うと入江は沙都子に二言三言話しかけて診療所へと戻っていった。
入江京介。彼も今年の祟りに深く関わっている人物だ。
必ずまた会うことになるだろうと露伴は思った。

 

露伴が入江と無駄話をしたせいで時間がないらしい。露伴の朝の身支度が長かったのもあるそうだが。
沙都子が一度神社に行き、全員で学校を案内することにしようと提案した。
露伴も梨花もそれに素直に従うことにした。

古手神社につくと、3人の子供の姿があった。
一人は弁当を並べ、残りの二人はなにやら話し合っているようだった。
梨花がその二人に近づき話しかける。

梨花「こんにちわです。」

沙都子「何やら騒がしいから来てみれば・・・これは何事ですのーッ!?」

??「見りゃわかるだろ。ランチタイムだ。ビュッフェスタイル・・・って、そっちの人は誰だぁ?」

露伴「・・・。僕は岸辺露伴。漫画家を目指している。」

沙都子「露伴さんは取材で雛見沢に来ているんでしてよ。今、村を案内してきたところですわ。」

梨花「富竹3号なのです。にぱー☆」

??「へぇ、漫画家さんか。初めまして、前原圭一と言います。よろしく。」

??「あー、私はー、園崎魅音ッ!以後よろしくぅッ!!」

??「はぅ、竜宮レナです。よろしくお願いします。」

露伴「あぁ、初めまして。圭一君に魅音ちゃん、それと礼奈ちゃんだね。」

レナ「あれ?レナの本名・・・知ってるのかな?かな?」

露伴「ん?あれ、今、礼奈って言わなかったかい?(・・・ちッ、まずったか?)」

魅音「あははは。露伴さん聞き間違えたのかな?レナはレナ。本名は礼奈だけど、私たちはそう呼んでる。」

露伴「そうか、すまなかったねレナちゃん。改めてよろしく。」

レナ「はい、よろしくお願いしますっ。」

沙都子「露伴さんもご一緒してよろしいですわね?露伴さんは私のお客人ですのよーッ。」

圭一「露伴さんのぶんはあるが、おまえの食うぶんはないッ!」

レナ「大丈夫だよ、ちゃんと沙都子ちゃんのぶんもあるよ・・・」

圭一「ないッ!沙都子のぶんは俺が頂くッ!!」

沙都子「そんなことは許せませんのーッ!!露伴さん、二人で圭一さんのぶんを食べつくしますわよッ!!」

露伴「おいおい、食事にはマナーってもんがあってだな。あんまり騒ぐもんじゃあないんだぜ。」

しかし、露伴の制止も聞かずに沙都子と圭一は大騒ぎしながら弁当を食い漁る。

魅音「いやー、露伴さん。こいつらは言っても聞かないからねぇ。それにしても、沙都子と大分仲がいいんですね。」

露伴「昨日からずっと懐かれてね、寝るまで開放してくれなかったんだよ。」

レナ「仲がいいのはいいことですよね。はい、お皿どうぞ。魅ぃちゃんと梨花ちゃんも。」

そう言ってレナがお皿と箸を配る。大分多めに持ってきているようだ。
そりゃあこれだけ大騒ぎするなら汚しちまうから代えが必要だよな。

梨花「・・・僕たちも頑張らないと沙都子と圭一にみんな食べられてなくなってしまうです。」

魅音「そうだね。よし!おじさんたちも参戦といくかな!?」

露伴「言っとくが僕はおじさんって年齢じゃあないからな。」

レナ「あはは。魅ぃちゃんの口癖なんだよ。いっぱい食べてね。みんなの分、ちゃんとあるから☆」

露伴「ふふふ、圭一君、この岸辺露伴が最も好きなことのうちのひとつを教えてやろう。勝利を確信した笑みに敗北を叩きつけてやることだ。
まぁ、箸から箸で取るのはマナー違反なんだがね。」

そう言って露伴はミートボールを食べた。

圭一「くッ、なら俺はこっちの最後の玉子焼きをッ!!あれッ、な、ないッ!!!」

沙都子「をーっほっほっほ!ふでひ、わぁひがいははひまひたわ。ふぇーいひふぁん、ろぉふぁんふぁんおふぉうどうふぉ ゴクン 読みきれなかったあなたの負けですわよ。」

沙都子が口に玉子焼きを含んだまま勝ち名乗りをあげる。

圭一「くッくッそォォォォォオオオオ!!!」

露伴「沙都子ちゃん、口に入れたまま喋るのはどこの国でも許されないマナーだぞ。」

こうして激しい戦いの幕は閉じられたのだった。

水筒のお茶が配られ、皆くつろぎはじめた。
すると自然とは話題は露伴のことに向かう。

圭一「露伴さんは漫画家さんなんだよな?俺たちが知ってる漫画とか描いてたりして。」

露伴「いやぁ、まだ見習いなんだよ。だからお手伝いばっかりさ。」

沙都子「でも露伴さんの絵はすごいんですのよッ!私、あんな綺麗な絵を見たことありませんでしたわ。」

魅音「へぇー、じゃあさ、露伴さんなんか描いてよ。」

レナ「はぅー、かぁいいやつがいいなぁ。」

露伴「あぁ、構わないけど、紙とペンがないぜ?」

沙都子「大丈夫ですわ。こんなこともあろうかと、らくがき帳を持ってきてありますのよ。」

そのとき、ニヤリと魅音が微笑む。

魅音「そうだ、いいこと思いついた。レナ、デザートは用意してあるよね?」

レナ「うん。ちゃんとリンゴのうさぎさんが用意してあるよー。」

魅音「それじゃあね、これからみんなで絵を描こう。お題は露伴さんに決めてもらって、露伴さんに採点してもらう。ちなみに、ビリはデザート抜きッ!これでどうッ?」

露伴「僕は構わないが、僕の採点はどうなるんだ?」

魅音「露伴さんに勝てるわけないじゃーん。露伴さんは、採点したあとお手本を書いてくれればおっけー。」

圭一「その話乗ったぁぁぁぁあ!!今度こそ沙都子を痛い目に合わせてやるぜぇえええ!!」

沙都子「圭一さん。私を甘く見ないでくださいまし。昨日露伴さんが絵を描くのをみて修行しておりますわよーっ!露伴さんの好みは大体わかってますわ。」

圭一「へっ。俺だって親父が画家だぞ。沙都子には悪いが本気を出させてもらうぜっ!」

魅音「レナも梨花ちゃんも、おっけーだね?」

梨花「僕はなんでも大丈夫なのです。」

レナ「んー、自信ないけど、私も大丈夫だよ。」

魅音「よっしゃぁ、それじゃあ露伴さんお題を出してちょーだいっ!」

露伴「うーん。本当なら難しいお題を出したいんだけど、まぁ、簡単なやつで、犬と猫を描いてもらおうかな?」

露伴がお題を出したとたん、全員背中を向き合わせて絵を書き出した。
他人に真似されるのを避けようとしているようだ。

露伴がお茶を飲んでくつろいでいると、全員が描き終った様である。

魅音「よし、それじゃあみんな一斉に見せるんだよー?いっせーの、せっ!」

魅音が掛け声をかけると、露伴の目の前に5枚の絵が並んだ。
皆、犬と猫を1匹づつ描いたようだったが露伴の目から見て犬と猫は3匹づつしかいなかった。

露伴「えーと、採点基準は僕の判断でいいのかい?」

魅音「うん。露伴さんの好きにしてっ!」

露伴「まぁ、一番は魅音ちゃんかなぁ、絵は得意なのかい?」

魅音「えへへー。一応、婆っちゃに水墨画とか習ってるしねー。」

露伴「へぇ。水墨画かい。ちょっと興味あるな。今度お婆さんを紹介してくれよ。」

魅音「んー、まぁ、機嫌がいいときならね。それより、次の順位を発表してよ。」

露伴「あぁ、次はレナちゃんと梨花ちゃん。レナちゃんはちょっとデフォルメしすぎてるけど可愛い絵だね。梨花ちゃんは逆に古風な絵で、味があるよ。二人が同着ってところかな。」

レナ「ありがとうー。梨花ちゃんも上手だね。私より上手いよ。」

梨花「頑張ったのです。レナのほうも可愛いのですよ。にぱー☆」

魅音「フッフッフ。予想通り、この二人が残ったねぇ。露伴さん、コメントをどーぞ。」

露伴「う、うーん。困ったな・・・。沙都子ちゃんのは、こっちが猫さんかい?」

沙都子「・・・。そっちは犬さんですわ・・・。」

圭一「ぶわっはっはっはっはっはっ。こりゃあ、もう勝負がついたようなもんだなぁ、沙都子ぉ!あーっはっはっはっはっ。」

沙都子の目がうるうるし始めた。今にも涙がこぼれてきそうだ。
これはまずい。露伴はそう思い、圭一の犬(と思われる)を指差して言う。

露伴「そ、それより、圭一君のはこっちが猫さんだよな?」

圭一「そーっすよォ。露伴さん流石っすねェーやっぱ見る目がありますよ。沙都子ぉ、悪いなー。デザートは俺のものみたいだなー、あーっはっはっはっはっ。」

露伴「(だめだこいつ、はやくなんとかしないと・・・。)」

露伴「それじゃあ順位を・・・。ビリは・・・圭一君だ。」

圭一「ちょ、待ってくださいよ。なんで俺がビリなんですか?」

魅音「そうだねー、露伴さん、ちゃんと説明してもらえるぅ?」

露伴「・・・。君たちは知らないだろうが、ロシアの画家にニコラ・ド・スタールという人物がいる。
1955年に亡くなったがね。彼の絵は抽象画でありながら、同時に風景画でもあってそのギリギリのせめぎ合いをテーマに描いている。
沙都子ちゃんの絵にも同じものを感じた。彼女の絵は、猫の絵と犬の絵としてみればお粗末なものかもしれない。
しかし、猫と犬の絵としてはかなり評価されるべき作品だ。どちらが猫でどちらが犬なのかわからない。
そのせめぎ合いに僕は芸術性を感じた。僕の好みがわかると言うだけの事はある。ちなみに、圭一君のはどちらが犬か猫かわかるが、ただ下手なだけの絵だ。

こんなところで、いいかい?」

魅音「へぇー、深いねぇ。流石漫画家さん。こりゃあお手本も期待できるかねぇ。」

圭一「くっそー、俺と沙都子の絵に何の違いがあるって言うんだ・・・。」

沙都子「をーっほっほっほっほっ。言ったはずですわよ、圭一さん。露伴さんの好みは知り尽くしていますと。」

露伴は少しだけ圭一に申し訳ないと思いながら、お手本の絵を描くのだった。

そのあとも露伴はリクエストに答えて沢山の絵を描いた。
沙都子はまるで自分が絵を描いているかのように大威張りして圭一と言い争っていた。
そこに魅音も加わり、泣きそうになった沙都子を庇ってレナが二人を張り倒す。
そんなコントのような展開に露伴も微笑をこぼすのだった。

沙都子「そうですわ。このあと露伴さんを学校に案内したかったんですの。みなさんで学校まで案内しませんこと?」

魅音「あー、そりゃいいねぇ。せっかくだしさ、露伴さんも混ぜてゲームでもしようか?」

圭一「ゲームぅ?学校にいくより魅音の家に行ったほうがいいんじゃねーのかぁ?」

沙都子「そういえば圭一さんはまだご存じなかったですわね。魅音さんの学校のロッカーにはゲームが沢山入ってますのよ。」

レナ「魅ぃちゃんのロッカーはすごいんだよ。四次元なんだよね。」

圭一「学校にゲーム持ってっていいのかよ。まぁ、魅音らしいけどさ。」

魅音「あはは。まぁ、そういうわけでいっぱいゲームがあるからさ。とりあえず学校で遊ぼうよ。ね?露伴さん。」

露伴「まぁ、僕は構わないよ。」

沙都子「それでは皆様、学校に向けて出発ですわよーっ!」

露伴以外「おーーーぅっ!」

やれやれ。まぁ付き合ってやるとするか。
竜宮礼奈に関しては今のところおかしな点はない。もう少し観察してみるのもいいかもしれないな。
それに、今年の祟りまではまだ時間があるしな。

この子たちと遊ぶのも・・・悪くない・・・。

 

再び露伴の世界—-

露伴が康一に電話をしてから数日。
ついに露伴の携帯が電波が通じなくなった。
ここ数日連絡がとれないことに不審を抱いていた康一はある人物に電話をするのだった。

とうおるるるるる、とうおるるるる、ガチャッ

康一「もしもし、承太郎さんですか?」

承太郎『あぁ、オレだが。久しぶりだな、なんか用かい?』

康一「実は、露伴さんが連絡が取れなくなったんです。連絡がとれなくなるまえに「オヤシロ様の祟り」という意味深な言葉を残していて・・・。
もしかしたらスタンド使いと戦闘になった可能性も考えられるかと・・・。」

承太郎『わかった。露伴のやつが消えた場所はわかってるのか?』

康一「電話があったのは新幹線の中からですが、岐阜のほうに行くと言っていました。祟りっていうやつは、雛見沢という地域に関係があるとも言っていました。」

承太郎『・・・わかった。SPW財団で手を回しておく。明日からは会社は休んでくれてかまわないから、今すぐ雛見沢に向かってくれるかい?
仗助のやつも呼んでおいてくれ。俺も今すぐ日本に飛ぶ。』

康一「わかりました。仗助君に連絡してみます。また、雛見沢についたら連絡します。」

承太郎『あぁ、わかった。また電話する。』

ガチャッ、プーップーップーッ

承太郎「露伴の野郎はスタンド使いとしてはトップクラスの能力者だ。その露伴が行方不明になるとは・・・ヤレヤレだぜ・・・。」

 

翌日、雛見沢には4人の姿があった。

仗助「おい、康一。本当に露伴はこんな辺鄙なところに行くつッてたのかよォ?」

億泰「あいつもなんつーか物好きだよな、こんな変なところに取材なんてよォー。」

承太郎「雛見沢村、1983年に火山性ガスの発生により住民が全滅した村だ。露伴はこの村の「オヤシロ様の祟り」を取材しに来たらしい。」

仗助「村人が全滅ッすかァー?俺そういうホラー系だめなんすよぉ。」

億泰「何?仗助苦手なの?俺はぜんぜんへーきだぜっ!馬鹿だからッ!」

康一「二人ともやめなよぉ。不謹慎だよぉ。」

4人は承太郎に誘導されるままに村の奥へと進んでいく。

 

承太郎「この奥が露伴の失踪場所だ。携帯会社に問い合わせたところ、この地点で電波が消えている。もちろん、電池切れなのか他の可能性なのかはわからんがな。」

康一「あっ、車が停めてありますよっ。」

承太郎「・・・。このナンバーは露伴がレンタルしている車だ。失踪場所はこの神社で間違いないようだぜ・・・。」

残りの3人の顔つきが一瞬で変わる。
さっきまでのおふざけ気分はどこかに吹き飛んだようだ。

承太郎「とりあえず、神社に行ってみるか。もし露伴がやられるほどのスタンドがいるのなら、手に負えないかもしれん。自分の身は自分で守れよ。」

仗助「スタープラチナを超えるスタンドがいるッつーんすかァ?」

承太郎「わからん。不意打ちの可能性もあるしな。しかし、露伴が真っ向勝負でやられたなら、その可能性もあるかもしれん。」

仗助「こいつァ、吉良んときよりでけぇヤマかもしんないッスねェー。」

 

4人は神社の社まで辿り着いた。

康一「承太郎さんッ!!この社の中の足跡、多分、露伴先生が履いていた靴じゃないでしょうか・・・。大きさも一致するし、こんな靴持ってた気がします。」

承太郎「ふむ、扉も壊されているし、社の中で走ったような足跡もある。この場所で何かの事件に巻き込まれた可能性は高いな・・・。」

シャンッ

鈴の音がした。

 

承太郎「何の音だッ!?」

康一「鈴の音ッ?」

仗助「承太郎さんッ、階段を降りていく少女がいたッスよッ!」

億泰「今のは巫女さんだったぜぇー。かぁいい~いっ!!」

承太郎「この神社は無人のはずだぞッ!!追いかけるんだッ!!」

4人が一斉に走り出す。
階段の上から見下ろすと確かに少女が一人、階段を降りていた。
承太郎達に気づいたのか、後ろを振り返った後、走り出した。

億泰「俺の出番だぜぇーっ。ザ・ハンドッ!!空間を削り取るッ!!!」

しかし、いくら億泰のザ・ハンドが空間を削り取っても少女は引き寄せられてこない。

億泰「ど、どーいうことだよぉー。俺のスタンドが効かねぇー。」

仗助「康一ィ、あとで治してやっから、勘弁しろよォ?クレイジー・ダイヤモンドッ!!ドラァ!!!」

仗助はそう言うと、スタンドで康一を掴み、全力で投げ飛ばす。

康一「あーもう、仗助君ってば、了解くらいとってくれよなぁ。だけど・・・これで追いついた・・・射程距離5m以内・・・。エコーズACT3・FREEZE(フリーズ)ッ!!」

 

それでも少女は階段を駆けていく。
康一もなにがなんだかわからない。

康一「Act3!!あの少女を止めろッ!!射程距離から出られるぞッ!!」

ACT3「申し訳ありません。先ほどから・・・やっているのですが・・・。」

康一「な・・僕のスタンドも効かないだと・・・?承太郎さんッ!!駄目です!!僕の能力も効きませんッ!!!」

康一は叫びながら草むらに突っ込む。

承太郎「野郎・・・、飛べッ、仗助ッ!!こうなったら力ずくで止めるしかないッ!!」

承太郎と仗助はスタンドを使って石段の上から飛び出す。
少女はもう露伴の車に到達しているようだ。露伴の車の中から何かを漁っている。

少女は車のなかに手を入れて漁っているようだ。
少女の手は車の壁を貫通している。

承太郎「鉄板をすり抜けてやがるッ!!スタンドだッ!!容赦するなッ仗助ッ!!!」

仗助「承太郎さん、もう俺が手加減してられるレベルじゃあねーッスよ、こいつァ。クレイジー・ダイヤモンドッ!ドララララララララァアアーーッ!!!」

仗助のスタンドが石段の石をもぎ取り、投げつける。

ドグシャァアアッ、ゴォゥン、グァッシュワアアアアン!!
露伴の車へ次々と石が突き刺さる。

しかし、少女に命中するはずの石は少女の体をすり抜けていく。

仗助「ま、まじかよォ!!」

承太郎「ヤレヤレ・・・、この距離なら間に合いそうだぜ。スタープラチナ・ザ・ワールドッ!!」

承太郎が時を止める。

承太郎「見た目はガキだが・・・容赦しねぇぜ。オラァッ!!」

ドグシャァッ!!!

スタープラチナの拳が露伴の車にぶち当たった。
少女の背中から胸をすり抜けている。

承太郎「なっ・・・、スタンドでの直接攻撃が効かないのか。くっ・・時は動き出す・・・。」

そう、時は動き出すはずだった。しかし、動き出さない。
承太郎の体が動かなくなる。

承太郎「(こ、こいつ・・・時を止められるのか?)」

スタープラチナの腕は少女の背中をすり抜けたままだ。
その止まった時の中、少女は承太郎のほうを振り返る。

承太郎が目があったと思った瞬間、時が動き出し、少女は消え去っていた。

仗助「承太郎さんッ!消えちまいましたよッ!やったんスかぁ?」

承太郎「い・・いや・・。おそらく逃げられた・・・・。」

億泰「おい仗助ェ、捕まったかぁー?」

仗助「いや、逃げられちまったみたいだ。」

承太郎「仗助、はやく康一君を治してやれ。」

仗助はすっかり忘れていたようなジェスチャーをとると、康一を探しに走り出していった。

億泰「承太郎さん、今の子はなんだったんすかねェ。すっげーかぁいい子でしたぜぇ。」

承太郎「・・・。ヤレヤレだぜ・・・。」

神社から学校までは大した時間は掛からなかった。
もちろん、子供たちはその道のりも楽のしそうにお喋りしていたし、露伴も雛見沢の無邪気な子供たちと接するのは楽しかった。

沙都子「さぁ、露伴さん、ここが学校ですわーっ!」

露伴「うーん、学校と言うにはちょっと変わった建物だねぇ。確かに公共施設っぽいんだが、学校には見えないなぁ。変なゲートもあるし。」

魅音「鋭いねぇ、露伴さん。ここは本来学校じゃないんだよ。元々は営林署の建物だったんだけど、一部を間借りして学校にしてるんだ。
だからこの学校の正式名称は、鹿骨市立興宮小学校雛見沢分校と、同興宮中学校雛見沢分校ってわけ。」

露伴「へぇ、小学校も中学校も一緒なんだね。それなら沙都子ちゃんと君らが友達なのも納得ってもんだ。」

レナ「私たちの歳になると、興宮の中学校に行っちゃう子が多くて同じ世代の子は少ないんです。圭一君が引っ越してくる前は、魅ぃちゃんと私ふたりっきりだったくらいで。」

露伴「なるほどなー。よかったじゃないか圭一君。こんなに可愛い女の子が二人もいて、ライバルがいないんだぜ。」

レナ「わわわわ、ど、どどど、どういう意味かな。かな。」

圭一「ちょ、やめてくださいよ露伴さんー。レナはまだしも、魅音なんて男友達みたいなもんなんすからー。露伴さんの前だからちょっと猫かぶってるんすよ、こいつー。」

魅音「どうせおじさんは可愛くないですよーだ。」

魅音がそう言ってむくれると、全員で大笑いするのだった。

 

その後、魅音の案内で教室へと向かう。鍵はかかっていなかった。
なんとも無用心な学校だ。魅音が言うには、日曜に鍵がかかっているかは五分五分らしい。
営林署の職員さんが最後まで残っているとよくかけ忘れるそうだ。
田舎らしいと言えば田舎らしい。それが雛見沢のいいところなのかもしれない。

教室に入るなり、魅音が指示を出し、机をくっつける。
4つの机をくっつけてその周りを囲むようにに全員で座る形になった。

 

魅音「さーて、本当は明日する予定だったんだけどねぇ。まぁいい機会だし、今日やっちゃおうかな。それでは、会則に則り、部員の諸君に是非を問いたいっ!
彼、前原圭一君を新たな部員として我らの部活動に加えたいのだが・・・いかがだろうか!!」

露伴「おいおい、いきなりなんだよ。」

レナ「レナは異議な~し!」

沙都子「をっほっほっほ!貧民風情が私の相手を務められるのかしら!それに露伴さんはどうするんでしてっ!?」

梨花「・・・・・・ボクも沙都子も賛成しますですよ。露伴も混ぜてあげてほしいのです。」

レナ「うんうん、露伴さんもやろうね。やろうね。」

魅音「全会一致!おめでとう前原圭一くん。君に栄えある我が部への入部試験を許可する!露伴さんにも特別ゲストとして参加を許可しよう!!」

圭一「順を追って説明しろ!何の部活だ?俺はまだ入るとは言ってないぞ!」

露伴「僕はおもしろそうだからなんでも大丈夫だがね。」

魅音「露伴さんノリいいじゃーん。我が部はだね、複雑化する社会に対応するため、活動毎に提案される様々な条件下、・・・時には順境、あるいは逆境からいかにして・・・!!」

レナ「・・・レナは弱いから・・・いじめないでほしいな。仲良くなろうね。」

沙都子「レナは甘えてますわ!弱いものは食い尽くされるのが世の常でございますわー!」

梨花「・・・・・・つまり、みんなでゲームをして遊ぶ部活なのです。にぱ~☆」

露伴「僕はガキだからって手加減しないからな。やるからには勝たせてもらうよ。」

魅音「おおっ。露伴さん良い事言うねぇー。会則第一条!!狙うは一位のみ!遊びだからなんていういい加減なプレイは許さないッ!!」

沙都子「会則第二条!!そのためにはあらゆる努力をすることが義務付けられておりますのよ!」

梨花「・・・・・・もちろんボクも頑張りますです。」

レナ「レナも弱いけどね、精一杯頑張ってるの。」

露伴「先に言っとくけど、強いほうだと思うよ。僕は。」

圭一「よし、俺も・・・本気でやってやるぜェーーー!!!」

露伴「それで、なんのゲームをするんだい?」

魅音「そうだねー。ちょっと待ってよー。」

そう言いながら魅音はロッカーへと向かった。
ロッカーを開けて中を漁り始めた。大分中身は多いようだ。

魅音「難しいゲームは圭ちゃんと露伴さんだけに不利だからね。今日は誰にでもわかるゲームにしよう。スタンダードにトランプの・・・ジジ抜きはどうッ?」

露伴「僕はなんでもいいよ。圭一くんの入部試験なんだろ?」

圭一「いいぜ。受けてやるよ!」

魅音「もちろん、罰ゲームありだからね。露伴さんも。今回は一位が罰ゲームを決めるっていうので、どう?」

露伴「あぁ、構わないよ。一位になるのは・・・僕だからね。」

圭一「へへっ、入部試験らしいからなぁ。露伴さんには悪いけど、俺が一位を取らせてもらうぜッ!」

沙都子「あーら、圭一さんはビリにならないようにするので精一杯ではありませんことーッ?」

レナ「あはは、私には手加減してほしいな・・・はぅ。」

魅音「ほーら、カードは切り終わったよー。じゃあ、ジジを抜いてっと。ほら、配るよー。」

魅音は机の中央にジジを抜くと、カードを配りだした。
ジョーカーも抜いてあるようだった。
露伴と圭一以外はそのジジのカードを凝視している。

圭一「このトランプ結構傷物だな・・・もしかして・・・みんなにはその伏せてあるカードがわかる・・・なんてことないよな。」

沙都子「会則第二条ですわー。圭一さんも勝つために最善の努力をなさいませー。」

レナ「いくつかのカードは特徴的だから・・・圭一くんにもすぐ覚えられるよ。」

露伴「へぇ・・・そいつはおもしろそうだな。」

露伴はカードが他人にバレるのも気にせずに、自分のカードの表と裏を眺め、傷を確かめている。
他人のカードもジロジロと見て傷を探しているようだ。

圭一「じょ、上等だぜ!!この程度でハンデになると思うなよ!!!」

魅音「くっくっく!圭ちゃんの手札を右から言うぜ?3,4,9,J,Q。露伴さんは右から、Q,7,2,9,K。」

露伴「やるね。正解だよ。」

圭一「ぐわああァァァアアッ!!」

梨花「ちなみに、ジジはダイヤのJなのです。」

圭一「うがァァァァアアッ!!」

沙都子「どうカードを入れ換えたって、見え見えですわ!あがりですのー!」

圭一「お・・・鬼だ・・・こいつらは鬼だ・・・!レナ・・・は・・・鬼じゃないよな・・・?」

レナ「ご、ごめんね圭一くん。・・・こっちがハートの3だよね?・・・あがり!」

圭一「おわァァァアァァァアァァアアアッ!!!残るは・・・露伴さん・・・・・・そうだ・・・露伴さんは、俺と・・・対当なはずだ・・・。」

露伴「レナちゃんがさっき引いたのが3ってことはだ。魅音ちゃんが言ってたのは魅音ちゃんから見て右みたいだね。すると、これがQなのかな?・・・うん、あがりだ。」

圭一「ヤッダーバァアァァァァアアアアアッ!!!!」

魅音「やるねー、露伴さん。ポイントは減点制ね。着順がそのままマイナス点。トータルで一番少ない人が優勝!」

梨花「・・・では、魅音が1、沙都子が2、ボクが3で、レナが4、露伴が5で、圭一が6なのです。」

梨花がそう言うと、スコアボードを書きこんでいく。

露伴「おっと、減点5はでかいなぁ。じゃあもう、次からは手加減なしでいかせてもらうよ?」

魅音「へぇー。露伴さん自信あるんだ。いいよ、かかっておいで。この私が相手したげるよ。」

沙都子「露伴さん、この私も忘れてはいけませんのよー!!かかって来なさいませ。」

圭一「く・・・露伴さんまで・・・。」

レナ「・・・や、やっぱりさ、綺麗なトランプでやらないと圭一くんに不公平だよ・・・。」

魅音「いいのいいの。圭ちゃんだって男だし。それに露伴さんはもう対応しはじめてるしね。」

露伴「対応しはじめてる?この岸辺露伴を舐めてもらっちゃ困るよ・・・。フフフ。はやく次のカードを配ってくれ。」

次のカードが配られる。

露伴「それじゃあ、魅音ちゃん。君から見て右から、5,7,3、Q,K。沙都子ちゃんも同じく右から、A,2,7,10,J,Q。ちなみに、7は魅音ちゃんのがダイヤ、沙都子ちゃんのがスペード、
Qは魅音ちゃんのがクラブで沙都子ちゃんのはスペード、だろ。」

沙都子「な、なんですってぇぇぇぇえー。全部当たってますわっ!!」

魅音「・・・露伴さん、1回で全部覚えたっていうの!?それに私の持ってるクラブの5はダイヤのKと区別がつかないはず・・・。でも、露伴さんはKはもってない・・・。」

露伴「見分けるのに使えるのは傷だけじゃないぜ?今度、どっちが日焼けしてるかよーく見ておきなよ。」

沙都子「露伴さんッ!かっこいいですわぁー!」

レナ「すごいね。すごいね。レナにも教えてほしいな。」

圭一「・・・こんなの勝てるかァァァァァアアアアア!!」

ゲームの展開は露伴と魅音の一騎打ちになる。
とは言え、すべてのカードがわかる露伴に魅音は一歩及ばない様子だった。
魅音の焦りを感じ、圭一は考える。いましか自分が一矢報いるチャンスはないと。

魅音「ほら、圭ちゃん隠さない隠さない!・・・これが確かダイヤの2だったよね。・・・あれッ?!・・・圭ちゃん・・・あんた、まさかァッ!?」

沙都子「ダイヤの2を偽装したと言うんですのっ!?あ、味な真似をしまするでございますわぁぁぁああ!!」

露伴「へぇ、僕もダイヤの2かと思ったよ。ちょっと違和感はあったけどね。やるじゃないか、圭一君。」

圭一「へへへ。まぁ俺のビリはすでに確定してるけど、魅音がこんなにうまく引っ掛るなんて最高だったぜ。大満足だ。うぇっへっへっへっ~。」

魅音「むむむ、順位に影響はないとしても、こりゃぁやられたねぇ。屈辱だよ・・・。・・・圭ちゃんはこのあと1位をとってもビリだけど・・・嫌でしょ?」

圭一「当たり前だっ!!」

魅音「じゃあ、チャンスをあげようか。私と一騎打ち。圭ちゃんが勝ったら、私と順位を入れ換えてあげるよ。」

圭一「へっ、リベンジってわけか。その話、乗ったぜッ!!!負けてから、やっぱなし、なんて言うなよっ!!」

魅音「あたしは100%勝つからね。負けるなんてこと、これっぽちも考えたことないよッ!」

圭一と魅音の一騎打ちが始まる。
ルールは単純。魅音が両手に持ったカードのうち、どちらがジョーカーかを当てる。
ただそれだけだった。
圭一はかなり善戦するも、魅音の目論み通り罠に引っかかった。
他のメンバーもわざと演技をして圭一を誘ったようだった。
だが、圭一の善戦ぶりは評価されたらしい。

魅音「部長、園崎魅音の名において。前原圭一。あんたの我が部への入部を・・・許可する・・・ッ!!これにて決着ッ!!本日の優勝は、特別ゲスト!露伴さん!!
栄えあるビリは・・・前原圭一ッ!!」

レナ「魅ぃちゃんが後ろ手で細工したとき、またやるんだーって思ってどきどきしちゃった!」

沙都子「圭一さんが、正解に触れる直前で止まったときにはかかった!って思いましたわー!!」

梨花「・・・見事にひっかかってくれましたです。」

露伴「僕みたいに全部のカード覚えてれば勝てたのにな。まぁ、圭一君には無理だろうけどね。ふふふ。」

圭一「・・・え?ちょっと待て。お前ら全員、最初から知っててあんなに真剣に盛り上がってたのか・・・??」

梨花「・・・楽しくなるようにみんなで盛り上げましたですよ。」

圭一「・・・。お、お前らみんな鬼だァアアアアアアアア!人でなしィィイーーーッ!!」

魅音「さぁさぁ、露伴さん、罰ゲームを決めちゃってよ。一位が決めるってことになってたからね。」

露伴「うーん、それじゃあ・・・、罰ゲームじゃあないんだが、僕と魅音ちゃんが一騎打ちをするっていうのはどうだい?」

魅音「えっ、そりゃぁ願ってもない申し出だけど・・・、露伴さんが負けたら、私が一位で露伴さんがビリになるよ・・・?」

露伴「僕が勝ったら、僕も入部するってことでいいかい?入部しちまえば、罰ゲームさせ放題みたいだからな。」

魅音「露伴さんいい趣味してるねー。いいよ、その話乗ったッ!誰か異議はあるッ!?」

一同首を横に振り、賛成の意を表しているようだ。

魅音「よしッ!全会一致ィイッ!じゃあ、露伴さん、ちょっくら部員で作戦会議するから隣の部屋に行ってくるよ?」

露伴「あぁ、僕を負かす方法を考えてきなよ。ふふふ。」

魅音「全員集合ーッ!!」

露伴以外「おぉぉぉおおおーーーッ!!!」

子供たちは全員で勢いよく教室を飛び出していった

数分後、沙都子を筆頭にゾロゾロと子供達が戻ってきた。

沙都子「露伴さん、覚悟はよろしいですことー?流石の露伴さんも、これには一網打尽ですことよーッ!」

露伴「一網打尽っていうのはそういう意味じゃないんだが・・・。まぁ、いいや。それで?何をしたらいいんだい?」

魅音「まず最初に言っとくよ、一応入部試験だから、私と一騎打ちというより、部員vs露伴さんになるけど、かまわないね?」

露伴「かまわないよ。どうせ魅音ちゃんが罠を考えてるんだろ?」

魅音「何でもお見通しだなぁ、露伴さんは。でも、こいつはそうは行かないよ。ふふふふ。」

露伴「前置きはもういいから、ルールを説明してくれよ。」

魅音「せっかちさんだなぁー、もう。じゃあ説明するけど、一番大切なことを言っておくよ。露伴さんはヤリ手だからね。質問は禁止させてもらう。
これ以降、露伴さんは言葉を発したらそれが解答だと見なす。そういうことでいいッ?」

露伴「・・・。」

魅音「これもひっかからないか。今の返事だけ、していいよ。」

露伴「了解した。」

魅音「それじゃあルールの説明だね。これから私、レナ、圭ちゃんの3人がそれぞれヒントを言うよ。ただし、一人だけ本当の事を言っている。
残りの二人は本当の事とは逆の事を言ってる。露伴さんには誰がジョーカーを持っているのか当ててもらう。簡単だから、わかるよね?オーケーならうなずいて。」

露伴は素直に頷く。

沙都子「それでは、ヒント開始ですわぁー!」

魅音「レナがジョーカーを持ってるよ。私は嘘ついてないからねっ。」

レナ「レナが嘘ついてないんだよ?だよ?レナはジョーカー持ってないしね☆」

圭一「いーや、レナは嘘つきだぜ。レナがジョーカー持ってるんだからな。」

梨花「以上でヒントは終了しましたです。」

魅音「さぁ、露伴さん、時間は無制限でいいからよーく悩んでねぇ。うっひっひっひっひー。」

魅音の嫌らしい笑いを露伴の手が遮った。
今日も柔らかそうな達人の手だ。勃起しそう。

露伴がニヤリと笑う。

露伴「魅音ちゃんと圭一君。ふたりともジョーカーを持ってる。1枚づつ。」

露伴が答えた瞬間、子供達が凍りついた。

魅音「く・・くくっ・あはははははははは。」

露伴「僕が魅音ちゃんか圭一君のどちらかを当てずっぽうで答えたら、もう一人がジョーカーを見せて不正解。
僕が深読みして沙都子ちゃんか梨花ちゃんを当てたら、そんなズルはしない、とからかう。さっきやってたゲームがババ抜きに近いジジ抜きだし、
圭一君の勝負のときはジョーカーは1枚だった。僕がジョーカーを1枚しかないと思い込むのにはいい条件だ。いい作戦だったと思うよ。」

魅音「ちぇー、やっぱり沙都子と私で一枚づつ持っておくんだったなー。冷酷になれなかったのが私の敗因だね。」

露伴「魅音ちゃんが優しい子でよかったよ。」

魅音「そりゃぁ部活のときは褒め言葉にならないよーだ。」

魅音「それじゃあ、露伴さん。部長、園崎魅音の名において。特別に入部を許可するッ!!なお、学校生徒ではないので、特別部員とし、参加可能な場合のみ、参加するものとするッ!!」

沙都子「露伴さん、流石ですわぁー!やりましたわねっ。」

圭一「この作戦なら、露伴さんを見事だませると思ったんだけどなぁ。」

レナ「レナは露伴さんなら正解できるって信じてたよ☆」

梨花「ぱちぱち。露伴、すごいすごいなのです。」

魅音「露伴さん。私の完全なる負けだよ。私がビリになる約束はしてなかったけど。一騎打ちで負けて罰ゲームしないわけにはいかないからね。私と圭ちゃんに罰ゲームを決めてちょーだい。」

露伴「罰ゲームか、何も考えてなかったな。今日はもう、終わりで解散かい?」

沙都子「私と梨花はそろそろ夕飯の買出しに行かなくてはなりませんわ。」

魅音「そうだねぇ。今日はこのくらいで解散にしようか。」

露伴「それじゃあ決まったよ。魅音ちゃんと圭一君が手を繋いで一緒に帰る。家の方向、逆だったりする?」

魅音「ちょ、ちょちょ、露伴さーん!それのどこが罰ゲームぅッ!?」

圭一「ろ、ろろろ、露伴さん、それは、あの、」

露伴「罰ゲームだと思わないくらいなら、楽でよかったじゃないか。じゃあ、それで決定だな。」

レナ「ふぇ・・・二人だけ仲良しずるいな、ずるいな。」

露伴「おっと、レナちゃんも帰り道一緒かい?レナちゃんは一緒に手を繋いだらだめだぞ。二人だから意味があるんだからなぁ。」

その後も解散になるギリギリまで、圭一と魅音は口を揃えて文句を言っていた。

部屋を片付け、全員で校門の外まで来る。

魅音「それじゃー、ここで解散でっ!」

露伴「ほら、学校から出たんだから手を繋ぎなよ。」

圭一「露伴さん、人に見られたら困りますよぉ。」

露伴「だから罰ゲームになるんじゃないか。いいから繋げって。」

レナ「うふふふ。露伴さんは何でもお見通しなんだね。だね。」

魅音「わーわー、レナが何を言ってるかわからないー。」

沙都子「なんだかさっきから魅音さんの様子が変ですわ。一位になれなかったのが相当悔しいのですわねぇ。」

梨花「沙都子もいつかわかる日が来ますですよ。」

そう言って梨花が沙都子の頭を撫でた。

沙都子「なんだか馬鹿にされている気がしますわ。」

梨花「そんなことないのですよ、沙都子がいい子いい子なだけなのです。」

圭一「じゃあ・・・魅音・・・。」

そう言って圭一が魅音のほうに手を差し出す。

魅音「う・・・うん・・・。」

魅音が申し訳なさそうに圭一の指を握った。

 

顔を赤くして手を繋ぐ二人に露伴が割り込んできた。

露伴「だめだめ、そんなんじゃあ手を繋いだうちに入らないぜ。ほらっ、こうだよ、こう。」

そう言って露伴は二人の手をとり、貝殻にぎりにさせた。

魅音「はわわわわ、あぅ・・あぅ。」

圭一「ちょ、露伴さん、勘弁してくださぃよぉぉぉおお。」

露伴「魅音ちゃんの家に着くまで、このまま帰らないとだめだからな。なんたって、罰ゲームなんだからね。レナちゃん、ちゃんと見張っといてくれよ。」

レナ「はーい、了解ですっ。レナもこんな罰ゲームがしたいな。したいな。」

露伴「それは、僕が一位のときにはないな。レナちゃんじゃあ圭一君が恥ずかしがらないからね。」

レナ「うーん、じゃあレナが頑張って一位狙っちゃおうかなっ☆」

露伴「本気のレナちゃんと勝負できるのを楽しみにしてるよ。」

圭一「レ、レナァー、置いてくぞーっ!恥ずかしいんだからさっさと帰るぞっ!」

魅音「はぅぁ・・・あぅ・・・。」

レナ「ふふふ。じゃあ帰るね。露伴さん、魅ぃちゃんに気を使ってくれてありがとう。」

露伴「あれ?罰ゲームのつもりだったんだが、もしかして・・・そういうことかい?」

レナ「はぅ・・・。レナは知らないよ☆知らないよ☆それじゃあ、沙都子ちゃん、梨花ちゃん、露伴さん、さようなら。」

沙都子「また明日ですわーっ!」

梨花「また明日なのです。」

こうして年長組3人は帰って行った。

沙都子「さーて、私達は買い物に行きますわ。露伴さんはどうなさいますの?」

露伴「よく考えたら、まだ宿を見つけれてないんだよな。これから探そうかと思うんだが・・・。」

沙都子「それなら、うちに今晩も泊まっていくといいですわ。ねぇ、梨花ぁ?」

梨花「露伴ももう部活の仲間なのです。好きなだけ泊まっていくといいのですよ。にぱー☆」

露伴「そうかい?それじゃあもう一晩お願いしようかな。(沙都子ちゃんがいるときに聞けば、大体オーケーが出そうだな)」

沙都子「じゃあ、露伴さん、お買い物に行きますわよ。また村をご案内しますわぁー。」

露伴「あぁ、買い物ついでにさ、自転車か何かが欲しいんだけど、売ってる店あるかい?誰か借りれる人がいればそれが一番なんだが・・・。」

沙都子「自転車屋さんは興宮に行かないとありませんわね。うーん、ダム工事現場のゴミ山に行けば捨ててあると思いますけど・・・」

露伴「そりゃあ丁度いい。こっちにいる間だけ使えればいいからさ。じゃあそこに拾いに行くことにするよ。」

沙都子「でも、お店とダム現場は別の方向ですわよ。」

露伴「地図は持ってるって言っただろう?一人で行ってくるよ。」

沙都子「うーん。迷子になったら、どこかのおうちに道を聞きなさいませ。梨花の友達だと言えばみんな案内してくれるはずですわ。」

梨花「みぃー。村の人はみんな親切なのですよ。それより沙都子、そろそろタイムサービスに間に合わなくなるのです。」

沙都子「それはいけませんわッ!それじゃあ露伴さん、私達よりお先にお帰りになったら待っていてくださいましー。」

年下2人は本当に時間がないようで、自転車を取りに走って家に帰っていった。
露伴は一人、ダム工事現場を目指して歩き出すのだった。

羽入の報告—-

羽入「ロハーン、待ってくださいなのですよー。」

露伴がダム現場を目指し、歩いていると羽入が走ってきた。

露伴「丁度いいところに来た。いまダム工事現場に行くところだったんだ。案内してくれ。」

羽入「ダム工事現場というと、あのゴミ山のことですか?」

露伴「多分そうだ。自転車を調達したくてね。」

羽入「わかりましたです。案内しますです。」

露伴「ところで、今日はどこに行ってたんだ?朝起きて服を受け取って以来見かけなかったが。」

羽入「今日はお休みしてたのですよ。昨日の夜にロハンの服を取りに行って力を使いすぎたのです。僕だって疲れたり眠くなったりするのですよ。」

露伴「ふーん。幽霊のわりにめんどくさいんだな。」

羽入「あぅあぅ。ロハンの為に服を取ってきたのにひどいのです。」

露伴「服を持ってこれるくらいなら、車も持ってきて欲しいもんだな。」

羽入「大きいものは無理なのです・・・。あ・・・。」

露伴「ん?なんだよ?」

羽入「そういえば、ロハンの車壊されちゃったのです。」

露伴「・・・なんだと・・?どういうことだ。ちゃんと説明しろ。」

羽入「僕がロハンの服を取りに行ったらですね、神社に人がいたのです。その人たちは僕が見えるのか、僕を追い掛け回したのです。
それで、急いで車から服を取り出そうとしてたら、石を投げつけてきて・・・。」

露伴「羽入が見えるということはスタンド使い・・・、そいつの特徴は?」

 

羽入「1人じゃないのです。4人いましたです。一人は僕くらい小さい背の男。一人は真っ白なコートの男。一人はハンバーグみたいなのを頭にのっけた男。
もう一人は、よく覚えてないのですが、気持ち悪かった気がしますです。」

露伴「康一君に承太郎と仗助か。最後の一人はわからないが・・・、最初の3人は僕の仲間だ。」

羽入「仲間・・・ですか?」

露伴「あぁ、ハンバーグのやつは気に入らないが、みんな僕の町に住んでるスタンド使いだ。多分、僕が行方不明になったんで調べに来たんだろう。
君は敵のスタンドか何かかと思われたに違いない。」

 

羽入「あぅあぅ。実体のない世界でよかったのです。みんな容赦なく殴ったりしてきたのです。」

露伴「あいつらは僕と違って物騒な能力ばかりだからな。承太郎の時を止めるのはすごいが・・・。」

羽入「そういえば、こっちの世界に戻ってくる前に時間が止まってた気がしますですよ。」

露伴「まぁいい。今度あっちの世界に行ってあいつらに会ったら、伝えてくれないか?僕は無事でそのうち帰るから気にするなって。」

羽入「あぅあぅ・・・。それが・・・だめなのです。彼らがロハンの世界で能力を使ったせいで、ロハンの能力の余波をたどることができなくなったのです。
もうロハンの世界には僕は行けないのです。」

露伴「ちッ・・・余計なことをしてくれる連中だ。康一君は別にいいけどな・・・。それじゃあ、僕はもう元の世界に戻るまでは彼らに連絡できないし、
物を持ってくることもできないんだな?」

羽入「はい。そういうことになりますです。」

露伴「まぁ、いいか・・・。だいぶ真相がわかってきたしな。」

羽入「本当なのですか?今日何かあったのですか?」

露伴「いや、今日は遊んだだけだが、その間に大分考える暇があった。少し聞きたいことはあるが、それを聞き終えれば、真相がわかるかもしれない。」

羽入「聞きたい事というのは僕にですか?」

露伴「あぁ、昨日は祟りの話は聞いたが、学校篭城事件の話を聞いてなくてね。それ以外は僕なりに考えがまとまったところさ。」

羽入「すごいのです。教えてくださいなのです。」

露伴「学校篭城事件の話のほうが先だ。ゴミ山に着くまで話を聞かせろよ。」

羽入「わかったのです。やっぱりロハンはすごいのです。」

2人はダム工事現場跡へと向かうのだった。

羽入と共にダム建設現場跡に着いた露伴は見覚えのある人影を見つけた。
露伴はその人影が自分の知る少年だと確認すると、ちょいと脅かしてやろうと考える。

露伴が足音を忍ばせて近寄ると、少年は突然振り向いた。

露伴「ぉっと、気づかれちまったか。」

圭一「露伴さん!何しに来たんすか?罰ゲームはちゃんと終わりましたよ。」

露伴「偶然だよ。君がいるとは思ってなかったさ。それに、いい思いができたんだから、あんまり怒るなよな。」

圭一「いい思いって・・・、からかわないでくださいよ。別に魅音と手を繋いだって・・・」

露伴「あんな男みたいなやつじゃあ、いい思いでもなんでもない。ってかい?その割には恥ずかしがってたじゃないか。」

圭一「あ、あれは、村の人に見られたら勘違いされると思ったんですよ。」

露伴「ふぅーん。まぁ、そういうことにしといてあげよう。でも、女の子と手を繋いで帰れるなんてうらやましいぞ、圭一君。ちょっとは感謝してくれよ。」

圭一「ま、まぁ、そりゃ・・・ちょっとは魅音も女の子なのかなって思いましたけど・・・。って、いやいや、な、何言ってんだ俺。取り消し、今の取り消しですよ。」

露伴「聞かなかったことにしといてやるよ。ふふふ。」

圭一「露伴さん、絶対ばらしてやるぞって顔してますよ・・・。」

レナ「圭一くーん!しゃべり声が聞こえるけど、誰かいるのーッ?」

ゴミ山の奥からレナの声が聞こえてくる。

圭一「あぁーっ!露伴さんが偶然通りかかったんだってさーッ!」

レナ「そっかー!待たせちゃってごめんねー!もうちょっとだからッ!」

露伴「なんだ、レナちゃんも一緒だったのかい?こんなゴミ山で何やってんだ、彼女は。」

圭一「さぁねぇ。昔、殺して埋めたバラバラ死体でも確認してるんじゃないすか?」

露伴「レナちゃんが犯人だって言うのかい?圭一君はおもしろいことを言うなぁ。残った右腕を確認してるってわけか。ふふふ。」

圭一「・・・え?」

パシャッ
突如シャッターを切る音がした。

圭一「おわっ!」

露伴「おいおい、いきなり許可もなく写真を撮るなんて、こういうのを盗撮って言うんじゃあないか?」

富竹「あはは。すみません。いつも野鳥の撮影をしてるもんで、断った試しがないんですよ。
いやぁ、夕闇に黄昏ながら何かを語り合う少年と青年。いい絵になってたんでね・・・。」

露伴「フンッ、お世辞はいいよ。次は撮影料を請求するからな、富竹さん。」

圭一「富竹・・・さん?」

富竹「いやいや、手厳しいなぁ。えっと、そっちの子は初めて会うかな。君は雛見沢の人かい?僕は富竹。フリーのカメラマンさ。雛見沢にはたまに来るんだ。」

レナ「圭一くーん!露伴さーん!お待たせー。待ったかな?・・・かな?」

レナがそう言いながらゴミ山から戻ってきた。

富竹「おっと、もう一人いたのかい。こんにちわ、レナちゃん。」

レナ「あ、富竹さん。もう、こんばんわ、だよ。だよ。」

確かにレナが言うとおり、すでに夕日も沈みかけ、夜と言っても差し支えない時間となっていた。

露伴「おっと、もう日が沈んじまうな。さっさと用事を済ませないと。」

レナ「そういえば、露伴さんは何をしに来たのかな?かな?」

露伴「自転車が欲しくてね、雛見沢にいる間だけ使えればいいから、ゴミ山に捨ててないか探しに来たわけさ。レナちゃん、使えそうな自転車見かけなかったかい?」

レナ「それなら、レナが見つけたやつをあげるね。もし私のが壊れたら使おうかと思ってたやつがあるの。」

露伴「そりゃちょうどいい。そいつをくれよ。どこにあるんだい?」

富竹「それじゃあ、もう暗くなってきましたので、僕はこのへんで。またお会いしましょう、露伴さん。レナちゃんも、「圭一くん」も、またね。」

露伴「あぁ、”また”な。」

レナ「またねー☆ほら、露伴さん早くしないと暗くなっちゃうよ。こっちこっち。」

富竹が別れを告げ立ち去ると、レナと露伴は圭一を残してゴミ山に消えていった。

無事に自転車を手に入れた露伴は、レナと圭一と途中まで一緒に帰ることにした。

露伴「そういえばレナちゃんは何をしてたんだい?あんなゴミ山で。」

レナ「レナはね、宝探しだよ。かぁーいいものを探すのっ。」

露伴「あのゴミ山でかい?よくわからないな・・・。」

レナ「あのね。あのね。今日はすっごいの見つけたんだよ!なんと、ケンタくん人形が捨てたあったのッ♪」

露伴「ケンタくん人形・・・あのケンタくんフライドチキンの前に置いてある、等身大の人形かい?」

レナ「・・・そう。ケンタくん☆・・・はぅ・・・かぁいいよぅ・・・お持ち帰りしたぃ・・・。」

露伴「あれのどこがかわいいんだ・・・。」

圭一「俺もよくわかんないすけど・・・、でもあれはゴミ山だろ?お持ち帰りしたきゃしてもいいんじゃないか?」

レナ「他の山の下敷きになってるの。・・・簡単には掘り出せないし・・・。あそこ、灯りがないからすぐ暗くなっちゃうし・・・。」

圭一「俺も手伝ってやるよ。今日のうまかった弁当の恩返しってことでさ。」

レナ「・・・はぅ・・・あ、・・・ありがとう・・・。」

露伴「僕も弁当と自転車の恩があるけど、二人のお邪魔はしないことにするよ。」

レナ「はぅ・・・圭一くんと二人っきり・・・はぅ・・・。」

圭一「ろ、露伴さん、もう、すぐからかうのやめてくださいよー。」

露伴「ははは。おっと、僕はこっちだけど、多分この辺でお別れじゃないか?」

気がつくと、ダム建設現場からの細い道を抜け、村の通りまでついていた。

圭一「あぁ、俺らはこっちなんで、それじゃあ、露伴さん。また遊びましょう。」

レナ「また、部活しようね☆」

露伴「あぁ、またね。」

圭一「あ、露伴さん。聞きたいことがあるんですけど・・・今度教えてもらえますか?」

露伴「あぁ、さっきのことかい?別にいいけど。」

レナ「何のことかな?かな?」

露伴「ふふ。女の子には聞かせられない話なんだよ。圭一君と僕の秘密さ。」

レナ「はぅ・・・二人だけの秘密・・・はぅ・・・。」

圭一「露伴さんッ!誤解される言い方しないでくださいよ。ほら、レナ、置いてくぞーっ!!」

そう言ってレナと圭一は自分たちの帰路へと帰っていった。

羽入「ちゃんと圭一やレナとも仲良くなれましたですね。」

露伴「レナちゃんは、マークしておく必要があるしね。圭一君は、大石さんの話だと漫画の主人公にぴったりだと思ってさ。
取材したかったんだが、まぁ、予想通りにからかい甲斐のある子だったよ。」

羽入「レナも圭一もとってもいい子なのです。あんまりからかっちゃだめなのですよ。」

露伴「うーん、やっぱり、やめられないね。ガキをからかうのはさ、カッハッハッハッハーッ!」

羽入「むぅー、露伴はもっと素直になったほうがいいのです。」

羽入と露伴は、古手神社へと向かう。

今日の晩御飯はどっちが作るんだろうな。
帰ったら沙都子ちゃんに何か絵を描いてやろうかな。
露伴は家に着いてからのことに思慮を巡らせた。

雛見沢の子供たちのおかげで、露伴は少し大人になってきたようである。

 

■TIPS
露伴のメモ—-
羽入からダム現場に行くまでの間に聞いたことをメモしておく

学校篭城事件について

学校篭城事件自体は、僕の知る通り竜宮礼奈が起こした立てこもり事件であり、
オヤシロ様の祟り等とはあまり関係がない

竜宮礼奈が34号文書を手にした
その結果、雛見沢症候群の研究をしている自衛隊を、
なんらかのバイオテロを計画する組織と誤認し、事件を起こしたもののようだ
34号文書を竜宮礼奈に託したとされる、鷹野三四が死亡したのも、彼女が犯行を決意した背景にはあるようだ

だが、この事件は羽入たちにとっては別の事件として捉えることができるらしい

まず、羽入達にとって、この”竜宮礼奈により立てこもり事件”は常に起きる出来事ではないらしい
彼女達の転生?の経験上、比較的低い確率で起こる事件なのだそうだ
しかし、視点をもうひとつマクロな視点に移すと、かなりの高い確率で起きる事件になる
それは、”雛見沢の少年少女のいづれか、または複数が雛見沢症候群の発症を起こす”というものらしい
学校篭城事件の際に、竜宮礼奈には雛見沢症候群の発症を示す症状が出ていたらしい
また、彼女らの転生の中では、他にも圭一、魅音、詩音が症候群を発症するケースがあるそうだ

ちなみに、詩音というのは魅音の双子の妹らしく、僕は面識がない
彼女らは一卵性双生児のため、羽入達にはどちらが発症して何らかの凶行を行っているのか判断できないそうだ

なぜ彼らが発症することが高確率で起こるのかはわからない
何か他の要因があるのだろうか?
思春期の彼らがもっとも精神的に不安定だということが発症に関与しているのだろうか
または梨花の近くにいるために、何か影響があるのか?
とりあえず、これに関しては僕には考えられないな

 

結論を端的に書こう
僕は、昭和58年の雛見沢では、
富竹・鷹野・梨花の殺害、竜宮礼奈の学校篭城事件、入江京介の自殺、が起きると思っていた

しかし、実際には、富竹・鷹野・梨花の殺害は起こるが、その他に関しては必ず起こるものではないらしい
入江京介の自殺は、梨花達が知らない出来事らしいので、常に起こるかまったくわからない
そして、篭城事件の代わりに、誰かの雛見沢症候群の発症が起こる
ちなみに症候群の発症は高確率だが、起こらない場合、または梨花たちが気づかない場合もあるそうだ

さて、これらの話を聞いてある意味安心した
篭城事件がただの個別の事件であることが確認できたからだ
これで僕の推理が正しければ、”常に”梨花を殺害する人間が誰なのかはほぼ推測できた
しかし、別の問題も出てきたことになる
羽入の話では、雛見沢症候群を発症した人間に梨花が殺されることもあるらしい
記憶のノイズとやらで推測でしかないらしいが、多分そうなのだろう

僕のしばらくの行動目標が決まった
まずは、梨花を殺害する人間の動機を探ること
殺害する人間の推測はできるが、動機はまったく思い当たらないからな

そして、梨花を生き延びさせること
梨花が発症した人間に殺される等のケースは避けなければならない
逆に言えば、それらのケースを避けていれば梨花を殺す人間は必ず行動に移る
そうすれば、僕の推理が正しいのか確かめることができる

惨劇の足音?—-

レナ「はぅ・・・圭一くんと露伴さんの秘密・・・はぅ・・・」

圭一「あーもう、変なこと想像すんなよなー。別にそんなことじゃないんだって。」

そう言いながら、圭一はレナの頭を乱暴に撫でた。

レナ「はぅ・・・。でも、女の子には言えない秘密なんだよね。魅ぃちゃんに教えてあげよーっと。」

圭一「おいおい、やめてくれよ、魅音にバレたら絶対言うまで聞いてくるもんなー。
まぁ、別に言ったっていいんだけどさ、露伴さんが言うとおり、女の子が好きそうな話じゃないんだよ。」

レナ「ふーん。でも、圭一くんが本当に悩んでるなら、レナに聞いてくれても大丈夫だからね。」

圭一「そんな、悩み事なんかじゃないって。ちょっと気になることがあっただけだよ。」

レナ「気になること?レナが知ってたら教えてあげるよ?」

圭一「うーん。あそこさ・・・、さっきのダムの工事現場。あそこで昔、なんかあったのか?」

レナ「ダム工事をやってたんだってね。詳しくは知らないけど・・・はぅ・・・。」

圭一「たとえばさ、工事中になんかあったとか。事故とか。」

レナ「知らない。」

レナ「実はね、去年までよそに住んでたの。」

圭一「え?レナも転校生だったのかい?俺はてっきり・・・」

レナ「だからね、それ以前のことはよく知らないの・・・ごめんね☆」

圭一「あぁ、そうなんだ、じゃあやっぱり露伴さんに聞いてみるよ。露伴さん物知りだからなー。」

レナ「そうだね、露伴さんすごいよね。魅ぃちゃんが完璧に負けるところなんて久しぶりに見たな。」

圭一「だよなぁー。あの魅音が完璧に負けてたもんなー。それに絵を描いてくれたり、ちょっとからかうのが困るけど、また露伴さんと遊びたいぜ。」

レナ「そうだね。レナももっとかぁいいもの描いてもらおーっと。」

圭一「お、レナ、バイクだ、危ないぞ。」

圭一「痛ぇッ!くっそー、こんな砂利道で飛ばすなよなー。」

レナ「圭一くん、大丈夫?」

圭一「あぁ、石が飛んだだけだからよ。全然どーってことないよ。さて、もう家だ。レナ、気をつけて帰れよ。」

レナ「うん、じゃあ、また明日。待ち合わせに来なかったら迎えに来るからね。」

圭一「わーったよ。ちゃんと起きるって。じゃ、またな。」

 

羽入「ロハン、ロハンの推理を聞かせてほしいのです。」

露伴「だめだ。まだ確信があるわけじゃあない。僕が考える犯人の動機が見つからないからな。」

羽入「ずるいのです。ちょっとくらい教えてくれてもいいのです。」

露伴「しかたないな・・・。じゃあ軽く教えてやるよ。それじゃあ、梨花を”常に”殺す犯人を真犯人と呼ぶことにしよう。
ここでは、症候群を発症して梨花を殺す人間や、その他なんらかの低い確率で梨花を殺す人間のことは考えない。」

露伴「真犯人が誰かを考える前に、まず、梨花の置かれている状況を考える。彼女は女王感染者とされている。彼女が死ねば村人は発症し大惨事を巻き起こす。
そのため、彼女は自衛隊の特殊部隊「山狗」に護衛されている。ここまでは、間違いないな?」

羽入「はい、間違いないのです。」

露伴「そして、梨花の周りの状況は、綿流しの日に変化する。監査役の富竹ジロウ、診療所所属の鷹野三四が死亡するわけだ。事件当初、これらの殺人は、例年のオヤシロ様の祟りだと
周りに受け取られるだろう。例年通り、雛見沢で殺人事件がおきた。すると、山狗はどうする?」

羽入「山狗がですか・・?」

露伴「例年通り、殺人事件が起きた。犯人は捕まっていない。過去の例から考えると、犯人は雛見沢症候群の発症者の可能性もある。
また、仮に雛見沢症候群の発症者ではなかったとしても、ただのカメラマンを装っていた富竹が襲われている。梨花が突発的に襲われる可能性は十分あるわけだ。
監査役が村内で死亡するという失態を犯している山狗は梨花の警備を厳重にする。違うかい?」

羽入「富竹は雛見沢症候群が発症したような形跡もあるのです。」

露伴「あぁ、大石さんから変死体ということは聞いている。だが、数人に暴行を受けた形跡もあったそうだ。数人に暴行を受け、精神的ストレスで発症。
直接的な死因がなんだったにしろ、富竹が襲われた事実は変わりない。また、鷹野三四も自殺の可能性もあるかもしれないが、他殺の可能性もかなり高かった。
梨花の安全を考え、山狗が警備を強化するには十分な理由だと思うが。」

羽入「確かに、その通りなのです。梨花が死ぬ前には山狗があわただしくしていたのです。」

露伴「さて、ここでやっと真犯人が誰か考えることができるんだが・・・。誰が山狗の警備をかいくぐって梨花を殺せる?」

羽入「そ、それは・・・。あぅあぅ。わからないのです。」

露伴「ふんッ。ここまで言ってもわからないのか。君らは、何度も転生しているが、いままで梨花が真犯人から生き残ったことはない。
つまり、山狗が警備を厳重にしたにもかかわらず、真犯人は100%梨花を殺せる。すると、真犯人は、山狗を圧倒的に越える能力を持った組織か、山狗自身か、どちらかだ。」

羽入「山狗が・・・犯人かもしれないのですか・・・?」

露伴「僕の推理だとそれ以外に犯行を行えるやつらがいないってだけだ。もしかしたら、他にも犯行が可能なやつらを見つけることができるかもしれないが・・・。
現時点ではそれ以上はなんとも言えない。前に言ったように動機もわからないしな。」

羽入「あぅあぅ・・・。でも、山狗は味方のはずなのです・・・。」

露伴「だから、山狗以上の組織かもしれないって言ってるだろ。あとは、正確には山狗ではなく自衛隊の部隊で山狗が味方だと思ってるという可能性もなくはないが・・・。
これ以上はまだ調べてみないとわからない。もうこの話は終わりだ。。」

この露伴は嘘をついている「味」だぜッ!!

そう、露伴は羽入に全てを教えなかった。
彼の中ではもうひとつの点が繋がっていることを。
羽入達が知らない、露伴だけが知る事実。

鷹野三四の死亡時刻のズレから露伴がもうひとつの推理をしていることを。

鷹野三四の死亡時刻のズレは大石からの情報だ。
鷹野三四は綿流しの祭りの会場に現れ、それを大石自身も確認している。
そしてその夜に岐阜県山中で焼死体で発見された。
死亡推定時刻は死後24時間以上経過というものであり、
死亡からの時間経過が少なく、当時の検死でも精度の高い内容だった。

夕刻~夜に祭りに訪れた。
だが、死んだのはその日の朝以前。

露伴はこの事実を以下のように推理した。

この死体は鷹野三四の死体ではない。
大石が言うには、鷹野三四の身元確認は医療機関に残った歯型の確認によるものであり、精度は高い。

だが、自衛隊の特殊部隊、またはそれに匹敵する組織なら。
この”鷹野三四の死亡”が事前から緻密に計画されたものだったとしたら。
歯型を偽装している可能性がある。歯型にあった偽装死体を用意できる可能性がある。

露伴は考える。
鷹野三四は死亡していない。もし、それが事実なら。
それが、山狗の協力なのか、山狗を越える組織の協力なのか、どちらなのかはわからない。
だが、鷹野三四が実行犯である可能性は高いし、少なくとも、真相を少なからず知っている。
鷹野三四に接触する必要がある。

露伴の推理を聞いてから羽入は無言だった。
二人は黙ったまま神社の階段まで辿り着いた。

羽入「おかしいのです・・・。」

露伴「何だ?僕の推理に文句があるってのかよ。」

羽入「ちがうのです。沙都子の・・・沙都子自転車だけないのです。梨花の自転車はあるのに・・・。」

露伴「先に帰ってきただけじゃあないのか?とりあえず、家に行けばわかるだろ。さっさと行くぞ。」

羽入「あぅあぅ・・・。」

鍵は開いていた。
2階からは明かりも見える。
露伴は何も考えずに2階へと上がった。

露伴「今戻った。沙都子ちゃんはまだなのかい?」

梨花「沙都子は帰ったわ。」

露伴「帰ったって、いないじゃあないか、この家に。」

梨花「家に帰ったわ。北条の家に。」

露伴「ふーん。北条の家ね。じゃあ今日はこの家は僕と君だけってことか。」

梨花「今日だけじゃないわ。もうずっと沙都子は帰ってこないわよ。」

露伴「どういう意味だよ。ケンカでもしたのか?」

梨花「違うわ・・・。」

羽入「あぅあぅ。沙都子が北条の家に帰ったということh・・・」

梨花「羽入ッ!・・・黙りなさい。」

露伴「おいおい、教えろよ。気になるだろ?」

羽入「さ、沙都子の叔父g・・・」

梨花「あーもう、うるさい!うるさい!どうせアンタ達が何をやっても無駄なんだから、ここでやらないで頂戴!その話をするなら出てって!!」

梨花は今まで見たこともない表情で羽入と露伴を睨み付ける。
これには流石の露伴もたじろいだ。
梨花を刺激しないようにスタンドで羽入と会話をする。

露伴「外に出ろよ。話を聞きたい。」

羽入「・・・わかったのです。」

羽入と露伴は神社の社まで行き、賽銭箱の前に腰掛けた。

露伴「ッたく、何なんだよ、あいつは。」

羽入「梨花を怒らないであげてほしいのです。」

露伴「それは話を聞いてからだ。なんで沙都子ちゃんが家に帰るとあいつが怒るんだ?」

羽入「沙都子が北条の家に帰ったということは、沙都子の叔父が戻ってきたということなのです。」

露伴「叔父ねぇ・・・。撲殺された叔母の夫ってことか?」

羽入「そうなのです。北条鉄平と言うのです。」

露伴「ふーん、それで?なんであいつは怒ってるんだよ。」

羽入「怒っている理由になるのかはわからないのですが、鉄平はどの世界でも沙都子を虐待するのです。」

虐待。その言葉を聞いた瞬間、露伴の心に何かが突き刺さった。
しかし、それが何なのかわからず、冷静を保って羽入に答える。

露伴「・・・。警察に通報すればいいじゃないか。」

羽入「過去に何度かそれも試しているのです。ですが、沙都子の過去の経歴などから、警察はあまり動いてくれないのです。」

露伴「近所の連中とかが虐待を見つけたりしないのかよ?」

羽入「前も言ったように、村の大人たちは北条家には関わらないようにしているのです。だから、沙都子を助けてくれる人はいないのです・・・。」

露伴「つまり、鉄平が戻ってきたら沙都子ちゃんはお終いってことか。」

羽入「・・・はい。虐待が始まれば、沙都子は廃人になるか、雛見沢症候群を発症するか。そのどちらかしかないのです。」

露伴「それで僕と羽入が何をやっても無駄だと言ってたわけか。・・・気に入らないな。」

羽入「あぅあぅ。」

露伴「羽入。僕を北条家へ連れて行け。話をつける。」

羽入「ロハン・・・。でも、鉄平が話を聞くとは・・・。」

露伴「いいから連れて行けよ。お前が教えないなら村人に聞いて行くだけだぜ。さっさと案内しろ。」

羽入「・・・わかったのです。」

露伴の頭は自分がなぜ沙都子を助けようと思ったのかわからず、混乱していた。
露伴は自分の心に、梨花が気に入らないから沙都子を助けるのだと言い聞かせ、羽入と北条家へと急いだ。

羽入と露伴が北条家に着くと、北条家からは男たちが騒ぐ声が聞こえていた。
酒でも入っているのだろうか?数人の男の騒ぎ声と麻雀の牌を混ぜる音が聞こえてくる。
しかし、沙都子の自転車は間違いなく、その家の前に泊まっていた。

露伴「ここか・・・。」

羽入「あぅあぅ・・・ロハン・・・本当に行くのですか?」

露伴「ここまで来て引き返すわけないだろう。」

露伴はそう言うと、玄関の扉を叩いた。
ドンッドンッ!ドンドンドンッ!

男たちの声は一瞬止まった。しかし、再び騒ぎ声と麻雀牌の音が聞こえてきた。
人が出てくる気配はない。

露伴はイラッっとしながらもう一度玄関を叩く。
ドンドンッ!!ドンドンドンドンッ!!!!

もう一度男たちの声が止まった。そして男の叫ぶ声が聞こえた。

??「沙都子ぉ!!お客さんや、もう遅い言うて帰ってもらぃー、沙都子ぉーっ!!」

露伴が少し待つと沙都子が玄関を開けた。

沙都子「ッ、露伴さん・・・どうしたんですの?こんな夜遅くに女性の家を訪ねるだなんて、失礼ですわよ。」

露伴「沙都子ちゃん・・・、迎えに来たんだ。」

沙都子「梨花から何も聞いていませんの?私の叔父様が帰ってきたんですわ。私は今日からこの家で生活しますのよ。」

露伴「僕が話をつけるよ。」

沙都子「露伴さん、やめてくださいまし。叔父様は、乱暴な方ですわ・・・。露伴さんが何を言っても聞きませんわよ。それに私平気ですから。今日は帰ってくださいまし。」

沙都子に拒絶の言葉を投げつけられ、露伴はすぐに言葉を発することができなかった。
すると、また先ほどの男の声が聞こえる。

??「沙都子ぉ!!お客さん帰したかぁ!?すったらん乾きモンもってこんかい!!もう全部のうなってもーた。さっさとしぃ!!」

沙都子「それでは、露伴さん、私することがありますわ。もうお帰りになってくださいまし。」

露伴「・・・沙都子ちゃん。僕の言うことをひとつだけ聞いてくれないか。」

沙都子「なんでございますか?すぐ済むことでしたらいいですわよ。」

沙都子がそう答えると、露伴はそっと沙都子を両肩を握り、沙都子を見つめながら言った。

露伴「僕が話をつけてくるまで、下で待ってるんだ。いいね?」

露伴のあまりの気迫におされ、沙都子は軽く頷いた。
沙都子が頷いたのを確認した露伴は優しく沙都子の頭を撫でる。
すると沙都子の目から涙がこぼれ落ちた。露伴は彼女をそっと抱きしめてやった。

露伴は彼女が泣き止むまで抱きしめてやるつもりだった。
しかし、男の声がそれを拒む。

??「沙都子ぉ!!まーだ終わらんかいな。ビールもヌルぅなっとるんね。すんぐ持ってこんかい!!ホンマすっとろいんね、こんダラズは・・・。」

露伴は沙都子を離し、家へと上がった。
階段を登り、先ほどから汚らしい言葉を発する男のいる部屋へと乗り込む。
部屋には4人の男がいた。いかにもゴロツキといった感じの品のない連中だった。

??「な、なんね?アンタ人の家に勝手にあがりよって。」

男たちは予期せぬ露伴の侵入にまぬけな顔をしてみせた。

露伴「おまえが・・・北条鉄平だな。」
鉄平「な、なんね。オレァあんたなんぞ知らんね。人様の家に勝手に入ってきよってからに・・・。ただで帰れると思わんほうがえぇぞ、ワレ。」

鉄平がそう言い、凄む。
他の三人の男も立ち上がり、今にも露伴に飛び掛ってきそうだ。
男の一人が露伴の背後を取り、逃げ道を塞ぐ。

露伴「僕は岸辺露伴だ。逃げないから安心しろよ。」

鉄平「えぇ度胸やの。それで、何の用なんね?」

露伴「沙都子ちゃんを返してもらう。彼女はこの家に住むべきじゃあない。」

鉄平「しゃあらしいわっ!!沙都子はうちん娘なんね。おどれに何の権利がおうて言っとるんじゃ!!」

露伴「僕は・・・、沙都子ちゃんの友達だ。」

鉄平「だっはっはっはっは。あんのダラズの友達言いよるんか。こらおもろいわぁ。だーっはっはっはっはっ。」

鉄平が笑い出すと他の三人も合わせて大笑いしてみせる。

露伴「まぁ、聞けよ。力ずくで思い知らせてやってもいいんだが、おまえらの好きなやり方でケリをつけてやる。麻雀・・・好きなんだろ?」

男1「力づくで思い知らしたるのはこっちじゃボケがァァァァアアア!!」

男2「俺らを舐めとんのかァァァアアア!!こっちは三人なんぞッ!わかっとんかぁッ!」

鉄平「椿ぃ、龍二ぃ、待つんね。露伴さん言うたか?麻雀でケリつける言うのもな、えぇで?ワシは。だが沙都子は人間じゃぁ。
せやっったら、アンタが負けたらデカピンどころじゃ済まん言うんはわかっとるんね?」

露伴「・・・。」

露伴は無言で腕時計を外して麻雀卓にの上に置いた。
ブレスレット、イヤリング、ネックレスも同様に麻雀卓に置く。

露伴「ロレックスの時計、ビルウォールレザーのブレスレット、特注のGペンイヤリング、セルジュトラバルのネックレス僕が今持ってるものの中で価値があるのはこれくらいか。
あんたらに価値がわかるとは思えないが、全部本物のシルバーやゴールドだ。時計とブレスレットだけで150万はいくと思うよ。これで満足かい?」

ゴロツキたちは珍しいものでも見るかのようにそれらを眺めた。

椿「鉄っちゃん、こいつぁあ本物だ。メーカーとかはよぉ知らんが、ほんに銀や金でできとる。」

龍二「時計もホンマもんやなぁ。園崎の若頭に見してもろたんとおんなじメーカーや。」

てっぺい「露伴さん、この勝負のらしてもらうんね。負けてからワビぃ入れても許さんから、覚悟しとくん。」

露伴「麻雀のルールはあんたらに任せるよ。。僕とアンタでサシウマだ。僕が勝ったら、沙都子ちゃんを開放してどこかへ消えろ。アンタが勝ったらそれを全部やる。それでいいな?」

鉄平「すったら、半荘勝負じゃ。ピンのワンツー、アリアリでえぇやろ。」

露伴「なんだ、金も賭けるのかよ。」

鉄平「しゃもないやん。わしら以外の二人に悪いんね。」

露伴「いいだろう。その条件でいい。席を決めようか・・・。」

麻雀勝負となると、男たちは急に静かになった。本気でやるということだろうか。
椿、龍二と呼ばれた男が参加することになり、もう一人の男は部屋の入り口を陣取る。
席決めはスムーズに決まった。起家は龍二。親は龍二から順に露伴、椿、鉄平の順となった。

龍二「俺ぁ、起家やと調子わるいんね。大勝負や言うんに・・・。」

椿「露伴さん言うたか?わしらは普通に勝ちにいくけん、振り込んでも堪忍してぇな。」

露伴「・・・。好きにしてくれ。鉄平の味方でもなんでもしろよ。」

椿&龍二「そんなことせんわ。心配せんでえぇんよ。がっはっはっはっはー。」

椿と龍二はそう言ったが、実際には完全に鉄平の援護に回っていた。
通し等はないものの、彼らはさっさと鉄平に振り込んで勝負を終わらせようと考えていた。

鉄平「ロンッ!!タンピンドラ2!!7700じゃぁ!!」

椿「鉄っちゃん、いきなりかいな。堪忍してぇな。」

龍二「もう親流れてもうた、わしはやっぱりだめじゃぁ。」

鉄平「がっはっはー。まだまだ始もぅたばっかりじゃきぃ、わからんね。ささ、露伴さんの親やんね。」

椿と龍二が胡散臭い演技をし、鉄平が嫌らしい笑いをしてくる。
露伴は心底イライラしたが、なんとかそれを我慢した。
なぜなら、露伴はこの麻雀勝負に勝つ自信があった。

その理由は仗助である。
彼は露伴からチンチロリン勝負で金を巻き上げた後も、幾度と露伴にギャンブルを仕掛けた。
露伴が勝つこともあったが、策を練ってきた仗助が通算で勝つことが多かった。
そこで、露伴は現代日本で行われるギャンブル、麻雀・花札・チンチロリン等様々なゲームを特訓することにした。
特に麻雀に関しては学生時代にやっていた経験もあり、特訓後はプロと渡り合えるほどの腕前になっていた。

露伴「ロン、純チャン、三色、イーペー、ドラ2、親倍満24000点だ。」

鉄平「ぐ・・・、露伴さん、ヒキが強いんね。」

その後、露伴は高めに振り込むこともなく局が進んでいく。
椿と龍二は鉄平に振込み、鉄平と露伴の点差を減らそうとする。
しかし、親倍満の直撃が大きい。
露伴が高めに振り込むこともなく順調に点を稼いでいくため、露伴と鉄平の差はほとんど縮まらなかった。

南1局
龍二 9500
露伴 51600
椿   9900
鉄平 29000

南場になり、ここで露伴が突っ走ればもう鉄平達に勝ちはない。
いや、すでにこの時点でかなり勝てる見込みは薄くなっていた。

流れは完全に露伴である。
露伴、配牌も良く、清一に向かい突き進む。すでに二鳴きし、メンツもほぼ確定している。
鉄平も無理を承知なのか、際どいところを切ってくる、露伴は直感に任せ鉄平からもう二鳴きした。

すると鉄平は露伴に気づかれないようニヤリと笑い、龍二に目配せをした。
龍二も露伴に見えないように頷く。

鉄平「露伴さん、先に言っておきますんね。わし、これからオープンリーチさせてもわいますわ。オープンリーチに振り込んだら、役満いうルール知ってますんね?」

露伴「あぁ、知ってるよ。手牌が少ない僕なら振り込むかもしれないからね。わかってる。振り込んだらちゃんと払うよ。」

鉄平「すったらん、三六萬の両面でオープンリーチやね。」

露伴は鉄平がヤケになってオープンリーチをしてきたと思っていた。
しかし、自分のツモが来てそれがヤケではないことを思い知らされる。

露伴のツモは三萬。まさに鉄平の当たり牌である。
露伴は龍二のツモの際、違和感を感じた。
そのときは気のせいかと感じたが、それは違っていた。
龍二に握らされたのである。鉄平の当たり牌を。

露伴は聴牌していた手牌を崩し、四索を切った。

椿は無難な牌を切り、鉄平もツモらず。
龍二のツモ順が来た。露伴は気づかれないように龍二のツモを凝視した。

自分の手牌と次に露伴の引く牌を入れ替えているッ!!!!

しかし、すでに時は遅かった。龍二の手は山から離れている。
イカサマを申告するにはもう遅い。露伴は覚悟した。

次の露伴のツモ、見なくてもわかっていることだが、鉄平の当たり牌。六萬だった。
露伴は鉄平をにらみ付け、六萬を切る。

鉄平「がっはっはっはっー。露伴さん、こりゃ申し訳ないんね。でもルールやから、しゃぁないですわ。ロンッ!役満や!32000点やね。」

椿「鉄っちゃん、運がよすぎるでェー。」

龍二「まさかホンマに来るとは思わんかったんねー。」

彼らは笑いながら牌を混ぜ始めた。
露伴は誰にも聞こえないように呟いた。
そっちがそういうつもりなら、こっちもやらせてもらうよ、と。

ジャラジャラと牌をかき混ぜる音がする。
鉄平「露伴さん、そんなに気ぃ落としたらあかんね。まだまだこっからありますんね。へっへっへっへ。」

鉄平が薄気味悪い笑いをする。

露伴「この音・・・」

鉄平「なんですんね?」

露伴「この音、わかるかい?この音」

鉄平「な、何を言い出したんね?この麻雀の牌になんかある言うんかいな?」

椿「イチャもんつけるつもりかぁァァア?コラァァァアアア!!」

露伴「・・・最後まで聞けよ・・・。この音、洗牌するときのこのジャラジャラとした音だよ。」

鉄平「この音が・・・なんですんね?」

露伴「中国だとさ、この音は縁起がいいらしいんだ。このジャラジャラとした音。うるさいくらいにわざと音を立てたほうが縁起がいいらしい。
中国の一部の地方らしいけどね、葬式に麻雀をやるらしいんだよ。縁起のいい音を立てて死者への餞にするらしいんだ。」

鉄平「何がいいたいんね?」

露伴「別に・・・意味はないよ。縁起がいいってだけさ。縁起がいいなら、僕にいいことが起こるってだけだよ。」

牌を積み終わる。露伴がサイを振った。

露伴「8・・・。左8だ・・・。」

龍二が自分の山を別け、皆順に牌を取っていく。
各自が自分の牌を取り終えた。

露伴が自分の牌を起そうとした直前。
羽入にだけ微かに見えたものがあった。

露伴が自らの手に重ねて天国への扉(ヘブンズ・ドアー)を出していた。
その次の瞬間、露伴の手は恐ろしい速さで自分の山へと動いた。

露伴のツバメ返しッ!!

それは天国への扉(ヘブンズ・ドアー)により補助されたスピードと精密性が生み出した幻の技。
スタンド使いでないものには絶対に見ることのできないスピード。
対面の鉄平は露伴の手元を見ていたが、違和感すら感じなかった。

露伴は牌開けるなり呟いた。

露伴「ふふふ・・・、やっぱりさ、縁起がいいよ。」

男たちは露伴が先ほどから頭でもおかしくなったかとわけのわからない顔をしている。
露伴は牌を静かに倒した。

露伴「天和、純正九連宝燈、親のトリプル役満は、144000点。48000オールで、お二人が飛びだね。ふふふ、これで終わりかな。」

鉄平「な、なんじゃと・・・。」

椿「イカサマじゃあ!!こいつイカサマしよるんね!!!」

龍二「だぁほまぁぁぁああああ!!勝てんからって何しとんのじゃぁぁああ!!!」

男たちは精一杯の罵声を浴びせ、露伴へと襲いかかってきた。

露伴「おいおい、別に僕はズルいことはしてないんだがな・・・。」

露伴の言葉など聞かずに男たちは襲い掛かる。
しかし、露伴は紙一重でかわす。背後からの攻撃もなんなくかわした。

それもそのはず、露伴には見えているのである。
天国への扉(ヘブンズ・ドアー)で後方にも視界を確保。
さらには体の動きも天国への扉(ヘブンズ・ドアー)で補正し、スピードを増す。
露伴は連続殺人事件当時より随分と成長していた。近距離パワー型のスタンドにはかなわないが、
ある程度のスタンドには競り勝てるほどの戦闘能力を持つようになっていたのだ。

その露伴の前に、ゴロツキたちは子供のようだった。
あっというまに鉄平以外のゴロツキを地に臥せさせた。

露伴「別にアンタもこうしてやってもいいんだが、どうする?」

鉄平「ひ、ひぃぃぃいいい、出て行きますんね。す、すったらん、乱暴せんといて。」

露伴「わかったよ。もう2度と沙都子ちゃんの前に姿を現すな。」

鉄平「わ、わかってますんね。も、もう雛見沢には来んから、許してぇな・・・。」

鉄平に既に抵抗するつもりはないようだった。
露伴は外していた時計等の麻雀に賭けていたものを身に着けると、思い出したように言った。

露伴「あぁ、ウマも入れて僕は183600点。テンピンだから15860円か。大した金額じゃあないが、ちゃんと払ってもらうよ?」

露伴が二階から降りると、沙都子が不安そうな顔で待っていた。
ゴロツキ達が大騒ぎをした後だったので、当然といえば当然だ。

露伴「終わったよ。」

露伴がそう言うと、沙都子は何も言わずにまた大粒の涙をこぼし始めた。
露伴はもう一度沙都子を抱きしめ、そのまま抱え上げた。

露伴「僕は泣くガキは嫌いなんだがな。今日は特別に許してやるよ。」

沙都子「ぅぅ・・・露伴さん・・・私・・・私・・・ふぇぇ・・」

露伴「ほら、帰るぞ。君の家はここじゃないだろ。」

泣きじゃくる沙都子を抱え、露伴は帰路に着くのだった。

 

1983年(昭和58年)
6月13日(月)

沙都子「露伴さーん、もう朝ですわよー?起きてくださいまし。梨花も、起きるんですわよぉー。」

露伴が目を覚ますと、朝食のいい匂いが部屋いっぱいに広がっていた。
狭い家ならでは雰囲気である。

露伴が鉄平を追い払った翌日。沙都子の日常はしっかりと取り戻されていた。

露伴「んー、流石にまだ眠いぜ・・・、今日は寝かしてくれよ。」

沙都子「だめですわ、露伴さん。しっかり朝から起きないと生活のリズムが狂ってしまいますわ。それに、せっかくご用意した朝食が冷めてしまいますわよ。」

露伴「わかったよ、ッたく・・・ガキのくせに世話好きなんだから・・・」

沙都子「何か言いまして?露伴さん。聞こえませんでしたわ。もう一度言ってくださいますこと?」

露伴「・・・何も言ってないよ。・・・いただきます。」

沙都子「召し上がれでございますわ。」

昨日の疲労がまだとれていない露伴は不機嫌だった。
しかし、沙都子の笑顔を見ると、少し心が安らぐのだった。

沙都子と梨花が戸締りをし、露伴達は家から出た。

沙都子「私たちは学校に行きますけど、露伴さんはどうなさいますの?」

露伴「あぁ、勝手に村を取材するからさ。自転車もあるし気にしないでくれよ。」

沙都子「今日の夜もお泊りになりますわよね?」

露伴「ん、あぁ、沙都子ちゃんたちがいいならお願いしたいんだが・・・。」

沙都子「露伴さんは私の恩人ですもの、お断りするはずがありませんわ。」

露伴「じゃあ、今晩もお願いするよ。おっと、忘れないうちに渡しとこう。これ、少ないけど食費にでもしてくれよ。」

そう言うと、露伴は昨日鉄平から巻き上げた1万円を渡そうとした。

沙都子「あら、露伴さん。恩人からお金を頂くなんてできませんわ。」

露伴「ガキが変な気を使うなよ。ほら、学校に遅刻するぜ。」

露伴はそう言うと、沙都子に1万円札を握らせ、学校へと追い出した。
時間が思ったより過ぎていることを知った沙都子は走りながら露伴に叫ぶ。

沙都子「行ってきますわぁー!夕方には帰ってこないとだめですわよーっ!!」

露伴「・・・いってらっしゃい。」

露伴は沙都子に聞こえないように呟いた。

沙都子と梨花がいなくなり、露伴は一人今日の予定を考える。

現在の露伴が最も接触すべき人物は鷹野三四だ。
しかし、彼女は診療所に勤務している。その診療所は自衛隊管轄の施設だ。
さらに言うなら、彼女が山狗と手を組んで梨花殺害を目論んでいるのだとすれば、
施設はまさに敵の懐の中ということになる。

保険証も身分証明書も持たない露伴が気軽に訪れるには診療所というのは都合が悪い。
軽い仮病で行くなら、保険証くらいはないと不自然だ。
保険証も身分証も持たない人間なら、そうそう気軽に病院に行くものではない。
いや、そもそも保険証も身分証もないならそれだけで十分に不審な人物である。

自衛隊の秘密裏の研究施設。そこに訪れた不審な若者。
その不審な若者である露伴が鷹野三四に探りを入れられる状況がつくれるだろうか?
最悪天国への扉(ヘブンズ・ドアー)を使うとしても、人目は避けなければならない。
周囲の人間にも天国への扉(ヘブンズ・ドアー)を使うのは元の世界に戻ってしまう可能性があるからだ。
露伴は診療所への訪問は危険が多すぎると考えた。

もちろん、綿流しの前日までに接触ができなければ、無理を承知で行くことも考えなければならない。
しかし、まだその段階ではない。

羽入「ロハン、今日はどうするのですかー?」

先ほどから暇そうに露伴の周りにいた羽入が話しかけた。

露伴「うるさいな、考えてるんだから黙ってろよ。」

羽入「あぅあぅ。」

鷹野三四への直接的な接触は現時点では不可能だ。
鷹野三四への接触の足がかりとなるかもしれない、富竹ジロウ、入江京介との接触も直接的には行えない。
入江は鷹野と同様に診療所勤務だし、富竹は普段どこにいるのかさえわからない。
診療所で待ち伏せし、彼らのうち誰かを尾行するのも危険が伴う。
流石に自衛隊にマークされれば、ただ事では済まないかもしれない。
露伴は彼らに自分から接触することをあきらめた。

露伴「図書館に行く。」

羽入「興宮の図書館ですか?」

露伴「あぁ、34号文書の内容には興宮の図書館で調べたと思われる内容が多いんだ。34号文書を手に入れた竜宮礼奈は大災害を予見していた。
だから図書館に行けば何か梨花を殺害する理由がわかるかもしれない。(鷹野三四の動機に繋がる情報が得られるかもしれないからな。)」

羽入「なるほどなのです。案内するのです。」

露伴「いや、興宮の地理はわかってるからいい。」

羽入「じゃあ付いていくのです。」

露伴「邪魔だよ。梨花のところにでも行けよ。」

羽入「露伴が真相を見つけるなら、僕がついていないといけないのです。」

露伴「勝手にしろ。付いてきても何も教えないからな。」

羽入「あぅあぅ。沙都子だけじゃなく僕にも少しは優しくしてほしいのですー。」

露伴「ふんッ。沙都子ちゃんには泊めてもらった恩を返しただけさ。」

露伴と羽入は興宮へと向かうことにした。

露伴の時代と図書館の場所は変わっていなかったので、図書館まではすんなりと着いた。
建物自体は改装でもされたのだろうか。露伴の時代とは趣が違っていた。
また、図書館の面積自体も狭く、2Fのみとなっていた。1Fは役所が使っているようだ。

露伴は図書館に入ると、郷土資料のコーナーへと直行した。
所蔵図書の検索システムなどはないため正確なことはわからないが、
郷土資料のコーナーは露伴のいた時代より充実しているようだった。

露伴はてきぱきと雛見沢に関する資料を集め、調べ始めた。

もう昼の2時を過ぎただろうか。
露伴が図書館に着てからすでに4時間は経過している。
しかし、この図書館で露伴は有益な情報を見つけることはできなかった。

もちろん、34号文書の裏はとれた。
露伴がまだ知らなかった雛見沢の過去も知ることができた。
しかし、鷹野三四の動機に繋がるような情報は一切得られなかった。

露伴「腹が減ったな。どこか食いに行くか。」

羽入「僕は、食べれないので、露伴の好きにしていいのです。」

露伴「幽霊ってのも難しいな。美味しいものを食べることもできないんだからな。」

羽入「あぅあぅ。でも僕は梨花の味覚を共有することができるのですよ。だからお土産はシュークリームがいいのです。」

露伴「ふーん。やっぱりお前スタンドなんじゃないのか?梨花の無意識の。」

羽入「違うのです。僕は梨花が生まれる前から存在しているのです。」

露伴「まぁ、どっちでもいいけどさ。」

露伴は図書館から出て興宮の町を歩くことにした。

 

??「んだてめンなろぉぉォオオオオオッ!!すったるぁ、おるぁあッ!!」

??「をるぉんったら、ぅッってん場合じゃえぇなぞぉぉぉおお!!」

??「敵だなてめー。」

町を歩く露伴の耳に罵声が聞こえてきた。
気になってその罵声の主を覗いてみると、露伴は驚いた。
罵声の主はちょっと古風なガラの悪い学生のようだった。
露伴が驚いたのは罵声の主ではなく、罵声を浴びせられるほう、
おそらく絡まれているであろう少女だった。

露伴「(・・・魅音ちゃん・・・?)」

魅音?「わ、悪かったって、言ってるじゃないですかぁ・・・。・・・もぅ・・・許して、・・・ください。・・・っく、・・・えっく・・。」

??「な、なんだこらぁ!泣いたら済むってもんじゃぁねーぞ、こらぁ!!」

??「泣くくれぇなら、弁償しろっつってんだろぉおおがあ!!あぁあん!?」

??「敵か?敵か!?敵だなてめー。」

露伴は厄介ごとに巻き込まれるのはごめんだね、と思っていたが、知人ならしょうがないと覚悟を決めた。

露伴「おい、その辺にしとけよ、泣いてるじゃあないか。」

??「んだこらぁぁぁああ!!なんじゃあおどれはぁぁぁああ!!」

??「っこつけってぇんかぁぁああああああ!こらぁぁああ!!」

??「お前も敵か?敵だなてめー。」

露伴はこのド低脳達を相手にするのは面倒だとおもい、先に仕掛ける。
最も露伴に近かった男の顔をぶん殴るッ!

露伴「うるせえなあーーーッ!!僕は馬鹿の相手をするのが一番嫌いなんだよッ!!」

男達は露伴に殴りかかる、露伴はひょいひょいとかわし、反撃を決めた。
露伴は手加減をせず男達の急所を狙った。男達は各々攻撃された場所を押さえてうなっている。

露伴「まだこの岸辺露伴とヤろうってのかい?」

??「こ、こいつやべぇ・・・ずらかるぞっ!」

??「い、いてぇ・・・お、覚えてろよッ!」

??「オ・・・オレ・・・学校いくよ・・・、アツアツのピッツァも食いてぇ!」

男達は露伴にかなわないとわかると、すぐさまバイクを起こして逃げていった。

露伴「魅音ちゃん。大丈夫かい?」

魅音?「あ・・・、その、ありがとうございました。」

露伴「うーん。なんだか雰囲気が違うな、魅音ちゃんだよな?学校は行かなかったのかい?」

魅音?「おねぇのお知り合いですか?初めまして、私は園崎詩音。園崎魅音の双子の妹なんです。助けて頂いて本当にありがとうございました。」

露伴「あぁ、君が詩音ちゃんか。なるほどな。」

詩音「あれ、もしかしておねぇから聞いてます?」

露伴「いや、魅音ちゃんから聞いたわけじゃないんだがな。僕は露伴。岸辺露伴だ。」

詩音「あー、あなたが露伴さんですか。おねぇから聞いてますよ。なんでも漫画家志望の人が雛見沢に来てるって、昨日電話で聞きました。」

露伴「ふふ、知っているなら話がはやくていいね。ちょっと今から昼飯を食いに行こうと思ったんだけど、案内してくれないか?あまりこの町のことはわからないんでね。」

詩音「それ、もしかしてナンパですかぁ?おねぇに言いつけちゃいますよ?中学生が好きな漫画家にナンパされたって。」

露伴「おいおい、よしてくれよ。確かに君は可愛いけど、中学生に手を出す気はないよ。君のお姉さんはおもしろいからな。ちょっと話を聞いてみたかっただけさ。」

詩音「へぇー、お世辞うまいんですねー。それじゃあナンパされちゃおっかなー?」

露伴「雛見沢に来てから和食しか食べてないんだ。イタリアンでも食べれる場所を案内してくれよ。」

詩音「私はもうお昼は食べちゃいました。デザートと飲み物でもおごってくれれば、一緒にお茶してあげますよ?」

露伴「あぁ、いいよ。聞きたいこともあるしね。(発症する可能性がある人物はチェックする必要があるからな)」

詩音「話がわかる人ですねー。私も聞きたいことがあったんですよ。露伴さん、やらかしてくれたみたいじゃないですか。」

露伴「ん?何のことだい?」

詩音「おねぇと圭ちゃんのことですよ。その辺、よーく教えてもらいますからね。さ、行きましょう。私のお薦めのお店はこっちです。」

詩音は露伴の腕に抱きついて引っ張った。

露伴「お、おい、そんなにくっつくなよ。」

詩音「あれー?テレてるんですかぁ?ナンパしたんだから、このくらい喜んでくださいよー。」

店に行くまでの間、恥ずかしがる露伴は詩音にからかわれ続けられたのだった。

露伴は詩音に案内された店に入る。

露伴「へぇ、なかなかいい店じゃあないか。」

詩音「当たり前です。私が興宮で一番気に入ってるお店ですから。」

露伴「いいセンスしてるじゃないか。こんな田舎にいい店があるとは思わなかったよ。」

詩音「あんまり馬鹿にしないでください。私だって故郷を悪く言われるのは好きじゃないです。」

露伴「そういうつもりじゃなかったんだが、ごめんよ。」

露伴と詩音は店の奥にある席に座った。
この席は他の席と若干区切られており、他の客に会話の内容を聞かれることはなさそうだった。

詩音「この席がお気に入りなんです。なんか特別席みたいでしょ?」

露伴「あぁ、確かにちょっと特別な感じはするかな。僕もこういうのは嫌いじゃないよ。」

詩音「それで、おねぇと圭ちゃんに何したんですか?おねぇから電話はあったんですけど、もうノロケっぱなしであんまり内容が理解できなかったんです。
ノロケるなら電話してくんなってんです。」

露伴「ははは。魅音ちゃん手を繋いだだけで思考停止してたからなぁ。君とは違って、魅音ちゃんは純粋なんだね。」

詩音「露伴さん、それってば失礼です。私が汚れてるみたいな言い方じゃないですか。」

露伴「いやいや、君のほうが大人っぽいからなってことだよ。」

詩音「んー、まぁそういうことにしといてあげます。それで、おねぇはなんであんなにノロケてたんですか?」

露伴「メニュー決めてからでいいかい?君も好きなもの注文しなよ。」

詩音「私はもう決まってます。この店のチーズケーキがお気に入りなんです。あと、ロイヤルミルクティー。あーでも、おごりならパフェ頼んじゃおっかなー。」

露伴「別に両方頼んでもいいぜ?太っても知らないけどな。」

詩音「むー、失礼な人ですね。でも、お言葉に甘えて両方頼んじゃいます。」

露伴「あぁ、しっかり太ってくれよ。」

詩音「お生憎様、私の場合はしっかりこの胸に行きますんで大丈夫です。」

露伴「ふふふ、おもしろい子だね。君みたいな子は好きだよ。」

詩音「私も露伴さんみたいな嫌味な人、面白いと思いますよ。大石のおじさまみたいな嫌らしいのは勘弁ですけど。」

露伴と詩音は皮肉を言い合いながらメニューを注文した。
以外にこの二人、気が合うのかもしれない。

詩音「それで、おねぇに何したんですか?」

露伴「あぁ、昨日さ。村を案内してもらってたんだけど・・・」

露伴は昨日の出来事を詩音に教えてやる。

詩音「あっははは。じゃあ露伴さんってば気づいてなくてやらせてたんですかー?」

露伴「あぁ、別にそんな気はなかったんだが。レナちゃんがそう言ってたからね。」

詩音「おねぇは圭ちゃんにぞっこんです。圭ちゃんが引っ越して来てから私への電話の内容は9割が圭ちゃんになりました。」

露伴「ふーん。まぁ、魅音ちゃんらしいと言えばらしいじゃないか。」

詩音「そうなんです。おねぇってば、昼間は男の子みたいにして圭ちゃんと遊んでるくせに、夜は私へ電話しては、夢見る女の子みたいにノロケてるんです。なんでも中途半端なんですよ。」

露伴「圭一君は魅音ちゃんのこと男友達だって思ってるみたいだからね。」

詩音「まぁ、話を聞いてる限り圭ちゃんもとてつもなくデリカシーがないですね。でも、おねぇに女の子らしくしろって言っても、無理ですからねー。
フリフリの服でも着て行って、みんなにヒかれるのが落ちってもんです。」

露伴「ははは。そりゃ見てみたいもんだね。」

露伴と詩音が雑談を続けるうちに料理も出てきた。
二人は食事をしながら雑談を続けた。

詩音「うーんッ!チーズケーキ最高ぉッ!!」

露伴「そう言ってくれると、おごってる甲斐があるよ。」

詩音「それで、露伴さんは私にスィーツを奢って何を聞こうってんです?何か聞きたいことがあるんですよね?」

露伴「いや、本当にお店を紹介してほしかっただけなんだよ。あとは魅音ちゃんのおもしろい話でも聞きたいかな、なんてね。」

詩音「へぇー。それじゃあ本当にナンパだったんですねぇ。私が気になってること聞いてもいいですか?」

露伴「あぁ、かまわないよ。」

詩音「それじゃあ、露伴さん。雛見沢に何しにきてるんですか?」

露伴「あれ?魅音ちゃんから聞いてないのかい?僕は漫画家を目指してるんだ。雛見沢には取材できたんだよ。」

詩音「なんの取材ですか?」

露伴「自然とかかな。野鳥とか、植物とか。」

詩音「うーん、嘘つきさんがいますねぇ。」

露伴「僕が何を嘘ついたって言うんだよ。」

詩音「雛見沢に自然とか野鳥を見に来る人なんていません。それだったらもっと有名なところに行きますからね。」

露伴「うーん、僕以外にも野鳥の撮影の人が来てたよ。富竹さんって言ってたけど。写真家らしいぜ?」

詩音「あははは。そっかぁ、露伴さんは知らないんですね。富竹さんは野鳥なんかどうでもいいんです。女の人に逢いに来てるんですよ?鷹野三四さんっていう、看護婦さん。」

露伴「へぇ、鷹野三四ねぇ。僕はあったことないけど、詩音ちゃん、知り合いなのかい?」

詩音「んー、一応診療所に勤めてらっしゃるんで面識はありますけど、何か縁があるわけじゃないです。」

露伴「そうかい。あの富竹さんの恋人なら見てみたかったんだがね。」

詩音「はいはい。それよりはぐらかさないで答えてくださいね。雛見沢に来てる理由、教えてください。露伴さんも女の人かなぁ?」

露伴「ち、違う。僕は、あれだ。オヤシロ様の祟りってやつを取材しに来たんだよ。」

詩音「オヤシロ様の・・・祟り・・・。」

先ほどまで楽しそうに話していた詩音の表情が曇った。
本人は悟られまいとしているのだろうが、露伴はそれを察する。

露伴「あぁ、ごめんよ。地元の人はこの話嫌いだよな。だから言いたくなかったんだよ。」

詩音「いえ、私は祟りなんて信じてませんので。別になんとも思ってないですよ。」

露伴「そうかい。まぁ、祟りの取材は終わったからさ、あとは自然を見たり、綿流しのお祭りを取材してから帰ろうと思ってるんだ。」

詩音「オヤシロ様の祟り・・・何かわかったんですか・・・?」

露伴「おいおい、信じてないって言ったくせに興味ありって顔だな。」

詩音「・・・。」

詩音が沈黙してから露伴は思い出した。
それは年老いた大石からもらった情報。
4年目の祟りの失踪者、北条悟史と園崎詩音は親密な関係にあったという事を。

露伴「おっと、何か気に障るようなことを言ったみたいだね。謝るよ。すまない。」

詩音も露伴の変化を見逃さず、すぐに食いついた。

詩音「知ってるんですね?・・・私と悟史くんのこと・・・。」

露伴「・・・。随分鋭いな。気に入ったよ。あぁ、知っているよ。君は4年目の失踪者北条悟史と親密な関係だった。
叔母が殺された時間帯の北条悟史のアリバイを証言したのも君だ。」

詩音「よくご存知なんですね。警察では秘匿捜査指定がかかっているのに、どこで知ったんですか?」

露伴「ふふ、まぁちょっと聞いたのさ。流石に誰から聞いたとは言えないよ。」

詩音「それで、取材が終わったってことは、真相がわかったんですか?」

露伴「一応、僕なりの考えだがね。だから全ての証拠を出せといわれても出せないようなもんさ。」

詩音「それでもいいです。聞かせてください。」

露伴「おいおい、僕と君は1時間くらい前に知り合ったばっかりだぞ?それで祟りの真相を話せっていうのは、おかしくないか?」

詩音「教える理由がないということですか?」

露伴「それもあるし、僕が知ってる情報の中に他人に知られて困ることがあるとは考えないのかい?
たとえば、警察発表の犯人以外に関わっている人物がいるとか。もしそうだったら僕は君に話すことはできないぜ?」

詩音「私も自分で調べたんです・・・。でも悟史くんの行方は・・・わかりません・・・。私は・・・ぅ、ひっく・・犯人なんてどうでもいいんです。
悟史くんの、ひっく・・行方さえわかれば・・うぅ・・ひっく。」

露伴「お、おい、こんなところで泣くなよ。ご、誤解されるだろう。」

詩音「ご、ごめんなさぃ・・・ひっく・・うぅ・・あぅ・・・っくぅ・。」

露伴「わかったよ。わかった。話すよ。だから泣くのはやめてくれ。ほ、ほら、とりあえず店から出ようぜ?な?」

露伴は詩音を引き連れて店から出た。
詩音の嘘泣きには流石の露伴も勝てなかったようだ。

ふたりの姿は詩音の私室。園崎組の管理するアパートの一室にあった。
露伴が人に話を聞かれることを嫌ったためだ。

詩音「そんなことはないと思いますけど、一応言っておきます。隣の部屋には私の忠臣の葛西っていう怖い人がいるんで、変なことはしないでくださいね。」

露伴「おいおい、僕がそんなことをするように見えるのかい?」

詩音「んー、一応です。たしかに露伴さんは漫画家ってイメージじゃないですよね。変わったヘアバンドしてるけど、服装もお洒落だし。」

露伴「世間の持ってる漫画家のイメージっていうのは、間違ってるんだよ。漫画家ってのは全員オタクでネクラな連中だと思ってやがる。」

詩音「申し訳ないですが、私もおねぇから最初に聞いたときは、そういう漫画家をイメージしちゃいました。」

露伴「まぁ、いいや。で、本題に入るけど。場の流れで話すとは言ったが、僕の知ってることを全て話すことはできない。多分、信じてもらえない話もあるしな。」

詩音「私は、悟史くんのことだけ知れればいいんです。」

露伴「そう言われてもな。うまく説明するためには僕が言えないことも喋る必要がでてくる。そればっかりは泣かれても教えられない。」

詩音「むー、いじわるですねぇ。」

そう言って詩音は考え込んでいるようだ。
露伴もどこを話したらいいものかと悩んでいた。

詩音「あ、そうです。こんなのどうですか?」

露伴「うん?」

詩音「私が考えている、祟りの真相を喋ります。露伴さんは、教えられるところだけ、間違いを指摘する。根拠とかは、言えないなら言わなくていいですから。
私たちは祟りの真相を調べる仲間ってわけです。あ、もちろん、悟史くんのことは詳しく言ってくださいね。」

露伴「ふーん。仲間にされるのはどうかと思うが、まぁ、そんな感じでよければ話すよ。まずは君の話を聞かせてくれよ。
途中で間違いを指摘すると次に繋がらなくなるかもしれないからな。最後まで黙ってる。」

詩音「わかりました。それじゃあ、私の考えているオヤシロ様の祟りの真相を言いますね。」

詩音は淡々と1年目の祟りから3年目の祟りまでを話した。
彼女の考えは基本的に園崎家が黒幕という考えだった。
彼女が言うには、全ては園崎家が村の敵を殺すために行ってきた。
綿流しの日に人が殺されても祟りで済んでしまうというシステムを作り上げた。
そういう話だった。

詩音「そして、4年目の話です。ただ、4年目の話は・・・ちょっと私も整理ができていません。おねぇに問い正したこともあるんですが、おねぇは園崎家は関与していないと言っていました。
私はそれが信じられる答えだとも思っています。でも一方で、これまで話したように、園崎家の陰謀ではないかとも思っているんです。
ですから、4年目については私がしる出来事を順にお話します。そしてそれに対する考えを述べます。矛盾があるかもしれませんが。そこは整理ができてない部分だと思ってください。」

露伴「わかった。まぁ、聞いてみないとなんとも言えない。」

詩音「それでは・・・」

詩音は悟史との思い出を話し始めた。

私が悟史くんと出会ったとき、私は自由の身じゃなかった。
と言っても、捕まってるわけじゃない。
捕らわれの身だった時期もあるけど、なんとかそこから抜け出してきた。
抜け出したあとは鬼婆に見つからないようにしないといけなかった。
本当は違う町にでも逃げ込めばいいんだろうけど、私は故郷に帰りたくて興宮に戻ってきた。

興宮での生活は逃亡犯みたいなもん。
私の味方をしてくれるのは葛西と一握りの親類だけ。
それ以外の人間に”園崎詩音”が見つかれば、すぐ鬼婆のところに引っ立てられる。
もしそうなったら、指の1本や2本はなくなるかもしれないなー、なんて思ってたっけ。

幸い、魅音は私の味方をしてくれた。
私たちは双子だ。何もかも一緒なのだ。
私は生活費を稼ぐためにバイトをしている間、”園崎魅音”になる。
その間、本物の魅音は人目につかないところで隠れていてくれる。

そう、悟史くんとの出会いはそんな入れ替わりの最中だった。
私は”園崎魅音”として悟史くんに出会ったのだ。
私はすぐ彼に惹かれた。悟史くんのどこが好きだったのかな?
優しいところが好きだった。頭をなでてくれるのがうれしかった。
頼りない彼にいつもついていてあげたかった。何気に野球ができたりするところも?
言い出したらキリがない。私は悟史くんが大好きだった。

魅音は私に色々な意味で気を使ってくれた。
私に悟史くんのことを色々教えてくれた。
私がなるべく悟史くんと会えるように入れ替わってくれた。
ううん、そんなことは大したことじゃない。
一番魅音が気を使ってくれたのは、悟史くんを譲ってくれたこと。

そう、考えれば簡単なことだった。私は知っていた。
私たち双子は好みも同じだ。昔からそう。同じものを好きになる。
同じ食べ物を好きになる。同じものを美味しいと思う。同じ人を好きになる。
そのときの私は悟史くんに夢中でそんなこと気づいていなかったんだと思う。

魅音は私に応援すると言ってくれた。
しばらく幸せな日々が続いた。入れ替わっている以上、恋人とかそんなものにはなれない。
だけど、私は悟史くんと会う時間があるということだけで幸せだった。

しかし、その幸せな日々も長くは続かない。
悟史くんが野球の練習に来なくなり始める。
理由は、叔母の沙都子への風当たりが厳しくなったこと。
沙都子の誕生日プレゼントを買うためにバイトをしていて忙しいこと。
いろいろ聞いたけど、私は悟史くん本人には会うことができなかった。
話を聞く限り、悟史くんは大分追い詰められているようだった。
沙都子が叔母の喧嘩を買う。悟史くんは沙都子をかばう。
叔母も大人気ない人らしい。悟史くんは毎日磨り減っていった。

そういればそのとき竜宮レナが変なことを言ってたかもしれない。
悟史くんにオヤシロ様が怒っているとか。よくわかんない。

悟史くんに再会するために、雛見沢の学校へ行った。もちろん、”園崎魅音”として。
悟史くんは変わり果てていた。私、ううん、”園崎魅音”に敵意をあらわにしていた。
悟史くんに拒絶された私は、沙都子を殴り倒した。すると悟史くんは沙都子をかばった。
悪いのは沙都子なのに。沙都子が叔母の喧嘩を買うから、悟史くんが巻き添えを食うのに。
沙都子なんていなくなればいいのに。

その後、魅音は怒ってたな。まぁ、当然といえば当然か。
入れ替わって自分の名前で喧嘩されれば困るのは当然だ。
それから、綿流しの準備が始まる。魅音が忙しい時期なった。
そんな時期に魅音が、一騒動起こした私と入れ替わってくれるはずもない。
私は悟史くんと仲直りできずに日々を過ごした。

綿流しの前日。電話がくる。
魅音からの電話だった。でも、正確には悟史くんからの。
悟史くんから魅音に電話がかかってきた、先日の学校での件を謝りたいと。
魅音は気を利かせ、私が掛けなおすようにしてくれた。
悟史くんは、私を許してくれた。園崎家のことは憎んでいたけれど、私を許してくれた。
そして祭りの日に沙都子を頼むと言われた。自分は祭りに行けないから。
だから沙都子を祭りに連れてってくれと頼まれた。

祭りの日、叔母が殺された。

私は悟史くんが殺したのだと気づいた。
警察が悟史くんに行き着くまでにそう時間はかからなかった。
悟史くんにはアリバイがなかった。叔母の死亡時刻の。
どうしようもなかった。すでに村での聞き込みも終わり、今からアリバイ工作をしても無駄だった。
私は、私に残されたたった1枚のジョーカーを切った。”園崎詩音”という名のジョーカーを切った。
祭りの時間に北条悟史は”園崎詩音”と一緒に興宮にいた。そういうことにした。

ジョーカーは最高の切り札だ。
警察は私というジョーカーに邪魔され、悟史くんを逮捕することはなかった。
しかし、ジョーカーは最も悪いカードでもある。
私は最高の切り札を使うと共に、ババを引いたのだ。
警察という公の場に”園崎詩音”が出た以上、園崎家は黙っていられない。
私はすぐに引っ立てられ、鬼”ババ”の前に突き出された。

最初は学園から抜け出したことを咎められると思っていた。
だが、鬼婆は私と悟史くんのことをあれこれと騒ぎ立てていた。

私は間違ったことをしていないと胸を張って言った。
北条悟史くんが大好きだと言った。人が人を好きになって何が悪い。
私は”北条”悟史くんが好きだ。だから何だって言うんだ。
悟史くんが北条家の人間だから、私が園崎家の人間だから、だから何が悪いって言うんだ。
悟史くんが好きだ。悟史くんが好きだ。好きだ。好きだ。大好きだ。

 

私は今でも間違ったことをしていたとは思っていない。
でも、園崎家に逆らうことはできなかった。
葛西が、次郎伯父さんが、悟史くんがどうなってもいいのかと、そう魅音に告げられた。
私は自らの体でケジメを付ける。爪3枚。それは体験したことのない者にはわからない痛みだった。
死ぬほどなんてそんなものじゃなかった。どう形容しようもない。

考えてみて。さぁ、いま自分の手を見つめて。あなたの手は固定されている。
爪の先を薄い金属で、薄いけどギザギザがついていて滑らないようになっている金属で挟み込む。
その金属を、思いっきり、そう、あなたが出せる最大の力で容赦なく引き上げて。v ゆっくりじゃない、思い切り、ものすごいスピードで。指が一緒にとれるんじゃないかって思うくらい思いっきり引き上げてみて?
わからないでしょ?すごい痛いんだよ?私が死ぬまでにあんな痛みはもう体験できないかもしれない。
本当に痛いんだよ。でも、私はやった。爪3枚・・・私の爪はちゃんと3枚なくなった。

 

それから数日、私は部屋に篭りっきりだった。
一応興宮で暮らすことは許されたらしい。
だけれども、なにもする気になれず家に篭っていた。
ふと思い出したことがあった。悟史くんが買うと言っていたぬいぐるみ。
沙都子の誕生日プレゼントに買うと言っていたぬいぐるみがどうなったか気になっておもちゃ屋に行った。
ぬいぐるみは無くなっていた。悟史くんが買ったんだと思った。

大石に呼び出される。大石はやっぱり嫌いだ。
最悪のニュースを持ってきた。

悟史くんが失踪した。

私は、
「悟史くんはぬいぐるみを買った。大きいぬいぐるみだからそのまま家に帰るはずだ。失踪したとか名古屋で見かけたなんて、何かの間違いだ。」
と言い張った。

そしたらね、大石が意地悪く言うんだよ。
悟史くんが買ったか、裏がとれないって。
店番のおじいさんが年寄り過ぎて、悟史くんだか覚えてないって。
大石はもっと嫌なことも言うの。
悟史くんは園崎家に消されたんじゃないかって。
北条家だからどうのこうのじゃない。
園崎家の私と殺人犯が一緒にいるのが気に入らなかったんだって。
だから悟史くんをどうにかしちゃったんだって言うんだよ。

そうなのかな・・・大石の言う通りなのかな。
私、爪3枚・・・はいだよ?すごい痛い思いしたよ?
だから、悟史くんは許してもらえるんじゃないの?
だから、大石の言うことなんて嘘じゃないの?

でも、でも、大石の言うことが本当かもしれない。だって、悟史くんがいなくなる理由がない。
悟史くんは家出なんかする人じゃない、私の知ってる悟史くんはそんな人じゃない。
じゃあ・・・、じゃあ私が悪いの?私が悟史くんを好きになったから。
私が好きだったから、悟史くんはいなくなっちゃったの?私のせいなの?
私が悪かったの・・・?悟史くん・・・。

 

後日、魅音と話す機会があった。
最初は普通に話してたんだけど、途中でついね。
熱くなっちゃって魅音の首を絞めてた。
ううん、本気で殺そうとしてた。

それでね、あの子の手を見たの。そしたらね、ないんだよ?
私と同じ場所の爪がないの。爪が3枚。
魅音は言った。詩音だけが爪をはぐのは可哀相だって。
それから悟史くんのことも本当に知らないって。泣きながら言ってた。
殺そうとした私に怒らなかった。

私は誰を信じたらいいのかな。
魅音を信じたい。魅音の言うとおりであってほしい。

だけど、どうしても園崎家のことが信じられない。
魅音のことが信じられない。私は何を信じたらいいんだろう。
悟史くんに会いたい・・・。

詩音は露伴に話しているのも忘れ、一人思い出を楽しんでいた。
もちろん喋ってはいるのだが、おそらく自分でも何を言ったか覚えていないだろう。

詩音は笑ったり、楽しそうにしたり、悲しそうにしたり、
怒ったり、泣いたり、本当に様々な表情を見せながら露伴に話した。
露伴にも、彼女の感情がそのまま伝わったようだった。
いつもの冷めた露伴ではなく、そこには少女の考えを必死に受け止める露伴がいた。

詩音「・・・。そんな・・・ところですかね?みっともないところをお見せしてすみません。」

露伴「いや、まぁ、確かに余計な話もあったが、君がどうして真相を知りたいのかはわかったよ。」

詩音「そうですか。それじゃあ、教えてくれると嬉しいんですけど、やっぱりだめですか?」

露伴「まぁ、最初に言ったとおり、全部教えることはできない。証拠を出せといわれても、出せないものも多い。」

詩音「・・・。」

露伴は自分の知る真実を全て詩音に打ち明けたいと思った。
この少女の苦悩を1日でも早く取り去ってやりたいと思った。
露伴は最初、どうせ中学生の恋に恋する話でも聞かされるのかと思っていた。
しかし、彼女のそれは違っていた。純粋に人を好きになった。ただそれだけの話だった。
だからこそ、露伴は彼女に真実を告げてやりたいと思った。

しかし、それができないことは露伴自身が最もよく知っている。
彼女に真実を教えれば彼女は行動を起こし、露伴の計画は全て無駄になる。
それどころか、彼女は山狗にさらわれ、自分も山狗に狙われるようになるだろう。
もしかしたら、別の組織がいればそっちにも狙われるかもしれない。
自分がスタンド使い以外にやられるとは思わないが、大災害の真相を知ることはできなくなる。
また、この少女を危険にさらしたくないと思った。

露伴「まだ、君にどこまで話せるのか判断できない。」

詩音「むぅ・・・ずるい人ですね。」

そのとき、インターホンが鳴った。

詩音「あっちゃー、もうこんな時間かぁ。今日はうちの親父にお説教の呼び出しされてるんですよねぇ。」

そう言うと詩音は玄関まで出て行き、訪ねてきた男に何かを告げた。
そして戻ってくる。

詩音「露伴さん、もう今日は時間がないですね。お話、今度聞かせてくれますよね?」

露伴「・・・。今度会うときまでに君にどう話したらいいのか考えておくよ。」

詩音「わかりました。じゃあ、私、用意するんで、帰ってもらってもいいですか?」

露伴「あぁ・・・。」

露伴は玄関まで行き、立ち止まった。

詩音「ほらー、さっさと出ちゃってください。着替え覗くおつもりですかぁ?」

露伴「北条悟史は、生きている。」

詩音「ッ!!え・・・?い、いきなり何を・・・。」

露伴「北条悟史は、生きている。そして園崎家は何も関与していない。君の姉を信じてやれよ。今の僕が言えるのは、これだけだ・・・。」

詩音「ちょ、ちょっと!待ってください!!」

詩音の制止も聞かず、露伴は部屋を出た。
部屋を出るとヒゲ面の男が立っていたが、露伴は気にせずに通り過ぎた。

詩音「悟史くんが・・・生きてる・・・。」

露伴は雛見沢に帰るべく自転車をこいでいた。

露伴は思う。自分は雛見沢に来てからどうもおかしくなっている。
今まではあんなにも他人には無関心だったのに、なぜこんなに人の為に何かしたいと思うのだろう。
露伴は雛見沢の子供たちに対して自分が持っている感情を認めたくなかった。

他人に感情移入しすぎてる。こんな調子じゃあいい漫画は書けないぞ。
露伴はそう自分に文句を言い、頭を掻いていた。
すると突如、露伴の名前を呼ぶ声が聞こえた。

??「露伴さーんッ!!おぉーーーい!!」

声の主は圭一だった。車の助手席から体を乗り出して手を振っている。
恥ずかしいやつだ。露伴はそう思いながら車に近づいた。

露伴「やぁ、どうしたんだい?圭一君。」

圭一「今親父と飯食いにいくところだったんすよー。露伴さんも一緒にどうですか?」

露伴「いやいや、お父さんと一緒なら僕が一緒するわけにはいかないだろう。」

圭一「いやー、うちの親父画家なんですよ。昨日家に帰ってから、露伴さんの話をしたら会いたいって言い出しちゃって。だから偶然見かけて止まってもらったんす。」

露伴「へぇ・・・画家をやってらっしゃるのか。それはご一緒したいところだが・・・。」

圭一「親父はぜひ一緒にってさ。親父ぃ、露伴さんも来てくれるってさ。露伴さん、後ろ乗っちゃってよ。」

露伴「いや、自転車があるんだよな。車に積めそうもないし。」

圭一「それじゃあ露伴さん、駅まで俺が迎えに行くよ。駅前にある店にいくらしいんだ。」

露伴「あぁ、わかったよ。」

圭一が窓から引っ込むと自動車は駅のほうへと進んでいった。
露伴も画家と食事ができるなら、願ってもないことだと思い、駅へと急ぐのだった。

 

■TIPS
露伴のメモ—-
魅音と詩音に発症可能性について

園崎魅音と園崎詩音、両方に接触を終えて考える
もちろん、彼女らの性格的な違いもあるだろうが、
僕は園崎詩音が発症する可能性が高いと感じた

羽入に話を聞いてみると、羽入も経験上同じものを感じているそうだ
彼女らの転生で園崎姉妹のどちらかが発症した場合
発症したのが魅音だと断定できるケースはほぼないそうだ
しかし、発症したのが詩音だと断定できるケースは多々あるらしい

これらから、園崎詩音は発症する可能性を考慮し、対処する必要がある
また、逆に園崎魅音はあまり発症に関しては気にしなくて大丈夫だろう
園崎魅音が発症するよりは、竜宮礼奈や前原圭一が発症する可能性のほうが高そうだ

 

露伴が駅に着くと、圭一がちょうどよく走ってきた。

圭一「うぉーい、露伴さーん、こっちこっちー。」

露伴「圭一君。君はもうちょっと静かにはできないのか?さすがに街中で騒ぐのはどうかと思うんだが。」

圭一「あ、すんません。」

露伴「それで?けっこう歩くのかい?」

圭一「いや、そこちょっといって曲がったところっスよ。」

露伴は自転車を駅の駐輪場に止め、圭一と共に店へと向かう。

圭一「露伴さん、そういえば親父がいないうちに聞いてもいいっすか?」

露伴「あぁ、祟りの話かい?」

圭一「た、たたり・・・?そんな話なんすか・・・?」

露伴「今から5年前の綿流しのお祭りの日。ダム建設現場でバラバラ殺人事件が起きたのさ。」

圭一「バラバラ・・・殺人ですか・・・。」

露伴「被害者は工事現場の監督。犯人はその部下の従業員6人だ。ちなみに5人は自首したが、主犯格の男が逃走中で行方がわからない。
それを村の人たちはオヤシロ様がダムを造るやつらに祟りを起こしたって言ってるのさ。」

圭一「な、なるほど・・・。それでレナが犯人っていう話につながるんですね。」

露伴「あぁ、犯人たちは遺体を隠すために、遺体をバラバラにした。全員で隠そうってわけさ。それで主犯格が隠した右腕だけが見つかってないんだよ。」

圭一「なるほど。よくわかりましたよ。でも、レナに聞いても知らないって言われたんですよね・・・。」

露伴「あぁ、村の人は嫌いだからね、この話。自分の村に祟りがあるなんて知られたくないだろう?」

圭一「そうっすよね。あ、露伴さんここっすここっす。」

露伴「じゃあ、祟りの話はまた今度だな。」

圭一「え、まだ続きあるんすかぁ?」

露伴「ふふふ。さぁ、入ろうぜ。」

露伴と圭一は店の階段を登っていく。
その店には「エンジェルモート」と店名が掲げられていた。

店に入るとすぐ、BOX席から呼ぶ声が聞こえた。

??「おぉーい、圭一ーッ。こっちだこっちー。」

この親子はどれだけ騒げば気が済むんだ?露伴はそう思った。

圭一「父さん、この人が露伴さん。で、露伴さん、こっちが俺の親父。」

父「こんにちわ。前原伊知郎といいます。よろしく。」

露伴「岸辺露伴です。画家の方とお会いできるなんて光栄です。今日はよろしくお願いします。」

圭一「露伴さん、そんな硬くならなくていいよ。俺の親父なんだからさぁ。」

伊知郎「えぇ、気軽にお話していただければいいですよ。お仲間ですからねぇ。」

露伴「そ、そうですか。画家の方に仲間と言ってもらえると光栄です。」

圭一「ちょっと俺トイレ行ってくるよ。日替わりセットでいいから頼んどいて。」

そう言うと圭一は席から立ち、トイレを探しに行った。

伊知郎「えっと、露伴さんはどうなさいますか?」

露伴「あ、私は夕飯は家にありますので、コーヒーとケーキくらいで。」

伊知郎「あらら、それは圭一が無理にお誘いしちゃいましたか?」

露伴「いえ、画家の方とお話できる機会ですからね。喜んでお返事しましたよ。」

伊知郎「あー、それがですね。露伴さん。息子には内緒にしてほしいですがね、私画家じゃないんですよ。」

露伴「それじゃあ何をなさってるんです?息子さんに隠してまで。」

伊知郎「いやぁ、同人作家をしてましてね。露伴さんも漫画家さんなら気が合うかなーなんて思ったんですよ。」

露伴「同人作家・・・ですか。」

伊知郎「えぇ。妻も仕事を手伝ってくれてます。商業の仕事もしてますので、一応そこそこに稼げてるんですよ。」

露伴は画家じゃないと知り、落胆した。
しかし、この時代の同人作家なら現代のオタク向けな同人作家とは違うかもしれない。
そう気を取り直し、話を続けることにした。

伊知郎「それで、露伴さんはどんなジャンルで活動されてるんですか?」

露伴「ジャンル・・・ですか?一応少年漫画を描いてるんですが。」

伊知郎「へぇ、ジャンプ系の801ですかー。ショタですかぁ?たまにいらっしゃいますよねぇ、男性で801を描かれてる方。」

露伴「あ、いや・・・僕は普通の・・・」

伊知郎「私は18禁のエロ漫画ばっかり描いてましてね。だから息子には内緒なんですよ。まぁ、似たもの同士ですな。なっはっはっはー。
私はですね、これから絶対にオタクの時代が来ると思ってるんですよ。そのとき、美少女エロ漫画と801は絶対にヒットしますよぉ。そもそもですね、二次元というのは三次元と比べて・・・」

伊知郎は露伴の返答も聞かずにしゃべり続けている。
露伴は伊知郎の先見性には驚いたが、汚らわしい豚を見るような目で伊知郎を見ていた。

圭一「ただいまー。もう注文してくれた?」

圭一が戻ってきたことで伊知郎の固有結界は解除された。
露伴は今すぐに帰りたかったが、注文をしてしまったからにはしょうがない。
できるだけ伊知郎と会話しないように、圭一と雑談に花を咲かせるのだった。

圭一も伊知郎も食べ終わり、圭一が感想を漏らす。

圭一「親父が薦めてたからどれだけうまいかと思ってたんだけど、・・・味だけで言えば、普通のファミレスだと思うんだけど・・・。」

露伴「あぁ・・・味は普通のファミレスだ。」

伊知郎「味なんかはどうでもいいんだ圭一!なー・・・いいだろうー。ねっ露伴さん☆」

露伴は苦笑いすることしかできなかった。

そう、この店は味で勝負しているわけではないのだ。
露伴は入店してからしばらくして気づいていたが認識したくなかった。
圭一もやっとそれに気づいたようである。

伊知郎「すいませェん、セットのデザートがまだ来ないんですけど。」

店員「あ、・・・も!も、申し訳ございません・・・。」

伊知郎「日替わりAセットのデザートでェす。さっきからずっと待ってるんですけどねェ。」

店員「その、・・・す、すみません。すぐにお持ちしますので・・・!」

新米っぽいウェイトレスさんはおたおたとしながら駆けて行った。

圭一「・・・父さん。・・・ひょっとしてこの店って・・・。」

伊知郎「いいだろうー。ここのウェイトレスさんの制服ー♪最高ですよね?露伴さん☆」

ドグシャァァァアアアッ!!

伊知郎「なっ!何をするだァーーーーッ!許さんッ!!父さんにも殴られたことないのにー!」

圭一「俺は息子だァーッ!!」

露伴「圭一君が殴らなければ、僕が二度と喋れなくするところだった。」

伊知郎「いいか圭一、父さんは決して不埒なつもりで来ているんじゃないんだぞ。あのグッドでキュートでエキセントリックな衣装から受けるインプレッションを!
芸術的インスピレーションを!お前に感じさせてやりたかったんだよ!!お前だってこういう刺激を求めていたはずだ!そうだろ!?でも、一人じゃ恥ずかしい。
わかってる!!だから父さんが無理やり連れてきたんだ!父さんのせいにしていいんだぞ!そしておまえには新しい仲間、露伴さんといういい友人がいるじゃあないかッ!!
露伴さんと、この気持ちを語り合ってほしかったんだぁぁああああ!!そういうわけで、俺はトイレ行ってくる。露伴さんとしっかり語り合ってくれ。」

伊知郎は一人しゃべり終えるとトイレへと歩いていった。
圭一が露伴のほうを見ると、露伴は頭を抑え頭痛をこらえていた。

圭一「へ、変な親父で・・・すみません・・・。」

露伴「いや、圭一君も大変だね・・・。心中お察しするよ・・・。」

二人で伊知郎に失望していると、さっきデザートを頼んだウェイトレスさんが近づいてきた。

店員「あ、あの・・・えっと・・・。」

先輩?「ほら、落ち着いて、大変お待たせしました、って。」

店員「えっと・・・大変お待たせして申し訳ありませんでした・・・。」

先輩?「そうそうその調子、がんばってねー!」

先輩らしき店員は耳打ちすると、すぐに去って行った。
新米らしくウェイトレスは慣れない手つきでデザートを配膳する。

露伴「(メイド喫茶とかいうやつよりひどいな、こりゃ・・・。昭和の時代からこんな店があったのかよ。ん・・・?なんだか入江京介の声が聞こえた気がする・・・。)」

露伴はそう思い、あたりをキョロキョロ見渡してみるが、入江は見当たらなかった。
露伴がそうしていると、圭一が口を開いた。

圭一「・・・魅音、だよな?」

店員「・・・・・・へ・・・。」

圭一「お前・・・、何でこんなとこで働いてるんだよ!!」

魅音「え、あ、あの、・・・叔父さんのお店の手伝い・・・。」

 

圭一「・・・ほー。それはご苦労さんなことで。しかし・・・こうして見ると、結構そーいう服も似合ってるじゃねーの☆」

魅音「は、恥ずかしいんだからその、・・・あまり見ないでよー・・・。」

露伴「圭一君は魅音ちゃんのウェイトレス姿が見れて嬉しいそうだよ。」

圭一「ちょ、露伴さん、そんなこと言ってないっすよォ!!」

露伴「ふふふ。この前の罰ゲームで魅音ちゃんが意外に女の子らしいって気づいたって言ってたじゃあないか。
だから可愛い魅音ちゃんのそういう格好を見つめずにはいられないんだよなー?」

圭一「露伴さん!!それは聞かなかったことにしてくれるって言ってたじゃないっすかぁぁー!!」

魅音「え・・・け、圭ちゃん・・そそそ、そんなこと思ってくれてたんだ・・・。」

圭一「だぁー!ちちち、違うって、ろろろ、ろ、露伴さんなんとか言ってくださいよぉ!!」

露伴「圭一君はね、魅音ちゃんとまた手を繋いで帰りたいんだってさ。」

魅音「あわわ・・・はわ・・わわ、わ、私は・・・別にい、いい、いいけど・・・。」

圭一「ぐわぁーもう露伴さんやっぱり何も喋らないでくれぇぇええええええ!!」

露伴「圭一君、魅音ちゃんと幸せにな。カッハッハッハーッ!」

周りの客に睨まれたので馬鹿騒ぎは止めにする。
まだ圭一はぶつぶつと言い訳をしていた。

魅音「・・・あ、あの・・・違うんです。」

露伴「ん?何がだい?」

魅音「わた、私!魅音じゃないんです!!!」

圭一「え・・・?魅音じゃないって、・・・じゃあお前は誰だよ。園崎魅音だろ?」

魅音「あの・・・ごめんなさい。言いそびれてました。私、魅音の妹の園崎詩音なんです。」

圭一「えっと・・・さっきまでの反応は初対面だと思えないんだけどな・・・。」

詩音「えっと、おねぇからよく話を聞いていたので・・・」

圭一「そ、そっか・・・。あの、悪かったな・・・。」

圭一は何かを察したように急に態度を変えた。

ちなみに露伴は最初から察している。
詩音は父親のところに行くといっていた。なら、ここにいるのは魅音なのだ。
そして園崎姉妹お得意の入れ替わりのつもりなのだろう、と。

露伴「いや、悪かったね。僕らは君のお姉さんの知り合いなんだよ。」

詩音「いえ、おねぇも敵が多い人ですから。」

露伴「慣れてなさそうだけど、仕事初めてなのかい?」

詩音「実は・・・圭ちゃんと露伴さんが最初のお客さんなの。」

露伴「へぇ、最初のお客が姉の彼氏なんて奇遇だねぇ。」

圭一「ブッ!!」

コップに口を付けていた圭一が水を勢い良く吹き出した。
周りに撒き散らした水を気にせずにぎゃーぎゃーと反論を始める。
そうしてしばらく露伴は二人をからかっていた。
しばらくすると、詩音は休憩が来たらしく厨房の奥へと戻っていった。

圭一「露伴さん・・・今の・・・魅音すよね・・・?」

露伴「さぁ?どうだろうね。僕にはわからないよ。」

露伴がニヤニヤしながら圭一をからかっていると、伊知郎が戻ってきた。

伊知郎「圭一、露伴さん、そろそろいいかい?帰ろうと思うんだけど。」

やけに長いトイレだった。この親父、間違いなく賢者化している。
露伴はそんな天の声が聞こえた。

会計を済ました露伴は圭一達と別れ、自転車で雛見沢に戻っていった。
店を出た時点で、すでに夕暮れをすぎ、あたりは暗くなっていた。
家に戻った露伴が沙都子のお説教にあったのは言うまでもない。

■TIPS
沙都子の検査—-

1983年(昭和58年)
6月13日(月)朝

露伴「ガキが変な気を使うなよ。ほら、学校に遅刻するぜ。」

沙都子「行ってきますわぁー!夕方には帰ってこないとだめですわよーっ!!」

露伴と別れた沙都子と梨花は神社の階段を降りる。

沙都子「本当に梨花も来ますの?学校に行ってくださって結構ですわよ?」

梨花「僕も少し風邪っぽいので入江に診てもらいたかったのですよ。だから沙都子のせいじゃないのです。にぱー☆」

沙都子「まぁ、そう言うんでしたらいいですわ・・・。」

二人は露伴に嘘をついた。
今二人が向かっているのは学校ではない。
入江診療所だった。

沙都子は毎週日曜日の午前中に診療所で検査を受ける習慣があった。
本人は、入江の研究する栄養剤の効果を調べるための検査だと思っている。
昨日も本来は検査が予定されていたが、沙都子が日程を変更するよう頼み込んだ。
沙都子はどうしても露伴に村を案内したかったようだ。

実際にはこの検査は雛見沢症候群の診断である。
沙都子は発症した後、奇跡的に回復したが、今でも通院が必要なのだ。
それを知るのは診療所の職員と梨花だけだった。

入江「ようこそ、沙都子ちゃん。おはようございます。」

沙都子「おはようございますですわ。監督。昨日は無理を言って検査の日程をずらして頂いてすみませんですわ。」

入江「いえいえ、検査に協力していただいているのはこちらですからね。何日も来られないというのだと困りますが、1日ずらすくらいでしたらかまいませんよ。
これからも何かありましたら気軽に言ってくださいね。」

沙都子「なんだかお金を頂いているのに、申し訳ないですわね。」

入江「いいんですよ。医学の発展に善意で協力して頂いているんですから。お互い持ちつ持たれつだと思ってください。それでは、沙都子ちゃんはいつもの検査室のほうにお願いします。」

沙都子「わかりましたわ。」

沙都子はそう言うと診察室を出て行った。
入江の下には梨花だけが残された。

入江「沙都子ちゃんが検査をずらしてほしいなんて言うからびっくりしたんですが、昨日の露伴さんという方は沙都子ちゃんと何かご縁でもあるんですか?」

梨花「沙都子と露伴は一昨日会ったばかりなのです。でも、すっごく仲良しなのですよー。にぱー☆」

沙都子の検査も一通り終わりかけ、最後の鷹野によるクイズ形式の検査が行われていた。
これは検査というより研究に近いものだ。雛見沢症候群を発症した沙都子の状態を観察するためのものである。

梨花「入江、沙都子の状態はどうなのですか?」

入江「うーん。なんとも言えませんね。過去にない結果が出ています。良い物なのか悪いものなのか・・・。」

梨花「どういうことなのですか?」

入江「えぇとですね。沙都子ちゃんの状態はL3マイナス。症候群の発症レベルは前回と変わりありません。ですが、肉体的な部分では悪化が見られます。
交感神経がかなり活性化されていまして、あまり良い状態とは言えません。逆に、心理的な検査はすべて改善されている傾向にあります。
過去にこういった結果が出たことはありませんので、これがどういったことなのか私には判断できません。総合的に診た発症レベルがL3マイナスであるとしか、申し上げることはできないんです。」

梨花「・・・。昨日、沙都子の叔父が、北条鉄平が帰ってきたのです。」

入江「そ、それは・・・大変なことになりましたね・・・。」

梨花「でも、露伴が追い払ってくれたのです。もう鉄平は帰ってこない約束をしたらしいのですよ。にぱー☆」

入江「ほ、本当ですか!?どうやって?」

梨花「僕は知らないのです。」

入江「・・・。露伴さんにお礼を言わなくてはいけませんね。今度、野球の練習でも見に来てくださるようにお伝えください。」

入江は露伴という男に少し興味を持った。

ドタンバタンッ!!
ドタンバタンッ!!

誰かが騒ぐような音を聞き、露伴は目を覚ました。
まだ暗い。夜が明けている気配はない。
起き上がり、辺りを見渡してみる。
ドタバタと騒いでいたのは羽入だった。

露伴「ん・・・。何を騒いでるんだ。うるさいぞ。」

梨花「ほら、あんたが騒ぐから起こしちゃったじゃない。今はあんたのことを見える人間がいるのよ。」

露伴が寝ぼけた目の焦点を合わせると、冷蔵庫の前で戯れる梨花と羽入の姿があった。
その床にはワインらしき瓶と開いたキムチのパック、それからオレンジジュースが出ていた。

露伴「何をやってるんだ?それ、ワインじゃあないのか?」

梨花「ちょっと羽入にお仕置きをしてたのよ。」

羽入「あぅあぅ。辛いのですー。梨花のばかー。」

梨花「まだお仕置きが足りないようね。」

梨花はそう言ってキムチをもう一口食べた。
羽入はさらにドタバタと暴れながら抗議をしていた。

露伴「人が寝てるのに騒ぐんじゃあないよ。ったくッ。」

梨花「そうね、このくらいにしてあげるわ。」

そう言うと、梨花はキムチを冷蔵庫にしまった。
そしてグラスを二つ用意し、露伴のいるほうへと持ってくる。

梨花「あなたも飲む?ワインしかないけど。」

羽入「梨花ぁー、飲んじゃ駄目なのです。」

露伴「お前と飲むってのは気に食わないが、もらうとするよ。」

梨花「口の減らないやつね。まぁ、飲むと文句を言ってくるやつよりはマシね。」

露伴と梨花は沙都子を起こさぬように二人で飲み始めた。
いつもなら、梨花はオレンジジュースで薄めてワインを飲む。
味覚を共有する羽入がうるさいからだ。
しかし、今回は露伴に馬鹿にされるのが嫌でそのまま飲むことにした。

露伴「いつも飲んでるのかい?」

梨花「たまにね。羽入が文句を言うから頻繁には飲まないわよ。」

露伴「そういえば僕もシュークリームをおみやげにしろとか言われたな。」

梨花「辛いものを買ってくると喜ぶわよ。とびきりのやつをね。」

羽入「あぅあぅあぅーあぅーーあぅあぅ。」

もはやワインのせいでまともに喋れなくなった羽入が何か抗議しているようだった。

梨花「羽入に、あなたの推理を聞いたわ。」

露伴「・・・。(勝手に話すなよな、この馬鹿が。)」

梨花「私は、そんなこと考えたこともなかったわ。富竹と鷹野が死ぬことにより山狗の警備が薄くなる。そして私は殺されるんだと思っていた。」

露伴「軍隊ってやつを甘く見てるだろ。たとえ二人が死んでも警備を解いたりはしない。間違いなく警備を強化するさ。」

梨花「そうね。私も羽入から聞いて納得したわ。100%警備を強化しないとしても、何回か警備が強化される世界があって、1回くらい私が助かる世界があってもおかしくないものね。」

露伴「ふん、なかなか鋭いじゃないか。僕は警備を強化する可能性のほうが高いとは思うが、それも絶対じゃない。君の言うとおりだ。」

梨花「そうすると、あなたの言うとおり、山狗を超える組織、または山狗が私を殺すということになるわね。」

露伴「あぁ、山狗の場合は部隊全てなのか、一部なのかはわからないがね。」

ここで二人の会話は途切れる。二人はしばし沈黙を続けた。
露伴は特に気にも止めずにワインを飲み続けている。
時折聞こえる沙都子の可愛いいびきや寝言を楽しんでいるようだ。

露伴とは対照的に、梨花は飲むのをやめ、何かを考え込んでいるようだった。
長い長い沈黙の末、梨花はやっと何かを心に決めたようだった。

梨花「露伴、あなたに謝ることがあるわ。」

露伴「なんだよ、急に。」

梨花「私はあなたに何をしても無駄だと言ったわ。でも、あなたは鉄平を退け、沙都子を助け出した。」

露伴「ふんッ、ちょっとは見直したってわけか?」

梨花「えぇ、そうよ。私は過去に何度挑んでも沙都子を助けることはできなかったわ。鉄平が帰ってきた時点で終わり。私にはどうすることもできないといじけていた。
しかしあなたはその運命を退けた。たった一日で、いえ、違う。たった数時間のうちに私が何十年も退けられなかった運命を退けた。」

露伴「それで?だからどうしたって言うんだよ。」

梨花「私はあなたに託してみようと思う。」

露伴「・・・どういうことだ?」

梨花「私はあなたが嫌いよ。だから本当は伝えたくなかった。けど、あなたなら私を殺す犯人を暴いてくれるかもしれない。だから託そうと思うの。」

露伴「だから何を託すんだよ?話が見えてこない。」

梨花「入江が、あなたに会いたいと言っていたわ。沙都子を助けてくれた礼を言いたいと。野球の練習をしているときにでも会いに来てほしいそうよ。」

露伴「それは・・・願ってもないことだが。野球の練習ってのは?」

梨花「興宮小学校のグランドでやってるわ。たしか、次の練習は木曜日だと思う。」

露伴「木曜日・・・綿流しまで日がないな。」

梨花「そうね。別に診療所に行ってもいいと思うけど。」

露伴「僕の能力は、人前で使えない。診療所は自衛隊の人間もいるんだろ?会うなら、確かに野球の練習で会ってから二人きりになるのが都合が良い。
時間はなくなるが、それがベストだろう・・・。」

そう言うと、今度は露伴が考え込んでしまった。
梨花は邪魔をしないように羽入をからかっていた。

露伴「うん、木曜に会うことにする。それより、なぜ入江と会ったんだい?」

梨花「嫌に鋭いわね・・・。」

露伴「ふふふ。これは興味で聞いただけだよ。」

梨花「午前中は診療所に行っていたのよ。あなたにはまだ教えてなかったわね。沙都子が発症したのは言ったわよね?雛見沢症候群はね、一度発症するともう元には戻らないのよ。」

露伴「・・・。沙都子ちゃんは普通に見えるが・・・。」

梨花「入江の言い方をすれば、薬で発症レベルを抑えられているだけ、という言い方になるわ。」

露伴「もう少し詳しく話せよ。」

梨花「症候群の発症は発症レベルL1(-)~L5(+)に分類されるらしいわ。今の沙都子の状態はL3(-)。一般的な雛見沢の住人と変わらない。
ただ、一度L5状態になった沙都子は一般の住人より過敏になっているそうよ。スズメバチに刺されたのと似ていると言っていた気がするわ。」

露伴「アナフィラキシーか。つまり、沙都子ちゃんは薬を与えないとすぐに発症すると?」

梨花「そういうことになるわね。沙都子は普通の子よりも心理的ストレスを受けている。だから投薬をやめれば、すぐに発症レベルは上がると考えられるわ。
ただ、あなたが鉄平を退けてくれたおかげでストレスはちょっと減ったみたいよ。今日の検査はそいう面では改善が見られたそうよ。」

露伴「そうなのか・・・。薬を飲んでいるところは見たことないが?」

梨花「いちいち鋭いやつね。沙都子はあなたに見られたくないのよ。今は朝と夜の2回。あなたが起きる前とお風呂に入っている間に注射を打っているわ。」

露伴「・・・そうかい・・・。」

梨花「そろそろ、私は寝るわ。明日に響くと困るから。あなたも、明日は忙しいと思うわよ。」

露伴「ん?明日は何かあるのか?」

梨花「それは私からは言わないでおくわ。沙都子が言いたそうだったから。じゃあ、おやすみなさい。」

露伴「あぁ・・・。」

梨花が眠ったあと、露伴は羽入に話しかける。
羽入はずっと酔って気持ち悪がっていたが、だいぶ戻ったようだった。

露伴「おい、おまえがオヤシロ様なんだよな?」

羽入「そうなのですよ。」

露伴「雛見沢症候群ってのは・・・おまえのせいなのか?」

羽入「あぅあぅ・・・。それは・・・僕にはなんとも・・・。」

露伴「ふん・・・。もしそうなら、ぶん殴ってやりたかったんだがな。」

羽入「あぅあぅ。僕のせいじゃないのです。」

露伴は羽入を無視して布団に入る。

雛見沢症候群にとりつかれた人々。
沙都子だけではない、あの少女、園崎詩音もそうだ。
大石や赤坂もそうなのかもしれない。
彼女たちの不幸を考えると、露伴は胸が熱くなった。

1983年(昭和58年)
6月14日(火)

沙都子「露伴さーん、もう朝ですわよー?起きてくださいまし。梨花も、起きるんですわよぉー。」

今日も同じく、沙都子が1日の始まりを告げる。
彼女の一日は今日もまた幸せなものになるに違いない。
露伴もこの日常に慣れたのか、文句を言わずに目を覚ます。
いただきますで叱られることもない。

梨花は相変わらずだった。

沙都子「梨ぃ花ぁー、もう起きませんと遅刻しますわよー?」

露伴「置いてって遅刻させてやれよ。夜にキムチでも食べて起きてたんだろ。」

沙都子「あら、露伴さんよく知ってますわね。梨花ったら私には食べられないほど辛いキムチを食べるんですわよ。ほらぁ、梨花ぁー?」

梨花「みー。もう起きてるのですよー。だからお布団に入れといてほしいのです。」

沙都子「お布団から出ないと起きたことにはなりませんのよっ!」

なんとか梨花をたたき起こした沙都子も食卓に着く。

沙都子「お味はいかがですこと?」

露伴「いつも通りだよ。・・・いつも通り美味しい。」

沙都子が満面の笑みを浮かべる。
羽入もニヤニヤと露伴を見ていたので天国への扉(ヘブンズ・ドアー)でぶん殴られていた。

羽入「あぅあぅ、痛いのです。」

沙都子「露伴さん、今日はお暇ですこと?」

露伴「ん、まぁ、特に予定はないが。」

沙都子「それはよかったですわ。今日は学校に来て頂きますわよ。」

露伴「ん?授業参観か何かかい?僕は嫌だぞ。」

沙都子「違いますわ。今日は家庭科の授業でカレーを作るんですわ。そこで、部活の料理勝負があるので呼んで来いと魅音さんから言われてますのよ。」

露伴「まぁ、それなら別に行ってもいいんだが、部外者の僕が行っていいのかよ?」

沙都子「そこは魅音さんが話を通しておくと言ってましたわ。今日は営林署の職員さんにカレーをご馳走するそうですわよ。」

なぜだか露伴は寒気を感じた。

朝食を終え、露伴たちは家を出た。
魅音が早めに露伴を連れて来いと言っていたようで、沙都子がせかしていた。
しかし、露伴も梨花も相手にしてくれず沙都子はむくれるのだった。

学校に到着すると魅音が待ち構えていた。
レナと圭一はあとから来るらしい。

魅音「お、やっと来たね。遅いよっ、露伴さん。」

露伴「やぁ魅音ちゃん、1日ぶりだね、ふふふ。」

魅音「なーんか嫌な笑い方するなぁ。まぁ、露伴さんこっちこっち、先生に会ってもらうからさ。」

そう言って魅音は露伴を連れて職員室へ向かう。
残された沙都子と梨花は教室へと行った。

職員室へ向かう途中、露伴は魅音に問いかける。

露伴「先生に会うのはいいんだが、僕はどうしたらいいんだ?何も説明を聞いてないぞ。」

魅音「あぁ、そうだね。ごめんごめん。今日はカレーを作るって言うのは聞いてる?」

露伴「あぁ、それは沙都子ちゃんから聞いたよ。」

魅音「じゃあ話は簡単だね。露伴さんはカレーのプロってことで先生に紹介してあるからさ、お手本にカレーを作ってくれればいいわけ。で、私たちのカレーと含めて得点を争ってもらうよ。」

露伴「おい・・・僕はカレーのプロなのか・・・?」

魅音「あははー、露伴さんは何でもできちゃいそうだからね。勝手にそういうことにしといたよ。ほら、入った入ったー。」

そう言い、魅音が職員室の扉を開ける。

魅音「先生ー、昨日話した露伴さんが来てくれましたー。」

魅音がそう言うと職員室にいた青髪の女性は振り返り、ものすごい勢いで睨み付けてきた。
そしてなぜか急に満面の笑みを浮かべ、露伴に微笑みかけている。
露伴は再び寒気を感じた。

立ち尽くす露伴を魅音が無理やり職員室へと入れた。

魅音「そ、それじゃあ私は教室に行くんでっ!」

露伴が教室に入ったとたん魅音は全力ダッシュで教室へと走っていった。
残された露伴はどうしたものかと思っていると、女性が話しかけてくる。

女性「あなたが露伴さんですね。私は知恵留美子。魅音さん達の担任です。ささ、こちらにお座りください。」

そう言うと、知恵は来客用の椅子へと露伴を案内した。
露伴は寒気は気のせいだったと思い、言われたままにする。

露伴が椅子に座って待っていると、知恵はコーヒーを淹れ、持ってきてくれた。
そう露伴は思った。

ティーカップの中身はカレースープだった。

知恵「ふふふ、カレー仲間とお会いできて嬉しいですわ。今日はよろしくお願いしますね。」

知恵の目がカレー色に染まり、瞳は煮込んだカレーのようにぐつぐつとしている。
その眼光に露伴は目を逸らすこともできずにおびえている。

露伴「あ、いや、僕は・・・」

知恵「それではHRまで時間がありますので、カレーについて語り合いましょう。露伴さんはどんなカレーがお好みなんですか?」

露伴「あ、あはははは、僕は・・・」

露伴はHRまでに、自分の悪寒が正しかったことを思いしらされるのだった。

昼10時過ぎ。
午前中の短めの授業を終え、生徒たちは校庭へと出ていた。
いまから校庭でカレーを調理し、営林署の職員さんに食べてもららう予定らしい。
すでに調理するための机なども出され、ほとんど準備は終わっているようだった。
カレー作りの準備を終えた露伴も校庭へと出てみることにした。
すると魅音を見つけた。さっきの恨みを晴らすべく露伴は話しかける。

露伴「おい、魅音ちゃん、ちょっといいか?」

魅音「おっと、露伴さん、その顔はずいぶんとやられたみたいだねぇ。いまちょっと困ってるから、後でにしてもらえる?」

露伴「ん?なんかあったのかい?」

魅音「ガスコンロがさ、露伴さんのぶんを予定していなかったみたいで、1個足りないんだよね。下の学年の子供は班で料理をするから、そこの人数を先生が調節してるよ。」

露伴はなにか閃いたようでニヤニヤしながら魅音の下を離れた。
名簿を見て班分けをやり直している知恵を見つけ、露伴が近づいていく。

露伴「ふふふ、知恵先生、もっと簡単な方法がありますよ。」

知恵「あら、露伴さん、もう準備は大丈夫なんですか?」

露伴「えぇ、それよりガスコンロが足りないそうですね。」

知恵「そうなんです。予備のコンロが壊れていまして。」

露伴「下の学年の子よりですね、上の学年を変えればいいんですよ。」

知恵「でも、上の学年の子は自分一人で作ることになっていますから。」

露伴「ふふふ、自分一人で作れるといいんですけどね。一人じゃ料理できない子と委員長が二人で1班になったほうがいいんじゃあないですか?刃物を使う以上は危ないですからね。」

知恵「一人じゃ料理できない子・・・ですか?」

露伴「えぇ、前原圭一君は非常に危なっかしいと思いますよ。委員長に教えてもらいながら作ったほうがいいと思います。」

知恵「た、たしかにそうですね・・・そうしましょうか。」

露伴は思惑通りに知恵を丸め込むと再び魅音のところへと戻る。

露伴「魅音ちゃん、圭一君が一人じゃあ危なっかしいから、委員長とやることになったよ。」

魅音「へ?圭ちゃんと委員長って・・・あ、あたしぃ!?」

露伴「あれ、魅音ちゃんが委員長なのかい?僕は全然知らなかったよ。ふふふ。」

露伴は明らかに知っていたという顔でニヤニヤしている。

魅音「ちょ、ちょっと、露伴さんー。りょりょ、料理なら、レ、レ、レナのほうが教えるのはうまいよ!」

露伴「ふーん、じゃあレナちゃんのほうがいいって、先生に言ってこようかい?レナちゃんと圭一くんが二人っきりで同じ班のほうがいいってさ。」

魅音「うー。露伴さんの馬鹿ー。絶対罰ゲームにしてやるー!」

露伴「ははは、面白い罰ゲームに期待してるよ。」

露伴の復讐は成功したようである。

準備も整ったようで知恵がカレーについての説明を始めた。
生徒たちはみんなうんざりとした様子で聞き流していた。
最後に知恵から一言付け足しがあった。

知恵「あ、あとですね、前原君は委員長と二人で一班で習いながらやるように。委員長に任せっぱなしではだめですからね。ちゃんと前原君もやるんですよ。」

圭一「えっ!?ちょ、先生、俺らは一人一鍋カレー作るじゃないんですか?」

知恵「コンロが一つ足りません。それに前原君は危なっかしいですから、委員長にちゃんと指導してもらうように。いいですね?それでは皆さん作り始めてください。」

生徒「はーーーーーい。」

魅音「そ、そういうわけだから、圭ちゃん、同じ班らしいよ。」

レナ「圭一くんに料理教えるのは楽しそうだよね、魅ぃちゃん。」

魅音「あ、あはははは、圭ちゃんを放っておいたら、圭ちゃんの指を煮込んだカレーになっちゃうからねぇ。」

圭一「ぐッ・・・おい、魅音、そりゃどーいう意味だよ。」

沙都子「あらあら、もう仲間割れですの?これはもう勝負が見えましたわねぇ。」

露伴「ふふふ、圭一君、仲良くやらないと罰ゲームで仲良くすることになるぜ?」

梨花「圭一と魅ぃは料理も罰ゲームも両方仲良しでらぶらぶなのです。にぱー☆」

魅音「ちょっちょちょちょ、梨花ちゃんららら、ら、らぶらぶって、おおお、お、おじさんはそんなつ、つもりじゃないんだけどなぁ。」

レナ「ほらほら、みんなはやくしないと時間なくなっちゃうよ。」

沙都子「そうですわね、梨花ぁ!早く作りますわよー。」

梨花「みー。」

皆が各自の調理台に去っていくと、そこには圭一と魅音が取り残されたのだった。

圭一「じゃあ、魅音、俺たちもやるか。」

魅音「あ、う、うん。そうだね。」

圭一「俺は、料理できないからさ。魅音が指示を出してくれよ。本当は全部魅音に任せるのがいいんだろうけど、先生がさっきだめだって言ってたしな。」

魅音「それじゃあ、最初はご飯を炊かないといけないんだけど、圭ちゃんわかる?」

圭一「飯ごう炊飯だよな?それだけは自力でできるぜっ!」

魅音「本当に?無理しなくていいよ?」

圭一「へへっ、まぁ見てろって。」

圭一は米をとぎ、飯ごうに入れ、自分の手首で水の量を決める。
確かに飯ごう炊飯は手馴れているようだ。

魅音「へぇー、ちょっと意外・・・。」

魅音は圭一が飯ごうを火にかけるまで見とれているようだった。

圭一「おい、魅音できたぞ。おーい。」

そう言って圭一が魅音の顔の前に手を振る。
飯ごうをセットした後手を洗ったのか、水しぶきが飛び散った。

魅音「うわっ、ちょっと圭ちゃん!顔に水飛ばさないでよー。」

圭一「おまえがぼーっとしてるからだろ。それで、次はどうするんだよ?こっからは俺は何もわからないぞ。」

魅音「うん、それじゃあ野菜を切るよ。圭ちゃん、包丁はできる?」

圭一「いや、ぜんぜんできないぞ。でもやらないと怒られるからな、教えてくれよ。」

魅音「うん、じゃあほら、こうやって親指を当てて、こう・・・。」

魅音はするするとジャガイモの皮をむいて見せた。

圭一「魅音、おまえもしかして料理得意なのか?」

魅音「得意ってわけじゃないけど、婆っちゃに習ってるから大抵のものは作れるよ。」

圭一「・・・野菜炒めとか?」

魅音「圭ちゃん、急に何言い出したの?野菜炒めなんて誰でも作れるっしょー。」

圭一「いや、俺のお袋のメニューに野菜炒めってなくてさ・・・。だから、魅音は作れるのかなって、いや、なんとなく思っただけだぜ。
そんなことどうでもいいよな。ほら、さっさと切っちまおうぜ。」

魅音「・・・今度作ってあげるよ。」

圭一「あ・・・うん・・・。」

気まずくなった二人はお互い言葉につまってしまった。

沙都子「ふふふ、何をしてるんだかわかりませんけれど、絶好のチャンスですわ。」

沙都子が圭一と魅音の調理台に近づいていこうとしたとき。
沙都子の頭に何かが当たった。

コツンッ

沙都子「痛ッ!?なんですの?」

沙都子が振り返ると、そこには露伴がいた。
露伴にゲンコツをもらったようだ。

沙都子「ろ、露伴さん、何をしますの?レディの頭は殴るためのものではありませんことよ?」

露伴「まぁ、普段の部活なら何をしても止めないけどね。今日だけは二人の邪魔はしちゃだめだよ、沙都子ちゃん。」

沙都子「これは部活ですのよ?確実なる勝利を得るためには、トラップを仕掛けるしかありませんわ!?」

露伴「圭一君が作るんだから、負けないだろう?それに沙都子ちゃんの作ったカレーを食べてみたいよ。」

沙都子「あら・・・そうでしたの?うーん、そうですわね。梨花に任せっきりというのもおもしろくありませんわ。
露伴さん、私のカレーに負けるのを覚悟しなさいませー!」

沙都子はそう言うと、自分の調理台に戻って行ったようだ。
沙都子と入れ違いにレナが露伴に近づいてくる。

レナ「露伴さん、沙都子ちゃんの扱い上手いですね。それに、圭一くんと魅ぃちゃん、いいないいな。」

露伴「魅音ちゃんも素直じゃないからね、あのくらいしたほうがいいんだよ。(それにそのほうがおもしろいし。)」

レナ「魅ぃちゃんいいな。なんでレナには気をつかってくれないのかな?かな?」

露伴「うん?レナちゃんの何に気を使ったらいいんだい?」

レナ「はぅ・・・。露伴さんひどいよぅ。レナも圭一くんのこと好きなんだよ?だよ?」

露伴「知ってるよ。でも、魅音ちゃんは圭一君に恋してるからね。レナちゃんは恋に恋してるんだろ。それと圭一君が好きなのは別さ。だから僕が気を使うことなんて何もない。」

レナ「ふーん。やっぱり露伴さんはなんでもお見通しなんだね。かっこいいな。露伴さんに恋しちゃおうかな☆」

露伴「おいおい、中学生には興味ないからやめてくれよ。」

レナ「あはは、フられちゃったかな、かな。」

露伴「ふふふ、大人をからかうもんじゃないよ。」

魅音「ちょ、圭ちゃん、そんな力入れたら危ないって。」

圭一「ん・・・だけど、全然うまくいかなくてよ・・・。」

魅音が圭一にそっと近づく。

魅音「ほら、圭ちゃん、手ぇ貸して、こうやってね・・・。」

圭一「あ、あぁ・・・。」

魅音「ほら、こうだよ、こうゆっくり・・・。」

圭一「こ、こうか?あれ?」

魅音「ほら圭ちゃん、もう1回手ぇ貸して。こうして、あんまり力まないで・・・。」

圭一「ちょ、魅音あんまりくっ付くなよ。」

魅音「こうしないと教えられないでしょ。もう、ほら、手ぇ貸してってば。」

圭一「いや、その・・・魅音・・・胸が当たって・・・。」

魅音「・・・。圭ちゃんの馬鹿・・・。」

しかし、そのまま魅音は圭一の手をとり教え続ける。
圭一もそれ以上は文句を言わずに習うことにしたようだった。

 

知恵「はーい、みなさん時間でーーーす。カレーをお皿に盛り付けて、採点できるようにしてくださいねー。」

知恵の号令を聞くと、生徒たちは盛り付けをすませた。
営林署の職員さんもすでに準備はできているようで、すぐに採点が始まる。
低学年の子たちが作ったカレーがどんどんと採点されていった。

そして、沙都子と梨花のカレーも採点される。
沙都子が多少手を出したとしてもベースは梨花が作ったものだ。
ほとんどの審査員たちには高評価だったようである。

続いてレナのカレー。
これはもう何も書くことはない。
文句なしの満点のようだ。否定的な声などひとつも聞こえなかった。

次は魅音と圭一のカレー。
カレー以外にも魅音が持ってきた食材に彩られ、見た目ならTOP確実。
味も好評のようだった。圭一が剥いたじゃがいもに皮がついていて審査員は苦笑していた。

知恵「それでは、最後にお手本のカレーを作ってくれた露伴さんにお願いします。」

露伴「あー、ちょっといいかい?」

露伴の言葉に何事かと審査員は耳を傾けた。

露伴「カレー、作ってないんだ。」

露伴の衝撃の一言に審査員たちはざわつく。
知恵先生も露伴が何を言っているのかわからず、返答に困っているようだった。

露伴「インドではさ、カレーっていう料理はないんだよ。カレーという言葉は古来、インドでは使われていなかったんだ。
外国人が様々なインド料理を見て全てが”カレー”だと勘違いしたものなんだ。たとえるなら、そうだな。味噌を使っている料理を全て味噌汁と呼ぶような。
そんな感じなんだよ。日本には味噌汁がちゃんとあるけどね。」

露伴の薀蓄に審査員たちは静かに聞き入っている。
露伴が間違ったことを言っているわけではないので知恵も特には口を挟まなかった。

露伴「だから、僕が今日作ったのはインド料理なんだ。美味しいカレーは、生徒達も作れそうだったからね。みなさんにインドの料理を食べてもらおうと思ってつくったんだ。
審査員の人に限らず生徒の分もあるから、あとで食べてみてほしい。」

薀蓄を言い終えると、露伴は審査員のもとに”カレー”とナンを出した。
昭和58年の人々にはナンは珍しかったのか、みな不思議そうに見ている。

露伴「それはナンと呼ばれるパンみたいなもんだ。パンと違い、イースト菌で発酵させていないので、あまりふわふわとしていない。インドでは、このようなナンは高級なんだ。
小麦が手に入らないみたいでね。だから庶民の味というわけじゃあないんだが、まぁ、食べてみてくれよ。そのナンに”カレー”を付けて、食べるんだ。」

審査員達はものめずらしそうに露伴の”カレー”を食べてみた。
たしかに日本のカレーとは違う珍しい味だった。
好評不評は分かれていたが、皆食べたことのない味を楽しんでいるようだった。
知恵がものすごく幸せそうに食べていたのは言うまでもない。

全てのカレーを審査員が食べ終えたあと、魅音が提案した。
部活の順位を決めたいため、自分達のカレーには点数ではなく順位を付けてほしい、と。
審査員たちは快く了承し、生徒達が食べ終えたあとに順位を発表することになった。

沙都子「露伴さん!インド料理なんてできたんですの?私にも食べさせてくださいませ。」

圭一「露伴さァァアんッ!食べるッ!オレも食べるッ!食べるんだよォーーーーーーッ!!オレに『食べるな』と命令しないでくれェーーーッ!」

部活メンバーの他にも興味をもった生徒達が露伴のところに集まり、露伴の”カレー”は大人気だった。
子供達は上手い不味いと批評しながら、インドの味を楽しんでいるようだった。

レナ「露伴さん、こんなすごい料理作るなんて、どうやって準備したのかな?かな?」

露伴「君達が授業をしてる間にね、車を借りて材料を買ってきたんだよ。ただカレーを作るだけじゃ、おもしろくないだろ?」

レナ「みんなすっごく喜んでるよ。露伴さん、やっぱり露伴さんに恋しちゃうかも☆」

露伴「褒めても何もでないぞ。」

レナ「はぅー・・・、やっぱりイジワルだなぁ。」

露伴「ふふ、みんなのカレーを食べに行かないかい?」

レナ「そうだね、そうだね、レナのカレーも食べてほしいな。」

そのあとは部活メンバー集まってのカレー試食会だった。
露伴の”カレー”は生徒と知恵に食べつくされてしまったため、
それ以外のカレーを皆で批評しあう。

圭一「やっぱりレナのカレーには勝てないよなー。」

沙都子「そうですわね、流石にこれには勝てませんわ。やっぱりトラップが・・・・。」

露伴「うん・・・、たしかにこれは美味しいな。」

レナ「えへへ、沙都子ちゃんたちのも美味しいよ。沙都子ちゃんも料理上手くなったね。」

沙都子「私だっていつまでも料理ができないままではありませんのよ。でも、やっぱりダークホースは露伴さんでしたわ。」

魅音「うんうん、露伴さんなら美味しいカレーを作れると思ってたけど、インド料理作っちゃうんだもんねー。こりゃおじさんも一本取られたよ。」

圭一「露伴さんのカレー、美味しかったぜ。俺、ナンって初めて食べたよ。」

露伴「圭一君たちのカレーも美味しかったよ。すごく『甘くて』美味しかった。ふふふ。」

レナ「あはは、そうだね、魅ぃちゃんたちのカレーはすっごく『甘かった』ね☆」

沙都子「あら?そうでしたかしら。私には普通の辛さでしたわよ。」

梨花「沙都子にもいつか、『甘ーい』カレーを作れる日が来るのですよ。にぱー☆」

梨花はそう言うと、沙都子の頭をなでる。

沙都子「・・・。これも馬鹿にされてるんですわよね?」

部活メンバーの笑いが校庭に響きわたる。
圭一と魅音も顔を真っ赤にしながら笑っていた。

生徒達も食べ終ると、順位の発表があった。

1位は露伴。
審査員は好みは分かれたものの、珍しくインド料理を食べられる機会だったようで、高い評価をしていた。
そして、知恵先生の主張により一位となった。

2位はレナ。
カレーの味だけで言えば、露伴のものより評価は高いようだった。
順当な順位である。

3位は梨花・沙都子。
4位の圭一・魅音と審査員の料理の評価は同等だった。
しかし、同着を許さないということで、年少の彼女達のほうが高い順位となった。

4位は圭一・魅音。
豪華さやカレーの味はよかったものの圭一の皮付きじゃがいもが悪かった。
トータルでは梨花・沙都子と同点だが、上記の理由で最下位となる。

圭一「再びかァァーーーッ!!!」

沙都子「圭一さんはこれで3連続部活でビリですわー。おーっほっほっほ。」

魅音「くっそー、まさかビリになるとはなー。」

露伴「ふふふ、罰ゲームの取り決めはしてなかったけど、僕が決めていいのかい?」

魅音「だめだめ、ちゃんと取り決めしなかったんだからなしだよ!」

露伴「だが、断る。」

露伴「君達は授業だったかもしれないが、僕は部活だからとわざわざ呼ばれてきてるんだ。これで罰ゲームなしってわけには、いかないんじゃあないのかい?」

魅音「・・・わかったよ。」

露伴「ふふふ、じゃあ放課後までに考えておくから、また後で会おうか。」

魅音「あ、私も露伴さんに用があったんだよ。うちらが授業終わるまで、待っててもらっていい?」

露伴「あぁ、そのつもりだよ。あの先生が帰らせてくれなそうだし・・・・ね・・・。」

露伴は覚悟を決め、職員室へと戻っていくのだった。

校長の鳴らす鐘が授業の終わりを告げる。
知恵にカレー漬けにされた露伴は鐘の音で意識を取り戻した。
昼休みに意識を失ってから今まで放心状態だったようだ。
HRを終えて教室を出てくる知恵と入れ違いに、露伴は教室へと向かった。

魅音「おーい、露伴さんこっちこっちー。」

露伴「ん?話って部活なのかい?」

魅音「いや、今日は部活はないよ。私がバイトがあるからね。」

露伴「それじゃあ話ってやつを始めてくれよ。」

魅音「うん、簡単に言うと、露伴さんに綿流しのお祭りを盛り上げてほしいってことなんだけど。」

露伴「・・・。」

魅音「露伴さんにね絵を描いてもらおうっていう案が出たんだよ。似顔絵とか、あとは子供が喜ぶ絵とか、そういうのを描いてもらう出し物をさ。」

露伴「めんどくさそうだな。遠慮させてもらっていいかい?」

圭一「なんだよ露伴さん、俺たちで宣伝する作戦までもう考えてあるんだぜー?」

レナ「レナ達もお手伝いするから、やってほしいな。」

露伴「勝手に話を進められても困るぜ。僕だって初めて来るお祭りなんだから、楽しませてくれよ。」

魅音「時間はそんなにずっとじゃなくていいんだよ。ちょっとした出し物のつなぎでやってくれれば大丈夫だからさ。」

沙都子「露伴さん、やってくださいませ。私も露伴さんの活躍を見たいですわよっ。」

部活メンバーは露伴を説得しようと必死だった。
露伴はどうしたものかと悩んでいたが、梨花が何気なく言った一言が決め手となった。

梨花「お手伝いをすれば、実行委員会のテントに自由に入って泡麦茶を飲み放題なのです。」

梨花を除く部活メンバーにはそれはビールを餌に露伴を釣ろうとする言葉に聞こえただろう。
しかし、露伴と梨花にとっては違った。それは実行委員会のテントに自由に出入りすることにより、
5年目の祟りの情報がもっとも早く入手できるということを示していた。

露伴「わかったよ。そんなに言うならやってやるよ。」

露伴が観念したと思い、部活メンバーは大喜びして宣伝の方法を語りだす。
露伴は皆に気づかれないように魅音に言う。

露伴「魅音ちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいかい?」

魅音「うん?みんなに聞かれたくない話?」

露伴「あぁ、一応そうしてくれ。」

露伴と魅音はトイレということにして教室からでた。

魅音「もしかして、お金の話ー?」

露伴「あぁ、報酬があるならその話もしたほうがいいんだろうけど、僕が聞きたいのはそれじゃあない。」

魅音「報酬はね、できれば現金はやめてほしいかな。お祭りで遊び放題とか、梨花ちゃんが言ってたビール飲み放題とかにしてほしいねぇ。」

露伴「あぁ、それは考えておくよ。それより、詩音ちゃんと会ったんだよ。」

魅音は一瞬ビクッとなったあと、平静を保って答える。

魅音「あ、あぁ、バイト先で会ったんでしょ?で、電話で聞いたよ。」

露伴「いや、その前にね。町で偶然会ったんだよ。」

魅音「もしかして、露伴さん・・・。」

露伴「あぁ、あの日は詩音ちゃんが親に呼び出されてたっていうのも知ってる。」

魅音は頭を抱えながら答えた。

魅音「あちゃー。バレてたのかぁ。圭ちゃんには言っちゃった・・・?」

露伴「いや、僕は何も言ってないよ。圭一君がどう思ってるかはしらないけどね。」

魅音「それじゃあ、秘密にしといてよ?」

露伴「あぁ、そのつもりさ。それで、詩音ちゃんの連絡先を聞きたかったんだが、いいかい?」

魅音「詩音の連絡先?何か用があるなら伝えておこうか?」

露伴「いや、今度いろいろ話す約束をしててね。だから自分で連絡するよ。」

魅音「そっか、それじゃあね、たしか・・・」

露伴は魅音から電話番号を聞きメモする。
用も済んだので二人は教室へと戻ることにした。

魅音「偶然町で会ってるとは、さすがに予想できなかったなー。」

露伴「僕も最初は魅音ちゃんだと思ってたからね。」

魅音「でも、詩音と露伴さんが仲がいいなんてちょっと意外かも。」

露伴「うーん。まぁ、おもしろい子だとは思うけどね。魅音ちゃんも、仲良くしないとだめだよ?」

魅音「え?詩音から何か聞いたの?」

露伴「さぁね。ふふふ。」

露伴はそう言うと、教室の扉を開け、中に入っていってしまった。
魅音も続き、教室へと戻る。
皆はまだ露伴の出し物について話し合っているようだった。

しばらくは露伴の催し物の話をしていたが、途中から脱線し雑談になっていた。
魅音がそろそろバイトの為に帰るというので、罰ゲームの話題になる。

露伴「うーん、前回と一緒じゃあ面白くないしな。でも圭一君と魅音ちゃんふたりの罰ゲームなんだよなぁ。」

沙都子「圭一さんは裸で家まで帰ればいいんですわ。」

レナ「はぅ・・・圭一くんのおっとせいかぁいいよぅ・・・。」

梨花「圭一と魅ぃの二人ならなんでも罰ゲームじゃなくなっちゃうのです。にぱー☆」

露伴「そうだなぁ。じゃあ罰ゲームは圭一君に言っておくからさ、綿流しのお祭りまでに実行するってことで。」

沙都子「魅音さんに何かするんですの?」

露伴「ふふふ。それは実行してからのお楽しみだよ。なぁ、圭一君。」

露伴はそう言い、教室の隅へと圭一を連れて行った。
露伴が何かを告げると圭一は顔を真っ赤にして騒ぎ立てる。
部活メンバーはその圭一の様子から罰ゲームとして十分なのだろうと理解し、その罰ゲームに決定することになった。

それで今日はお開きとなり、皆で教室から出ていく。
校庭を通り、別れるところまで来る。

魅音「それじゃあ、みんな、今日は部活なしで悪かったね。また明日学校で会おう。」

圭一「じゃあな、梨花ちゃん、沙都子ちゃん、露伴さん。」

沙都子「また明日でございますわー。」

梨花「さようならなのです。」

露伴「あぁ、また会おう。」

そう言うと、圭一と魅音は帰ろうとする。
だが、レナが付いてこなかった。

圭一「おう、レナ?置いてくぞー?」

レナ「あ、うん。レナは露伴さんとお話したいことがあるから、先に帰ってほしいかな?かな?」

圭一「え?そうなのか?うーん・・・。」

レナ「圭一くんは魅ぃちゃんと帰っていいよ。レナと露伴さんのお邪魔をしちゃ嫌だよ☆」

レナが笑顔でそう答えるので、圭一は素直に魅音と二人で帰ることにした。
沙都子と梨花も気を使って先に帰っていった。
露伴はレナと二人きりになるが、何の用があるのかまったく心当たりがない。
レナに促され、二人は教室へと戻っていくのだった。

露伴とレナは無人の教室へと戻ってきた。
教師や営林署職員が学校にいるうちは施錠されないようだ。
レナが自分の机に座ったので、露伴は隣の机に腰掛けた。

露伴「それで、何の用なんだい?」

レナ「露伴さんはなんだと思うのかな?かな?」

露伴「さっきから考えてるんだけど、思いつかなくてね。」

レナ「あれれ、露伴さんはなんでもお見通しだと思ったのになぁ。」

露伴「それじゃあ、僕が推理できる範囲の話なんだな・・・。・・・圭一君のこととかかい?」

 

レナ「ぶー。ざんねんでしたー。違うよーぅ。レナも圭一くんと魅ぃちゃんのことは応援してるんだよ?」

露伴「そうかい。昼間ので怒ってるのかと思ってね。」

レナ「ううん。露伴さんの言うとおりだし、レナは二人のこと応援するよ。」

露伴「そりゃよかった。レナちゃんを怒らせると鉈で殴られるかねないからね。」

レナ「あれ?露伴さんの前で鉈持ってきたことあったかな?」

露伴「いや、なんとなくイメージだ。それより、何の話だい?」

レナ「うーんとね・・・、お父さんの話なんだけど・・・。」

露伴「僕はレナちゃんのお父さんに会ったことないぞ。」

レナ「あ、うん。そうなんだけど、ほかの人には相談しずらくって。露伴さんなら何かいい答えを教えてくれるかと思ったんだよ。」

露伴「ふーん。まぁ、話してみなよ。」

レナは父について話す。いや、正確には彼女の両親。
それと父の愛人についての話だった。

要約すると話はこうだ。

彼女の父は母と別れてから仕事もせずに愛人に貢いでいた。
その愛人が行方不明になり、またよろしくない店に通い続けている。
どうしたらいいものだろうか。

短くまとめると、この3行が彼女の話だった。
もう少しレナが話した内容を詳しく書いておこう。

彼女の一家は母の仕事の都合で雛見沢から茨城へと引っ越した。
その後、母は不倫をし、最終的には離婚。レナを引き取ろうとする。
しかし、レナは父と雛見沢に戻ることを決めた。
彼女たちは雛見沢に戻ってきた。母の代わりの慰謝料と共に。

雛見沢に戻ってからの父は定職につかなかった。
母からの慰謝料は父が働かずに日々を過ごすのに十分な金額だったのだ。
父の日々とは、その金を使い、興宮の風俗店に通う日々。
そしていつしか見つけてきた愛人に貢ぐ日々へとなった。

最近はその愛人の行方がわからなくなり、父は再び店へと通うようになった。
以前からレナは父をなんとかしなければと思っていたらしい。
しかし、他人に相談しずらく、自分の心に留めていたのだという。
そこで、雛見沢の人間ではない露伴に、相談をしてみようかと考えたそうだ。

露伴「ふーん。まぁ大体はわかったよ。で?僕にどうしてくれって言うんだい?お父さんをぶん殴って働かせればいいのか?」

レナ「あはは、それで働いてくれればいいんだけど・・・。どうしたらいいのかなって思って聞いてみたんだよ。」

露伴「レナちゃんはどうしたらいいと思うんだい?」

レナ「うーん、やっぱりお父さんにはちゃんと働いてほしいと思うかな。かな。お父さんとちゃんと話したほうがいいのかな、って思うよ。」

露伴「そうかい。じゃあ、話は終わりでいいよな?」

露伴は机から立ち上がり、教室を出て行こうとする。
レナは意味がわからず、露伴を眺めていたが、露伴が帰ろうとしていることに気づき声を出す。

レナ「はぅー、露伴さんひどいよ。ひどいよ。まだレナの話は終わりじゃないよ。」

レナの制止を聞き、露伴は再び机に腰掛けた。
露伴はなにやら不満そうに口を開いた。

露伴「レナちゃん、人に相談する場合。2つのパターンがある。ひとつはどうしたらいいかまったくわからない場合。
もうひとつは、どうしたらいいかはわかっているが、それが正しいのか自信がない。賛成されるしろ反対されるしろ他人に後ろ押ししてもらって選択をしたい場合だ。いまの君はどっちだい?」

レナ「うーん・・・。一応、後者になるのかな?かな?」

露伴「そうだね。父にどうして欲しいのか、君はもう考えている。それで、なんで僕に話したんだい?村の人間じゃないからかい?」

レナ「・・・。」

露伴「さっきのパターンの話に戻るぜ?前者の場合なら、僕に相談してくれれば僕も思いつくことを答えるよ。君より年上なんだし、僕に相談してくれてもいいと思う。
でも、後者なら、僕に相談するのが正しいのかい?」

レナ「はぅ・・・。じゃあ誰に話せばいいのかな?かな?」

露伴「それは、僕にはわからないが僕じゃあないと思うぜ。たとえば、君にとって魅音ちゃんは何だい?」

レナ「魅ぃちゃんは、友達・・・かな?」

露伴「その友達は、君が相談を持ちかけたら乗ってくれないのかい?君の意見を後押しして助けてくれないのかい?」

レナ「魅ぃちゃんは、相談に乗ってくれるとおもうけど・・・。」

露伴「父が無職で恥ずかしいってかい?それとも愛人に貢いでて恥ずかしいか?そんなことで相談できないような友達なら、僕はいらないね。」

レナ「はぅ・・・。」

露伴「僕は康一君っていう親友がいるがね、もし僕が君の立場ならすぐに相談するね。友達っていうのはそういうもんじゃないのか?」

レナ「うん・・・。」

露伴「おいおい、僕だって好きでこんなこと言ってるんじゃあないんだぜ?察しのいい君ならわかるだろ・・・。」

レナ「あはは。そうだね、露伴さんは意地悪なフリして、いい人だからね。」

露伴「ふん。そういう余計なことは言わなくていいよ。」

レナ「あはは、ごめんね、ごめんね。ちゃんとレナの友達に相談するね。」

露伴「あぁ、そうしてくれよ。」

レナ「でもでも、レナは露伴さんも友達だと思ってるんだよ?」

露伴「・・・それはどうだろうね。」

レナ「あはは、素直じゃないな、露伴さん可愛いな。」

露伴「う、うるさいぞ。さっさと君の身近な友人に相談しろよ。」

レナ「あはは。そうするね。聞いてくれてありがとう。露伴さん。」

露伴「・・・。・・・僕も、君の友達なんだろ?」

レナ「うん。露伴さんも友達だよ。あはは。」

レナの顔はとても可愛らしい笑顔だった。
父の話をしているときのレナはずっと悲しい顔をしていた。
露伴は自分が彼女を笑顔にさせたと思うと、少しうれしくなるのだった。
露伴ももう雛見沢の子供たちの友達なのだ。

話を終えた露伴たちは帰ることにする。
二人は再び校庭を抜け、別れるところまできた。

レナ「それじゃあ、露伴さん。今日は本当にありがとね。」

露伴「あぁ、大したことじゃないよ。」

レナ「うーん。とっても大切なことを教わったと思うよ。友達ってとっても大切だと思うな。」

露伴「それじゃあ、友達に相談するだけじゃなくて、友達の相談にも乗ってやるんだな。」

レナ「そうだね。最近、魅ぃちゃんに何かあるのかな?かな?」

露伴「やっぱり、レナちゃんは鋭い子だ。猫をかぶりすぎだよ。」

レナ「あはは。なんのことかな?かな?」

露伴「まぁ、魅音ちゃんより詩音ちゃんのほうに悩みがあるんだが。」

レナ「詩音ちゃん・・・?圭一くんが言ってた妹さんかな?」

露伴「あぁ、あんまり姉妹仲がよくないみたいでね。どうにかしてあげたいんだけど・・・。(発症されるわけにはいかないからな。)」

レナ「そっか、じゃあレナも魅ぃちゃんから相談されたらちゃんと聞いてあげるね。」

露伴「あぁ、そうしてあげてくれよ。それじゃあ、そろそろ暗くなってくるし、帰ろうか。」

レナ「そうだね、露伴さん、またね。」

露伴「あぁ、またね、気をつけるんだよ。」

レナは嬉しそうに帰っていった。
露伴も沙都子の待つ家へと歩き出す。
すると、朝から大人しくしていたやつがしゃべり始めた。

羽入「ロハンはみんなに頼られているのですね。」

露伴「さぁね。僕は知らないよ。」

羽入「あぅあぅ。お祭りの出し物を任されたり、レナの相談に乗ったりすごいのですよ。」

露伴「梨花も言っていただろう。祭りの件は、実行委員会のテントに入れれば、富竹と鷹野の死の情報が一番早く入手できる。
綿流しまでに鷹野とは接触するつもりだが、彼女の死を止められるかはわからないからな。(僕は止める気は元からないけどな。こいつにはこう言っておいたほうがいいだろう。)」

羽入「そうなのですか?ボクはそんなこと思いつかなかったのです。梨花もロハンもすごいのです。」

露伴「レナちゃんの件も同じだ。彼女の家庭環境が発症の要因になっている可能性がある。その影響を少しでも取り除いておいただけだ。」

羽入「だったら、ロハンがレナのお父さんを殴って仕事させたほうがいいんじゃないのですか?」

露伴「それじゃあ何の解決にもならないだろう。馬鹿だな。」

羽入「あぅあぅ・・・。」

露伴「レナちゃんには、ちょっと悪いことをしたかな、とは思うけどね。」

羽入「そうなのです。もっと親身に相談してあげればいいのに、ロハンは素直じゃないのです。」

露伴「そういうことじゃない。彼女は両親のせいで恋愛に対して嫌悪感を持っているみたいだった。僕はレナちゃんは圭一君にそんなに本気じゃないと思っていたんだがね。
その嫌悪感から本気になれていないのかもしれない。」

羽入「ロハンの言うことはよくわからないのです。あぅあぅ。」

露伴「魅音ちゃんと圭一君をくっつけようとしたのは失敗だったかなってことだよ。レナちゃんも圭一君を好きかもしれないってことさ。」

羽入「レナは圭一を好きだと言っていたのです。ロハンは聞いていなかったのですか?」

露伴「・・・少し黙ってろ。オヤシロ様ってのは馬鹿の神様なのか?」

羽入「あぅあぅー。神様に馬鹿って言っちゃいけないのです。馬鹿っていうロハンが馬鹿なのですー。あぅあぅ。」

露伴「ふんッ。」

露伴は羽入を無視して帰りを急ぐ。
沙都子がもう料理を始めている頃だろう。
今日はなんとか沙都子に怒られない時間に帰れるようだ。

■TIPS
罰ゲーム—-

圭一と魅音は仲良く下校する。
今日は露伴が来たこともあり、話題には尽きない。
楽しくしゃべりながら歩くうちに、魅音の家への曲がり角が近づいてくる。

圭一「じゃあさ、綿流しのお祭りのときは俺が司会やるって。露伴さんのすごさをみんなに伝えるのは俺の仕事だっ!」

魅音「そうだね。圭ちゃんが司会をやれば客寄せはばっちりだねぇ。私は何で盛り上げようかなぁ。」

圭一「他の部活メンバーで出し物でもやればいいんじゃないのか?」

魅音「うーん、梨花ちゃんの奉納演舞があるからねぇ。沙都子も露伴さんの手伝いをするって聞かなそうだしねぇ。」

圭一「そうだよな、沙都子のやつすっげぇなついてるもんなぁ。年の離れた兄妹に見えるぜ。」

魅音「兄妹ねぇ・・・。おっと、もう家だね。じゃあ、圭ちゃん。また明日ねー。」

ついに魅音の家への曲がり角へと到着した。
魅音は圭一に別れを告げ、立ち去ろうとした。

圭一「あ、魅音・・・ちょっと待ってくれ。」

魅音「うん?おじさんはバイトがあるからそんなに時間がないんだよ。長話なら、また今度聞くよ?」

圭一「いや、あの・・・そんなに時間はかからないぜ・・・。」

魅音「どうしたの圭ちゃん、顔真っ赤だよ?もしかして、愛の告白ー?おじさん照れちゃうなー。あっはっはー。」

圭一「いや、ち、ちがうんだよ。魅音、ちょっと目を閉じててくれ。」

魅音「うん?こうでいい?」

そう言って魅音は素直に目を閉じた。
圭一は覚悟を決める。

 

圭一も目を閉じ、そっと魅音の唇に自分の唇を重ねた。
魅音の体がビクッっとするのがわかる。少し力みすぎて上唇が痛かった。
だが、こうなってはもはや関係ない。圭一は心の中で必死に数を数える。

圭一「(1・・・、2・・・、3・・・、。)」

3つ数えると圭一は唇を離した。
目を開けると、魅音も目を開け、じっと見つめてくる。

圭一「ああ、あ、、そそ、その・・・。」

なんとか言葉を出そうとするが、気が動転していてうまくしゃべれない。
そんな圭一を制して魅音が口を開いた。

魅音「圭ちゃん・・・あの、もう1回・・・。」

そう言って魅音は再び目を閉じ圭一に顔を近づけた。

 

混乱していた圭一はその魅音の顔を見ると、なぜか気持ちが落ち着いてきた。
そして再び唇を重ねる。今度は上唇が痛かったりしない。
秒数も数えたりはしない、二人が満足して唇を離すまで口付けは続いた。
2度目の口付けを終え、落ち着きを取り戻した圭一は言い訳を始める。

圭一「あ、あの・・・露伴さんの罰ゲームが・・・さ・・・、『魅音に3秒以上キスをする』だったからさ。その・・・後回しにしてもあれだし。その、あの・・・。」

圭一は喋れば喋るほど混乱していく。
魅音はそれを聞き、ちょっとがっかりしたような表情を見せて俯いた。
それがさらに圭一を混乱させる。もはや圭一の言葉は言葉になっていなかった。

魅音「圭ちゃんさ・・・2回目は、罰ゲームじゃないよね・・・?」

魅音がポツリと呟いた。
圭一はなぜか反射的に答えていた。

圭一「あ、あぁ、罰ゲームじゃない・・・。」

その答えを聞くと、魅音は少しだけ照れるように微笑み、もう一度目をつむった。
圭一はその魅音の表情を見ていると、再び自然と口付けをしていた。

3度目の口付けを終えると、魅音はとびっきりの笑顔を見せた。
そして、別れを告げ、家へと走り去ってしまう。

圭一は返事もできずに立ち尽くしていた。
いまだに何が起こったのか自分でもわかっていないようだった。

1983年(昭和58年)
6月15日(水)

沙都子と梨花は学校へと行き、露伴は一人村を散策していた。
露伴には鷹野三四と接触する方法が思い浮かばなかった。
明日の入江との接触があるので無理な行動はしないという前提がある。
そのため、露伴には偶然富竹や鷹野に会う可能性にかけるくらいしかすることがなかったのだ。

いや、正確には露伴は入江に会うまでは何もするつもりはなかった。
しかし、梨花達の家にいるわけにもいかず、羽入がうるさいので村を散策しているだけだった。

露伴は詩音に会って話をしようとも考えていた。
しかし、昨日の夜には電話が繋がらなかった。

そしてこの日の夕方、学校が終わっているであろう時間に電話をかけたがやはり繋がらなかった。
露伴は雛見沢に来てから初めて、何事もない日を過ごすことになる。
1日を終え、帰宅してからも特に変わったことはなかった。

変わったことといえば。
魅音からの伝言で明日の綿流し実行委員会の会合への出席をするよう言われたこと。
レナが学校を休んだらしいということくらいだろうか。

会合は出し物の都合だろう。レナも父と話し合いでもしているに違いない。
今の露伴にとってとくに興味が出るようなことは何一つなかった。

1983年(昭和58年)
6月16日(木)

この日も露伴は午前中は無駄に過ごす。
特にするべきこともなかったし、富竹や鷹野に出会うという幸運に恵まれることもなかった。

午後になると、露伴は入江に出会うため興宮へと向かった。
野球の練習が始まるのは学校の授業が終わってから。
子供たちが興宮まで自転車で移動する時間を考えると、まだまだ始まらない。

露伴は雛見沢探索に飽き、図書館で時間を潰すためだけに早めに興宮に来たのだ。
しかし、図書館にも露伴の暇を潰せるものはなかった。

戯れに新聞を見てみるが、自分にとっては過去の出来事。
無論、知らないことばかりだが、露伴にとって意味はない。
一面に史上最年少将棋名人誕生と書いてあったので、将棋の本を読んでみたりもした。

ただただ無駄に時間を過ごす露伴に羽入は呆れているようだった。

羽入「露伴・・・、綿流しのお祭りまではもう時間がないのです。それまでに梨花を、いえ、富竹や鷹野を殺す犯人がわからなければ・・・。」

露伴「そうだな。このままいけば5年目の祟りは起こるだろうな。」

羽入「あぅあぅ。それなのにこんな暇をしていていいのですか?」

露伴「これから入江に会うんだ。会ってみないとどうしようもないだろう。」

羽入「入江に会うのはわかっているのですが、それでどうするのですか?」

露伴「鷹野三四と接触できるようにしてもらう。鷹野三四が実質の診療所の長なんだろう?(鷹野のことは黙っていたが、鷹野三四と接触すること自体は隠せないしな。)」

羽入「鷹野から全てを調べるつもりなのですか?」

露伴「少なくとも、彼女がもっとも情報を持っているだろう。下っ端や実質研究員の入江より、危機管理者の鷹野三四に当たったほうがいい。
鷹野に接触できたなら、天国への扉(ヘブンズ・ドアー)を使うつもりだ。入江は、どうしても話がつかないなら天国への扉(ヘブンズ・ドアー)を使わせてもらうか。」

羽入「わかったのです。それでは鷹野との接触に期待していますです。」

露伴「あぁ、まずは入江をうまく使わないといけないがな。そろそろグランドへ行くか・・・。」

露伴は図書館を出る、興宮小学校はすぐ近くだった。
小学校へと近づくと野球の球を打つような音や子供の声が聞こえてくる。
どうやら、練習は始まっているようだ。

露伴が学校の正門をくぐると、入江の姿はグラウンドの中にあった。
子供と共に練習に参加し、指導しているようだ。
露伴は入江に気づかれないようその様子を眺めていた。

やがて入江の指導も終わり、子供たちだけでの練習が始まる。
入江はベンチに座り子供たちを見ているようだった。
露伴は入江へと近づいていく。すると入江は露伴に気づいたようだ。

入江「おや、こんにちわ、露伴さんでよかったですよね?」

露伴「えぇ、こんにちわ。入江先生。」

入江「お名前を覚えていただけているとは光栄です。今日はどうなさったんですか?」

露伴「梨花ちゃんから聞いたんですよ。ぜひ野球の練習を見に来てほしいと入江先生が言っていたとか。」

入江「なるほど。本当に来て頂けるとは思っていませんでしたよ。沙都子ちゃんの件を聞きましてね。」

露伴「叔父のことですか?」

入江「えぇ。私も去年からあの叔父のことは知っていました。帰ってきたと聞いたときは・・・、どうしようかと思ったのですが。
露伴さんが追い払ってくれたと聞きました。いったいどうやったんですか?」

露伴「あまり人様に誇れる方法じゃあないんですよ。叔父は麻雀を生業にしていたみたいなんで、麻雀でちょこっと懲らしめたんですよ。
まぁ、そのあと殴りかかってきたんで実力行使した部分もありますが。」

そう言って露伴は苦笑いした。

入江「暴力を肯定するわけではありませんが・・・。あの叔父はかなり乱暴な人間です。正当防衛ということであれば、露伴さんが非を感じることはありませんよ。」

露伴「そう言ってくれるとうれしいですね。」

入江「私は沙都子ちゃんのことを本当に大切に思っています。未婚の私には無理だったんですが、養子として迎え叔父から沙都子ちゃんを救うことを考えたこともありました。
結局、他人である私達にはもうどうすることもできなかった。そう考えていました。しかし、あなたは沙都子ちゃんを救ってくれた。
あなたのとった方法が人として正しいのか、それは私にはわかりません。ですが、私は、入江京介は沙都子ちゃんを助けてくださった露伴さんに心から感謝しています。
本当にありがとうございました。」

露伴「改まって言われると恥ずかしいですよ。僕は泊めてもらってる恩を返しただけなんです。」

入江「理由がなにであれ、あなたは沙都子ちゃんを救った。それが全てです。沙都子ちゃんもあなたが大好きなようです。うらやましいですよ。」

露伴「入江先生も長い付き合いなのではないんですか?」

入江「そうですね。沙都子ちゃんとは長ーい付き合いです。そもそも私と沙都子ちゃんにはご主人様とメイドという大切な関係があります。
私達二人の間にはメイドさんの純白のエプロンのように清らかな絆があるんです。いくら露伴さんでも、私の沙都子ちゃんを奪うというなら容赦しませんからね。」

露伴「あ、ははは、そんなことしませんよ・・・。(この人も前原父と同じタイプのような気がする・・・。メイド喫茶にでも行ったら発狂するんじゃないか?)」

入江「露伴さんッ!!」

露伴「は、はい?」

入江「今あなたの目にとても美しい光景が映っていました。メイドさん達がたくさんいらっしゃるお洒落な喫茶店のような・・・。
やはり露伴さんもメイドがお好きなんですね。いま目に映ったのはなんなんですか!?まさかそんな場所が実在しているんですか!?」

入江がすっかりメイドモードになり、しばらく付き合わされることになる。
露伴は雛見沢には変人が多いと思った。同人作家やらカレー狂やらメイド王やら。

そのメイド王の話もなんとか一区切りついたようだ。

入江「すみません、興奮してしまって。てっきり露伴さんもメイド仲間かと思いまして・・・。まぁ、お嫌いではないようで嬉しいです。」

露伴「ははは。まぁ、その話はまた今度にしましょう。」

入江「そうですね。私はあなたに沙都子ちゃんの件のお礼を言いたかっただけですから。」

露伴「それじゃあ、お礼ついでに僕のお願いを聞いてもらえませんか?」

入江「お願い・・・ですか。沙都子ちゃんの恩人に言われては断れませんね。私にできる範囲でしたら、どうぞおっしゃってください。」

露伴「いえ、大したことじゃあないんですよ。僕が雛見沢に来ている理由はご存知でしたっけ?」

入江「漫画の取材ですよね?この前お会いしたときに聞いた気がします。一応、富竹さんからも聞いています。オヤシロ様の祟りを調べているとか。」

露伴「えぇ、それでですね。診療所の鷹野三四さんというかたが雛見沢の風土に詳しいと聞いています。それで紹介していただきたかったんですよ。」

入江「そうですか。まぁ、そのくらいでしたら大丈夫ですよ。鷹野さんは人に雛見沢の風土について話すのが好きですからね。紹介すれば話してくれると思います。」

露伴「それではよろしくお願いします。できれば、早めにお願いしたいんですが大丈夫ですか?」

入江「いつごろがいいですか?鷹野さんに聞いておきますよ。」

露伴「実は綿流しのお祭りが終わったら、取材を終えて帰らないといけないんですよ。できるだけすぐがいいんですが・・・。」

入江「そうですか・・・。」

入江は少し考え込んだが、すぐに返答した。

入江「では、わかりました。明日の昼に診療所に来ていただけますか?お昼休みの間に鷹野さんを紹介しますよ。お昼休みは12時半から2時半までなので、その時間に来てください。」

露伴「入江先生、申し上げにくいんですが、雛見沢の人はお嫌いな話になるかもしれません。他の職員の方が祟りの話を耳にされると気分を悪くされると思います。
できれば診療所の外でお会いしたいんですが。」

入江「えぇ、私も少しは鷹野さんから話を聞いているのでわかってますよ。他の方には聞こえないよう応接室をお貸ししますので、ご安心ください。」

露伴「そうですか。それでは明日の昼に伺いたいと思います。よろしくお願いします。」

入江「はい、お待ちしております。露伴さんにメイドの素晴らしさをお伝えする資料も準備しておきますので、覚悟してきてくださいね。」

露伴「ははは、それは遠慮したいですねぇ。」

一度固くなった雰囲気を入江が冗談で紛らわせてくれた。
そのあとも二人は村の子供たちについてなど雑談を続けた。
入江は本当によくできた人間だった。
診療所では鷹野がもっとも権限を持っているかもしれない。
だが、入江は人としても医者としても素晴らしく、雛見沢の診療所所長としてふさわしい人間だった。
露伴は彼をただの研究者扱いしたことを少し悪く思った。

日が落ち始め、入江が子供たちに練習を終わるように指示する。
露伴もそろそろ実行委員会の会合へと向かわなくてはならない。
入江にそれを伝えると、一緒に行くように誘われた。

入江は綿流し実行委員会の総務部で医療担当をしているそうだ。
ちなみに露伴はイベント部の出し物に参加することになる。
自転車も車に積んでくれるそうなので、露伴は入江の厚意に甘えることにした。

綿流し実行委員会の会合は、古手神社の境内にある集会所で行われる。
露伴と入江が着いたときには、すでに何人かの村人が中に入っていた。
集会所の中で入江と話をしながら待っていると、圭一が入ったきた。

圭一「あ、露伴さーん。こんちわっす。あれ、そちらの方は?」

入江「前原さんですよね?入江と言います。はじめまして。入江診療所の所長をやっています。よろしくお願いします。」

露伴「圭一君は病院に行くことはなさそうだからなぁ。」

圭一「へへッ。まぁ、体だけは丈夫っすからね。」

露伴「いやいや、なんとかは風邪ひかないってやつだよ。」

圭一「露伴さん、それはひどいですよ!学校じゃあ一番勉強できるんですよ?」

露伴「そうなのかい?意外だねぇ。ふふふ。」

圭一「あー、もう絶対信じてないなぁ。」

梨花「露伴の頭がよすぎるのです。しょうがないのですよ。」

いつの間にか梨花が現れ、圭一の頭を撫でていた。
そのまま梨花も混ぜ雑談になる。露伴たちは会合が始まるまでそうしていた。
ちなみに圭一は露伴の出し物の司会をするため、今日の会合に来たらしい。
梨花はもともと奉納演舞があるので、会合には毎回参加していたそうだ。

会合の時間になったため、公由村長がはじまりの挨拶をする。
魅音が用事があったため遅れて来るそうだ。
そのため、露伴と圭一に自己紹介を求める。

露伴も圭一も無難な挨拶を済ませたところで魅音が到着した。
その後はいろいろと決めることがあるらしく、各部に分かれて話し合いをする。
露伴と圭一は新参なので何もわからなかったが、村人がいろいろと必要なことは教えてくれた。

会合も終わりになり、公由のだらしない締めの挨拶の後、解散となる。
魅音はまだ決めることがあると言うので、圭一と入江は帰ることにする。
露伴も彼らを神社の階段の下まで送ると、沙都子の待つ家へと帰ることにした。

露伴が階段を登り、集会所の前を通ると魅音に呼び止められた。

魅音「露伴さん、ちょっといい?」

露伴「うん?何か決めることでもあるのかい?」

魅音「ううん、会合はもう終わりだよ、ちょっと。」

そう言って、魅音は露伴を呼び寄せる仕草をする。
露伴は人前では話せない話なのだと気づき、魅音についていく。
そのまま神社の境内裏の人気のない場所へと二人は歩いていった。

露伴「このへんでいいんじゃあないか?」

魅音「うん。そうだね。」

露伴「で、何の用だい?」

魅音「露伴さん、ここからは友人の園崎魅音じゃない。園崎家頭首代行園崎魅音として話をさせてもらうよ。」

魅音がそういうと、魅音の目つきがかわる。
いままで露伴に見せたことのない鋭い目つきだった。

露伴「わかった。話を聞こう。」

魅音「園崎家頭首お魎がお会いしたいと言っています。このあと、本家のほうにお越しにになって頂けますね?」

魅音の口調は強いものだった。
そこには、露伴の意思は関係なく強制的に本家へと連れて行く意思が込められていた。
露伴もそれを感じ取る。

露伴「わかったよ。でも、夕食がまだなんだ。沙都子ちゃんが用意してくれてると思う。夕食の後に伺うんでいいかい?」

魅音「・・・。わかりました。私が本家に戻り次第、迎えの車を寄こします。階段のところで待たせておきますので、お乗りください。」

露伴「あぁ・・・。で、頭首様は何の用なんだい?」

魅音「本家で頭首本人からお聞きください。私からの用件は済みましたので、失礼します。」

それだけを伝えると、用件を終えた魅音は硬い表情のまま立ち去った。
羽入が何事かと騒ぎ立てていたが、露伴は無視して家へと戻る。
流石の露伴もまだ何が起きているのかはわかっていなかった。

露伴は余計なことを言うなと羽入に忠告した後、家へと戻った。
すでに梨花と沙都子が夕食の準備を済ませ、露伴を待っていた。

沙都子「露伴さん、遅いですわよ。何をやってたんですの?」

露伴「あぁ、すまない。ちょっと魅音ちゃんに呼ばれてね。このあとお酒の席に呼ばれたから、夕飯を食べたら園崎家に行くことになった。」

沙都子「あら、そうでしたの。大人の方はお付き合いが大変ですわね。」

露伴「まぁ、そういうわけだから、食べたら出かけるよ。」

露伴は特に何もなかったかのように振る舞い、食事を終える。
沙都子に鍵はポストに入れておくから帰ってきたら自分で開けるように言われた。
夜の間に帰ってこれるのかはわからないので、園崎家に泊まってくるかもしれないと伝えておいた。

露伴が境内を抜け階段を降りると黒塗りのリムジンが1台止まっていた。
中から男たちがぞろぞろと出てくる。その中の髭面の男が話しかけてきた。

??「岸辺露伴さんですね?」

露伴「あぁ。そういえば詩音ちゃんのアパートで見かけた人かな?」

??「はい、葛西と言います。園崎家までお送りしますのでお乗りください。」

露伴「ご苦労様。」

露伴はそう言うと、葛西の案内通りに車に乗せられる。
後部座席で2人の男に挟まれて乗る形になった。
よほど露伴を逃がしたくないようだ。

車内では会話をすることもなく、園崎家へと着いた。
立派な門の前に案内される。門には園崎と書かれた表札がかかっていた。

葛西が呼び鈴を押した。ビーーー。ビーーー。
呼び鈴とはインターホンではない。相手からの返答はない。
露伴たちはしばらく門の外で待つことになる。

やがて、中から人が歩く音が聞こえる。砂利を踏みしめる音が。
そして閂がゴトリと重い音を立て、扉が開いた。
扉を開けたのは魅音だった。

魅音「葛西さん、ご苦労様です。」

葛西「いえ。」

魅音「さぁ、露伴さん、お入りください。ご案内申し上げます、どうぞこちらへ。」

魅音は礼儀正しく頭を下げる。
露伴は今の魅音が園崎家頭首代行であることを理解した。

露伴「お邪魔いたします。」

露伴は一言だけ答え、魅音に付いていく。
暗くてよく見えなかったが、広い庭を通りぬけ、母屋へと案内された。
葛西達も母屋まで案内された後、玄関からは自分達でどこかの部屋へと向かって行った。

そのままとある部屋の前まで案内される。
露伴はその部屋にお魎がいるものだと思っていた。

魅音「こちらに露伴さんにお会いしたいという方達がいます。頭首も彼女達との面会を許されました。20分ほどしたら使いを寄こしますので、頭首の部屋にいらしてください。」

魅音はそれだけ告げ、頭を下げると廊下の奥へと消えていった。
露伴はどうすることもできず、障子を開け、案内された部屋へと入ることにした。

障子を開けると、露伴の知る二人の顔が飛び込んでくる。
露伴は冷静を装い、部屋に入り障子を閉めた。

部屋にいたのは、レナと詩音だった。

レナと詩音は露伴が入ってきたときから俯いていた。
露伴が用意されていた、自分のためであろう座布団へと座る。
それでも彼女達は口を開けなかった。
露伴は少し考えた後、最初の言葉を発した。

露伴「君達が一緒にいたのは驚いたが、大体何があったかわかったよ。」

露伴がそう言うと、二人は互いの顔を見合わせる。
詩音はすぐにまた俯いたが、レナは露伴の顔を見て話し始めた。

レナ「露伴さんは察しがいいからわかっているかもしれないけど、露伴さんがここに呼ばれたのはレナ達のせいなんだ。ごめんね。」

露伴「いや、レナちゃんがここまでやるとはね。ふふふ。僕の想像以上だったよ。」

レナ「あはは、やっぱりお見通しだね。だね。」

露伴が言った言葉は的確だったらしく、レナは乾いた笑いをしてみせる。
だが、それも続かない。レナはため息をついたあと、覚悟を決めたようだった。

レナ「あのね、露伴さん。私、露伴さんの言うとおりにしたの。魅ぃちゃんに相談してお父さんと話し合った。」

露伴「あぁ、学校を休んだと聞いたから、そうじゃないかと思ったよ。」

レナ「レナのことはね、解決したんだよ。それで今度はねレナが魅ぃちゃんの悩みを解決してあげようと思ったの。」

露伴「魅音ちゃんと詩音ちゃんの仲を取り持とうとしたわけだ。そこまでは僕の読みどおりなんだが・・・。」

レナ「あはは。余計なことしちゃったかな・・・。かな・・・。」

露伴「うーん、間違ったことはしてないんじゃないかい?僕としてはちょっと困るけどもね。」

詩音「私が余計なことを言ったんです・・・。」

露伴「君の悩みは解決したのかよ?」

詩音「レナさんが、鬼婆にいろいろ言ってくれて・・・。でも、その上で私が露伴さんの話をしちゃって・・・。」

露伴「悩みが解決したなら、余計なことじゃあないだろ。あまり気にするなよ。」

詩音「でも、鬼婆は露伴さんが祟りに関わってると思ってます・・・。」

露伴「ふふふ。大丈夫だよ。僕がやられると思うのかい?まぁ、一応詳しい話だけしてくれよ。」

露伴には魅音と詩音の仲を改善し、発症を防ごうという考えがあった。
そのため、先日レナに詩音のことをさりげなく伝えていた。
しかし、レナが園崎家まで巻き込んで二人の関係を改善することは読めなかったようだ。

何があったのかを簡潔に書こう。
レナは魅音に父の相談をし、翌日に父との話し合いをした。
父の問題が解決したレナは、魅音と詩音の関係について魅音から聞き出す。
そして、魅音と詩音の関係だけでなく、詩音と園崎家の関係も修復しようとしたのだ。
レナは露伴の予想以上の結果をだし、詩音と園崎家の関係を修復する。
だが、その際に詩音から露伴の情報が園崎家に伝わってしまった。
これがここ2日間、露伴の知らない間に起きていたことだ。

園崎家にとって、オヤシロさまの祟りはマイナスでしかない。
村のイメージとしても、自分達と警察の関係にしても快く思っていなかった。
もし露伴が真相を知っているなら、それを聞き出す必要がある。
そして5年目の祟りが起こるなら、それを阻止したい。
園崎家の考えはそんなところだった。

大方のあらすじを話し終えると、二人はまた俯き謝り続けていた。
どうやら園崎家は露伴に何をしてでも真相を聞き出すつもりのようだ。
そのため、二人は責任を感じここで露伴を待っていたらしい。

露伴「ほら、もういいって。この岸辺露伴がヤクザくらいにどうにかされると思うのかい?ふふふ。心配するなよ。」

露伴が二人に強がっていると、廊下を誰かが歩いてくる音が聞こえてきた。
どうやら、お迎えがきたようだ。

露伴「じゃあ、僕は行ってくるよ。二人は、もう遅いから帰りなよ。」

二人が何と返事をしていいかわからず困っていると、露伴は部屋から出て行ってしまった。

露伴は迎えに来た葛西に案内され、奥の部屋へと向かう。
何人もの人間の気配がする障子の前まで案内された。
どうやらお魎だけというわけではないようだ。
露伴が覚悟を決め、頷くと葛西が障子を開けた。

部屋の中にはかなりの人数がいた。
布団に入ったまま体を起こす老婆が中心に居座る。
魅音の母だろうか。緑髪の美しい着物姿の女性が老婆の真横に座っている。
そしてそこから老婆を囲むように数人の男と魅音が座っていた。
部屋の端にも何人かの男が座り控えている。

その圧倒的な光景に露伴は立ち尽くした。

葛西は一礼をしたあと部屋の端に座る男達のもっとも上座に座った。
おそらく、彼らはお魎を守るためにいるボディーガードのようなものだろう。
魅音が座る位置を考えると、老婆の周りに座る男たちは園崎家の権力者だと考えられる。

露伴は状況を認識し終えると、心を落ち着け、部屋に入ることにした。

部屋に入ると、露伴は障子を閉め。
老婆の正面に正座した。そして口を開く。

露伴「初めまして。岸辺露伴と申します。雛見沢へは数日前より訪れております。園崎家党首お魎さんへのご挨拶が遅れて申し訳ございません。」

露伴はそう言うと、両手を付き、深々と頭を下げた。

??「おやおや、礼儀正しいお人だねぇ。ねぇ、母さん?」

老婆「頭をあげぇ。」

老婆が一言だけ声を発すると、露伴は頭をあげた。
老婆は露伴をにらみ付けている。

老婆の目は俗に言う”鷹の目”。園崎家党首が持つ圧倒的な風格を漂わせる鋭い目だった。
そしてその横に控える女性もまた、同じ”鷹の目”で露伴を見据えていた。

しかし、露伴も負けてはいない。
露伴は一度目をすっと閉じると、ゆっくりと目を開け、老婆に限らず親族達を見渡した。
その露伴の睨みに親族の男達は顔を背けた。”鷹の目”を持つはずの魅音もその顔を背ける。

スタンド使いとしてこれまで幾度と死線を潜り抜けてきた露伴の目。その風格。
それはもはや、人間の目ではなくなっていた。いや、人間どころか動物ですらない。
異形の者の目となった露伴の睨みに、ヤクザの大幹部である親族すらも目を合わせることはできなかった。

露伴を睨み返すことができたのは、老婆とその横の女性のみ。
研ぎ澄まされた”鷹の目”を持つ二人だけが、露伴を見据えることができた。
露伴はそれを見て、この二人が今日の場でもっとも力を持つ二人だと認識した。
そのうちの一人である女性が口を開く。

??「そんなに怖い顔で睨まないでおくれよ。ふふふ。」

それを聞き、老婆も口元をニヤリと歪ませている。
露伴はその言葉を受け、睨みをやめた。

??「もうお分かりだとおもうけど、こちらが園崎家党首お魎。私はその娘、園崎茜。本来は魅音が取次ぎをするんだけど、アンタとは”友達”らしいからね。私が取次ぎをさせてもらうよ。」

露伴「魅音ちゃんにお世話になっております。よろしくお願いします。」

露伴は軽く一礼した。
その様子を見て茜はくすくすと笑う。
おそらく露伴が普段こんなに礼儀正しい人物ではないのに感づいているのだろう。

茜「それじゃあ、とっとと本題に入ろうかねぇ。レナちゃんと詩音から大体の話は聞いてるかい?」

露伴「成り行き程度でしたら。」

茜「そりゃあ話が早いね。アンタ、オヤシロ様の祟りについて何か知ってるんだろ?それを話してほしいってことさ。」

露伴「オヤシロ様の祟り・・・ですか。」

茜「アンタがやばい話を知ってるっていうのは、詩音に聞いてるよ。アンタを警察に突き出したりはしないがね、ここまで来てもらったからには全部話してもらうよ。
黙ってれば帰してもらえるなんて甘いことは考えないことさね。」

露伴「・・・。」

露伴はしばらく黙りこんでしまう。
親類も言葉を発しないため、沈黙が続く。
その沈黙をお魎が破った。

お魎「だぁっとらんで、とっとと喋らんかぃな。帰ぇさねだけでねぐ、生きても帰ぇれんかもしれんよ?」

しかし、それでも露伴は喋らない。
お魎は気が長いほうではないらしい。
露伴がすぐに返答をしないと見て、怒鳴り散らす。

お魎「だぁっとったらわからんちゅうんじゃあああ!!こん餓鬼ゃ、だあが口聞いとんかわかっとらんかぁぁあああ!?」

お魎の罵声を浴び、やっと露伴は口を開ける。

露伴「申し訳ありません。これだけの人の前ではとても喋ることはできません。」

露伴がそう答えると、お魎は茜の耳元になにやら囁いた。
すると茜が葛西に目配せをする。葛西はうなずき、部屋から出て行く。
他の男達もそれに続いて出て行った。
部屋には園崎家の親族だけが残る形となる。

茜「これで満足かい?露伴さん。」

露伴「いえ、お魎さんと二人だけで話をさせて頂きたい。」

露伴はそう言うと、再び両手を畳につけ、先ほどよりもさらに深く頭を下げる。
そしてそのまま頭を上げることはない。
もはやこれは土下座しているのと変わらなかった。

茜「それは無理な相談ってもんだよ。頭首とどこの馬の骨かもわからないあんたを二人にできるとお思いかい?」

露伴「ですから、こうして頼んでいます。」

茜「駄目なもんは駄目だよ。頭をお上げ。」

茜が促すが、露伴は頭を上げない。誰も喋らないまま数分が過ぎる。
もうどれだけ時間がたっただろうかと露伴が考えていると、誰かの足音がした。

その誰かは露伴に近づいてくる、そして近くに正座した。

魅音「婆っちゃ。露伴さんは私の友達だ。絶対に婆っちゃと二人っきりになっても危害を加えたりしない。どうかこの通りだから、露伴さんの話を聞いてあげてよ。」

魅音はそう言うと、露伴と同じように深々と頭を下げた。

親族は魅音の行為に動揺したのか、ヒソヒソと何か話し合っている。
その会話を遮るように茜が言う。

茜「魅音。仮にも園崎の頭首代行がそんなに簡単に頭を下げるんじゃないよ。それに、この世の中に絶対なんてものはないさね。もし、万が一が起こったらどうするんだい?」

魅音「私がケジメをつけます。」

茜「『頭首』に万が一のことがあったら、そのケジメをつけると。その意味がわかって言ってるんだね?」

茜が『頭首』という言葉を強調する。
しかし、魅音は怯まなかった。

魅音「はい。露伴さんは私の友達です。絶対にそんなことは起こりません。ですから、どんなケジメでも私は受け入れます。」

茜は魅音からすぐに返答が返ってくると思わなかったようで少し驚いた顔をする。
そしてお魎と何かヒソヒソと話をした。
その話が終わると、茜は立ち上がり、その場の親族全体に向かって言った。

茜「今日はもう頭首はお休みになられる。魅音、露伴さんを客間に案内して布団を用意しな。皆様方も今日はもうお帰りになるか、お休みになるように。」

茜のその言葉を受け、親族達はぞろぞろと部屋を後にする。
皆、お魎に一言挨拶をすると出て行った。

親族が出て行っても、魅音と露伴は頭を下げたままだった。
それを茜が一喝する。

茜「魅音ッ!聞こえなかったのかい!!さっさと露伴さんを案内しな!!」

茜の剣幕に押され、魅音は頭を上げたようだ。
そして露伴に客間へ行くよう声を掛ける。

露伴は魅音の顔を立てるために頭を上げ、お魎に一礼してから部屋を後にするのだった。

魅音「露伴さん、ごめんね。私も露伴さんの味方になりたいんだけど・・・。」

露伴「ふふふ。気にするなよ。あぁいうお年寄りとヤクザには筋を通しといたほうがいいのさ。」

魅音「それじゃあ、露伴さん頭下げたのも全部演技ってわけ?」

露伴「ふふふ。僕を誰だと思ってるんだい?この岸辺露伴。死ぬまで誰にも屈服はしないよ、心はね。あんな表面上のことで話を聞いてくれるなら安いもんさ。」

魅音「あはは・・・。聞いてくれると・・・いいんだけどね。」

露伴「気にするなよ、自分で蒔いた種だからね。自分でなんとかするよ。」

魅音「露伴さん、いろいろありがとうね・・・。詩音のこと・・・。」

露伴「レナちゃんに礼を言うんだな。僕は何もしてない。」

魅音「うん・・・ありがとう・・・。」

露伴「・・・。」

客間に案内された露伴は布団を出してもらう。
魅音に礼を言うと、すぐに布団に入った。

羽入が何か騒いでいるが、関係ない。
流石に疲れた露伴はそのまま眠るのだった。

1983年(昭和58年)
6月17日(金)

入江診療所—-

入江「おかしいですね・・・。」

鷹野「入江先生、いつ来るんですか?お客様は。」

入江「もう来てもおかしくない時間なんですが・・・。」

すでに時間は2時近くになっていた。
午前の診療が終わってから拘束され続けている鷹野はだいぶ機嫌が悪かった。
さっきから入江に文句を言い続けている。なんとか入江は彼女をなだめる。
しかし、入江の努力が報われることはなかった。
その日、露伴が診療所へ来ることはなかった。

古手神社防災倉庫の2階(梨花達の家)—-

夜、電話を掛ける沙都子の姿があった。

とおるるるる とおるるるるる ぶっ

??「はい、もしもし。園崎ですけれど。」

沙都子「も・・・もしもし・・・。」

??「どちらさまですか?」

沙都子「・・・。ほ・・・、北条です・・・北条沙都子ですわ・・・。」

??「おやおや、沙都子ちゃんかい。こんばんわ。魅音の母の茜だよ。わかるかい?」

沙都子は相手が茜だと知り、安心する。
茜と面識があるわけではないが、電話の対応は優しい感じがした。
なにより、鬼婆やお手伝いの人間に出られるよりはましだった。

沙都子「茜さんですわね。こんばんわ。昨日の夜そちらにお伺いした露伴さんは知ってますかしら?」

茜「あぁ、漫画家の兄ちゃんね。その露伴さんがどうしたんだい?」

沙都子「その露伴さんがまだ家に帰ってこないんですわ。そちらにはお邪魔してませんこと?」

茜「・・・。いや、昨日の夜は泊まってたけど、今はうちにはいないねぇ。」

沙都子「そうですか、ご迷惑をおかけしましたわ。ありがとうございました。」

茜「いーえ、お役に立てなくてごめんよ。」

沙都子「いえいえ、それでは失礼しますわ。」

沙都子はそう言って受話器を置いた。

その後、梨花に相談するが、1日帰ってこないくらい様子を見ろといわれる。
沙都子は不安な気持ちを持ったまま床に就くのだった。

1983年(昭和58年)
6月18日(土)

通学路—-

圭一は朝から違和感を感じていた。
レナも魅音も昨日からどことなく元気がなかった。
魅音は祭りの準備で疲れているのだろう。
レナも話しかければ元気に振舞うので何か疲れているだけかもしれない。
鈍感な圭一はそう考え、気にしないことにする。
登校中、圭一は彼女らを元気にさせるため、一人ではしゃぎながら明日の祭りについて語っていた。

学校に着くと教室の雰囲気もいつもとは違っていた。この日は土曜日。授業は午前中だけだ。
次の日に綿流しのお祭りがあるということもあり、今日の子供達はいつになく元気だった。
友達と明日の約束をしたり、このあと何をして遊ぼうか話したり、そんな明るい雰囲気で教室はいっぱいだった。

しかし、その中に一人、元気のない少女を見つける。

自分の机にひじを突いて突っ伏している。
目開いているから寝ているわけではなさそうだが、
机の上の何もないところをじっと見つめていた。

圭一は気になり話しかけた。

圭一「おい、沙都子、目ぇ開けたまま寝てんのか?」

沙都子「・・・。」

圭一「おーい、無視することはないだろ?」

沙都子「余計なお世話ですわ・・・。放って置いてくださいまし。」

圭一はムっとする。いつもならイタズラを仕掛けてやるところだ。
しかし、今日の圭一はいつになく冷静だった。

沙都子は最近ものすごく機嫌がよかった。
露伴が雛見沢に来てから、沙都子が機嫌が悪い日など一度もなかったのだ。
その沙都子が急に元気がなくなった。なにかあったのだろうか。

圭一「沙都子、本当に大丈夫かよ?何かあったのか?」

沙都子「・・・。」

圭一「沙都子・・・ここで話づらいなら外へ行こうぜ。俺でよければなんでも相談に乗るからよ。」

沙都子「・・・。」

沙都子は圭一の目を一度見たあと、なにも言わずに教室を出て行った。
圭一もそれに続いて出て行く。さらにそれに気づいたレナも教室を出て行くのだった。

レナ「圭一くんッ!沙都子ちゃんッ!」

圭一「お、レナ・・・。」

レナ「私も聞きに行ってもいいかな?かな?」

沙都子「・・・。」

沙都子は何も言わずに校舎の裏手まで行く。
圭一とレナも何も言わずに付いて来た。

圭一「おい、沙都子、何があったんだよ?」

レナ「沙都子ちゃん、私と圭一くんに話してみて?絶対に力になるよ?」

沙都子「・・・ぅ・・・うぅ・・・ふわああぁぁぁーん。」

沙都子がいきなり泣き出し、レナに飛びつく。
レナは沙都子を抱きしめ、なんとかなだめる。

沙都子「露伴さんが・・・露伴さんがぁぁぁあああ・・・。」

圭一「露伴さんに何かあったのかッ!」

レナ「・・・。」

二人は沙都子が泣き止むのを待ち、沙都子から話を聞いた。

沙都子が言うには、露伴は木曜日の夜に園崎家へ向かった。
酒の席に招待されたと言っていたらしい。
たしかに園崎家ではたまに宴会があると魅音が言っていることがあった。

露伴さんは酔って泊まってくるかもしれないと伝言を残していたので、
翌朝に帰ってきていなくとも沙都子達は気にしなかった。
しかし、その日の夜になっても露伴さんが帰ってくることはなかった。
園崎家に電話したところ魅音の母に、朝まで家にいたが今はいないと言われたらしい。

圭一「露伴さんが・・・いなくなったってことか・・・。」

レナ「・・・。」

そのとき、校長の鳴らす鐘の音が聞こえる。
3人は急いで教室へと戻るのだった。

1時間目の授業が終わり、休み時間になる。
圭一は誰とも話をする気にならなかった。

露伴さんはどうしたのだろうか。
露伴さんが沙都子に何も言わずに村からいなくなるわけがない。
それに、綿流しの出し物だって、俺と一緒にやるはずなんだ。
露伴さんが村からいなくなるなんてことは考えられない・・・。
いろいろと考えをめぐらせていると、レナが机の前にいた。

レナ「考え事かな?圭一くん。」

レナの能天気な問いに、圭一は文句を言いたくなった。
しかし、レナの手元を見てその文句を飲み込む。

レナはなにやら折りたたんだ紙を机の上に置き、圭一のほうへと差し出してきた。
まるで、授業中に先生に見つからないように会話をするための手紙みたいだ。
圭一はレナの意図を理解し、手紙を受け取る。そして何もないように答えた。

圭一「いやー、明日祭りだろー?小遣いが残り少ないからさ、何を食べようかなーなんてよ。」

レナ「あはは、縁日の屋台は何でも高いからね。でも、どうしても買っちゃうんだよねー。」

そのままレナと他愛ない話をし、休み時間を終える。
圭一は、2時間目の授業が始まってからレナの手紙をそっと開いた。

『露伴さんのことで話したいことがある。放課後に残って。魅ぃちゃんには内緒にね。』

圭一は手紙を読むと、クシャクシャに丸めてポケットへと放り込んだ。

授業が終わり、子供達はぞくぞくと帰っていく。
お昼も家で食べなくてはいけないし、土曜の午後は遊びたいのだろう。
レナと圭一は魅音に帰りを誘われたが、少し学校で遊んでいくと答えた。
魅音は綿流しの祭りの準備があるため、先に帰ると言い帰っていく。
教室にはレナと圭一のふたりだけが残った。

圭一「レナ・・・もう誰もいないし話してくれよ。」

レナ「うん・・・。あのね、露伴さんが木曜日に魅ぃちゃんの家に行ったのはお酒のためじゃないの。」

圭一「どういうことだ?露伴さんが嘘をついてるってことか?」

レナ「多分・・・沙都子ちゃんに心配させたくなかったんだと思う。露伴さんが魅ぃちゃんの家に行ったのは、魅ぃちゃんのおばあちゃんに呼ばれたからなの。」

圭一「魅音のばーさん・・・?」

レナ「魅ぃちゃんの家が雛見沢で一番大きな家なのは知ってるでしょう?」

圭一「あぁ。」

レナ「露伴さんはね、オヤシロ様の祟りについて何か知っていることがあるみたいなの。」

圭一「お、俺も聞いたことあるぞ。ダム工事現場の監督が殺されたって。他にもあるみたいなことも言ってたけど・・・。」

レナ「オヤシロ様の祟りっていうのはね、毎年綿流しの夜に誰かが死に、誰かが鬼隠しにあうんだよ。その事件は最初のオヤシロ様の祟り。
そのあと毎年起きつづけて、今年で5年目になるの。」

圭一「鬼隠し?神隠しみたいなもんか?」

レナ「うん、そんなところだよ。園崎家は村のマイナスイメージだった祟りをなんとかなくしたいと思ってる。それで、露伴さんが何かを知っているとわかって、露伴さんを呼び出したの。」

圭一「なるほどな。でも、なんでレナはそんなこと知ってるんだ?」

レナ「・・・あのね・・・、露伴さんのことを園崎家が知ったのは私のせいなの・・・。」

レナは圭一に自分の知ることを話す。
魅音のことも詩音のことも、あの夜露伴と会っていたこともすべて話した。

圭一「なるほどな。それで、レナは露伴さんはどこにいると思うんだよ。」

レナ「私は、まだ露伴さんは園崎本家にいると思う・・・。」

圭一「魅音のお母さんは嘘をついてる?」

レナ「うん・・・魅ぃちゃんのお母さんは普段は興宮に住んでるの。魅ぃちゃんの家には、おばあちゃんとお手伝いさん、それに魅ぃちゃんしか普段はいないんだよ。
私が露伴さんと会った日も、昼間はおばあちゃんしかいなかった。露伴さんから話を聞くために親族を集めることになって、
それで、魅ぃちゃんのお母さんはわざわざ興宮から後で来たんだよ。」

圭一「なるほど・・・、つまり普段いないはずの魅音の母さんがまだ本家にいたってことは、露伴さんも本家にいるってことか・・・。」

レナ「うん・・・。少なくとも、何か知っていると思う。」

圭一「魅音に話を聞こう・・・。」

レナ「魅ぃちゃんは、園崎家の人間だよ。露伴さんを呼び出した時も、頭首代行として話を聞いてるはず・・・。私達の味方になってくれるかはわからないよ・・・。」

レナがそう言い、俯くと圭一はレナの頭をぐしゃぐしゃと撫でてやる。

レナ「はぅぅ・・・。」

圭一「馬鹿野郎。魅音は俺達の仲間だろ。きっと味方になってくれるよ。」

レナ「う・・・うん・・・。あと、詩ぃちゃんも何か助けてくれるかもしれない。露伴さんのことは私と詩ぃちゃんのせいだから・・・。」

圭一「よし、まずは詩音が先だな。魅音は立場上俺達の味方になっても、できることが限られるだろう。まずは詩音から話を聞いて作戦を考えるんだ。」

レナと圭一は互いに見つめあい、頷きあう。
二人が決意を固めたそのとき、教室の扉が開かれた。

沙都子「おーっほっほっほッ!!私を忘れてもらっては困りますわねぇ。」

圭一「さ、沙都子ッ!?」

レナ「沙都子ちゃん、聞いてたのかな?かな?」

沙都子「最初から最後まで聞かせてもらいましたわ。私もお供しますわよー。」

レナ「沙都子ちゃん、危ないよ。ただでさえ沙都子ちゃんは園崎家には・・・」

圭一「レナッ!」

圭一がレナの言葉を制す。そして沙都子に近づき話しかけた。

圭一「沙都子も露伴さんを助けたいか?」

沙都子「えぇ、露伴さんは私の命の恩人ですわ。」

圭一「何があっても、後悔しないな?ただじゃすまないかもしれないぜ?」

沙都子「望むところですわ!露伴さんは私の大切な友人ですもの。露伴さんは私の為に戦ってくださいました。私も露伴さんの為に戦いますわ!!」

圭一「ぃよーし!気に入ったぜ沙都子!!おまえも付いて来い!!」

こうして圭一たちは露伴を救出する為に動き出す。
幸い、詩音の電話番号はレナが聞いていたため、すぐに連絡が取れる。
詩音と連絡をとるため、まずは前原家へと3人は学校から飛び出していくのだった。

3人は前原家へと着くとすぐに詩音に電話をかけた。
レナが電話で話したところ、露伴絡みだと知りすぐに来てくれる事になる。
集合場所は前原屋敷。つまり、詩音はここに直接合流してくれることになった。

時間に余裕のできた3人は圭一の母の料理をご馳走になる。
圭一の母は娘ができたようで嬉しいと騒いでいた。
3人は昼を食べ終えると、圭一の部屋へと移動した。

圭一「おふくろがうるさくてごめんな。」

沙都子「あら、元気そうでいいお母様でしたわよ。」

レナ「そうだね、圭一くんのお母さんはいい人だよ。」

圭一「あー、ところで沙都子。梨花ちゃんはどうした?」

沙都子「梨花は先に家に帰りましたわ。今日もお祭りの打ち合わせがあるそうですから。」

ピンポーンッ

圭一「おっと、詩音か?ちょっと出てくる。」

そう言って圭一は階段を降りて行った。
玄関に行くと、母が詩音に応対していた。

圭一「よぉ、詩音、とりあえず俺の部屋に来てくれ。」

詩音「お邪魔しますね、おば様。」

息子が急に女の子を3人も連れてきたものだから、母は興味津々のようだった。
そんな母を無視して圭一と詩音は2階の圭一の部屋へと上がって行った。

詩音「はーろろん。」

レナ「あ、詩ぃちゃん。はやかったねー。はーろろん。」

沙都子「はろろん?でございますわぁ。」

詩音「あ、沙都子に(詩音として)会うのは初めてですね。魅音の双子の妹の詩音です。よろしくね。」

沙都子「よろしくお願いしますわ。兄から詩音さんのことは聞いていましてよ。」

詩音「悟史くんから・・・?」

沙都子「えぇ、兄がとてもいい方だと言ってましたわ。」

詩音「そっか・・・。あはは。」

詩音は嬉しそうに笑うと沙都子をぎゅっと抱きしめた。
沙都子は一瞬抵抗しようかと思ったが、彼女の微笑は優しかった。
悟史の微笑みのように優しかった。だから抵抗することをやめた。

詩音「(沙都子・・・ごめんね・・・今までごめんね・・・。悟史くんに任されたんだ・・・沙都子のこと・・・。)」

圭一「おいおい、じゃれあってる暇はないぜ。露伴さんをさっさと助けださねーとな。」

そう圭一に言われ、詩音も頷く。
もう全員の決意は固まっているようだ。

詩音「いまの状況をお願いします。私もレナさんと一緒に露伴さんに会った日から、本家には出入りしてません。」

沙都子が露伴が行方不明であることを、そしてレナが自分の推理を聞かせる。

詩音「そうですね。私もレナさんの意見に同意です。お母さんが本家にいるのもおかしいですし、私の忠臣の葛西も本家に行きっぱなしなんですよね。
夜は部屋に戻ってくるんですが、なにも喋ってくれません。露伴さんは本家にいると思っていいです。」

圭一「よし、ならそれをどうやって助けるかだな。」

詩音「ただ、ひとつ気になることがあります。」

圭一「うん?なんだよ。」

詩音「お母さんは、多分嘘をついてないと思います。嘘は嫌いですから、子供に嘘をつくなんて思えません・・・。」

圭一「おいおい、それじゃあ矛盾するぜ。露伴さんは本家にいるのかいないのかどっちなんだよ。」

レナ「沙都子ちゃん、茜さんは本家じゃなくて”うち”にいないって言ったんだよね?」

沙都子「えぇ、そうですわ。はっきりと”うち”にはいないねぇって言いましたわよ。」

レナ「本家の敷地内の屋外にでもいるってことかな・・・?詩ぃちゃん。」

詩音「レナさん、鋭すぎます。とんだ名探偵ってやつです。だけど、ちょっと違います・・・。おそらく、地下祭具殿・・・。」

圭一「地下祭具殿ッ!?なんだそりゃぁ?」

詩音「園崎本家には、庭園の山奥の中に地下室があるんです。園崎家に刃向かったり、失態を犯したものにケジメをつけさせる拷問室・・・。」

沙都子「ご、拷問ですってッ!?露伴さんがッ!!」

レナ「そ、そんなッ!本当にそんな部屋あるのッ!?」

沙都子とレナが取り乱す。
ヤクザが拷問部屋を持っていて、そこに露伴を連れて行った。
その意味するところは彼女達には残酷すぎたのだろう。
だが、圭一は冷静だった。

圭一「落ち着けッ!もしそうなら、それこそ一秒でもはやく露伴さんを助け出す必要がある。落ち着いて作戦を考えるんだ。」

沙都子「圭一さん・・・。」

レナ「そ、そうだね。はやくしなきゃ・・・ね・・・。」

圭一「詩音・・・地下祭具殿の場所と、あと本家の大体の地図を教えてくれ。」

詩音「わかりました。紙とペンを借りれますか?」

詩音が本家の地図を描く。その中に参考までに、と雛見沢分校のグランドも描いてくれた。
こうして見ると、園崎家の大きさは半端じゃあない。

圭一「この祭具殿の入り口はこれだけか・・・?」

詩音「えぇ、扉も厳重です。鍵がない限り入るのは難しいです。」

圭一「魅音の協力がなければ、無理か・・・。あるいは正面突破か・・・。」

詩音「正面突破ですか・・・。とても作戦とは言えないと思いますけど。」

圭一「魅音が協力してくれればそれが一番いい。だけど、あいつにも立場ってもんがある。だからどこまで協力してくれるかわからない。
俺達は友人に会いに行くだけなんだぜ?正面から堂々と行けばいい。」

沙都子「そうですわ!私達は露伴さんに会いに行くんですのよ!何もコソコソする必要はありませんわ。」

レナ「そうだね、露伴さんに会えれば、助ける方法もきっと見つかるよ。」

詩音「・・・圭ちゃんのそういうところは、結構好きですよ。」

圭一「な、なんだよ、いきなり。」

詩音「そういう馬鹿っぽいけど、ついて行きたくなるところです。・・・私も覚悟を決めましたよ。園崎本家がなんだってんです。
私は露伴さんに借りがありますからね。この園崎詩音、命を張っても露伴さんに会いに行きますよ!!それに、沙都子にだけ危険なことはさせられませんからねッ!!」

圭一「よしッ!!そうと決まればあとは魅音だ!!いますぐ神社にいくぜッ!!」

一同「おおぉぉーーーーッ!!」

子供達が大騒ぎして出て行くので、圭一の母は何があったかと驚いた。
しかし、伊知郎に祭りではしゃいでるんだろうと諭されると、納得する。
明日は綿流しの祭り、圭一も友人の漫画家と出し物をやるらしい。
息子の晴れ舞台を見に行こうかと両親は話し合うのだった。

4人は古手神社へと向かい、魅音を探す。
境内は祭りの準備の人たちで賑わっていた。

そんな中に魅音を見つけ、駆け寄る。
魅音も彼らに気づいたようだ。

魅音「あれー。圭ちゃんたちどうしたの?もしかして準備の手伝いにでも来てくれたわけー?」

圭一達の様子が普通でないことは魅音もわかっていた。
だからこの言葉が何の意味も持っていないことをわかっていた。

圭一「魅音、話があるんだけど、ちょっといいか?」

魅音「うーん、おじさんは祭りの準備で忙しいんだけどなぁ。あんまり長い話なら後にして欲しいんだけど。」

圭一「魅音ッ・・・大切な話なんだ・・・。」

圭一達の様子に魅音も何の話かはっきりとわかった。
彼らの決意の固さも感じ取る。

魅音「わかったよ。祭りの準備の指示を出してくるから、少しだけ待ってて。」

圭一が頷くと、魅音はなにやら話し合いをしている老人達の輪へと入っていった。
しばらくして魅音が戻ってくる。魅音を加えた圭一達は人気のない場所へと移動した。

魅音「それで、何の話?」

圭一「わかっていると思うが、露伴さんの話だ。」

魅音「露伴さんが、どうかしたの?」

圭一「魅音、もう俺達はわかってる。レナと詩音にも話を聞いた。知らないふりをしなくていい。」

魅音はレナと詩音の顔色を伺ったあと、全てがバレていることを悟った。
園崎家の人間としては話していい内容ではないのだが、バレているならしょうがない。

魅音「露伴さんは、みんなが思ってる通り多分うちにいるよ。でも、私はよく知らない。木曜の夜から一回も会ってないよ。」

圭一「魅音、お前の知ってることを全部話してくれ。知らないことは知らないでいいからさ。」

魅音「うん・・・。」

魅音は話す。
木曜の夜からの彼女の行動を。
魅音は木曜の夜に露伴を客間に案内し、自室で休んだ。
朝は母に促され、露伴の顔を見ずに登校した。

そして、そのまま今日まで露伴の顔は見ていないという。
ただ、お魎と露伴が地下祭具殿にいるという話を聞いただけだ。
そして、地下祭具殿へと食事の用意が運ばれていることだけを知っていた。

圭一「詳しいことは魅音も何も知らないんだな・・・。露伴さんが地下にいるってことだけが確実な情報か・・・。」

魅音「うん。婆っちゃも地下にいて、ほとんど出てこないんだよ。だから、私も何が起きてるのかわからない・・・。
お母さんは婆っちゃに何か言いつけられてるみたいだけど・・・。」

圭一「わかった。魅音、俺達は露伴さんに会いに行こうと思う。」

魅音「む、無理だよ・・・。祭具殿に親族以外を入れることなんてできないよ・・・。」

圭一「・・・そうだな。魅音にも立場があるのはわかってる。だから、無理は言わないって皆で話してきたんだ。魅音の家に入れてくれるだけでいい。」

詩音「おねぇ、あとは私達がお母さんに話をつけますから。家に入るだけ取り次いでください。」

レナ「魅ぃちゃん、お願い。露伴さんに会いたいの・・・。」

沙都子「魅音さん、私達は露伴さんの友人として会いにいくだけですわ。ご迷惑はおかけしませんわよ。」

沙都子の友人という言葉が魅音の心に触れた。
魅音は少し、考えた後口を開く。

魅音「わかった・・・。そのくらいしかできなくて・・・ごめん・・・。」

圭一「気にするなよ、魅音。露伴さんは俺達が助け出すぜ。」

魅音「うん・・・1時間だけ、待ってもらってもいい?祭りの準備を少しだけしないと・・・。」

圭一「あぁ、わかった。1時間後に魅音の家の前に集合でいいな?」

魅音「うん、いつもの風車小屋のところで待ってる。」

圭一たちは神社を後にする。
沙都子とレナは着替えるために自宅へ向かった。
詩音は時間まで沙都子と一緒にいるといっていた。
圭一は一人、学校へと向かい、悟史のバットを手にした。

風車小屋に圭一がついたとき、魅音以外の3人はすでに待っていた。
3人とも緊張しているようで、誰も口を開かない。
圭一はみんなの気を紛らわせようと口を開ける。

圭一「おいおい、俺らは友人に会いにいくだけだぜ?家だって魅音の家だ。そんなに緊張することないだろ。」

詩音「圭ちゃんは、お母さんと鬼婆のことを知らないからそんなことが言えるんです。いくら大見得を切ったって、私ゃ怖いですよ、あの二人は。」

レナ「あはは、確かに詩ぃちゃん達のお母さんは怖いねぇ。」

詩音「私は鬼婆のほうが怖いですけどねぇ。レナさんは鬼婆が怖くないみたいですから、うらやましいです。」

沙都子「電話したときはお母様は優しい方でしたわよ?」

詩音もレナもいつになく弱気なことを言う。
圭一もなんだか少し不安になってきた。
だが、唯一の男である自分がしっかりしないといけない。
そう圭一は自分に言い聞かせた。

ふと圭一は気づいたことがある。
沙都子が何かおかしい。なんだかいつもより可愛らしい気がする。

圭一「おい沙都子、おまえなんかしたか?」

沙都子「何のことでございますの?今日はトラップは仕掛けてませんですわよ。」

圭一「いや、そういうわけじゃなくてさ。なんか雰囲気が違うなーと思ってよ。」

沙都子「・・・さっき詩音さんに髪を切られたんですわ・・・。」

詩音「圭ちゃん、見る目がありますねー。よくぞ気づきましたっ。沙都子の髪の毛がちょーっと可愛くなかったんでこう、チョキチョキっと。」

そう言って詩音ははさみをチョキチョキするジェスチャーをした。

沙都子「わ、私は断ったんですけど、詩音さんが無理に切るんですもの・・・。」

詩音「沙都子、女の子なんだから可愛くしなくっちゃあだめですよ。」

レナ「そうだね、今の沙都子ちゃんはすごくかぁいいよ。」

圭一「おい詩音、沙都子はおまえの人形じゃねぇんだから、あんまりいじくるなよ?」

沙都子「お人形だなんて失礼ですわね・・・。」

レナ「はぅー、お人形の沙都子ちゃんおー持ち帰りー☆」

それからしばらく、3人で沙都子をからかってじゃれ合っていた。
そんなに長いこと待たないうちに魅音が神社から帰ってきたようだ。
魅音が来ると再び4人は緊張する。

魅音「みんな、揃ってるね。それじゃあ、家に行こうか。」

魅音の言葉に4人は頷き、園崎家へと歩いていく。
園崎家までの道のりは皆無言だった。

やがて、立派な正門が現れ圭一だけがびっくりする。
沙都子も含め残りの3人は見たことがあるようだ。

魅音が門の横のブザーを押してから口を開いた。

魅音「私一人なら勝手に横から入ればいいんだけどさ。今日はお手伝いさんはいないから、母さんが出てくると思う。中に入るまではなんとかするよ。」

圭一「あぁ、頼む。」

圭一「はじめまして、前原圭一です。魅音さんとも詩音さんとも仲良くさせてもらってます。」

茜「おやおや、うちの娘二人を二股にかけようってのかい?圭一くんも女泣かせだねぇ。」

圭一「あ、あ、そ、そういうわけじゃなくてですね・・・。」

茜「赤くなっちゃって可愛いねぇ。冗談だよ?冗談。」

茜はクスクスと笑う。
圭一も第一印象は悪くないと思い、心の中でニヤリと笑った。
しかし、茜はその圭一の安堵を一言で吹き飛ばした。

茜「今日はうちは忙しいんだよ。悪いけど、帰ってもらえるかい。」

魅音「お、お母さん・・・。」

茜「ほら、魅音、お友達にお帰り願いな。詩音も用がないならさっさと帰るんだよ。」

沙都子「よ、用はありましてよ。」

茜「あら、アンタ沙都子ちゃんだねぇ。”北条”のアンタがうちに何の用があるってんだい?」

茜が北条家なら容赦はしないという顔を見せる。
“鷹の目”で見入られた沙都子は言葉を発することができない。
レナも詩音も茜を相手に気押されているようだった。

魅音があきらめ、皆を帰らせようとしたそのとき、圭一が口を開く。

圭一「ちょっと待ってくれよ。」

全員の視線が圭一に集まる。
もちろん、茜の”鷹の目”も圭一を射抜いた。
しかし、圭一は臆せずに続ける。

圭一「沙都子が北条だからとか、そんなこと関係ない。俺達は、友人に会いに来たんだ。」

茜「友人?魅音のことかい?」

圭一「露伴さんのことだッ!!」

茜「・・・。露伴さんはうちにはいないって、昨日電話したと思うんだけどねぇ。」

圭一「その”うち”って言うのはどこのことなんですかね?園崎家の敷地内に露伴さんがいないって、はっきりそう言ってくださいよ。」

茜「くッ・・・、魅音・・・あんた・・・。」

詩音「おねぇは関係ないです。私達が推理しただけですよ、さぁ、お母さん。敷地内に露伴さんがいないなら、はっきり言ってください。」

茜「・・・入りな。」

茜はそう言うと、扉を開けたまま奥に引き下がる。
圭一達は茜に見えないようにガッツポーズをした後、門をくぐるのだった。

圭一達が無言で門をくぐり終えると、茜が魅音に目配せをする。
魅音は意図を読み取り、扉を閉め、閂を通す。
退路が絶たれたと思うと、圭一は武者震いがした。

茜は無言のまま歩いていく。魅音はすぐ横に付き添っている。
茜達の後ろに圭一、レナ、詩音、沙都子の順に続く。
沙都子は怖いのか、詩音に手を握られながら最後尾を歩いていた。

茜達はそのまま母屋までたどり着く。
扉を開け、圭一達を中に入れようとした。

圭一「えっと・・・魅音のお母さん。俺達はここには用はありません。」

茜「・・・茜だよ。覚えときな。」

圭一「それじゃあ、茜さん。俺達は露伴さんに用があります。露伴さんは、”地下祭具殿”にいるんですよね?」

茜「へぇ・・・そこまで知ってるのかい。でも、ひとつ聞いていいかい?」

圭一「なんですか?」

茜「私ゃ、さっき露伴さんに会わせるって言ったかねぇ?」

圭一「・・・。」

圭一達と茜の間に不穏な空気が流れる。
魅音はどっちについたらいいものかとキョロキョロしていた。

圭一「じゃあ、俺達を何で入れたんですか?」

茜「うちら園崎家っていうのはさ、警察とあんまり仲がよくなくてねぇ。あんたたちに、露伴さんが監禁されてる、なんて通報されたらたまったもんじゃないのさ。」

圭一「つまり、俺達を帰す気はないってことですか?」

その圭一の言葉を聞き、レナや詩音は体を強張らせる。
沙都子は詩音に抱きついていた。

茜「おやおや、人聞きが悪いったらありゃしないね。露伴さんがお帰りになるまで、君達も泊まっていってもらおうかってだけさね。」

圭一「魅音の友達として招待してもらえるってわけじゃあなさそうですね。」

茜「乱暴なことはしないよ。明日の綿流しのお祭りが終わるまで、うちで遊んでってくれりゃあいいのさ。」

圭一が茜に睨み返していると、レナが口を開いた。

レナ「綿流しの祭りが終われば、露伴さんは解放されるんですか?」

茜「私ゃ詳しいことは知らないけどね。鬼婆さまがそうおっしゃってるよ。」

レナ「圭一くん・・・どうしよう・・・。」

圭一「どうもこうもねぇ・・・俺は最初に言ったはずだぜ。俺達は露伴さんに会いに来たってな。」

魅音「圭ちゃん・・・。」

圭一「その返答が、家で遊んでろだぁ?そりゃぁ明確なNoって答えだよなぁ、レナ。」

レナ「・・・うん・・・そうだね。」

レナと圭一の目つきが変わる。
詩音も二人の覚悟を感じ取ったらしく続いた。

詩音「お母さん、私達は露伴さんに会いに来たんです。それを止めるっていうなら・・・。」

沙都子「容赦しませんわよッ!!」

沙都子が詩音から離れ、一歩踏み出して言い放った。

詩音「沙都子・・・。」

沙都子「露伴さんは私の友人ですわ。その友人を閉じ込めて会わせないって言うなら、私は容赦しませんわッ!!」

圭一「よく言ったぜ沙都子ぉ。茜さん、そういうわけだ。祭具殿の鍵を出してもらぜッ!!!」

圭一はそう言うと、ケースに入っていたバットを取り出し茜へ突き立てて構える。
すると、家の中から葛西を含む数人の男達が飛び出してきた。
沙都子や圭一が声を張り上げたので気づいてきたらしい。
男達は茜を中心に圭一達を取り囲むように広がった。
魅音は一人邪魔者のように男達の後ろへと追いやられた。

 

茜「圭一くん・・・。アンタが娘の友達だから1回だけ忠告してやるよ。アンタ、ここで獲物を私に向けるってぇーのがどういうことかわかってやってるのかい?」

圭一「さぁな、ぜんっぜんわかんねぇよ。」

茜「ふふふ、お馬鹿さんだねぇ。おばさんが教えてあげようか?」

圭一「あぁ、馬鹿にわかるように説明してくれよ。」

茜「威勢だけはいっちょまえだねぇ。ふふふ。・・・ここは園崎本家。そこらの家と違って山奥みたいなもんさ。アンタ達が泣こうが叫ぼうが誰にも助けは届かない。
もし、アンタ達の身に何があっても誰も助けてくれないよ?」

圭一「だからなんだってんだ。」

茜「まぁーだわかんないってのかい・・・。この”鹿骨の鬼姫”と呼ばれた園崎蒐に獲物向けといて、タダで済むと思ってんのかって聞いてんだよッこの糞餓鬼がぁぁぁあああッ!!」

茜が今までに見せたこともない顔で凄む。
圭一達だけでなく、葛西以外の若い衆までその勢いに気圧される。

レナはこれは相手が悪いと諦めかけた。
詩音もかつて見たこともない母の顔に恐怖を覚えた。
沙都子も今すぐに逃げ出したいのを堪えるので必死だった。

そんな中、圭一だけが茜を睨み続ける。
そして長い沈黙の後、口を開いた。

圭一「駄目だな・・・。ぜんっぜん駄目だぜ・・・。」

茜「・・・降参かい・・・?」

茜は圭一の目が死んでいないことに気づいていた。
しかし、圭一の不敵さはそう聞き返さずにはいられないものだった。

圭一「違う・・・。駄目なのはアンタだぜ、茜さん・・・。アンタこそ何もわかっちゃいねぇ・・・。」

誰もが圭一の言っている意味がわからなかった。
全員の注目が圭一に集まる。

圭一「アンタこそよ、全然わかってねぇんだよ・・・。この前原圭一が仲間に会わせろってバットを構えてる意味がまったくわかってねぇッ!!!

アンタこそ覚悟しろッ!!俺達の仲間を捕まえてッ会わせもしねぇでッ!タダで済むと思うなァァアッ!!!」

圭一が叫び終わるとレナも詩音も沙都子も、もう怯えてなんかいなかった。
レナはカバンから鉈を出す。カバンを横に放り投げ鉈を構えた。
沙都子はポケットに手を入れ何かを掴んで構えている。
詩音もスタンガンを構えた。

レナ「茜さん、私・・・友達のためなら容赦しないですからね・・・。」

沙都子「本当は裏山で迎え撃ちたいところですが、しょうがありませんわねぇ。」

詩音「まさか、葛西にこれを使う日が来るとは思いませんでしたよ。ねぇ、葛西・・・?」

葛西「・・・。」

4人が構え、互いに背中を任せあうように陣取る。
茜はまさかこうなるとは思わなかったらしく口を開けて驚いていた。

魅音「やめてッ!圭ちゃんもレナも詩音も沙都子もッ!!みんなやめてッ!!」

魅音が男達の後ろから割り込んでこようとする。
しかし、茜に一喝された。

茜「黙ってなッ!!」

茜の一言に魅音の体は凍りつく。
割り込もうとした男達に押し戻されてしまった。

茜「そこまで上等キメられちゃあ、こっちも黙ってらんないね。さぁ、かかっておいでよ、坊や達。」

茜はそう言うと懐から短刀を出し、構えた。
葛西を含む男達もみな構える。

もう誰も言葉を発しない。
誰かが言葉を発すれば、それが戦いのスタートになるからだ。

そんな中、圭一が口を開く。

圭一「いっくぞぉぉおおーーーーッ!!!」

圭一が茜に飛び掛った。

圭一「ウッディッ!!!」

圭一が茜に向けてバットを振り下ろすが、バットは空を切り地に叩きつけられる。
茜がヒラリとかわしたのだ。剣道有段者の茜にとって、
圭一のバットの一振りなど下手投げのボールをよける程度のものだった。

バットを振り切った圭一に男達が飛び掛る。
3人の男が圭一に飛びつき、押さえ込もうとした。
圭一はなんとか抵抗するが、組み伏せられるのは時間の問題だろう。

残る3人はこの隙を逃さない。
圭一のおかげで今手が空いているのは葛西と男3人に茜。
少しでも相手が少ないうちに仕掛ける必要がある。

まずは詩音が飛び出した。
詩音は葛西の相手が務まるのが自分しかいないと思った。
葛西にスタンガンを向け、飛び掛かる。
詩音と葛西も組み合う形になる。

残った男達に沙都子は飛び掛った。
ポケットから取り出した香辛料の混合物を男達の顔に向けて投げつける。
男達は目をやられ、視覚を失いながら沙都子を追いかけることになる。

パンッパンッ

視覚を失った男達の足元で沙都子の癇癪球が破裂する。
男達もそれには動揺を隠せず、場は混乱しはじめた。

沙都子とそれを追う男達が茜の視界を遮ったそのとき。
一瞬にしてレナが茜との間合いを詰め、鉈で殴りかかった。
茜がレナの攻撃に気づいたとき、すでに避けられないほどレナは接近していた。

ガキィッ、ビィリィィィイイッ!!

 

茜はなんとか短刀でレナの鉈の軌道を逸らした。
そのとき、レナの鉈に着物の袖を持っていかれる。

茜「やってくれるねぇ・・・レナちゃん。この服は気に入ってたんだよッ!!」

茜がレナとの間合いを一気に詰める。
レナは抵抗しようとし、鉈を振るが茜のほうが手が早かった。
合気道かなにかだろうか、あっという間にレナを組み伏せ地面にたたきつける。

そしてレナの首に短刀を当てて言った。

茜「レナちゃん、いい子だから動かないでおくれよ。おばさんも娘の友達は殺したくないからねぇ。」

圭一「レナを離せぇぇぇえええッ!!」

バットを捨てることでなんとか3人の男から逃れた圭一が茜に殴りかかってきた。
茜はレナを離すと圭一の攻撃を避けて間合いを取る。

茜と二人は間合いを開けたまま睨みあった。
沙都子は既に捕まったようだ。
詩音も葛西にスタンガンを取り上げられ、後ろ手に掴まれている。

詩音「葛西ッ!!放しなさいよッ!このっ、このッ!!」

葛西「詩音さん、こんなことの為にスタンガンを差し上げたのではないんですがね。」

詩音「うっっさーい。何に使おうと私の勝手でしょーッ!」

沙都子も詩音もなんとか反撃しようと抵抗しているようだが、
明らかに形勢は圭一達に不利だった。

レナも圭一も諦めてはいなかった。
だが、何か他の手を打つしかないと、自分達の負けを悟っていた。
5人の男がレナと圭一を組み伏せようと近づいていく。
まさにその男達が飛びかかろうとしたとき、

「やめなさいッ!!」

その声に一同は声の主を伺う。
その声の主は、魅音だった。

魅音「やめなさい。詩音と沙都子も放しなさい。」

魅音の鋭い目つきに男達は茜と魅音を見比べた。
どちらに従えばいいのか困惑しているようだ。

茜「それは、園崎家頭首代行としての言葉かい?」

魅音「えぇ、そうです。」

茜「ふふん。私にはアンタが友達をかばって言ってるようにしか聞こえないねぇ。頭首代行として、この場を収める理由を聞かせておくれよ。」

茜が睨みつけるが、魅音はそれを睨み返し、堂々と応える。

魅音「今日は綿流しの前日です。夜には村長や役員が本家を訪れるでしょう。このまま続ければ園崎本家の玄関先が血まみれになる。それだけでは不満ですか?」

茜「・・・放しておやり。」

男達は茜に命じられると、沙都子と詩音を開放した。
詩音が沙都子を抱きしめながら、圭一とレナの元へ戻る。

茜「場を収めたのはいいけど、この子らはどうするんだい?」

魅音「彼らに非はありません。彼らは友人に会いに来ただけです。地下祭具殿の鍵を持ってきてください。」

茜「それも頭首代行のお言葉で?」

魅音「・・・。これは、頭首”代行”の言葉ではありません。園崎家次期頭首園崎魅音の判断です。」

茜「婆様がお怒りになったら、ケジメはあんたが取るっていうんだね。」

魅音「そういうことになりますね。」

圭一「違う・・・、もし魅音がケジメをつけるなら、それは魅音だけじゃない。俺達もつける。俺達は魅音の仲間だからな。」

茜はその圭一の言葉を聞くと、誰にも見えないようにクスクスと笑った。

茜「祭具殿の鍵を持って来るから待ってな。次期頭首様の言葉には逆らえないからねぇ。」

そう茜は言い残して母屋の中に消えていった。
葛西も男達を引き連れ、母屋に戻っていった。

残された圭一達はやっと緊張が解けたようだ。
沙都子と詩音はその場にぺたんと座り込んでしまう。

詩音「流石に、今回は死ぬかと思いましたねぇ。」

沙都子「私も、もうヘトヘトですわぁ。」

圭一が魅音に近づき、声をかける。

圭一「魅音・・・すまない。」

魅音「もう、圭ちゃんたちってば勝てない喧嘩ふっかけるんだから。おじさんも流石にあれは無謀だとおもうんだけどぁー。」

圭一「・・・大丈夫なのか?俺達をかばって。」

魅音「・・・かばったんじゃないよ。私も圭ちゃん達が正しいと思っただけだよ。」

圭一「そうか。」

詩音「おねぇが最初から助けてくれればこんなことにはならなかったってんです。」

詩音の嫌味を無視して圭一は魅音の頭をぐしゃぐしゃと撫でてやった。

圭一達が玄関で話していると、茜が奥から出てくる。
葛西と数人の男もついてきていた。

茜「鍵は持ってきたよ。私達もついていかせてもらう。頭首様になにかされたらたまったもんじゃないからねぇ。」

魅音「それじゃあ、みんな行こう。」

魅音の呼びかけに全員で頷き、地下祭具殿へと向かった。

地下祭具殿は園崎本家敷地内の奥まった部分にあった。
そこに至るまでにはけもの道のような細い道を抜けなくてはならない。
本当に山の中という言葉がぴったりな場所。周りには斜面があり、入り口はそのくぼみの中にある。
たとえこの敷地に入り山に迷い込んでも、運がよくなければ発見できないような場所にその入り口はあった。

入り口はまるで防空壕のようだ。
急な斜面を掘りすすめたトンネル。
その奥に鉄製の巨大な扉があった。

茜が葛西に鍵を渡し、葛西がその厳重な扉を開ける。
中は真っ暗だったが、圭一が葛西を押しのけ、入り口の中と入った。

圭一「露伴さんッ!どこだー、露伴さーんッ!」

魅音「圭ちゃん、多分露伴さんはもっと奥だよ・・・。」

魅音が電気のスイッチをつける。
ここから先は木造のトンネルになっており、本当に地下室と呼ぶにふさわしい物だった。
魅音が先頭を歩き、圭一達があとに続く。その後ろに茜達も続いた。

トンネルは入り組んでいたが、魅音は迷いもなく歩いていく。
途中には生活できそうな部屋などもあり、園崎家の隠れ家のようなものに見えた。

しばらく歩くと、今までになかったような大きな扉が現れた。
魅音はその前で立ち止まると、全員に言う。

魅音「みんな、詩音から聞いてると思うけど、この奥が拷問部屋になってる・・・。多分、この奥に露伴さんはいると思う。覚悟は・・・いい?」

圭一「へへっ、何の覚悟がいるってんだよ。露伴さんに会いに来ただけなんだ、何の覚悟もいらねぇぜ。」

沙都子「そ、そうですわ。露伴さんがいるならさっさと開けてくださいまし。」

レナ「レナも、大丈夫だよ。」

詩音「私は、2度目ですから大丈夫です。」

魅音は全員の返事を聞き終えると、その大きな扉を開けた。

扉を開けると、中は明かりが灯っていた。
壁も床もタイル張りのその部屋の中は、拷問道具が所狭しと保管されていた。
よく整備されたそれらは、刃を持つものはその光で、棘や針の類はその鋭さで、
部屋に訪れた新しい獲物をニヤニヤと見つめているかのようだ。

そのタイル張りを抜けた奥に、一段高くなった座敷がある。
そこは畳張りで、座布団が置いてあった。まるで見物席か何かのようだ。

そこに、お魎と露伴の姿があった。
お魎は布団を敷き、その中で体を起こしている。
露伴はその側に座布団を敷き、正座していた。

圭一「露伴さんッ!」

沙都子「無事ですのッ!?露伴さんッ!!」

露伴「どうしたんだい?こんなところに。」

露伴は見た限り無事なようだった。
外傷もなさそうだし、健康そうだ。
圭一達は露伴のほうへと駆け寄る。

圭一「露伴さん、心配したんだぜッ。」

沙都子「露伴さん、助けに来たんですわよ。」

レナ「大丈夫かな?かな?」

詩音「まぁ、簡単に死ぬようなお人じゃあないと思ってましたけど、無事そうでなによりです。」

お魎「しゃあらしいわッ!!こん餓鬼どもなぁん勝手に入ってきよん!!誰ぞ、こん餓鬼ども追い出しぃッ!!」

お魎の叫びを聞き、まだ露伴を救うのが終わっていないことを圭一達は思い出す。
露伴の無事な姿を見てつい忘れてしまっていた。

茜がお魎の横へ行きなにやらヒソヒソと話す。
事情を説明しているのだろう。

茜「とりあえず、おあがり。」

茜に促され、圭一達も座敷へと上がる。
露伴の側に全員が座った。

茜「ほら、黙ってないで挨拶をしなよ。園崎家頭首の御前だよ?」

茜に促されると、圭一が口を開いた。

圭一「はじめまして。前原圭一と言います。雛見沢には最近越してきました。露伴さんの友人です。」

圭一がそう言い頭を軽く下げた。

お魎「お前が挨拶せんでもお前のことはよーぅ知っとるんね。引越しの挨拶もせんで、どの口が雛見沢に越してきたんなんて言うんッ!ホンマあっほらしッ!!」

圭一への罵倒の言葉を吐き終えると、お魎はその”鷹の目”をレナに向けた。

お魎「レナちゃんはえぇ子やと思とったけんど、なぁんね?なぁんいつんかこん礼儀知らずと一緒におるようになったんね?」

レナ「おばあちゃん、急に押しかけてすみません。レナも露伴さんの友達です。だから会いに来たんです。」

レナが挨拶を終えたので、お魎の目は沙都子へと向かう。
しかし、お魎から沙都子に話しかけることはない。
お魎の視線にたまらず、沙都子が口を開けた。

沙都子「ほ、・・・北条沙都子でございますわ。私も露伴さんの友人ですわ。」

お魎の肩がプルプルと震える。
そして目を見開き、沙都子へと罵声を浴びせた。

お魎「だぁって聞いとん、北条の糞餓鬼がどん面ァ下げてわしぃんとこ来よるんねッ!!言葉使いもなっとらんわドアホぅッ!!!
北条が園崎本家の敷居を跨いで生きて帰ぇれると思うとんかぁぁああッ!!」

お魎の言葉に沙都子はもう口を開けることはできなかった。
その様子に満足したのか、お魎は詩音へと視線を移す。

お魎「おみゃは、レナちゃんのおかげで園崎の末席に加えてもらったんと、もう爪ぇ剥ぎたくなったんかぁ?あぁん?詩音ぅ?」

詩音「わ、私も・・・露伴さんの友人です。」

詩音はそれだけ言い返し、お魎を睨み返した。
お魎は詩音の決意の固さを読み取り、最後に残った魅音に視線を移す。

お魎「魅音・・・。なぁんね?なぁん園崎以外の姓がこん祭具殿に出入りしとるんね?」

魅音「婆っちゃ・・・。みんなは友人に会いに来ただけです。だから、通しました。」

お魎「なぁん勝手な真似をしさらしとん!!来た理由なん聞いとらんわぁ!!なぁん祭具殿まで入れたか聞いとんね。すったらん許されんことなんはわぁっとるん。」

魅音「私の判断で通しました。ケジメをとれと仰るなら、私が取ります。」

お魎「よぅ言うたわ・・・。すったらん、魅音だけ残り。糞餓鬼どもはさっさと帰ぇせ。」

魅音「婆っちゃ・・・。」

お魎「友人には会えたんな。なら用は済んだっちゅうもんやね。」

お魎が茜に目配せをし、茜が葛西に目配せをする。
座敷に上がらずに控えていた葛西たちが圭一達を連れ出そうと、動き出した。

圭一「待ってくれよ!!」

茜「なんだい?圭一くんたちの用は済んだだろう?露伴さんには会えたんだ。まだ用があるってのかい?」

圭一「あぁ、そうだ。俺たちにはまだ用がある。俺たちは、露伴さんを助けに来たんだッ!!」

茜「ちょいとお待ちよ。露伴さんがここにいるのは園崎家と露伴さんの問題なんだよ。アンタ達が口を出すことじゃないんじゃあないかい?」

圭一「俺たちは露伴さんの友達だッ!仲間だッ!!露伴さんが地下に閉じ込められてるってんなら助けだす!!」

茜「露伴さんがアンタたちに助けを求めたのかい?」

圭一「助けは・・・求められてない。・・・でも、でもわかるッ!露伴さんは沙都子に何も言わずにいなくなったりしないッ。俺とも約束があるッ。一緒に祭りで出し物をするんだッ!
綿流しが終わるまで地下にいるなんて、そんなこと絶対ないッ!!」

レナ「レナも・・・圭一くんの言うとおりだと思います。露伴さんは私たちとお祭りにいくんです。」

沙都子「そうですわ、私と一緒に露店を回りますのよ。」

茜は飽きれたようなジェスチャーをすると、露伴を向いて言った。

茜「露伴さん、なんとか言ってやっておくれよ。」

露伴「ふふふ。そうだなぁ。そろそろ沙都子ちゃんの作るご飯が食べたいかな。」

茜は露伴は既にお魎に屈服していると思っていた。
だからこの返答は予測できなかった。

お魎が茜を呼ぶ。
茜はお魎の口元に耳を傾けた。
なにやらまたヒソヒソ話が始まる。

茜が何度か聞き返すと、話は終わったようだった。

茜「頭首は大変機嫌がいい。あんたたちの心意気に免じて、露伴さんは解放しよう。」

この言葉に圭一は再びガッツポーズをした。
ほかの皆も互いに顔を見合って喜んだ。
それを遮るように茜が言う。

茜「ただし、あんたたちが祭具殿に押しかけたケジメをつけられたら、だそうだよ。それができないなら、この話はなしさね。」

お魎「カカカッキキキ・・・クッククク・・・。」

お魎が楽しそうに笑う。その異常な笑い方に皆は恐怖を覚えた。
誰もが凍りつく。そのケジメの意味に震える。

その静寂を破ったのは露伴だった。

露伴「ケジメをつければ、この子達は許してもらえるんだな?」

茜「おやおや、露伴さん、せっかく助かったのに怪我したいってぇのかい?」

露伴「おいおい、園崎家っていうのは質問に質問で返すように教えられてるのか?質問文に質問文で答えると、テストで0点なんだぜ?知ってたか?」

茜「口の減らないお人だねぇ。ケジメをつければ許さないこともないって言ってるんだよ。」

露伴「うやむやにされちゃあ困るからな。ケジメをつければ、園崎家がこの子たちに不利益を与えることはない。そう約束しろよ。」

茜「これは取引じゃあないんだよ?ケジメをつければ考えたげるって言ってんのさ。」

露伴「おっとすまない。これは取引じゃないって?そうなのかい?」

そう言うと露伴は茜を睨み付ける。
先日の晩のときとは比にならない恐ろしい目だ。
スタンド使いが本気になった目。そう言えばもうわかってもらえると思う。

露伴「僕がその気になれば、ここから出ることもたやすいんだがね。そっちの顔を立てて取引してやろうって言ってるんだよ。」

露伴が本気を出せば茜も口を開けることはできなかった。
ヤクザの本職である茜や葛西にはわかった。露伴を敵にしてはいけないことが。

お魎「ふ、はっはっはぁ!茜を黙らすんとは、大した器じゃアアアアアアハハハハハハハハハハーッ!!そん器がどーぅケジメつけてくれるんね?あぁん?」

お魎の言葉を受け、露伴が子供たちの人数を数える。

露伴「1,2,3,4,5・・・。」

そして露伴は左手をすっと自分の顔の前にかざした。
左手の甲はお魎に向けられていた。

露伴「5人ってことは爪5枚でいいんだろ?」

露伴のその言葉にお魎は何も返さない。
それを同意と理解し、茜は葛西に目配せをした。
葛西が部屋の隅にある拷問道具を用意し始める。

それに気づいた圭一達が露伴を止めに入る。
彼らは口々に露伴を説得しようとするが、露伴が聞くはずはない。
ついには茜とお魎一喝され、圭一達は口を閉じるしかなかった。

露伴は何食わぬ顔で座敷から降りる。
そして拷問道具の準備を終えた葛西から道具の説明を受けた。
圭一達は座敷で露伴のケジメを見守るよう、茜に言われた。

露伴「なるほどね、ここが爪の間に入るんだな。これがこっちに繋がってテコの原理になってる。このハンドルを叩けば、爪が剥げるってわけか。よくできてるなぁ。
こっちのところはなんだい?」

葛西「そこは足を固定するバンドです。手の爪とは限りませんので。」

露伴はまるで珍しいおもちゃでも見るかのように葛西から説明を受けていた。
その説明も一通り終わる。

露伴「よし、じゃあ始めるか。」

葛西「はい、お手伝いさせていただきます。」

葛西がそう言い、露伴の手を固定する。
皆の注目が露伴に集まる。

露伴「あー、詩音ちゃん。沙都子ちゃんには見せないようにしてもらっていいかい?」

露伴がそう言うと、詩音が沙都子の目を手で覆った。
それを確認した露伴は何のためらいもなく、一打目を振りかぶった。

ドンッ!!

圭一達はつい、目をつぶってそむけてしまった。
その目を開ける。

圭一達の場所からはパっと見はよくわからない。
ただ、露伴の小指に何か違和感があった。それを目の焦点をあわせ見てみる。
爪が剥がれ、まるで露伴の指にしてあったフタがぱっくりと開いているようだった。
誰も言葉を出すことはできなかった。

葛西が道具をいじり、露伴の次の指にセットする。
露伴は今度は一気に振り下ろさず、ゆっくりとハンドルを押していく。
まるでゆっくり爪が剥がれていくのを観察しているかのようだった。
2枚目を剥ぎ終わる。露伴はまったく冷静なままだった。

露伴「なるほど、いい経験になったよ。漫画に生かせそうだ。ふふふ。」

茜「く、口の減らないお人だねぇ・・・。」

露伴「ふふふ、もう満足したからあとはさっさと終わらさせてもらうよ。」

あとはただの流れ作業だった。葛西が道具をいじり、露伴がハンドルを叩く。
それだけの単調な作業に見えた。

ドンッ    ドンッ     ドンッ

露伴が左手の爪をすべて剥がし終える。

露伴「これで満足か?」

茜「・・・。」

茜はお魎に近づき、お魎の指示を受ける。
茜はそれにうなずくだけだった。

茜「婆さまは頭痛がしてきたからもう付き合えないそうだよ。このあとのことは私が任された。葛西は露伴さんを病院へ連れてきな。子供たちは、上でお茶でも飲んで帰りな。」

葛西が露伴の手の拘束をはずし、そとへ連れて行こうとする。
沙都子はここでやっと目隠しをはずされた。

露伴「おい、さっきの取引は有効なんだろうな?」

茜「ケジメはつけたからね、さっきのあんたの言うとおりにするよ。」

露伴「ふ、ふふふ・・・それはありがたいことで。」

茜「何がおもしろいってんだい?」

露伴の嫌味な笑いに茜が食いついた。

露伴「”園崎家がこの子たちに不利益を与えることはない”つまり、”園崎家が北条沙都子に不利益を与えることもない”。それで笑っただけだよ。」

茜「・・・こりゃぁ一杯食わされたねぇ。」

露伴「ふふふ、病院に行かせてもらうよ。僕だって痛みがないわけじゃあないからね。」

露伴はそう言うと拷問室を出て行く。
露伴がいなくなった途端、緊張の糸が切れたのか、沙都子がわんわんと泣き始めた。
圭一達も安堵の声を漏らす。お魎はなにやらニヤニヤと笑っていた。

その後、圭一達は本家の部屋に呼び止められた。
そこで茜に今日あったこととは他言しないようにと釘をさされる。
これには誰も反対しなかったため、話はすぐに終わる。
茜はお茶でも飲んでいけと言い部屋から出て行った。

圭一達は露伴が戻ってくるまで待つと言ったが、魅音に止められる。
圭一達が露伴と会っても、謝りつづけて気まづくなるだけだからだ。
結局、明日から何もなかったように接したほうがいいという話になり一同は解散となった。
圭一とレナは家へと帰り、沙都子だけが露伴の帰りを待つことになる。

沙都子は詩音にかまってもらいながら露伴を待っていた。
やがて露伴が病院から戻ると、葛西に送られて沙都子と露伴も帰るのだった。

家に戻った露伴は久しぶりに沙都子の作る夕食を食べる。
露伴は左手が使えないのが大変そうだったが、それを世話する沙都子は楽しそうだった。
夕食のあと、痛み止めのせいか、露伴は眠いと言ってすぐに布団に入った。
沙都子も今日一日の疲れのため、早めに床に就くことにした。

二人が寝静まったあと、梨花は羽入に話しかける。

梨花「久しぶりね、羽入。あんたと1日以上も顔をあわせないなんて、ここ百年で何回だったかしら。それで、明日も祟りは起こるのかしら?」

羽入「残念ながら、ロハンも今のところは何もできていないのです。」

梨花「急に左手を怪我して帰ってきたけど?」

羽入「あぅあぅ。とっても痛そうだったのです。」

梨花「何があったのか、教えなさいよ。沙都子は知ってるみたいだし。私だけ蚊帳の外っていうのは気に食わないわ。」

羽入「わかったのです。木曜の夜はですね・・・」

羽入は梨花に木曜の出来事から順に説明していく。

ここでは金曜の朝からの話をしよう。

金曜の朝、露伴は園崎家の手伝いに起こされた。
朝食が部屋に運び込まれていて、ご馳走になった。
露伴のいる部屋の周りには何人かの人の気配がしており、
露伴が逃げ出さないよう控えているようだった。

そのうち、茜が部屋を訪れ、お魎がいないことを告げる。
用事で朝からいないため、夕方くらいまでここで待てとのことだった。
露伴は素直に従った。羽入には露伴の真意がわからず、抗議をする。

羽入「ロハン、夕方までここにいては入江との約束の時間に間に合わないのです。」

露伴「そんなことはわかってるよ。」

羽入「それじゃあどうするのですか?」

露伴「あきらめるだけだよ。」

羽入「あぅあぅ。やる気があるのですか?」

露伴「あのなぁー。やる気の問題じゃないんだよ。もし無理にここを抜け出したらどうなるか考えてみろよ。」

羽入「抜け出したら・・・ですか?」

露伴「あぁ、約束があるから出してくれと言っても出してくれないだろう。僕はオヤシロさまの祟りを知っていると思われてるんだからな。」

羽入「あぅあぅ、よくわからないのです。ロハンならここから抜け出せるだけの力はあるのです。」

露伴「たしかに、能力を使わなくても抜け出せるだろう。だが、穏便には済まない。本家から出ても自転車すらない僕はどうする。」

羽入「山を逃げて診療所まで行けばいいのですよ。」

露伴「僕が診療所に行くまでに情報が回ってるだろう。この村なら園崎家が捕まえろと連絡すれば誰もが協力するからな。」

羽入「入江は、かばってくれると思うのです・・・。」

露伴「もしそうでも、鷹野には接触できないだろうな。約束の時間までにお魎を説得できない限り、僕は鷹野には会えないんだよ。」

羽入「あぅあぅ・・・。」

露伴「仮に鷹野に会えるとしても、園崎家を相手に問題を起こせば今後の行動は制限される。鷹野に接触しても真相を暴けなかった場合、かなり困ったことになるぞ。」

それ以上反論できなかったので、しかたなく羽入は露伴とお魎を待つ。
そのまま入江との約束の時間は過ぎた。

やがてお魎が帰ってきたということで、お魎の部屋に通された。
部屋には茜とお魎だけがおり、露伴が入ってくると茜も部屋を出た。

お魎「おまえん言うこと聞いて二人っきりにしたったんよ。今日は話してもらうんね。」

部屋に残された露伴にお魎が言い放った。
露伴はお魎のそばに近づき、茜が昨日やっていたようにお魎に話しかける。

露伴「二人っきりとは言うけど、こうしてヒソヒソ声で話さないと、そとの怖い人に聞こえちまうじゃあないか。」

お魎「あぁん?なぁんね、誰に向かって口聞いとんと思っとるんッ!!」

お魎は怒りをあらわにする。
しかし、露伴は不敵な笑みをしたまま言い放った。

露伴「僕は”オヤシロさまの使い”だからね。無礼なのはそっちじゃないかい?」

お魎「なぁん言うとん、だぁれがオヤシロさまの使いなんね?」
露伴「宗平と初めて****は*****だろう。」

露伴のその言葉にお魎は驚きを隠せなかった。

お魎「なぁんとそれを知っとるんね。」

お魎が鋭い目つきで露伴を睨みつける。
露伴はニヤリと笑い、答えた。

露伴「僕が”オヤシロ様の使い”だからだよ。他にも、****が******で*****だったことだって知ってるぞ。」

お魎「・・・。」

お魎もこれには黙るしかない。
なぜこの男がそんなに過去のことを、そしてお魎しか知りえないことを知っているのか。
まったく見当もつかなかった。

露伴「もっと詳しい話もしたいんだが、僕はアンタ以外に聞かれたくないんだ。ここより人に話を聞かれない場所はないのかい?そこに案内してくれれば何でも話すよ。」

お魎「おう、誰ぞッ!誰ぞおらんね?」

お魎が外の男を呼びつける。
そして茜を呼び出し、地下祭具殿へと移動することとなった。

露伴が茜に連れられて祭具殿に入ったときには、すでにお魎は中に入っていた。
お魎のための布団も運び込まれ、座敷で待ち構えている。

露伴が座敷に上がると、茜に出て行くようにお魎が命じた。
それを受け、茜は部屋から出て行った。部屋に残ったのは露伴とお魎だけになる。

露伴「あんたも大変だね、いろいろと筋を通さないといけないのがさ。二人っきりなんだし気楽にやろうぜ。」

お魎「はっはっはっはぁ!オヤシロ様の使いはなぁんもお見通し言うことかいね。」

露伴「そりゃあ、昨日あれだけしといて、今日はころっと二人であってくれるなんて、親族の目を気にしてるとしか思えない。僕の時代だとそういうのも流行ってるんだがね。」

お魎「時代・・・?年寄りにはよぉわからんて説明しとくれぇな。」

露伴「あぁ、すまない。僕はね・・・」

露伴は自分が未来から来たことを明かす。
オヤシロ様に呼ばれて未来から来た存在だと。
また、見えない羽入の存在もお魎に説明する。
先ほどからのお魎の過去の話もすべて羽入が知っていたことだった。

お魎も最初は疑っていたが、途中で信じざるおえなくなる。
さらには露伴が中継して羽入と話をさせた。
お魎は露伴をオヤシロ様の使いと認め、オヤシロ様と会話できることをとても喜んだ。

羽入「お魎は僕に座布団を敷いてくれて、お茶も入れてくれてとっても優しかったのです。こんど梨花に甘いものを食べさせるようにも頼んでおきましたのです。」

羽入のその態度に梨花は飽きれるしかない。
だが、そうなると話はタダでは済まない。
最も気になることを聞いてみる。

梨花「それじゃあ、アンタたち、お魎に全部話したの?」

羽入「それはロハンがうまくやったのです。診療所のことと雛見沢症候群のこととかは話してないのですよ。うーん・・・あとは、ロハンがなにか封筒に入れた手紙を渡していたのです。
綿流しが終わってから開けるようにって。僕が未来から来たことを証明する手紙だ、とか言っていたのです。」

梨花「ふーん、多分5年目の犠牲者ね。それで?」

羽入「お魎は僕たちのことを信用してくれたのです。他の誰にも話さないという約束もしてくれましたです。」

梨花「オヤシロ様の使いと信じさせたなら、他の人には話さないでしょうね。それで終わり?なんで今日まで帰ってこなかったのよ。」

羽入「僕にはよくわからないのですが、お魎の立場があるらしいのです。ロハンのことを親族に話さない以上、ここまで大きくなった騒ぎをどうのこうのって。
それで、綿流しのお祭りが終わるまではロハンは地下祭具殿にいることになったのです。僕にはいまだに何でなのかよくわからないのですよ。あぅあぅ・・・・。」

梨花「・・・あんた本当にばかね。それで何で今日帰ってきたのよ?」

羽入「あぅあぅ・・・。それはですね・・・」

露伴は地下祭具殿で夜を過ごした。
お魎は夜は本家に戻ったが、次の日の朝から再び露伴の下へと来ていた。
お魎と露伴、そして羽入を交えた3人で会話をする。

お魎は今は年老いたとはいえ、園崎家をここまで発展させた頭首だ。
その頭首のこれまでの活躍を聞くことは、露伴にとっても興味深いものだった。
もちろん、漫画のネタとして興味深い、ということなのだが。

そのお魎の昔話に、ところどころで羽入が突っ込みを入れる。
羽入は千年以上もの間、梨花以外とは会話をしたことがない。
その羽入にとって、この3人でお喋りをするということはとても楽しいことだった。

その3人の時間も終わりを迎える。
祭具殿の入り口のほうから叫び声が聞こえてきた。

「露伴さんッ!どこだー、露伴さーんッ!」

その声を聞き、3人の中で露伴だけが事態を理解した。

露伴「来るかもしれないとは思ってたんですがね、お迎えが来たみたいです。」

お魎「どーいうこっちゃね?なぁん起きとるんかさっぱりわからんね。」

露伴「おそらく、魅音ちゃんとその友達が僕を助けに来たんでしょう。いまのは圭一くんの声だ。」

お魎「圭一ぃ?あぁん、前原んとこん坊主かいな。あの前原っちゅぅ家はあかんね。雛見沢に引っ越して来たんにうちに挨拶のひとつもせん。」

露伴「ははは、今度言っておきますよ。」

お魎「そいじゃ露伴さん、お別れだのぉ。子供たちに食ってかかられたいぅんなら、まぁなんとかなるじゃろ。」

露伴「そうですね。子供たちが入ってきたら、うまく立ち回りましょう。」

お魎「オヤシロ様も、お話させてもろて、ほんにありがたやぁ。わしにお迎えが来よったら、ぜひ枕元に立っとってくだされぇ。」

露伴「確かに、お迎えのときなら顔を拝めるかもしれない。ははは。」

お魎「ふぇっふぇふぇ。」

既に圭一達が拷問部屋の扉を開ける声が聞こえている。
露伴がしっかりと正座しなおすと同時に、大きな扉が開かれた。

羽入はその後の説明も続ける。
だが、梨花の興味はもう失せていたが一応聞き続けた。

羽入「それで露伴がケジメをつけるって言って爪を剥がしたのです。」

梨花「あの怪我は爪だったの。」

羽入「そうなのです。園崎家が圭一達に不利益をしないっていう約束をしてたのです。それで沙都子がどうとか言ってたのですが。」

梨花「なるほどね。沙都子を村八分から救うためにわざわざ爪を剥がすなんて、手の込んだことをするわ。」

羽入「ロハンは爪を剥がすのが取材になるとかなんとか言っていたのです。漫画に必要なのはりありてぃだ、とかなんとか。」

梨花「まぁ、そんなのどうでもいいわ。とりあえず、明日はいつも通り綿流しってことね。」

羽入「はい・・・いつも通りなのです・・・。」

いつも通り富竹と鷹野が死ぬ綿流しが来る。
梨花も羽入も、露伴を呼んだことも何の意味もなかったと思った。
こうしての綿流しまでの最後の夜は終わった。

■TIPS
深夜・園崎本家—-

綿流しの前日には決まって宴会が行われる。
今年もいつもと同じ顔ぶれ、村の役員と村長の公由、
それに園崎家の何人かが集まっていた。
既に宴会は始まり、魅音も詩音も混ざって騒いでいる。

公由「あぁ、そういえばお魎さん。」

お魎「あぁん?なんね?」

公由「漫画家さんが来るって言ってたよね。あの人、今日の打ち合わせにも来てないんだけど大丈夫なのかい?」

お魎「あぁん、露伴さんのこっか。今日うちに来たんよ。左手を怪我した言うたってなぁ。どないしよかっちゅう話をしとったんよ。」

公由「そうだったのかい。じゃあその出し物は中止かねぇ?」

お魎「沙都子ちゃんが露伴さんの左手代わりに紙もってくれるっちゅう話じゃ。すったらん、右手で絵は描けるんね。」

公由「沙都子ちゃんって、あの北条の?い・・・いいのかい?お魎さん。」

お魎「子供に北条も園崎もあらんね。村の子が祭り手伝どぅてくれる言ぅんやったらえぇ話やんね。」

公由「そ、そうだね。それじゃあイベント部の人にもそう伝えておくよ。」

公由はお魎と話し終えると、魅音や茜にも何があったのかを聞いてみる。
しかし皆はぐらかすばかりで何があったかは教えてくれなかった。

結局、何があったのかはわからなかった。しかし雛見沢の情報の伝わるスピードは早い。
翌日の午前中までには村中に、お魎が沙都子を許したという噂だけが流れるのだった。

1983年(昭和58年)
6月19日(日)

露伴が雛見沢に来てからちょうど1週間が過ぎた。
運命の日がやってくる。綿流しの祭りの日。
つまり、5年目のオヤシロ様の祟り、富竹と鷹野の死。

だが、その特別な日も1日の始まりは至って普通だった。
いや、世の中こういうものなのかもしれない。
例え自分が死ぬ日の始まりだって、不吉を感じられる人間がどれだけいるのだろうか。
誰もが昨日と同じ今日があると思っている。今日と同じ明日があると思っている。
そして唐突に死ぬ。

だから露伴はこの日の始まりにも何も感じなかった。
2日ぶりに沙都子に起こされたのがちょっと嬉しかったくらいだ。

さぁ、始めよう、5年目のオヤシロ様の祟りを。

露伴達は朝食を終えると、すぐに入江診療所へと向かう。
沙都子の雛見沢症候群の定期健診のためだ。
沙都子本人が栄養剤の研究のためだと思っているため、露伴もそう口を合わせる。
露伴が医学の発展に貢献していると褒めると、沙都子は嬉しそうだった。

露伴は、これが最後の鷹野三四との接触の機会だと考えていた。
鷹野と富竹が祭りへと出かけるのは2007年の大石から聞いている。
祭りの会場では天国への扉(ヘブンズ・ドアー)を使うことはできない。
そして祭りの終わりはオヤシロ様の祟り、つまり鷹野の死を意味する。
露伴に残された最後のチャンスが、今日この瞬間なのだ。

だが、露伴には逆の予感もあった。
おそらく鷹野三四との接触は不可能であるという予感。
そしてその予感は的中する。

入江「それじゃあ沙都子ちゃんはいつも通り検査をお願いします。」

入江がそう言い沙都子を診察室から送り出す。
露伴と梨花は診察室へと残された。

露伴「入江先生、先日は申し訳ない。鷹野さんは今日はいらっしゃいますか?」

入江「えぇ、鷹野さんは既に沙都子ちゃんの検査の準備をしてくださってます。私からも謝っておきましたが、直接挨拶したほうがいいかと思います。なにかあったんですか?」

露伴「そうですね、あとで紹介していただけるようお願いします。実は見ての通り怪我をしてしまいましてね。それでちょっと来れなかったんですよ。」

入江「さっきから気になっていたんですが、どうしたんです?今日の出し物は大丈夫なんですか?」

露伴「いやぁ、理由はお恥ずかしいので伏せさせてもらいたいかな。出し物は、沙都子ちゃんが僕の左手になってくれるそうですよ。」

入江「そうですか。お怪我ならうちに来てくださればよかったのに。」

露伴「興宮に行っている間でしてね。あちらの病院にお世話になりました。」

入江は露伴との社交辞令的な会話を終えると、露伴と梨花を所長室へ通した。
そして自分も検査の手伝いがあると部屋を去っていく。
残された露伴と梨花は検査が終わるまでの時間を所長室で過ごすのだった。

露伴と梨花は無言のまま検査を終えるまでの時間を過ごす。
梨花は特になにもせず、何か考え事でもしているようだ。
羽入は度々、沙都子のいる部屋とこちらを行き来してはくだらないことを報告している。
露伴は部屋にあった医学書に手をつけた。

気づけば時間は12時近くになっていた。
入江と沙都子が検査を終えて所長室へと戻って来る。
鷹野も沙都子を見送りに来たのか一緒だった。

露伴「お疲れ様、沙都子ちゃん。えっと、そちらの方は・・・。」

鷹野「はじめお会いするわね。鷹野三四よ。話は沙都子ちゃんからたくさん聞いてるわよ、露伴さん。」

露伴「あなたが鷹野さんですか。はじめまして。先日は申し訳ない。ちょっと怪我をしてしまいまして・・・。」

鷹野「それはお気の毒ね。お大事にどうぞ。」

鷹野は先日の件を根に持っているのか、
敵意のある目つきでくすくすと笑った。

露伴「えっと、今日はご都合は悪いですか?」

鷹野「あらあら、勝手に約束をすっぽかしておいて、自分勝手な人ね。」

露伴「申し訳ないと思ってますよ。ただ、祭りが終わったら取材を終えて帰ろうとも考えていまして。できれば今日お話を伺いたいな、と。」

鷹野「今日はだめですわ。これから沙都子ちゃんの検査結果の整理があるんです。あなたに話をしていたら、オヤシロ様の祟りにあっちゃうわ。くすくす。」

露伴「そ、それは・・・どういう・・・?」

鷹野「あらぁ、取材なさってるのにそんなことも知らないのかしら。オヤシロ様の祟りはね、オヤシロ様を崇めない不信心者に起こるのよぉ?
綿流しのお祭りにちゃんと行かないと、今年の祟りの犠牲者になっちゃうわ。くすくす。」

露伴「なるほど、鷹野さんはお仕事がお忙しいということですね。」

鷹野「そういうこと。物分りがいいと話が早いわねぇ。ふふふ。」

露伴「それでは、また機会があればぜひお願いします。」

鷹野「そうね、”また”会えればお話しますわ。くすくす。」

鷹野は終始露伴を馬鹿にしたような態度をとっていた。
露伴は確信した。この女は知っている。間違いない。
この女は自分が今夜オヤシロ様の祟りにあうことを知っているのだ。
そして、自分が死なないということも。

沙都子の検査が終わったので、帰宅することになる。
露伴は入江に去り際に一通の封筒を預ける。
絶対に次に会うときまで開けないように念を押していた。

家につくころには神社は祭りの準備で賑やかだった。それを横目に家へと戻る。
このあとは軽めの食事を取り、再び神社へと向かう予定だ。

露伴は料理をする沙都子を眺めていた。

露伴「沙都子ちゃん、髪型変えたかい・・・?」

沙都子の微細な変化に気づいた露伴がそれを口に出した。

沙都子「き、気づくのが遅いですわよ!!いつ切ったと思ってますの。まったく露伴さんは鈍感なんですから。」

露伴「ははは、ごめんよ。」

沙都子は嬉しそうな顔で怒っていた。
羽入がそれをおもしろがり、頬を突くような仕草をする。
羽入の指が沙都子の頬に触れることはないのだが、それでも羽入は楽しそうだった。

昼食を終えると、神社へと向かう。
梨花は奉納演舞のための準備へと向かった。
露伴と沙都子は出し物のために実行委員会のテントへと向かう。

村人はタイムスケジュールの説明や打ち合わせがしたかったようだが、
司会をやるはずの圭一がまだ来ていないようなので待つことになる。
何人かの村人と世間話をする。始めはそっぽを向いていた沙都子だが、
村の大人たちから話しかけられ少しづつ沙都子も会話に加わるようになっていた。

圭一「こんちわーッス。露伴さんいますかー?」

圭一が間抜けな挨拶をしながらテントへと入ってきた。

露伴「だいぶ重役出勤だな、圭一君。僕らはだいぶ前から来てるんだが。」

圭一「あ、露伴さん、こんちわッス。いや、すんません。もしかして打ち合わせとか終わっちゃいました?」

露伴「君が来るのを待ってたんだよ。まったく、そんなので司会が務まるのかい?」

圭一は露伴以外にも村の人たちに軽く謝っていた。
そしてイベント部の責任者からタイムスケジュールの説明を受ける。
露伴たちの出し物は奉納演舞の少し前にあるそうだ。
これから祭りを十分楽しんだ後に出し物の会場へと向かえば間に合いそうだった。

圭一「よっしゃ、それじゃあ行きましょうよ露伴さん。魅音とレナと詩音も来てますから。」

沙都子「そうですわね。出し物までに沢山遊びますわよー。」

説明が終わると二人がテントを飛び出していったので露伴もそれに続いた。

露伴たちが魅音たちに合流したとき、すでに梨花も準備を終えて合流していた。
これで全員が揃ったことになる。

魅音「よっしゃぁー、始めるよっ。えっと、1,2,3,4,5,6、・・・綿流祭七凶爆闘ッ!!」

一同「おぉぉぉーーーーッ!!」

魅音の掛け声とともに、皆で大騒ぎしながら露店を練り歩く。
食べ物の早食い、露店に嫌がらせの味評価、園崎家の池を賑わせる為の金魚すくい、他にも沢山の露店を巡る。
沙都子が何かあるたびに怪我人の露伴の世話をしてくれた。
露伴は馬鹿騒ぎするのは嫌いだったが、この子達となら心から楽しむことができた。

子供たちと露店を巡っていると、富竹と出会う。
子供たちが富竹も仲間にいれようと提案したので、露伴も同意した。
富竹に不審な様子がないか観察してみるが、それは特にない。
とくに変わったこともなく過ごすうちに露伴の出し物の時間が近づいてきた。

沙都子「露伴さん、まだ時間は大丈夫ですの?」

露伴「ん、そろそろ行ったほうがいいかもしれないな。」

圭一「じゃあみんなで会場に行こうぜ。」

富竹「会場ってなんのことだい?」

レナ「露伴さんが絵を描いてくれるんだよ。だよ。」

魅音「漫画家が村に来てるって言ったら、そういう出し物をお願いしようってなったんだよ。」

詩音「私は見たことないんですけど、富竹のおじ様の写真と違って評価が高いみたいですね。」

富竹「そ、そりゃあ厳しいなぁ。それじゃあ僕も見に行こうかな。」

梨花「来年は富竹の写真展を開いてあげますですよ。」

魅音「あはは、そりゃー無い無い。わっはっはっは。」

富竹「みんな、僕に冷たくないかい・・・?」

こうして皆で会場へと向かう。
会場は実行委員会のテントの横にある、催し物の為のスペースだった。
不用品のオークション等も行っているようでなかなか広い場所だった。

会場に着くと魅音とレナと詩音が圭一を連れて裏方へと消えていく。
なにやら司会の準備があるそうだ。富竹は観客席の方へと向かっていった。。

露伴の出番のギリギリまで圭一の準備は続いた。
そして、露伴や沙都子の元へと戻ってくる。
その格好は、猫耳ブルマにセーラー服。
化粧も完璧だし、マニキュアも塗られ、足の毛もきっちり剃られていた。

露伴「圭一くん・・・まさかそれでやるつもりかい?」

圭一「いやぁ、露伴さんがいないときの部活の罰ゲームで・・・。」

沙都子「おーっほっほっほ。似合ってますわよ、圭一さん。村の方々にその姿を見てもらえるなんていい機会ではありませんこと?」

圭一「う、うるせーッ!」

そうしてふざけあってる間に露伴の出番が来た。
圭一が司会としてまずは出て行くと、観客の悲鳴が聞こえてきた。
露伴は頭を押さえ、呆れる。すると露伴を紹介するナレーションが聞こえたので表へと出る。

ふむ、こんな田舎の村にしては人が集まったもんだ。
露伴はそう思った。漫画家という職業が珍しいのか、年配の人もかなりの人数がいた。
もちろん、子供連れがもっとも多いのは言うまでも無い。

圭一が露伴の紹介をいろいろしたあと、露伴が客の希望のものを書くと説明をする。
うーん、こんなんじゃあおもしろくないよなぁ。

露伴「ちょっと待てよ、圭一君。どうせなんだからもうちょっと面白いこともしようじゃないか。」

露伴はそう言うと、真っ白な色紙を沙都子に持たせ、観客に見せるように言う。
沙都子が観客に見えるように色紙を裏表に裏返すが、色紙は両面とも真っ白だ。

露伴「それじゃあ沙都子ちゃん、ちょっと僕から離れてくれるかい?そうだな、2メートルちょっと離れてくれ。」

沙都子が言われたとおりにする。
観客は何が起こるのかまったくわからない。
圭一も打ち合わせなどしなかったものだから、何がなんだかわからなかった。

圭一「ろ、露伴さん、一体何をするんだ?」

露伴「圭一くん、ちょっと手伝ってくれ。」

露伴は左手が使えないため、圭一にインクとペンの用意をさせる。
もちろん、露伴のカバンの中に入れてあった私物のペンだ。

露伴「それじゃあ、沙都子ちゃん、動かないでくれよ?」

露伴はそう言うと、インクをつけたペンを何回か沙都子のほうへと振った。
その瞬間圭一だけが露伴が何をしたのか理解する。
角度の関係で圭一にしか色紙がどうなったのか見えなかったからだ。

露伴「沙都子ちゃん、色紙をみなさんに見えるようにしてくれ。」

沙都子が従い色紙を観客のほうへと向ける。
すると、いっせいに観客から歓声や拍手が聞こえてきた。
沙都子も気になって色紙の表を覗き込んでみると、そこには見事な絵が書かれていた。
書かれていたイラストは沙都子の似顔絵、誰がみても色紙を持っている沙都子の似顔絵だとわかる絵だった。

このパフォーマンスが受けたのか、村人たちが早く絵を描いてくれと騒ぎ出した。
圭一がタイミングを逃さず、描いてほしい人はどんどん並ぶようにと言うと、村人たちは列をつくる。
レナや魅音も列の整理を手伝っているようだった。

露伴の絵を描くスピードはすさまじい。沙都子が色紙を押さえるとすぐに書き込んでいく。
1枚書き上げるのに10秒程度だろうか。だが、絵は繊細で書き込まれている。
とても10秒で描かれたとはおもえない、いや何時間も費やしたかのような繊細さだ。

露伴の描くペースが速すぎるため、列はどんどん減っていくかに思えた。
しかし、途中から露伴の絵を噂に聞いた人々が集まり出し物の終了時間まで列が途絶えることは無かった。

途中で入江も現れ、「沙都子のメイド姿」を依頼してきたので、「圭一のメイド姿」を描いてやった。
部活メンバーも途中で列に混ざり、それぞれ似顔絵などを描いてもらっていた。
ちなみに富竹は自分の似顔絵を依頼したら、眼鏡とカメラだけを描かれた。

大盛況のうちに露伴の出し物は終わる。
裏方に戻ると、圭一も沙都子も満足げだった。

沙都子「おーっほっほっほ。やっぱり露伴さんは素晴らしいですわ。今日の催し物の中で一番盛り上がったんではありませんこと?」

圭一「おまえが威張ることじゃねーだろーが。沙都子ぉ。それより、露伴さん、俺にもなんか描いてくれよー。」

露伴「うーん、別にいいよ、紙を持ってくれよ。」

圭一「やったぜ、それじゃあ何を頼もうかなぁ。」

露伴「そうだな、オヤシロ様なんてどうだい?」

圭一「お、なんかお祭りの記念になっていいっスねぇ。」

圭一が賛成したため、露伴は羽入を描いてやる。

圭一「うぉぉおおお、あ・・・ありのまま今起こったことを話すぜ。俺はオヤシロ様の絵を頼んだと思ったら、萌え系神様の色紙を渡された。
な、何を言ってるのか、わからねーと思うg(ry」

沙都子「圭一さんはどうかしたんですの?」

露伴「僕の絵がよっぽどうれしかったんじゃないのか?」

そうして戯れていると魅音たちが駆けて来る。

魅音「ちょっと圭ちゃん達ー。なーにくつろいでんのー?」

レナ「はやく行かないと場所がなくなっちゃうかな。かな。」

沙都子「そ、そうでしたわ。梨花の演舞があるんでしたわ。さぁ、露伴さん行きますわよ。」

露伴は子供達につれられ、神社の社へと向かう。
なんとか詩音が確保していてくれた最前列へと加わった。

露伴たちが到着するとちょうどよく梨花の演舞が始まる。
皆が静かに見守る中、梨花は演舞を演じ終える。
梨花が祭壇を降りると、盛大な拍手が送られるのだった。

そのまま人ごみは沢へと移動していく。
露伴も子供たちに連れられ、沢へ向かう。
みんなで配られている綿を受け取る。

沙都子「露伴さんは綿流ししたことありませんわよね?私が説明しますわ、まずはこうして右手に綿を持つんですわよ。」

露伴は言われたとおりに右手に綿を持つ。

沙都子「そうしたら、こう左手を切りまして、額、胸、おへそ、両膝を左手で叩くんですわ。これを3回繰り返してくださいませ。」

沙都子「それができましたら、『オヤシロさまありがとう。』と唱えます。」

露伴はキョロキョロとあたりを見渡す。羽入がいないことを確認した。

露伴「・・・オヤシロ様ありがとう。」

沙都子「そしたら、この悪いものが吸い取られた綿を流すんですわ。」

沙都子の説明が終わったときには皆の準備は終わっていた。
全員で沢に近づき綿をそっと流した。月夜の沢に流れる白い塊は少し幻想的だった。

沙都子「これで終わりですわ。さぁ、梨花を探しに行きますわよ。」

レナ「そうだね、梨花ちゃんと合流しようか。」

詩音「露伴さん、このあとはテントで一杯どうですか?」

露伴「あぁ、出し物のお礼がもらえてないからね。今日は飲ませてもらおうかな。」

レナ「圭一くん、置いてくよー?」

圭一「あ、あぁ、ごめんごめん。」

こうして綿流しの祭りは終わる。
露伴は実行委員会のテントへ行き、5年目の祟りの発生に備えることにする。
子供たちもついてきたため、テントは賑やかになった。

テントで過ごすまま、時は過ぎ去っていく。
ついに祭りの終わりの時間がやってきた。実行委員達は片付けに行く。
露伴は眠そうにしている沙都子と梨花を家へと送ることにした。

家に送り、二人に布団を敷かせる。
そして再び祭りの会場へと向かおうとする。

沙都子「あら、露伴さんはまだ寝ませんの?」

露伴「あぁ、ちょっとお酒のお誘いがね。だからまた園崎家に泊まってくるかもしれない。」

沙都子「今度は、ちゃんと帰ってきてくださるんですわよね?」

露伴「あぁ、次の日の朝には帰ってくるよ。」

祭りの会場に戻ると、片付けはだいぶ進んでいた。
片付けの指示を出している魅音を見つける。

露伴「魅音ちゃん、沙都子ちゃんと梨花ちゃんは寝かせてきたんだけど、手伝うことはあるかい?」

魅音「いいっていいって、怪我人なんだから大人しくしてなよー。もうちょっとしたらうちで二次会があるからさ、それまで待っててよ。」

露伴は魅音に従い待つことにした。
必ず起きることとはいえ、露伴は富竹が死んだことを確認したかった。
そのため、園崎家での村の役員たちの飲み会についていくのが最善だと考えたのだ。

片付けも終わり、村人と共に園崎家へと向かった。
そして飲み会。村人たちも露伴に興味を持ったのか喋りかけてくる。
気づけば皆が帰る時間になっていた。露伴はそのまま園崎家へと泊めてもらう。
付き合いとは言え、だいぶ飲んだ露伴はすぐに眠りへと落ちていった。

露伴は目を覚ます。まだ部屋は暗い。
酔いも醒めていないのでたいした時間は過ぎていないのだろう。
なぜ自分は起きたのだろうか。

とうおるるるる、とうおるるるる

電話の音だった。そしてその瞬間酔いも吹き飛ぶ。
露伴は布団から出てしのび足で電話へと向かう。
勝手に電話に出るわけにはいかない。電話の近くの角に身を隠す。
やがて、魅音が電話に気づき起きてきた。

魅音「ふぁい・・・、もしもし、園崎ですけれど。」

魅音「ッ!!・・・はい、・・・と、富竹さんが・・・?はい、わかりました。はい・・・。」

魅音はその後少し返答をしたあと、受話器を置き部屋へと戻っていく。
お魎にでも報告しにいったのだろう。

当初の目的を終えた露伴は誰にも気づかれないよう部屋へと戻り再び眠ることにした。
5年目の祟りは起きた。ここから黒幕にたどり着けるだろうか。
撒いた種の目を生やさなくてはいけない。まずは入江か・・・。
これからのことを考えているうちに露伴の意識はなくなった。

■TIPS
5年目の祟り—-

警官「お疲れさまです。大石さんッ!!」
警官「お疲れさまでーす。」
大石「いやぁ、遅くなっちゃってすみません。皆さんお疲れさまです。」

警官たちに通され、大石と熊谷は遺体へと近づいていく。
その遺体は筋肉質の大柄な男性、・・・富竹だ。

熊谷「こ、これは・・・喉が・・・。
はじめて見ますね、こんな状態・・・。」
大石「うーん、ちょっと失礼しますよぉ。」

大石はそう言い富竹の手に懐中電灯を当てる。
ドラマなんかで刑事がよくやるように、ハンカチを使って直接遺体に手を触れないようにする。
手を少しだけ動かしよく見ているようだ。

大石「うぅーん。こいつぁ奇妙ですねぇ。
爪にこびりついた肉片を見る限り、自分で喉を掻き毟っちゃってます。
どういうことですかねぇ・・・。」
熊谷「自分で喉を・・・ですか?」

そう大石の見立ては正しかった、富竹の遺体は喉が掻き毟られたかのように肉が抉られている。
周りには大量の血の跡。喉からの出血と見て間違いない。
それに加え、喉の近くに横たえた富竹の手は血まみれだ。爪の間には肉片がいくつも食いついている。
こんな状態の爪で掻き毟っても血糊と肉片でここまで喉を抉ることはできないのではないかというほどだ。

大石「入江の先生は呼んだんですかぁ?」

警官「はい、既に連絡を終え、向かって頂いています。」

熊谷「他には何か見つかっているか?」

警官「角材がひとつ、ホトケの近くにころがっていました。それ以外は現在捜査中です。」

大石「うーん、熊ちゃん、これ、見てください。外傷を加えられてるようですねぇ・・・。」

熊谷「これは、確かに自傷とは思えない位置ですね・・・。この角材で殴られたんでしょうか?」

大石「それは鑑識が来てからになりますねぇ。外傷を与えてきた加害者に抵抗するための角材だったのかもしれません。」

大石はそれっきり黙ってしまう。
熊谷も辺りを見回してみるが他に手がかりになりそうなものはなかった。

熊谷「これが5年目の祟り・・・ということになるんですかね。」

大石「富竹さんでしたか、今日のお祭りにも来ていらっしゃったと思いますが。ただのカメラマンのこの人がなんで祟りに会うんでしょうねぇ?
んっふっふっふ。今年のオヤシロ様はいつになく訳がわかりませんなぁ。」

熊谷「はぁ・・・、ただ死に方は・・・今までで一番祟りらしいですかね。」

大石「あーっはっはっは、熊ちゃんもジョークが言えるようになって来ましたねぇ。でも、祟りで終わりにしませんよぉ。絶対に犯人を捕まえてやります。」

熊谷「そうですね・・・。」

1983年(昭和58年)
6月20日(月)

露伴は早朝に魅音に起こされた。魅音は昨日頼んだ時間にきっちりと起こしてくれた。
沙都子や梨花が学校に行く前に家に戻り、着替えや風呂を済ませたかったからだ。

露伴「それじゃあ、お邪魔したね。お魎さんにもよろしく言っておいてくれよ。」

魅音「うん。それじゃあまたね。」

露伴「あぁ、またね。」

露伴はそう言い、門から出ようとした。

魅音「露伴さんッ・・・ちょっと待って。」

露伴「うん?なんだい?」

魅音「また、会えるんだよね?綿流しも終わっちゃったけど、すぐ帰っちゃったりしないよね?」

露伴「あぁ、もう少しはいるよ。それに、お別れの時にはちゃんと挨拶に来るから心配するなよ。」

魅音「う、うん・・・。」

露伴はそれだけ答え、門から出て行った。

家へと戻ると、沙都子は既に起きて朝食の準備をしていた。

露伴「ただいま。」

沙都子「あら、お帰りなさいませ。ちょうどご飯ができるところですわよ。」

露伴「あぁ、そのまえにちょっとシャワーを浴びてもいいかい?」

沙都子「そのくらいの時間ならありますわ。それじゃあ露伴さんが出たら朝食にしましょうかしら。」

露伴は風呂場を借りることにする。
この時代のシャワーは温度が安定しないんだよな。
そんな愚痴を考えていると、扉からにゅっと人が入ってくる。

露伴「う、うわ、な、なんだぁッ!?」

流石の露伴もこれには慌てて前を隠す。
入ってきたのは羽入だった。

沙都子「露伴さーん、どうかしましたのー?」

露伴「い、いや、なんでもないよ、すまない。」

つい声を出してしまったので沙都子に返事をしておく。
それからはスタンドで聞こえないように会話した。

露伴「なんだよ、覗きのつもりか?」

羽入「僕は露伴の体になんて興味ないのですよ。」

露伴「ふん、僕だっていきなりでびっくりしただけさ。」

露伴はそういうと、羽入にかまわずシャワーを浴び続ける。
羽入は興味がないといいながら頬を赤らめていた。

露伴「で、何の用だよ?」

羽入「富竹と鷹野は・・・どうなったのですか?」

露伴「鷹野は何も知らないが、昨日園崎家に富竹がどうのこうのって電話がかかってきていた。おそらく、祟りで死んだんだろう。」

羽入「やはりですか・・・。」

露伴「用はそれだけか?」

羽入「露伴でも祟りを食い止めるのは無理なのですね。」

露伴「・・・。」

羽入「用はそれだけなのです。ボクももう露伴にくっついているのはやめますです。もし、真相がわかったなら教えてほしいのです。」

露伴「それは、この岸辺露伴が真相を暴けないと、そう言いたいのか?」

羽入「露伴がこの世界に来て一週間が経ちました。もっとも手がかりになりそうな鷹野ももういないのです。梨花が死ぬまであと数日しかないのですよ。」

露伴「ようは期待はしてないってことか。わかったよ。ほら、出てけよ。人に見られながらシャワー浴びるのは気持ち悪いからな。」

露伴はそうして羽入を追い出す。
あと数日か・・・入江が真相を知らなければ・・・鷹野に会うしかないのか。
既に死んでいるはずの鷹野三四に。

シャワーを出ると、既に梨花も起きており食卓の準備は終わっていた。
沙都子にせかされながら朝食を食べる。学校へ向かう時間が迫っているそうだ。
遅刻させるのは悪いので急いで朝食をとり、沙都子達を学校へと送り出した。
羽入も梨花の後ろについて学校へと向かっていく。
露伴は一人境内に残された。

露伴「いつもうるさいやつがいないと静かでいいな。」

露伴がそんな嫌味を言っても、誰も答えてくれなかった。
やっと露伴も自分が一人であることを実感する。
ここ一週間、常についてきていた羽入がいなくなったのには不思議な感覚がした。

いつまでもここにいてもしょうがない。
露伴は入江診療所へと向かうことにした。

幸い、今の露伴には診療所へと向かう理由がある。
左手の消毒をしてほしいとでも言えば大丈夫だろう。
保険証はないが、金はいくらでもある。昨日の屋台で2007年の一万円札を使い込んだからだ。
もちろん、ホログラムの部分などは入念に削り取っておいた。
保険証は自分の家に忘れてきたとでも言えばいいだろう。

露伴は診察時間までかるく時間をつぶしてから診療所へと向かった。

診療所へ着くと、診察時間ちょうどにもかかわらず沢山の年寄り達がいた。
まぁ田舎の病院なんてこんなものだろう。
受付に名前と保険証がない旨を伝えて待つことにした。

自分の番が来るまでは新聞でも見てみる。
富竹の死は書いていない。そういえばこの新聞。
2007年の図書館でも見たな。

看護士「岸辺さーん。こちらへどうぞー。」

かなり長い時間を待つと、露伴の番がやってきた。
看護士に通され、診察室へと向かう。

入江「こんにちわ、露伴さん。変わったお名前なのですぐにわかりましたよ。」

露伴「こんにちわ、ちょっと左手を見てもらおうと思いましてね。よろしくお願いします。」

露伴が椅子に座ると、入江は看護士になにやら命じた。

入江「保険証がないということですが、よろしいんですか?一応ですね、保険証をあとからコピーして郵送していただくこともできますが。」

露伴「いえいえ、ご迷惑になると思いますので、大丈夫ですよ。」

看護士が露伴の左手を置く台を持ってくる。
入江はその上に左手を乗せ、包帯をとっていった。

入江「これは・・・爪が・・・。いったいどうしたんです?」

露伴「それは伏せさせてほしいと前に言ったと思いますが。化膿したりしないように、消毒してもらおうと思いましてね。」

入江「露伴さん、私は医師として事件性のありそうな怪我に関しては警察に報告する義務があります。」

露伴「医師法ではそこまで定められていなかったと思いますが・・・」

入江「私個人が医師として報告すべきであるという考えを持っているんです。」

露伴「まぁ、別にそこまで隠すほどのことではないんですが・・・。んー、医師の入江先生にではなく、友人として話したい内容ですね。よかったら、今日のお昼ご一緒しませんか?」

入江「お昼ですか・・・。えぇと、ちょっと今日は忙しいんですが。」

露伴「そうですか。とりあえず、治療をお願いしてもいいですか?」

入江「えぇ、わかりました。」

話す約束をしたため事件の疑いはあまりないと思ったのだろうか。入江は露伴の爪に処置をする。
といっても化膿していたりするわけではないので簡単な処置で済んだ。
大して時間はかからずに新しい包帯が巻きつけられた。

入江「これで大丈夫だと思います。すでにかなり治ってきていますので、様子を見て包帯をとっても結構ですよ。」

露伴「ありがとうございました。それでは今日は失礼しますね。」

入江「えぇ、お大事に。」

露伴が立ち上がったので診察室から出て行くと思った入江は目を逸らした。
しかし、なぜか露伴の体が入江の真横まで近づいてきていたことに気づく。
露伴は入江以外には聞こえないように小さな声で話しかける。

露伴「この前お渡しした封筒、誰にも見つからないように開けてくださって結構ですよ。内容も誰にも見られないようにしてくださいね。」

露伴はそう言うと、入江から離れ、本当に診察室から出て行こうとした。
そして扉から出るところでもう一言口を開いた。

露伴「僕は今からお昼ごろまでは神社にいます。気が変わったら、来てくれると嬉しいですね。ふふふ。」

露伴はそれだけ告げて診察室から出て行った。
入江は露伴から渡された封筒を思い出すが、所長室に置いてあるためすぐに開けることはできなかった。

診察を終えた露伴は入江に伝えたとおり神社で待つことにした。
診療所から神社へと戻る。戻る途中に偶然すれ違った村人が露伴に声をかけてきたりもした。
昨日の祭りで顔が売れたんだろうか。ちょっと気分がいい。

神社に戻り、入江が来るのを待つ。
診察終了の時間も過ぎたが一向に入江が来ない。
露伴が自分の予想が間違っていたかと思い情報を整理していると、やっと入江が現れる。

露伴「おっと、入江先生。遅かったですね。」

入江「・・・。」

入江は厳しい顔をしている。それを見て露伴は手紙を読んだことを察した。

露伴「手紙にも書きましたが、僕はあなたの敵じゃあない。とりあえず、お昼でも食べに行きませんか?おなか減ってるんですよね。」

入江「えぇ、そうしましょうか。」

入江に案内され、入江の車へと乗る。
露伴は終始無言だった。入江の出方を探っているのだろう
入江もそれは同じで露伴の出方を探っているようだ。
我慢できずに動いたのは入江だった。

入江「なぜ、知っているんですか?」

露伴「質問に質問で返すようで悪いけど、何に関してです?心当たりがたくさんありすぎてね。くっくっく。」

入江「・・・梨花ちゃんから聞いたのですか?」

露伴「まぁ、それもありますね。次に、アンタはなぜ二人を助けてくれなかったのか、と言う。」

入江「なぜ二人のことを警察に・・・ハッ!!」

露伴「ふふふ、入江先生。僕の言うこと、なんでも信じてくれますか?」

入江「内容に・・・よります。」

露伴「話すと長くなるんですが、どうしますかね。」

入江「午後は空けてきました。遅くなったのは職員に午後を任せるためです。」

露伴「それはありがたい。時間があるのであれば、食事の間は友人として仲良くできそうですね。」

入江「友人として、ですか・・・。」

入江の車は雛見沢にある蕎麦屋へと入っていった。
診療所でもよく出前を取るお薦めの店だと言う。

時間が遅いせいか、客は露伴達だけだった。
だが、店員に話を聞かれる可能性もあるため祟りに関する話はしたくない。
露伴は食事の間は友人として話すことがあるといい、爪の件について話した。

入江「それで、お祭りの日は大人たちが沙都子ちゃんに普通に接してくれていたんですか。」

露伴「まぁ、そんなところです。どうやってお魎さんが沙都子ちゃんを許したのが広まったのかは僕は知らないですがね。」

入江「・・・先ほどは、あなたに失礼な態度をとって申し訳ない。」

露伴「なんのことです?」

入江「あなたにこうしてお礼を言うのは2度目ですね。沙都子ちゃんと救ってくれてありがとうございます。
私はあなたが沙都子ちゃんを救ってくれた恩人だということを忘れていました。あの手紙の内容だけであなたを疑ってしまった・・・。」

露伴「ふふふ。まぁ、話を聞いてもらえそうでよかったですよ。」

露伴に対する不信感が和らいだのか、入江は少しリラックスしたようだった。
二人は蕎麦をすすりながら、沙都子について話すのだった。

やがて食事を終えて二人は店を出る。

入江「どこでお話しますか?」

露伴「人に聞かれない場所ならどこでもいいんですが、入江先生に任せますよ。」

入江「私の家に行きましょうか・・・。」

露伴「お任せします。」

こうして露伴は入江の家へと案内された。
入江の家は興宮にある平凡なアパートだった。
男の一人暮らしならこの程度だろう。いや、医師にしては質素な家だろうか?
入江に案内されるままに露伴は家へと入った。

入江「コーヒーかお茶くらいでしたら用意できますけど、どうしますか?紅茶もありますよ。」

露伴「紅茶でお願いしようかな。」

入江は台所へと向かい、露伴の紅茶と自分のコーヒーを用意してきた。

入江「それでは、お話を聞かせてもらえますか?」

露伴「実は、僕、未来から来たんですよ。って言ったら、信じますか?」

入江「ははは、流石にそれは無理がありますよ。タイムマシーンでも見せてもらえれば信じなくもないですが。」

露伴「やっぱりそうですよねぇ。それじゃあ、僕の言うことが嘘ではないと証明するのと、僕の知っていることをすべてお話しするの、どっちが先がいいですか?」

入江「それは、証明を先にしてもらえれば何でも信じますが、本当に未来から来たと言うんですか?」

入江は自分が馬鹿にされていると思ったのか、少しいやな顔をした。
露伴はかまわずに説明をする。

露伴「入江先生、僕は”スタンド”という超能力を持っています。これからその超能力をあなたにお見せします。それで信じてもらえませんか?」

入江「超能力が未来から来たことの証明になるのでしょうか?」

露伴「あの手紙が未来から来た証明のつもりだったんですがね。超能力と手紙では信じてもらえませんか?」

入江「それは・・・詳しい話を聞かないとわかりません。」

露伴「そうですね、それではまずは”スタンド”を体験してもらいましょうか。」

入江「は、はぁ・・・。」

入江は多少は真面目に返答をしたものの露伴の言うことをあまり信じられなかった。
いくら沙都子の恩人だろうとも、未来から来たと言い出したならそれは異常者にしか見えない。
当然である。

露伴「疑ってくださって結構です。僕の”スタンド”の能力は、『他人の体に残された記憶を読む。』です。本人が忘れてしまった記憶だろうと、覚えている記憶だろうと、
体験したことなら全てを読み知ることができます。これから、あなたの体の記憶を読んでみます。そして、あなたしか知りえない僕が知るはずのないことを調べてみましょう。」

入江「はぁ・・・たしかに僕しか知りえないことがわかるのなら、超能力を認めざる終えませんが・・・。」

露伴「そう、疑ってくれてていいんです。僕がこれから証明するんですから。」

入江「それでは、どうぞ記憶を読めるというなら読んでください。」

露伴「わかりました。記憶を読んでいる間はあなたは意識を失います。危害は加えませんのでご安心を。それでは・・・。」

────天国への扉(ヘブンズ・ドアー)ッ!!

 

■TIPS
露伴からの手紙—-

入江京介様へ

これを開いているころにはもう綿流しは終わっているはず。
いまは6月20日か、それよりもっと後かな?まぁ、どうでもいいか。

まず、先に言っておく、多分僕はあんたの敵じゃあない。
あんたが鷹野と富竹を殺したのでなければね。

もし、鷹野と富竹を殺したのがあんたなら、それはそれでおもしろい。
僕も殺しに来てくれよ、ふふふ。まぁ、僕の推理ではその可能性は低いんだけどね。
だから、一応あんたが犯人じゃないという仮定で話させてもらうよ。

鷹野と富竹の件については、山狗またはそれ以上の組織が関わっている可能性が高い。
なのでこの手紙に関しては山狗や診療所の職員には知らせないでほしい。
詳しくは二人きりで話そうじゃないか。なぜ山狗が関わっている可能性が高いのか話すよ。

いや、なぜ山狗のことや、富竹と鷹野が殺されることを知っているかの説明のほうが先になるかな?
とりあえず、人に話を聞かれない場所で二人で話がしたい。
二人で話をしたあとに、僕が信用できないなら山狗に言うなりなんなりしてくれてかまわない。
だから、僕から話を聞く前に山狗に言うのは勘弁してくれよ?

君が僕の願いを聞いてくれることを祈っている。

1985年6月18日 岸辺露伴

251 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/01/21(月) 01:24:07.94 ID:zkfK4uZq0

露伴からの手紙2—-

園崎お魎さまへ

綿流しの次の日にこの手紙を開いていてくれているでしょうか?
今年のオヤシロさまの祟りは富竹ジロウと鷹野三四の二人が死にます。

これが僕がオヤシロ様の使いとして未来から来たことの証明です。
二人の死を阻止されるのは困るのでこういった形で伝えさせてもらうことになりました。
来年以降はオヤシロ様の祟りは起こりませんのでご安心ください。

1985年6月17日 岸辺露伴

 

入江のページ

富竹「また、入江機関につきましては、最長3年以内を目処に研究の収束を図ってまいります。予算もそれにあわせ、段階的に縮小する方針です。」

入江「ちょっとまってくださいッ!近年、雛見沢症候群の解明も進み、たしかに病気の研究としてはかなり好調な部類に入るとは思います。
ですが、3年という短い期間で確実に完成させられるというお約束はできませんよ・・・。」

富竹「理事会では、入江機関はすでに治療薬について充分な研究を完成させているという認識です。治療薬C117が完成し、その臨床データを、」

入江「完成なんてとんでもないッ!!まだまだ臨床試験の段階に過ぎません。すべての村人に有効であるという結果もでていません。
まだ村人全員を治療できる目処はまったく立っていないんです。現時点では研究を完成させるまでの期日を論じることさえ不可能だと考えます。
それを3年という短い期間に完成させろというのは・・・。」

富竹「なるほど、それでは入江機関は現時点で感染者全員を治療し、雛見沢症候群を撲滅することは不可能だということですね?」

入江「そうです。村人全員の治療と雛見沢症候群の撲滅は将来的に不可能ではありません。我々もそのために最大限の努力をしてきました、そしてこれからもそれを続けるつもりです。
しかし、それには充分な時間が必要ですし、予算も少なからず必要となってきます。研究というものは常に同じペースで進むものではありませんし、
費やした時間に比例して必ず成果がでるというものでもありません。どうかそこをお考えいただきたいです。」

鷹野「両親の死後は親戚がいませんでしたので、施設に引き取られたんですわ。同時はまだまだ多かった戦災孤児を集めて補助金を受け取るだけの施設。
本当にひどいものでした。そこを脱走した時に助けてくださったのが、・・・高野先生でしたの。」

高野先生とは我々雛見沢症候群を知る者にとってはただ一人。
戦時中に雛見沢症候群を予見した高野一二三という人物に他ならない。

入江「それでは、鷹野さんは高野先生と面識がおありで・・・。」

鷹野「高野先生は父の恩師でして、そのあと私を孫として引き取ってくださいました。」

入江「そうですか。しかし、なぜ今までそれを伏せられていたのですか?」

鷹野「大人の事情というやつですわね。」

富竹「どうしたんですか?入江所長。僕と二人で話したいことがあるなんて。」

入江「先日の、鷹野さんが東京に行った件についてです。鷹野さんの元気のない様子から大体のことは察しているのですが、さすがにあの様子ですと、詳しい話をお聞きできなくてですね。」

富竹「なるほど、それで僕に聞こうというわけですね。」

入江「えぇ、申し訳ないのですが、ご存知なら伺いたいと思います。」

富竹「・・・。所長のお察しのとおりですよ。東京の上層部は鷹野さんの説明を受けても、研究には否定的でした。症候群の存在自体は理解して頂けたようですが、
やはり症候群を撲滅して隠蔽する決定には変わりはないそうです。ノーベル賞がとれるかどうかより、世論や他国を敵に回したくないのでしょう。」

入江「そうですか・・・。」

富竹「私も力になりたいのですが、こればっかりはどうも。ははは。」

入江「いえ、富竹さんのおかげでなんとか研究の資金を出してもらっています。富竹さんは最大限の努力をしてくださっていますよ・・・。」

 

露伴は入江のページを捲り、鷹野に関すること、雛見沢症候群に関することを次々と読んでいった。
それもほとんど読み終えると、入江という人物に関することも読んでおく。
まずは、梨花への殺意・・・それはない・・・それ以外にも梨花の死に関わるであろう情報はない。
入江は現時点では梨花を殺す犯人と関係はないようだ。

露伴は他を読むことにする。
彼の研究に対する葛藤や苦悩、沙都子を救うために今までに様々な努力をしてきたこと、彼が医師を目指した理由。
他にも様々な内容を読んだ。やはり人の人生というものはおもしろい。入江は人としてはよくできた人間だろう。
そういう人間の人生は読んでいておもしろいし、漫画へも活かせる内容が多い。
露伴は時間の経つのも忘れて読みふけってしまう。
日が傾き始め、部屋が薄暗くなってからやっと露伴は自分が必要以上のことを読んでいることに気がついた。

暗くて読みづらいと思ったが、こんな時間か。
露伴は入江を元に戻してやろうと思い、最後に書き込む内容を考える。

入江が山狗に露伴のことを話すのは避けばければならない。
では、『岸辺露伴の仲間になる』とでも書くか?
いや、入江は実質山狗の監視下にあると言ってもいい。
入江が変に露伴のために行動を起こし、それを山狗に察知される可能性は否定できない。
山狗が梨花殺しの犯人である可能性は消えていないし、そうでなくとも露伴は山狗にとって防諜上排除するべき存在だ。
すると、あまり行動を起こす可能性のあることは書き込めないな・・・。
それじゃあ、こんなところか。

『岸辺露伴に不利益な行動をしない。』
露伴はこの一文だけを書き、入江に対して発動していた能力を解除した。
そして、意識を失っている入江を起こす。

露伴「入江先生、起きてください。入江先生。」

入江「ん・・・、ろ、露伴さん?」

露伴が入江の肩を揺らしながら話しかけると、入江は意識が戻ったようだった。

露伴「あなたの記憶を読み終えましたよ。大丈夫ですか?さっきの話、覚えてます?」

入江「え、えぇ、覚えてます。もうこんな時間ですか?私はずっと意識を失っていたんですか?」

露伴「あなたの記憶を呼んでいる間は意識を失わさせてもらいました。さきほど能力を解除したところです。」

入江「・・・それでは、私しかしらない記憶を聞かせてくれるんですよね?」

露伴「えぇ、お聞かせしますよ。入江先生が信じてくれるまでね。ふふふ。」

入江「お茶を淹れなおしますね。私のコーヒーももう冷めてしまったようです。」

露伴「あぁ、お願いしますよ。さっきより砂糖一本多く持ってきてください。」

露伴の図々しい要求に入江は返事をすると、台所へと向かっていった。

再び入江が紅茶とコーヒーを淹れ戻ってくる。
入江が椅子に着くと露伴は話を始めた。

露伴「入江先生が医師を目指したのは、ご両親の影響ですね。」

入江「もっと具体的に仰ってくださらないと信じられませんよ。一般的に可能性の高いことを言って相手を信用させるのは占い師がよく使う手法です。」

露伴「ははは、そういうつもりじゃなかったんですがね・・・。あなたの父は、建設関係のお仕事だった。そして建設現場でちょっとした事故で頭を打った。」

入江「・・・。」

露伴「それ以来、あなたの父は性格がまったく変わってしまい家庭内暴力を振るうようになる。それが原因であなたの母は、上京して大学へと通っていたあなたのアパートまで逃げてきた。
その後、あなたの父は近所などにも迷惑をかけるほど騒ぎを起こしていた。ついには、暴走族と揉め事を起こして殺されてしまう。」

入江は何も反論しない。露伴の言っていることがすべて間違っていないからだ。
露伴は一口紅茶に口をつけると、続きを話した。

露伴「これをあなたは器質精神病であると考えた。だが、当時の医学的知識のない人間はそんなことは信じてくれない。あなたの母もそうだった。あなたがいくら説明しても父を恨み続けた。
そしてそのままお亡くなりになった。あなたは、それ以来、脳に関する医学を勉強するようになる。そして神経外科の道を進むようになる。所長室には神経外科の本がいくつかありましたね。
1975年に日本では神経外科は否定されたので不思議に思っていましたよ。おっと、これは医師を目指した理由とはちょっと違いますかね?大学に入ってからの出来事ですから。
大学に入るまでは、ただ漠然と医者というものに憧れてたんですよね。」

入江「あなたの言うとおりです。ですが、それは私しか知りえない情報ではありません。雛見沢に来てから話したことは覚えている限りありませんが、
知っている人間がいてもおかしくはありません。ですから、あなたがどうにかして知りえる情報だったわけです。」

露伴「なるほど、たしかに探偵か何かに依頼すれば調べられる内容ですね。それじゃあ、探偵に調べられない内容がいいですか?」

入江「そうですね。そのほうがいいでしょう・・・。」

入江はすでに動揺していた。
いくら探偵に調べられる可能性のある内容だとしても、具体的過ぎる。
ここまで詳しい話を自分は誰かにしたことがあるだろうか。
そう振り返ると露伴が超能力を使っているとしか思えなかった。
この男は本当に超能力者で未来から来たとでも言うのだろうか?
入江は混乱する頭を落ち着けようとしていると、露伴から不思議な単語が聞こえた気がした。

露伴「・・・・・・号。」

入江「え?」

入江はその言葉がなんだったのか認識できなかった。
露伴が知るはずのない言葉を発しているからだ。
だから、露伴からそんな言葉が出たとしても入江には認識できない。

露伴「聞こえなかったですか?入江先生。」

入江「あ・・・、はい、もう一度お願いします・・・。」

露伴「緊急マニュアル第一号。つまり、オヤシロ様の祟りの1年目と4年目の真相ですよ。」

入江は自分の体中の血液が引き抜かれたような気がした。
自分の体の血液を何か冷たい水にでも入れ替えられたような錯覚。
自分たちが行った罪を知るものがいた、その事実が入江の思考を停止させる。
体は血の気が引いて寒い、頭も凍ったように停止した。

だが、露伴はやめない、彼らの罪を、彼しか知りえない形で語る。

露伴「緊急マニュアル第一号、自然発生的末期発症者(以下L5と表記)が確認された場合、施設長はL5が異常社会行為を起こす前に迅速に事態を収拾しなくてはならない。
ただし、機密保持に厳重に注意すること。その際、施設長は機密保持部隊に対し応援を要請できるものとする。機密保持部隊は、
確保に当たり必要と判断した場合は発砲許可を施設長に対し申請することができる。L5の確保は極力、生体であることが望ましいが、
機密保持上の理由でそれが困難である場合、生死を問わないものとする、全てにおいて機密保持と外部発覚阻止を最優先とすること。
ただし、機密保持は外部発覚阻止に優先するものとする。一字一句書類と変わらないはずです。これも、探偵ならわかることですか?ふふふ。」

入江「・・・うちの職員に聞けばわかる内容です・・・。」

入江はもうわかっていた。だが、否定したかった。
いや、逆かもしれない。全ての可能性を消して露伴を信じたかったのかもしれない。
そのどちらにしても、次の露伴の返答は入江に否定する余地を残さなかった。

露伴「緊急マニュアル第34号、複写厳禁・持出厳禁。本マニュアルの許可なき閲覧はこれを厳禁とする。本マニュアルは最高決裁者の決裁を持ってのみ適用される。
如何なる簡易決裁もこれを認めない。また決裁者は本マニュアル適用の決裁に当たっては可及的速やかに判断すること。対応不能な事態が発生し最高決裁者がそれを認められる場合、
機密保持と外部発覚阻止のため、入江機関(以下、機関と表記)は最終的解決をしなければならない。最終的解決とは以下を指す。
L2以上の潜在患者全員の処分。機関施設の完全な証拠隠滅。本マニュアル適用の隠蔽。」

入江「・・・もう、結構です。それは、私、富竹さん、鷹野さん、小此木さんくらいしか知らない情報です・・・。」

露伴「信じていただけたようですね。」

入江「超能力・・・ですか。超能力というのは、もっとこう、スプーンを曲げたりするものだと思っていましたよ。」

露伴「あぁ、物を浮かせるくらいならできますよ。」

露伴がそう言うと、紅茶の入ったティーカップが宙に持ち上がる。
そして露伴の口元へと運ばれ、露伴が一口飲むと、またゆっくりとテーブルへ戻っていった。
入江は、もう露伴の超能力を疑う余地はなかった。

入江「最初からそれをしてくださればよかったのに・・・。」

露伴「いえ、あなたの知る情報を知りたいという意味もあったんですよ。あなたが僕の敵じゃあないという確認ができました。」

入江「敵・・・とはどういうことですか?」

露伴「鷹野と富竹を殺した犯人ではないということです。そして梨花を殺す犯人でもない。」

入江「梨花さんが殺されるッ!?そ、そんなことッ!!」

露伴「話が元に戻りますね。僕が未来から来たという話をしましょう。」

露伴は入江に説明を始めた。
これから雛見沢で起こること、梨花の死と雛見沢大災害のことを入江へと伝える。

入江「つまり、梨花さんが死に緊急マニュアル第34号が適用される、と。」

露伴「そうですね。雛見沢大災害は、その緊急マニュアル第34号の筋書き通りです。そのマニュアルが適用されたと考えるのが妥当でしょう。」

入江「し・・・信じられません。未来から来たことも信じられませんし、梨花さんが死ぬというのだって信じられませんよ。彼女は山狗に警護されているんです。」

露伴「だから手紙にも書いたじゃないですか、山狗かそれ以上の組織が関わっていると。」

入江「・・・手紙にあった山狗が関わっている可能性が高いという話をお願いします。」

露伴「簡単なことです。さきほど入江先生も仰ったじゃないですか。梨花は山狗に警護されている。それを殺せるのは、山狗を越える組織か山狗自身だけです。」

入江「露伴さんの手紙は山狗の可能性が高いように書いてありましたが。その根拠はないのですか?」

露伴「仮に山狗を超える組織が存在した場合。その組織と山狗での戦闘またはそれに類する事態に発展すると考えられます。
もし、陸自の特殊部隊とそれ以上の組織が戦闘すればただ事では済まないでしょう。僕の来た未来ではそのような痕跡は見られていない。
つまり、山狗自身が梨花を殺すほうが辻褄があうということです。(梨花達の転生に関して話しても証明できなければ信じないだう、こんなところでいいか・・・)」

入江「それでは、最後に手紙にあった私が犯人ではないと推理した理由。そしてなぜ私にこの話をしたのか、その2つをお願いします。」

露伴「あなたが犯人でない理由は・・・あなたも死ぬからです。」

入江「それは、緊急マニュアル第34号の適用の際にでしょうか?」

露伴「いえ、梨花が死んだ朝、あなたは自殺したとして診療所で発見されます。それが梨花の死を知り責任を感じたことによる自殺なのか、
それとも梨花を殺す人間に殺された後の偽装自殺なのか。どちらかは僕にはわかりませんが、その時点で殺されるならあなたは梨花の殺害に関与していない可能性が高い。」

入江「どういうことでしょうか?」

露伴「もし梨花の殺害に関与しているなら、梨花の死亡の後に組織に殺されるはずだ。梨花の死亡とほぼ同時刻に殺す意味はあまりないように思います。
とくに所長という職にあるあなたに責任を負わせるなら、梨花の死が公になってから殺すほうがいい。むしろ、緊急マニュアルの適用を最高責任者に具申するのは所長であることを考えると、
あなたが梨花殺害やマニュアルの適用に積極的でないから殺されたとも考えられる。また、あなたが自らの意思で自殺したとするなら、
梨花の死はあなたにとって突発的な出来事でなくてはならない。事前に計画していたなら、梨花を殺した直後に自殺することはあまり考えられません。
もし、梨花を殺して自分も死ぬ気なら、梨花を殺してからわざわざ診療所に戻る理由がない。以上のことから、入江先生は綿流し直後の時点で梨花の死について関与していない可能性が高い。
先生が犯人ではないと考えた理由はこんなところです。」

入江「・・・。」

露伴「次に、なぜこのお話を入江先生にしたか、ということですが。ひとつ、お願いがあるんですよ。それを話す上で、僕が未来から来たということが関わってくるんです。」

入江「そのお願いとはなんでしょう?」

露伴「診療所で鷹野三四を見かけたり、鷹野と連絡を取っているであろう人物を見つけたら教えてほしいということです。」

入江「意味がよくわかりません。鷹野さんがお亡くなりになったのはご存知なんですよね?」

露伴「これも未来から来たからわかるとしか言いようがないんですが、岐阜山中で発見された鷹野三四はおそらく偽装死体です。本当の鷹野三四は生きている。
ですが、診療所の中にいたり、山狗に匿われていたりすると、僕は接触できない。だから、入江先生の出番というわけです。」

入江「鷹野さんが生きていて、梨花さんを殺すと言いたいのですか?」

露伴「直接的に梨花を殺すかはわかりませんが、関与している可能性は高いかと。」

入江「鷹野さんが梨花さんを殺すなんてことは信じられません。梨花さんが死ぬということがどれほどの惨劇になるのかを鷹野さんは誰よりも理解しています・・・。
それに偽装殺人だと言われても、警察で検死が行われたはずですよ・・・。」

露伴「僕も鷹野が梨花を殺す理由がわからないんですよ。だからそれを知るために鷹野に接触したいんです。まぁ、これ以上話しても埒があかないですかね。」

露伴のその言葉を入江も理解し、黙りこむ。
しばらくの長考のあと、入江は口を開いた。

入江「露伴さん。あなたの超能力に関しては、信じます。そうでなくては説明できませんからね。ですが、未来から来たという話や梨花さんの死、鷹野さんが生きているという話。
それらは全て根拠がない。あなたの妄想と言っても過言ではないでしょう。」

露伴「僕が今年の祟りで二人が死ぬのを予言したことはどうなるんですか?」

入江「たしかにあなたは予言し、それが当たりました。ですが、あなたがこれから起こるということも100%起こるとは信じられません・・・。」

露伴「ふふふ、それでは今日はこの辺で終わりにしましょうか。もう陽も落ちてきてるようですしね。」

入江「そうですか。それでは、雛見沢までお送りしますよ。」

その後二人が言葉を交わすことはない。
露伴は何も気にしていないようだったが、入江は気まずい空気を感じながら雛見沢へと車を飛ばした。
入江の車が古手神社へと着く。露伴が車を降りると、入江も車を降りて見送ろうとする。

入江「それでは露伴さん、またお会いしましょう。」

露伴「ふふふ、未来から来たとかイカれたことを言うやつとまた会いたいのかい?」

入江「い、いえ・・・、信じることはできないとは言いましたが、露伴さんを軽蔑したわけではないんですよ。」

露伴は神社の階段を上り始める。
入江は露伴が気を悪くしたのかと思い、引きとめようとする。
そのとき、露伴が入江のほうを振り返り言った。

露伴「僕の目的は達成されている。アンタが鷹野の存在に気づいたなら、僕の話を信じざるを得ない。そうすればアンタは僕に連絡するしかない。
あんたが信じようと信じなかろうとどっちでもいいんだよ、僕は。」

入江「・・・。」

露伴「今度はまた友人として沙都子ちゃんの話でもできることを祈ってますよ。入江先生。」

露伴はそれだけを言い残し、再び階段を登っていった。
入江は露伴が神社の境内へと消えるのを見届けると、車に乗り込むのだった。

1983年(昭和58年)
6月21日(火)

沙都子は学校へと向かった。
梨花は体調が優れないと言い学校を休むそうだ。
露伴も家に居座ろうとしたが、病人の近くにいるなと追い出された。
そのため、露伴は今日も神社の境内で一人考え事をする。

入江から得られた鷹野の情報に梨花を殺害する動機となる確定的なものはなかった。
もちろん、露伴の知らない情報も多々得られはしたのだが・・・。

鷹野が雛見沢症候群の発見者の養孫であること。
鷹野が雛見沢症候群の研究に多大な熱意を持っていたこと。
そして近年、雛見沢症候群の研究の規模縮小が決定し、
症候群の撲滅の後にその存在は隠蔽されること。

入江から得られたこれらの点を結びつけると、
鷹野が研究縮小にヒステリックを起こし梨花殺害を計画した。
梨花を殺すだけの動機なら、その程度の動機も十分ありえるだろうか。

だが入江から得られた中でもっとも重要な情報がそれを否定している。

緊急マニュアル第34号
これこそが雛見沢大災害の真相であり、
ある意味露伴が最も知りたかった事実でもある。
あとは梨花を殺害する犯人が誰なのかを知ることができれば露伴の当初の目的は達成されるのだ。
そう考えると、当初の目的の半分は達成したと考えることができるだろう。

鷹野はこのマニュアルの存在を知っていた。
すると、鷹野にとって梨花の殺害は雛見沢住人2000人の殺害と同義であることになる。
2000人の殺害の動機が、熱意を持っていた研究の縮小に対するヒステリック。
もちろん、可能性が0%というわけではないが動機としては不十分に感じる。
そして、梨花の殺害は2000人の殺害と同義だが、鷹野にとってはもう一つの意味を持つ。
梨花と住人2000人の殺害、それは雛見沢症候群の研究の終焉を意味する。
研究対象がいなくなれば研究が続けられないのは当然のことだろう。
症候群の研究に熱意を持つ鷹野が自らの意思で梨花の殺害を計画したとは少し考えずらい。

鷹野には住人2000人が死亡しても利益はない。
山狗にも住人が死ぬことによって利益がもたらされるとはあまり考えられないな。
入江の記憶から”東京”という組織の存在は確認できたが、それは山狗や鷹野の上の組織だ。
東京も含めた、鷹野達に梨花と住人2000人を殺して利益があるとは思えない。
なんらかの政治的効果はあるだろうが、2000人を虐殺することのリスクを上回るものがあるとは思えないからだ。
ではやはりそれとは別の組織の存在があるのだろうか。

いや待て、そもそも鷹野は梨花を殺す側の人間なのか?
たしかに鷹野の死体は偽装死体の可能性が高い。
僕の直感も、鷹野はあの日に自分が”死ぬ”のを知っていたと言っている。
だが、鷹野が梨花を殺す側の人間ではない可能性もあるのか・・・。
鷹野が梨花の死に関わっている可能性は高いが、どちら側の人間なのか・・・。
鷹野に接触することが現時点で最も重要なのは変わらないが、犯人からは遠ざかったような気もしてくる。
最悪、梨花を殺しに来た犯人を直接見つけることになるかもしれない・・・。

「ロハン、聞こえないのですか?ロハーンッ!?」

露伴がその声に気づき、目を開けると羽入が駆け寄ってくるところだった。

羽入「やっと気づきやがったのです。ロハンは耳が悪いのです。」

露伴「うるさいな、考え事をしてたんだよ。で、何の用だよ?僕に付きまとうのはやめたんじゃなかったのか?」

羽入「僕だっていつも梨花についているわけじゃないのです。たまにはお散歩をしたりもするのですよ。」

露伴「だったら僕に話しかけるなよ。考え事の邪魔だね。」

羽入「あぅあぅ。もちろん、用もあるのですよ。やっぱり露伴はボクに冷たいのです。」

露伴「ふん、やっとうるさいやつから解放されて清々しく過ごしてたんだ。あんまり騒がないでくれよな。で、何の用だよ?」

羽入「ロハンは昨日、能力を使いましたですね?」

露伴「富竹の時といい、おまえに勘付かれるのは気に触るな。」

羽入「あぅあぅ、ボクだって好きで感じてるわけじゃないのです。それで、何があったのですか?」

露伴「入江に能力を使っただけさ。先に言っておくが犯人はわからなかったぞ。まぁ、入江が犯人じゃあないってわかったくらいさ。」

羽入「入江が梨花を殺すはずはないのです。」

露伴「そう思い続けてもう何十年と生きてるんだろ?何事も疑ってかからないと、あと百年以上はこのままだろうな。」

羽入「あぅあぅ、でもやっぱり入江は犯人じゃなかったのですよね?」

露伴「そういう意味じゃないんだがな。そんなことよりだ、僕はあとどれくらい能力を使える?」

羽入「はっきりとはわからないのですが、まだまだ大丈夫だと思います。」

露伴「富竹のときから時間が経ったが、それで影響が薄れたりは?」

羽入「富竹のときからずっと変わっていないのです。そして昨日のでボクの能力の歪みが2倍くらいになりましたです。だからあまり時間は関係ないと思いますです。」

露伴「・・・今の歪みの何倍まで大丈夫そうなんだ?」

羽入「だから、はっきりとはわからないのですよ。」

露伴「大体でいいんだよ。目安くらいは必要だろう。」

羽入「そうですね、ボクが保障できるのはあと3倍くらいまでとしか・・・。」

露伴「安全なのはあと4回。それ以上はいつ元の世界に戻されるかわからないってことか。」

羽入「ボクの感覚的なものなので、どのくらいあてになるかはわからないのですよ。」

露伴「それでも知らないよりはましだろう。よし、用は終わっただろ?まだ用があるのか?」

羽入「あぅあぅ。用がないと一緒にいてはいけないのですか?」

露伴「・・・勝手にしろ。」

羽入「それじゃあシュークリームを買いに行くのはどうですか?」

露伴「なんで僕がシュークリームを買わないといけないんだよ。」

羽入「病気の梨花にお見舞いなのです。さ、自転車に乗るのです。」

露伴「おまえが食べたいだけだろう・・・。僕は人を待ってるんだ。だからここからは動かないぞ。」

羽入「誰と約束しているのですか?」

露伴「いや、約束はしてないが・・・。ほら、予想通り来たぞ。ふふふ。」

露伴がそう言うので羽入は階段のほうを振り返った。
階段を登り終えた大柄な男がこちらへと歩いてくる。
大石だった。

大石は露伴のすぐ近くまで歩いてくるとわざとらしく話しかける。

大石「おんやぁ?珍しくオヤシロ様にお祈りをしようと思ったんですがね。こんなところで何してるんです?漫画家の先生。」

露伴「アンタを待ってたんだよ。僕に会いに来たんだろ?大石さん。」

露伴がそう言うと、大石はなぜか嬉しそうに嫌らしい笑いを見せた。

大石「んっふっふっふっ。お祈りに来たのは本当ですよぅ?」

大石はそう言うと、露伴の横を通り過ぎ賽銭箱へ小銭を投げ入れた。
そして手も合わせずに露伴のところへと戻ってくる。

大石「えぇーと、岸辺さんでしたっけ?私の名前どこで知ったんです?挨拶するのは初めてだと思うんですが。」

露伴「祭りの実行委員会の場にいたじゃあないか。名前は村人から聞いたよ。間違ってたなら謝るけど、記憶力はいいほうだぜ、僕は。」

大石「そうですかそうですか、それで私に何か用があるんですか?待っていてくださったんですよねぇ?」

露伴「待ってたとは言ったが、僕が用があるとは言ってないぜ。」

大石「すると、どういうことです?んっふっふ。」

露伴「アンタが僕に用があるだろうから待っててやったってことさ。」

大石「おやおや、岸辺さん、警察に厄介になるようなことしたんですか?それはいけませんねぇ。今なら自首ってことにしときますよ?」

露伴「いいや、何もしてないさ。」

大石「本当ですかぁ?何かやましいこと、あるんじゃないです?」

露伴「じゃあ、アンタは僕に何も用がないんだな?それなら、僕はもう行くけど?」

露伴は立ち上がり、神社を去ろうとする素振りを見せる。
大石は露伴にやりずらさを感じたのか、少し不機嫌そうな顔を見せた。
そしてまたわざとらしい演技をしながら言う。

大石「あぁ、そういえばですね。別にここに来た理由ってわけじゃないんですがお聞きしたいことがあったんですよ。」

露伴「フン、なんだよ。」

大石「えぇっと、綿流しのお祭りの晩のことです。岸辺さん、どうしてましたかぁ?」

露伴「質問を質問で返すようで悪いが、どうしてそんなことを聞くんだい?」

大石「・・・。」

この質問に答えることは大石にとっては少し好ましくない。
綿流しの晩に富竹と鷹野が死んだことは公表されていない。
もし、露伴の口から5年目のオヤシロ様の祟りを連想させる言葉が出ようものなら、
そこに食いついてやろうと思っていたからだ。

しかしその作戦は上手く行きそうにない。
この岸辺露伴という男は、自分の狙いを理解した上でこの質問をしてきたのだ。
熟年刑事の勘でそれを感じ取った大石は少し考え込んだ。
そして覚悟を決める。

大石「そういえばですねぇ、私、このあとお昼に行こうと思ってたんです。よかったらご一緒にいかがです?」

露伴「それが僕に質問した理由かい?」

大石「いえいえ、それはお昼を食べたらお話しますよ。今話すと、もしかしたらお昼が美味しくなくなっちゃうかもしれませんからねぇ。」

露伴「やっぱり僕に用があって来たんじゃないか。」

大石「質問とお昼は別ですよぉ?オヤシロ様のお祈りに来たら、漫画家の先生とばったりお会いした。お祭りでは大活躍だったみたいですからねぇ。
雛見沢じゃ知らない人はいないくらいの有名人です。せっかくだからお昼をご一緒にって変です?」

露伴「まぁ、どっちでもいいさ。つき合わせてもらうよ。車で来てるんだろう?」

大石「えぇ、下に泊めてあります。興宮にいいお店があるんですよ。」

露伴はスタンドで羽入に話しかける。

露伴「そういうわけだが、おまえはどうするんだ?」

羽入「梨花が飲み過ぎると困るので、僕はここに残るのです。」

露伴「仮病か・・・。」

羽入「梨花は自分の死が近づくと、昼間からお酒を飲んだり、あぅッ!!あぅあぅ・・・痛いのです・・・なんで僕を殴るのですか。」

露伴「自分で考えろ。じゃあな、行ってくる。」

露伴は大石に案内され、階段を下りていく。
残された羽入はしばらく自分の殴られた理由を考えていた。
だが結局理由は思いつかず、梨花の下へと戻ることにした。

露伴と大石は車の中では世間話をする。
といっても、露伴にとってこの世界の世間話はしづらい。
大石の話になんとかあわせているだけだった。

やがて車がファミレスのような建物の1階部分にある駐車場へと入っていく。
露伴はこの店に見覚えがあった。

露伴「いいお店って、ここのことだったのか?」

大石「ありゃ、岸辺さん知ってましたか?」

露伴「一度、来たことがあるが・・・。」

大石「このお店のウェイトレスさんの格好、可愛らしいでしょう?署でも大人気なんですよ、このお店。それとも、こういうお店はお嫌いですか?」

露伴「・・・別に料理は普通だった気がするし僕はかまわない。」

大石「料理よりウェイトレスさんが大人気なんですけどねぇ。んっふっふっふ。それじゃあ参りましょうか。」

昼食を食べ終えた二人のところに、ウェイトレスがコーヒーのお替りを持ってくる。
二人の席は壁際で、隣の客もいなかった。ウェイトレスがお辞儀をして去るのを確認したあと大石が切り出した。

大石「それじゃあお昼も食べたことですし、本題に入ってもいいですかねぇ?」

露伴「あぁ、僕の質問に答えてくれるんならね。」

大石「岸辺さん、オヤシロ様の祟りって知ってますか?」

露伴「一応知っているつもりだよ。雛見沢に来たのはそれの取材もかねてるからね。」

大石「そいつぁ結構です。それじゃあ、綿流しのお祭りの晩に二人お亡くなりになった、と言えばわかってもらえますかな。」

露伴「今年もオヤシロ様の祟りが起きたってことになるわけだ。」

大石「そうです、ですから岸辺さんが何か知っていらっしゃらないか、不審な人物を見かけなかったか、などお話を聞きたかったわけですよ。
ただ、事件があったことは秘匿捜査ということで伏せていますので、さっきのような聞き方になったわけです。」

露伴「僕を疑ってるってはっきり言ってくれてかまわないよ。ふふふ。」

大石「いえいえ、岸辺さんを疑ってるわけじゃないんですよ。なにか情報をお持ちでないかお聞きしたいんです。
ただ、岸辺さんが当然だと思っている情報でも警察にとっては有益な情報かもしれません。岸辺さんがその夜に見聞きしたことをできるだけお教えくださると助かります。」

露伴「僕は疑ってないけど、僕のアリバイを聞かせろってかい?」

大石「疑ってはいないんですがねぇ。困りましたな。」

露伴「いや、話すよ。アリバイはちゃんとあるわけだしね。」

大石「そうですか。アリバイがあるんでしたら、それが一番ですよ。疑ってはいないんですが、身の潔白を証明するつもりでお話をお願いします。んっふっふっふ。」

露伴は出し物のあとから園崎家での宴会までの行動を話した。
露伴が予想以上に詳細な話をしたため、大石は途中からメモを取っていた。

露伴「・・・が園崎家に泊まった人間かな。他は帰っていったと思う。
それが、1時過ぎだった。そのあとは寝て、魅音ちゃんに起こされるまでは寝ていた。」

大石「なるほどなるほど。うーん、たしかに岸辺さんには犯行は不可能ですなぁ。」

露伴「だから言っただろう。それに二人って誰が死んだかも知らないんだぜ。僕の身近な人間が死んだなら、もうわかってるとおもうが・・・。」

大石「お亡くなりになったのは、富竹さんと鷹野さんです。お二人のことは知っていますかな?」

露伴「あ、あぁ・・・知っている。富竹はてっきり雛見沢から帰ったんだと思っていたが・・・。」

大石「・・・。そのご様子だと本当に知らなかったんですかねぇ?」

露伴「あぁ、二人とも普段から会うわけじゃないんでね。」

大石「そうですかぁ、それはちょっと妙なことになりましたねぇ。」

露伴「妙なこと?僕が死んだのを知らないことがかい?ふふふ。」

大石「んっふっふっふ。あ、ウェイトレスさーん、もう1杯お替りもらえますー?岸辺さんもお替りもらいますか?」

露伴「あぁ。もらうよ。」

再びコーヒーのお替りをもらう。
ウィトレスがいる間は大石はウェイトレスに夢中なようだった。
ウェイトレスが去っていく様子(というか尻)をまじまじと見つめていた。

露伴「で?何が妙なんだよ。」

大石「おおっと、見とれてましたよ。すみませんねぇ。なっはっは。」

露伴「(このエロ狸め。)」

大石「露伴さん、確認してもいいですか?あなたはさっき私から話を聞くまで、富竹さんと鷹野さんが死んだことを知らなかった。間違いありませんね?」

露伴「あぁ、さっきアンタから話を聞くまで、誰が死んだのか知らなかったよ。いや、アンタから話を聞くまで死んだ人間がいるってことすら知らなかった。」

大石「するとですねぇ、妙なことにになっちゃうんですよ。ここからは私が独自に手に入れた情報で警察の捜査ではないんですがね。岸辺さん、お魎さん宛てにお手紙書いてますよね?
園崎お魎さん。ご存知ですよね?」

露伴「あぁ、魅音ちゃんの祖母だろう。」

大石「手紙の内容、覚えてます?」

露伴「・・・。」

大石「岸辺さんがお手紙を書いたのっていつですか?さっき私に話を聞いてからお手紙書いたんじゃないと、ちょーっと妙なことになっちゃうと思うんですが。」

露伴「ふ・・・ふふふふ。アッハッハッハッハー。」

大石「んっふっふっふ。どうしたんですぅ?何かおもしろいことでもありました?」

大石は露伴が負けを認めたと思い、ニヤニヤと露伴を見つめた。
この手紙の話は大石にとって切り札だったからだ。

露伴「いやぁ・・・は、ははは。予定通りに事が進みすぎてね。ついおもしろくて笑っちゃったんだよ。」

大石のニヤニヤは一瞬で消え去った。
自分の切り札を見せて、予定通りだと言われれば誰だってそうだろう。

大石「予定通り・・・ですか。何のことですかねぇ?」

露伴「いやいや、こっちの話ですまない。で、どこが妙な話なんだい?」

大石「・・・あんた。人を馬鹿にしてんの?ここまで言ってわからないって言い訳は苦しくない?うぅん?」

大石は凄んでみせる。
いつもの大石なら、飄々と露伴をかわして追い詰めようとするところだ。
だが露伴の独特の雰囲気に大石は焦りを感じていたのだ。

露伴「言葉遊びになっちまうがね。僕は、二人が”死んだ”のは知らなかったと言ったはずだよ。二人が、”死ぬ”のは知っていたけどね。ふふふ。」

大石「なるほど・・・。岸辺さんは二人が死ぬことは知っていた。だが本当に死んだかどうかは、私に聞くまで知らなかったと。そういうわけですかな。」

すぐに大石は冷静さを取り戻した。
いや、胸の中は逆に興奮していた。露伴の二人が死ぬのを知っていたという言葉。
大石はこの言葉を聞き出すために露伴に会いに来たといっても過言ではない。
大石は興奮する自分を抑え、できるかぎり冷静なふりをするよう勤めているだけなのだ。

大石「私の勘違いだったようですね。そのことは謝ります。ただ、お二人が死ぬのを知っていたとなると、詳しくお話を聞かないといけませんねぇ。」

露伴「あぁ、詳しく教えてやるよ。いつか、ね。」

大石「ほーぉ、いつ教えてくれるんですかねぇ。取調室に来てもらってからということですかぁ?」

露伴「ふふふ、まさか。とりあえず、いまアンタに教えるのは僕にとって得じゃないんだ。」

大石「・・・。そこまで喋っておいて、ただで帰れると思ってんですか?」

露伴「今すぐ僕を捕まえるっていうのかい?お魎への手紙は、押収できてないんだろ?」

大石「押収してないと、思いますか?んっふっふ。」

露伴「ハッタリはやめろよ。あの手紙はアンタを釣るためのものなんだ。お魎に渡せば、警察に押収されることはないからな。
園崎家の情報屋から情報を得ているアンタだけを釣るためのものなのさ。」

大石「・・・。」

露伴「まぁ、そう睨むなって。釣りってやつはさ、ちゃんと餌がついてるんだぜ?」

大石「どういうことです?」

露伴「あの手紙は言ってみれば撒き餌。アンタを呼び寄せることはできる。だが、あんたという駒を釣り上げて自分の手駒にするにはちょっと役不足だ。
アンタを釣り上げるための餌は別にちゃんと用意してある。」

大石「・・・私を餌で釣ろうってんですか。」

露伴「おいおい、別に金でなんとかしようってわけじゃあないんだぜ。アンタにひとつ情報をやる。それで、僕を信じてほしいんだ。」

大石「どんな情報ですかな?聞いてみないとなんとも。」

露伴「鷹野三四が生きている。」

大石「岸辺さん、あんまり変なことを仰ると捜査妨害になりますよ。私はそのほうが助かりますがねぇ。」

露伴「僕の言ってることが嘘だとわかったなら、捜査妨害にでもなんでもしてくれ。鷹野三四の死体は偽装死体だ。アンタなら確認できるだろう?」

大石「おんやぁ、本気で言ってるんですかぁ?確かにあっちの県警にも知り合いはいるんで確認はできると思いますが。」

そう言うと大石はなにやら考え事を始める。
露伴はただ何も言わずに大石の考えがまとまるのを待つだけだった。

大石「・・・コーヒーのお替りもらいますかねぇ。」

露伴「いや、僕はもういいよ。」

大石はウェイトレスを呼び、コーヒーをもらう。
だが、今度はウェイトレスに夢中になることはなかった。
4杯目のコーヒーを口にしてから、大石は口を開く。

大石「岸辺さん。あなたがなんでそんな話を私にしたのか、いくら考えても思いつきません。そこは教えてもらえますかねぇ?」

露伴「僕は、鷹野三四に接触したい。鷹野が偽装死体だとわかれば、アンタは鷹野を探すだろう?」

大石「私を使って鷹野さんを探し出そうっていうことですか。鷹野さんに会いたい理由は?」

露伴「それは”まだ”教えない。」

大石「わかりました。信じましょう。」

露伴「信じてはないだろう?」

大石「んっふっふっふ。鋭いですねぇ。」

露伴「捜査妨害なら、僕を逮捕する理由ができる。もし鷹野が生きているのが真実なら、鷹野を探さなくてないけない。なら偽装死体であることを知っていた僕は鷹野の仲間かもしれない。
鷹野が接触してくる可能性も考えて、僕は逮捕せずに泳がせておく。」

大石「あなたには隠し事をしてもお見通しのようですからねぇ。その通りです。ですが、お互い利害が一致したんじゃないですかな?」

露伴「あぁ、僕はアンタが鷹野を炙り出してくれれば満足さ。」

大石「このあと、署まで来ていただいていいですかな?岐阜のほうに連絡をとって確認しますので。」

露伴「おいおい、岐阜って言っちまっていいのかい?僕が岐阜って言ったらそこに突っかかるつもりじゃなかったのかよ。」

大石「んっふっふ。あなたにそういう手は効かないというのはよくわかりましたからねぇ。」

露伴「そりゃ結構。」

大石が残ったコーヒーを一気に飲み干すと、二人は店を出た。

露伴は小さな会議室で大石を待っていた。
大石が岐阜県警に連絡に行ってからかなりの時間がたった。
途中、署内を取材でもしようかと思ったが、扉を開けると大石の部下が待ち伏せをしていた。
トイレ以外は部屋から出さないと言われたので取材はあきらめる。

それからさらに長い時間が経つ。
露伴は座ったまま寝ていたが、傾き始めた太陽の光が露伴の目を覚まさせた。

露伴「ん・・・、眩しいな。もう4時過ぎか・・・。」

ガチャリ。
露伴が目を覚ますのを待っていたかのようなタイミングでドアが開いた。

大石「いやぁ、すみませんねぇ。お待たせしちゃって。」

露伴「で、どうだったんだよ。」

大石「いやぁ、どうもあちらさん、話が通らなくって長引きましたよ。」

露伴「結論は?」

大石「残念ながら、偽装死体とは確認できませんでした。」

露伴「・・・そいつは予定外だ。」

露伴がそう言った瞬間、大石は凍りつく。
露伴から今まで感じたこともないプレッシャーを感じたからだ。
いままで大石はいくつもの修羅場を潜り抜けてきた。だがこんなプレッシャーは感じたことがない。
危険が伴うとか、死ぬ可能性もあるとかそんなもんじゃあない。
いまこの男がその気になれば自分は今すぐに殺される。絶対に殺される。
扉の外に待っている熊谷に助けを求める間もなく。大石はそう思った。

大石「おっとぉ、変な気を起こさないでくださいよぉ?まだ私の話は終わっちゃいませんからねぇ。」

露伴「どういうことだ?」

露伴が大石の話に耳を傾けると、プレッシャーはどこかへ消えた。
露伴が天国への扉(ヘブンズ・ドアー)を出すのをやめたからだ。

大石「偽装死体だという確認はできませんでしたが、おもしろい情報が手に入りました。私、柔道部の繋がりで知り合いがいましてねぇ。
その方に聞いたんですが、鷹野の死亡時刻、あわないそうなんですよ。」

露伴「(・・・危なく能力を無駄に使うところだったな。)」

大石「胃の内容物などからの判定だと、死後24時間以上経過しているらしいんです。ですが、私がお祭りの会場でお会いしちゃってますので、どうも矛盾しちまうんですよ。
まぁ、岐阜さんは歯型の確認の結果、鷹野の死体だと言ってるんですがね。」

露伴「なるほど、じゃあ確認ができないだけで、まだ偽装死体じゃないと決まったわけじゃないんだな。」

大石「えぇ、それでですね、明日私が自分で確認に行ってきます。直接会って話さないとケリがつきそうにないですからなぁ。」

露伴「そうしてくれ。僕も捜査妨害で逮捕されるのはごめんだからな。」

大石「それでですね、露伴さんには明日、私が岐阜に行くのに同行してもらいます。」

露伴「・・・なぜだい?」

大石「逃げられちゃあ困るというのが正直なところです。さっきよりはあなたを信じる気になりましたがね。これであなたを帰して、明日の間に逃げられたとなっちゃあ笑い者です。」

露伴「いいだろう。すると、今日は僕はここで泊まりかい?」

大石「いえ、雛見沢にお送りしますよ。朝まで部下を神社に張り付かせます。さすがに逮捕するまえに拘束することはできませんから。」

露伴「そうかい。逃げる気はないから安心しろよ。」

大石「それじゃあ、部下が車の用意をしてますので、こちらへどうぞ。岸辺さんと話す時間は明日もたっぷりありますからねぇ。」

露伴「これ以上の情報は今のアンタには教えないぞ。厄介なことになりかねないからな。ふふふ。」

大石「今の私・・・ですか・・・?」

露伴「こっちの話さ。」

大石は玄関まで露伴を案内する。
露伴が玄関を出るときには、1台の車がすでに玄関前のロータリーで待機していた。
大石は車の後部座席のドアを開け、露伴に乗るように仕草をする。
露伴が車に乗り込むと、大石は扉を閉める前に部下に聞こえないように言った。

大石「そういえば大切なことを聞き忘れてました。来年からは祟りは起きないというのは・・・本当ですかねぇ?」

露伴「僕がイエスと言えば信じるのかい?」

大石「オヤシロさまの使いの予言ですからねぇ。んっふっふっふ。」

露伴「園崎家の情報屋っていうのはだいぶ優秀なんだな。」

大石「えぇ、長い付き合いですから。」

露伴「オヤシロさまの使いが予言をはずすと思うのかい?」

露伴はそう言って自分でドアを閉める。
すぐに車は発進して署の敷地から出て行った。
大石は車が見えなくなったのを確認して署内へと戻った。。

大石「(おやっさん・・・祟りは今年で終わりだそうです。真相を暴くのも、今年で終わりにしないといけませんねぇ。)」

大石「熊ちゃんッ!明日は岐阜に行きますよぉ!!準備お願いします。鑑識のじぃさまはまだ署にいますかぁ?」

露伴が車から降りると、車は走り去っていく。
監視が気づかれないようにするためのカモフラージュだろうか。
大石の部下は露伴が監視の存在を知っていると知らされていないようだった。
その様子がおもしろかったのか、露伴はニヤニヤしながら階段を登り始めた。

これで鷹野は外と内の両側から探られることになる。入江にはそこまで期待していないが・・・。
入江の記憶によれば、診療所には研究施設として地下があるし監視カメラなども設置されている。
逃げ込むにはうってつけの場所だ。大石が頑張ってくれれば、鷹野が診療所へ戻ることは大いにありうる。
入江はむしろ、診療所へ逃げ込まれた場合の保険のようなものだ。

鷹野へのアプローチはこのくらいだろうか。
あとは鷹野が網にかかるか、誰かが梨花を殺しにくるか。
梨花が殺されるまではあと数日。鷹野と接触できる可能性は・・・低いな。
やはり綿流し前に接触できなかったのはかなりの痛手だ・・・。

??「あ・・・露伴さん・・・。」

露伴「ん?」

考え事をしながら階段を登っていた露伴は彼に気づくのに遅れた。
彼、いや彼らが珍しく無言だったというせいもあるのかもしれない。
声を発したのは圭一だった。

露伴「やぁ、圭一君。それにみんなも。」

レナ「露伴さん、こんばんわ。」

詩音「はーろろんです。露伴さん。」

露伴「どうしたんだい?みんなでこんなところに。」

沙都子「皆さんは梨花のお見舞いに来てくれたんですわ・・・。」

魅音「病は気からって言うからねー。みんなで部活をやって梨花ちゃんを元気付けようと思ってさー。」

そう言う魅音の鞄はパンパンに膨らんでいる。
部活のゲームを詰め込んできたようだった。

露伴「ふーん。だけど、圭一君の様子を見ると部活はしなかったみたいだね。お見舞いに行ったのにすぐに追い返されて帰ってきたってところかい?」

圭一「な、なははは。やっぱり露伴さんは何でもお見通しなんだなぁ。」

魅音「圭ちゃんが弱すぎるからでしょ。ふふーん。今何連続ビリ記録更新中だっけぇー?」

レナ「魅ぃちゃん、露伴さんが言ってるのはそういうことじゃないと思うかな。かな。」

沙都子「露伴さん・・・何か知ってませんこと・・・?」

露伴「いきなり知ってないかと聞かれてもなぁ。何のことかわからないぜ?」

詩音「露伴さん、沙都子の質問にはちゃんと答えてください。」

露伴「わかったよ。じゃあ、事情を話してくれ。ほら、境内で聞くからさ。」

露伴はそう言い子供達とともにいつも腰掛ける場所へと移動した。
子供達も露伴の横に座り込み話し始める。

沙都子「露伴さん、梨花が元気がない理由、ご存知なんじゃないんですの?」

露伴「うん?元気がない?」

レナ「沙都子ちゃん、順序を追って話したほうがいいと思うな。圭一くん、お願い。」

圭一「あ、あぁ。梨花ちゃんが元気ないのは昨日からなんだけどさ。昨日、警察の人が学校に来たんだよ。」

詩音「露伴さん知ってます?大石って言う狸みたいなじじぃなんですけど。」

露伴「大石さんなら知ってるよ。それで?」

圭一「梨花ちゃんを車に呼んで何か話をしたんだ。何を話してたか教えてくれないんだけど、警察の人が会いにくるなんておかしいだろ?
それで今日は仮病で学校を休むし。絶対何かあったと思うんだ。」

露伴「仮病って言うのはなんでわかったんだい?」

沙都子「あら、露伴さん。私に梨花のことがわからないと思いまして?」

露伴「なるほど。梨花ちゃんに何かあったのはよくわかったよ。でも、なんで僕が知ってるってことになるんだい?」

沙都子「露伴さんなら・・・助けてくれるかもって思っただけですわ・・・。」

詩音「私は露伴さんが一枚噛んでるって思ってます。大石が綿流しの翌日に梨花ちゃまに会いにくるなんて、」

魅音「詩音ッ!やめなよ。」

露伴「オヤシロ様の祟りだってかい?僕はオヤシロ様の祟りに詳しいからってことかな。」

魅音「・・・。」

圭一「露伴さん、何か知ってるのか?」

露伴「知らなくもないが・・・僕が教えれば解決することなのかな?レナちゃん。」

レナ「・・・梨花ちゃんが自分から話してくれないなら、意味がないかな。」

露伴「よくわかってるじゃないか。そういうことだよ。」

圭一「でも、話せない事情があるのかもしれないじゃないかッ!」

露伴「じゃあ僕にも話せない事情があるのかもしれないぞ。」

圭一「くッ・・・。」

沙都子「露伴さん、話せない事情があるのでしたら結構ですわ。でも、話せるなら教えてほしいんですのよ・・・。」

露伴「話せない事情もあるし、僕から聞いて解決するんじゃあ意味がない。君達は仲間なんだろう?だったら梨花ちゃんから話を聞いてやれよ。」

圭一「露伴さんも・・・仲間だろう・・・?」

露伴「・・・そう言ってくれるのは嬉しいが。僕は雛見沢の人間じゃない。いつまでもここにいれるわけじゃあないんだ。だから、君達だけで解決しないと意味がないだろう?」

圭一「・・・。」

露伴「・・・仲間としてひとつだけアドバイスしておくよ。梨花ちゃんがもし話をしたなら、全部信じてやることだ。とても普通の人間には信じられないことかもしれないけどね。」

露伴はそれだけ言い残して家のほうへと歩き出した。
誰も露伴を止める者はいない。
露伴の姿が見えなくなるまで誰も口を開くことはなかった。

沙都子「ど、どうしますの?露伴さんは行ってしまいましたわよ。」

魅音「私達、そんなに梨花ちゃんに信用されてないのかな・・・。」

レナ「何か、何か事情があるんだよ・・・。」

詩音「おねぇ・・・ずっと聞こうと思ってたんですが、おねぇは知ってますよね?今年もオヤシロ様の祟りがあったのかどうか。」

魅音「・・・。」

レナ「それは、梨花ちゃんのことと関係あるのかな・・・。」

詩音「関係あるかもしれないから、おねぇに聞いてるんじゃないですか。」

魅音「・・・。」

詩音「おねぇ、はっきり言ってくださいッ!!」

沙都子「詩音さん、ケンカはやめてくださいまし。」

レナ「そうだよ、魅ぃちゃんだって話せない事情があるのかもしれないよ。」

詩音「そしたら、私達はどうしたらいいんです。梨花ちゃまに露伴さんに、おねぇまで事情で話せないなんて。そんなのが仲間だってんですかッ!?」

圭一「やめろ、詩音!!」

魅音「圭ちゃん・・・。」

圭一「魅音、俺達は仲間だ。」

魅音「うん・・・。」

圭一「だから俺は信じてる。無理に聞き出したりしない。もし、梨花ちゃんと祟りに関係があるなら魅音は俺達にその話をしてくれるはずだ。魅音がその話を話さないってことは、
梨花ちゃんと祟りは関係ない。だから俺達に話す必要がない。そうだよな?魅音。」

魅音「圭ちゃん・・・私・・・。」

露伴が家へと戻ると梨花は不機嫌そうに布団に入っていた。
羽入も部屋の隅で気持ち悪そうにうずくまっている。

露伴「おい、寝てるのか?」

梨花「うるさいわね・・・飲みすぎて気持ち悪いのよ。」

露伴「フン、ガキのくせに飲むからだよ。そいつは寝てるのか?」

露伴がそういいながら羽入のほうへと視線を向ける。
あぅあぅ言っているところを見ると寝てはいないようだ。

梨花「こうなると、話しかけてもほとんど反応しないわよ。」

露伴「ち、せっかく土産を買ってきてやったのに。圭一君達にあげちまえばよかったな。」

梨花「土産?」

露伴「シュークリームだよ。そこで転がってるやつが買って来いってうるさいんでね。」

羽入「シュークリームなのですかッ!?」

羽入が飛び上がり露伴のほうへと飛びついてきた。
そしてそのまま床に滑り込む。

羽入「あぅぅ~・・・、やっぱり気持ち悪くてだめなのです。」

露伴「ふん。現金なやつだな。」

羽入「冷蔵庫に入れておいて欲しいのです。明日食べるのです。」

露伴「残念だったな、賞味期限が今日までだぞ?僕と沙都子ちゃんでちゃんと処分しておくから安心しろよ。」

羽入「あぅあぅ。」

しばらくしてから沙都子が戻ってきて夕食の用意をした。
夕食の後には梨花も羽入も酔いが醒めたらしく体調は戻ったようだ。
露伴たちは3人(4人)でシュークリームを食べたあと床に就いた。

311 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/02/11(月) 19:05:51.71 ID:4jTZ2nT60

■TIPS
???—-
「鶯5より鶯1。不振な車両は依然停車しています。運転手はスーツ姿。男だと思われます。運転手以外の同乗者は確認できません。」

「了解。本部に確認をする。引き続き監視を続けろ。」

「鶯5了解。」

『・・・ザザ・・・鶯より本部。鶯より本部。R宅監視中に不振な車両を発見。発見から15分経過後も依然停車中。ナンバー照会を頼む。』

「本部了解。ナンバーをどうぞ。」

『□□** ◇**-**』

「本部了解。」

「照会終了。警察車両のようです。興宮署の所属です。」

「あぁん?警察・・・?興宮署の諜報員とは連絡がとれるんね?すったらん至急確認させぇ。」

「隊長、訛ってます。」

「うぅん。んー・・・ん・・・。すまん。つい訛りがでちまう。」

「それが仕事ですからね。」

「諜報員との連絡取れました。現在確認に当たっています。」

「急がせろ!!計画がバレたとは思えないが・・・万が一ということもある。」

「諜報員から連絡。古手神社の車両は岸辺露伴をマークしているそうです。」

「岸辺露伴・・・?」

「1週間くらい前から村に来ている漫画家です。富竹と鷹野二佐の殺害の件でマークされているそうです。」

「あぁ、R宅に泊まってるとかいうやつか。ち、厄介なことにしやがって。鶯には別件で張り込んでいるだけだと伝えろ。警官に見つからないようにさせろよ。
職質なんぞされたら始末しなきゃあなんねぇからな。へっへっへ。」

「隊長。興宮のほうに指向性電波妨害が可能な装置がありますが、どうしますか?」

「一応鶯に届けさせろ。何があるかわからん。」

「了解です。本部より鶯。本部より鶯。ナンバー照会の結果が出た。」

1983年(昭和58年)
6月22日(水)

梨花は今日も学校を休むそうだ。
羽入も岐阜まで付いてくる気はないようだった。
露伴と沙都子は家を出る。
興宮へと行くついでに沙都子を送っていくことにした。

沙都子「露伴さん、梨花がいたので言えなかったのですけど、昨日はすみませんでしたわ。」

露伴「うん?何がだい?」

沙都子「とぼけないで下さいませ。皆さんも、露伴さんに謝ってほしいと言っていましたわ。」

露伴「そうか、別に気にしてないと伝えといてくれよ。」

沙都子「えぇ、わかりましたわ・・・。」

露伴「それで、どうすることになったんだい?」

沙都子「今日も梨花にちゃんと話してくれるよう説得するということになってますわ。梨花が仮病なら、学校が終わってからになりますわね。」

露伴「ふーん、そうかい。じゃあ今日は遅く帰ってきたほうがいいかな。」

沙都子「あら、露伴さんもご一緒してくださってもいいと思いますわよ。」

露伴「まぁ、今日はいつ頃帰れるかわからないから、やめておくよ。」

沙都子「何か用事があるんですの?」

露伴「あぁ、ちょっとね。大したことじゃないんだけど、取材でちょっと遠出しようと思っててね。」

沙都子「そういえば露伴さんは村に取材に来てるんでしたわね。綿流しも終わったし、そろそろ帰ってしまうんですの?」

露伴「ん、あと何日かはいると思うけど、そろそろお別れも近いかもしれないな。」

沙都子「・・・。」

露伴「・・・そのうちまた、来るよ。」

沙都子「本当ですの・・・?」

露伴「あぁ・・・。」

沙都子「それじゃあ、毎年綿流しにはちゃんと来てくださいまし。オヤシロ様に怒られますわよ。」

露伴「オヤシロ様に怒られる・・・ねぇ。ふふふ。わかったよ。」

沙都子「でも、1年に一度だけっていうのも寂しいですわねぇ。」

露伴「おいおい、僕は仕事があるんだぜ?」

沙都子「あら、露伴さんってまだ漫画家の卵なんじゃないですの?」

露伴「それだってアシスタントをしたり、賞に応募したりいろいろあるんだぜ。それに、僕が住んでるのは東北だしな。」

沙都子「露伴さんが東北に住んでらっしゃるなんて知らなかったですわー。東北・・・、私、雛見沢から出たことはほとんどありませんのよ。」

露伴「ふふふ、機会があったら遊びに来るといいよ。」

沙都子「そうですわねぇ・・・私が大きくならないと無理ですわねぇ。」

そうこうしていると学校が近づいて来た。
沙都子が校舎へと入っていくのを確認すると露伴は道を引き換えした。

コンコン

路肩へ止まっている車の窓を叩く。
運転手の男はわざとらしく驚いた様子をしてみせた。
そして窓を開けるハンドルを回しながら口を開いた。

男「こ、こんにちわ。何かご用ですか?」

露伴「あぁ、ちょっと頼みがあるんだ。興宮署まで乗せてってくれよ。」

男「け、警察署までですか?何かお急ぎですか?」

おっと、そうだった。
こいつは僕が監視されてるのを知らないと思ってるんだったな。
少しからかってやるのもおもしろそうだが・・・、大人しくしておくか。

露伴「あんた、警官だろ?僕を監視してたのは知ってたんだよ。」

男「・・・ッ!」

露伴「これから署に用があるから、よかったら乗せてってくれよ。自転車だと興宮まで出るのも一苦労だからな。」

男「あ・・・いや・・・私は・・・。」

露伴「信じられないなら大石に確認してみろよ。無線か何か積んでるんだろ?僕は少し離れててやるからさ。」

露伴はそう言い放つと、車から離れてそっぽを向く。
警官はどうしたらいいかわからず、結局署へと連絡をとることにした。

数十分後、露伴を乗せた車が興宮署へと到着する。
ロータリーへと入っていくと、大石が走って出迎えに来た。

大石「岸辺さん、おはようございます。それと、盆地くん、お疲れ様でした。勘違いをさせてしまっていたみたいで、すみませんねぇ。」

盆地「あ、いえ、大丈夫です。」

大石「課長には言ってありますんで、今日はもうお休みにしてくれちゃっていいですよぅ。」

盆地「はい、それでは車を置いてきます。岸辺さんの自転車はどうしましょうか?」

大石「あぁ、お帰りのときには私が送りますんで。どこかわかるところに降ろしておいて貰うんでいいですかねぇ?岸辺さん。」

露伴「あぁ、お願いするよ。」

大石「それじゃあ岸辺さん、こちらにどうぞぉ。岐阜に行くにも都合がありましてねぇ。コーヒーでも飲んで待っていてもらえますか。」

露伴「あぁ、砂糖は二つ出してくれ。」

大石「はいはい、二つでも三つでも結構ですよぉ。」

いつの昭和58年6月も暑いのだが、この日も暑くてしょうがない日だった。
昼ごろまでは布団の中でゴロゴロ過ごしていたのだが、眠気もなくなり、
こう暑くては布団に寝転がってもいられない。
だが、目を覚ませば憂鬱な気分を消すことはできなかった。
夢の中でうなされる事もあるが、それも死に慣れたせいか少なくなった。

結局、起きて酒を飲み始めた。羽入が何か文句を言っていたが、聞かないことにする。
うん、やっぱり酔わないとやっていられない。だって私はこれから死ぬのだもの。
羽入が変な男を連れてきて、ちょっと変わった世界だった。今までなかったこともたくさん起きた。
でも、祟りは起きた。あの男はまだ何かやってるみたいだけど、私は死ぬんだろうな。

そうやってこの世界の思い出を肴にしていると、時間がたつのは早かった。
気づけば3時過ぎになっている。そろそろ片付けないと沙都子が・・・。

そう思ったときにタイミングよく階下で足音が聞こえてくる。
私は急いでワインのボトルを隠す。いつもより飲みすぎているのか、
立ち上がると自分の平衡感覚が乱れているのがよくわかった。

階段を上ってくる足音は一つではなかった。
なるほど、今日も懲りずに全員で来たということだろうか。
いや、懲りずにという言い方は彼らに悪いか。来てくれることはうれしかった。
とりあえず、一応風邪のフリをしなければ。しまった、さっき布団を部屋の隅に・・・。

沙都子「ただいまでございますわー。梨花ぁ、具合は・・・。・・・梨花、なんでお布団で寝ていないのですこと?」

梨花「あ、暑かったからお布団は寝苦しかったのですよ。」

詩音「梨花ちゃま、だめですよ。暑くてもちゃんと布団で寝ていないと。いつまでたっても風邪がなおりませんから。」

レナ「そうだよ、梨花ちゃん。それにお顔がちょっと赤いかな・・・?熱があるんじゃないかな。かな。」

梨花「みんな、来たのですか・・・。」

圭一「おう、邪魔するぜっ。」

魅音「もうお邪魔してるんだけどねー。」

全員がぞろぞろと部屋へ入ってくる。
様子を見る限り今日も学校帰りなのだろうか。
魅音のカバンは昨日と同じくパンパンだった。

沙都子「皆様、いま麦茶をお入れしますわ。」

詩音「あ、私も手伝いますよ。」

圭一「俺のは氷多めにしてくれよなー。」

魅音「あ、おじさんのも多めでお願いっ!」

沙都子「うちの冷凍庫にはそんなに沢山のお氷はありませんのよー。」

沙都子が麦茶を用意している間はみんなはワイワイと騒いでいた。
レナは私の顔の色が気になるのか、頭に手を当てて熱を測ろうとする。

梨花「全然大丈夫なのですよ。にぱー☆。」

レナ「うーん、ちょっと熱っぽいかも・・・。体温計はどこにあるのかな?かな。」

梨花「本当に大丈夫なのです。」

圭一「レナぁ、心配しすぎだぞ。本人が大丈夫って言ってるんだから大丈夫だろ。」

圭一が助け舟を出してくれる。
仮病だと知っているから言ったのだろうとは思うが。
飲酒を隠したい私にとっては助け舟だった。

沙都子と詩音が麦茶を入れて持ってくると、急に皆が静まる。
もう本題を話したいんだろうか。こういう時に口を開くのは大体圭一の役割だ。
私がそう思うと、タイミングよく圭一が口を開く。

圭一「あー、あの。梨花ちゃん。真面目な話があるんだ。」

梨花「みぃ?なんなのですか?」

圭一「梨花ちゃん、最近悩み事があるんじゃないか?俺たち、それを聞こうと思ってきたんだ。」

梨花「今日は部活をしに来たんじゃないのですか?」

魅音「ふふふ、ちゃーんと部活の用意もしてあるよ。梨花ちゃんの悩みを解決したら、遊ぼうと思ってねっ。」

梨花「それは、残念なのです。」

魅音「あるぇ?部活はしたくなかったぁ?」

梨花「違うのです。僕の悩みは解決しないのです。だから遊べなくて残念なのです。」

圭一「梨花ちゃん、話してくれないと解決できるものも解決しないぜ。最初から解決できないなんて決め付けないで、俺たちに話してくれよ。」

レナ「そうだよ、梨花ちゃん。私たちに話してみてよ。」

沙都子「梨花・・・、話してくださいまし。」

梨花「僕は・・・もう死んでしまうのです。これは決まったことなのです。」

私はこれを言えば大騒ぎになると思っていた。
圭一が口を開くと予想したのと同じに、これもほぼ当たると、そう思っていた。

だが、どうだろう、誰も口を開かない。
騒いでいるのは羽入だけだった。

羽入『梨花ッ!喋っていいのですかッ!?』

梨花『あら、酔っててつい口が滑ったわ。』

羽入『あぅあぅ・・・。』

梨花『冗談よ。でも、思ったより真面目に聞いてくれてるみたいよ?』

羽入『・・・。』

梨花「みんな、こんな話を信じるのですか?」

圭一「・・・。」

圭一が皆を見回す。
そして全員が圭一に強くうなずき返した。

圭一「あぁ、信じるぜ。梨花ちゃんが冗談じゃないって言うなら、俺たちは信じる。仲間だからな。」

梨花「仲間だから・・・ですか。」

圭一「で、なんで梨花ちゃんが死んじまうって決まってるんだ?詳しい話を聞かせてくれよ、な?」

羽入『梨花・・・話すのですか?』

梨花『そうね、せっかくだから話そうと思うわ。』

羽入『でも、そうしたら皆も巻き込まれるのです。』

梨花『そうね、今までは、彼らに話せば山狗に殺されるんじゃないかって思ってたわ。でも露伴が言ってたじゃない。どうせ私が死ねば皆も死ぬのよ。』

羽入『あぅあぅ・・・。』

梨花『いいじゃない、彼らが知りたいなら教えてあげましょう。』

羽入『僕は・・・、知らないのです。』

羽入はそう言うと消えていった。

それとね、羽入。私は試してみたいのよ。
こうして皆が私を助けようとしてくれる世界なんて、今まであったかしら。
そう考えると、こうなったのはあの男のせいなのかしらね。
もうこんなことは二度とないかもしれない。だから試しておきたいのよ。
あとで、あの時試しておけばって後悔はしたくないものね。

梨花「僕は、殺されてしまうのです。病気のせいで。」

魅音「病気のせいで殺される?どーゆぅこと?」

梨花「ちゃんと説明するので最後まで聞いてほしいのです。この村には、昔から病気があるのです・・・。」

雛見沢症候群の話、入江や鷹野、富竹の話、山狗の話、東京の話、そして女王感染者の話。
露伴や羽入の話は説明が長くなりそうなので省いたが、自分の状況を大まかには話した。
皆はずっと黙って私の話を聞いてくれた。

梨花「と、いうわけなのです。」

流石に話が突飛すぎたのか、圭一の頭はまだついてこれないようだった。
そこで魅音が口を開く。

魅音「ん、大体はわかったけど。質問してもいいかな?」

梨花「わかる範囲で答えますです。」

魅音「症候群の研究に関わっていた鷹野さん、富竹さんが殺された。次に梨花ちゃんが殺される可能性があるっていうのはよくわかるよ。
でも、山狗っていう部隊が梨花ちゃんを守ってくれてるんだよね?」

梨花「守ってくれているはずなのです。でも、僕は死んでしまうのです。・・・オヤシロ様のお告げなのです。」

魅音「なるほどね。そうすr」

詩音「そうなると、山狗は疑わしいですね。」

魅音「ちょっと詩音ー。私のセリフー。」

梨花「露伴も同じことを言っていたのです。やっぱり山狗は敵なのですか・・・。」

沙都子「疑わしきはクロでございましてよ。梨花が女王であることを知っているのは東京の関係者。つまり、山狗や東京の人間が一番怪しいということになりますわね。」

圭一「おい、待てよ。もし梨花ちゃんが死んじまったら困るのは東京の連中なんじゃないのか?そのために山狗を派遣してるんだろう?」

魅音「もちろん、東京と敵対する人間が梨花ちゃんを殺そうとしているのも十分あると思うよ。」

詩音「梨花ちゃまを殺すなら、大きな揉め事は避けたほうが懸命ですよねぇ。自分たちが殺したと分かればただ事じゃあすみません。つまり暗殺が最も適切だっていうことなんですが・・・。」

魅音「さて問題、自衛隊に守られた少女を暗殺する最も簡単な方法は?」

圭一「うーん・・・、暗殺・・・。超A級スナイパーを雇うとか・・・?」

魅音「そりゃあ、おじさんの家にある漫画でしょ。でも、雇うってところは惜しいかなー。」

レナ「自衛隊を雇う・・・かな?」

圭一「おいおい、自衛隊は梨花ちゃんを・・・、って、そういうことか!」

魅音「そう、正解は山狗を買収する。東京に敵対する組織なら、そのくらいの財力はあってもおかしくないでしょ。」

詩音「そういうことです。梨花ちゃまを殺そうとしているのが誰でも関係ありません。山狗が買収されていなければ、梨花ちゃまを守ってくれます。
つまり、梨花ちゃまが殺されるなら、それは山狗が敵ってことです。」

魅音「実行犯が山狗かはわからないけど、山狗には警戒が必要ってことだね。」

レナ「それに、もしそれが間違ってるなら、山狗がちゃんと守ってくれるんだから安心だよね。」

圭一「なるほどな、たしかにその通りだぜ。わかったか?沙都子。」

沙都子「私は最初からわかってましてよ。」

圭一「まぁ、それじゃあ山狗に頼らずに梨花ちゃんを守る方法を考えようぜッ!」

彼らはなんとも楽しそうだった。
自分たちが山狗に狙われるかもしれないということは考えないのだろうか。
でも、その彼らの楽しそうな話し合いに私も加わることにした。

露伴と熊谷の姿は、岐阜県警の応接室にあった。
大石は岐阜県警の鑑識へ一人で乗り込み、熊谷に露伴の見張りを言いつけたのだ。
大石が部屋を出て行ってから既にかなりの時間がたっている。
露伴は熊谷から大石の武勇伝なんかを聞いたりしていたのだが、
その話のネタももう尽きてしまった。

熊谷「遅いっすねぇ。大石さん。」

露伴「あぁ、さっさと終わらせて帰りたいんだがな。あんたも、僕の見張りで暇だろうに。」

熊谷「まぁ、仕事ですから。」

ガチャ

熊谷「あ、大石さん。どうでしたか?」

熊谷は大石が入ってきた途端、背筋を伸ばして立ち上がる。
大石は後輩からだいぶ尊敬されているのだな、と露伴は思った。

大石「んっふっふっふ。やりましたよ。あっちの資料にとんでもないミスがありました。結局間違いは認めてくれなかったんですがねぇ。」

露伴「それじゃあ、僕の疑いは晴れたってことでいいんだな?」

大石「疑いが完全に晴れたわけではありませんが、捜査妨害の件はシロということでお願いしますよ。んっふっふ。」

熊谷「この後はどうするんですか?」

大石「急いで興宮に戻りましょう。鷹野の捜査を始めないといけないですからねぇ。」

熊谷「了解ッス!車出してきます。」

熊谷はそう言うとすぐに飛び出していった。

露伴「機嫌がよさそうじゃないか。」

大石「そりゃあ、ついにオヤシロ様の祟りの尻尾をつかんだんですからねぇ。」

露伴「それじゃあ、ちょっと僕のお願いでも聞いてくれるかい?」

大石「なんですかなぁ?聞けることなら聞いてあげますよぉ。」

露伴「入江に連絡をいれてくれないか。鷹野が生きていたことを。」

大石「おんやぁ?入江の先生にですか?また何か、たくらんでますぅ?んっふっふっふ。」

露伴「まぁ、そう気にしないでくれよ。ふふふ。」

大石「わかりました。先生に電話させてもらいますよ。鷹野がもし戻ったら連絡をくださるようお願いするつもりですしねぇ。」

露伴「そうかい。じゃあ頼むよ。」

大石「えぇえぇ。でも、帰りのガソリンスタンドかどこかからでいいですか?流石にこの建物の中で、岐阜さんの鑑識が間違ってたなんて大声で言えないですからねぇ。」

露伴「あぁ、それはいつでもいい。任せるよ。」

大石「それじゃあ、帰る前にちょっくらお世話になった人に挨拶してきます。熊ちゃんと車の中で待っててください。」

露伴「あぁ。」

大石は玄関とは逆の方向へと歩いていく。
露伴は車に乗るために玄関へと向かうことにした。

これで、入江も鷹野の存在を気にせざるおえない。
あとは、鷹野が尻尾を出してくれればいいのだが・・・。
なんとか上手くいってるってとこかな。

露伴は熊谷がロータリーへ廻してきた車へと乗り込んだ。

職員「入江所長。お電話です。」

入江「はい、どちら様からですか?」

職員「興宮署の大石様です。」

入江「わかりました。診察待ちの患者さんはいらっしゃいませんね?それなら、所長室で取ります。」

入江は診察室を出ると所長室へと向かった。

入江「こんにちわ。お待たせして申し訳ありません。入江です。」

大石『あぁ、先生。お疲れ様です。こんにちわ。』

入江「何か御用でしょうか?富竹さんたちの件ですか?」

大石『その通り・・・なんですがぁ、大変申しあげにくいんですが、我々警察の捜査にミスがありまして・・・。まぁ、ミスがあったのは岐阜県警なんで、うちじゃないんですがね。
鷹野さんの死体が出たって話、あれ間違いだったんですよ。』

入江「間違いと・・・言いますと・・・?」

大石『死体が出たのは本当なんですがね、身元確認にミスがあったという言い方のほうが正しいですかな。鷹野三四さんではなかったということです。』

入江「そ、それでは鷹野さんは生きているんですね!?」

大石『それははっきりとは申し上げられませんなぁ。死体が鷹野さんではないとわかっただけですので。鷹野さんは車と共に行方不明、ということになります。』

入江「そ、そうですね・・・。」

大石『それでですね、入江先生にお伝えしようと思ったわけですよ。もし鷹野さんが診療所に来られるような事があったら、署に連絡をお願いします。』

入江「わかりました。」

大石『それと、よろしければお話を伺いたいんですが、今日これからそっちに向かっても大丈夫ですかねぇ?』

入江「はぁ、特に予定はありませんが・・・。」

大石『それでは、まだ岐阜から帰る途中ですので、1時間ちょっとしたらそちらに着くと思うんですが。』

入江「わかりました。お待ちしています。」

落ち着いて電話を終えるが、入江の心中は穏やかではなかった。
彼が、岸辺露伴が言っていたことが本当だったからだ。

 

それは、彼の予言が正しいということになる。すると、梨花ちゃんが殺されるかもしれない。
さらに彼は、山狗と鷹野さんは梨花ちゃんの殺害に関わっている可能性が高いと言う。
自分はどうしたらいいのか、悩んでも答えは出てこなかった。
そうして入江は露伴に会いに行くことを心に決める。

入江「それでは、後はよろしくお願いします。なるべく早く戻ってきます。
もし、大石さんたちが来られたら、お待ち頂いてください。それでは。」

入江は残りの診療をスタッフたちに任せ、車に乗り込む。
もう陽が沈みはじめている。陽が落ちれば診察に来る人もほとんどいない。
スタッフたちに任せておいて大丈夫だろう。
岸辺露伴に会えることを祈り、入江は古手神社へと出発した。

入江は神社へと到着すると、境内を見渡す。
だが、露伴の姿は見つからない。
梨花と沙都子の家にでもいるのかと思い、そちらへと足を向けた。

梨花達の家につくと、なにやら部屋の中から賑やかな気配がする。
雰囲気からするに、雛見沢の子供たちが集まっているのだろうか。
露伴が中にいるかはわからない。

入江は遊んでいる子供たちに水を差したら申し訳ないな、
なんてことを考えながら戸を叩く。

ドンッドンッ
入江「こんにちわー。梨花ちゃーん、沙都子ちゃーん。いませんかー?ご主人様ですよー?」

この家にはインターホンはついていない。
もともと防災用の倉庫だから当然と言えば当然だろうか。
だから、来客は声を張り上げなければいけなかった。

 

その入江の声に気づいたのか、子供たちが騒ぐ気配は急に静かになる。
やはり悪いことをしたな、と入江は考えながら戸が開くのを待つことにした。

ガララ

沙都子「お待たせしましたわ。どうしたんですの?監督。」

詩音「はーろろん、です。監督。」

レナ「こんにちわ、監督。」

入江「こんにちわ、沙都子ちゃん、それに詩音さんとレナさんも。ちょっと露伴さんに用があったんですけど、おうちの中にいらっしゃいませんか?」

沙都子「あら、露伴さんは朝から出かけてますのよ。取材で遠出すると言ってらしたので、いつ帰ってくるかもわかりませんわ。」

入江「そうですかぁ、それは困りましたねぇ。」

沙都子「何か、御用ですの?」

入江「いえ、まぁ、大したことじゃないんです。また今度にしますよ。お友達が来ているときにすみません。」

沙都子「あら、全然気になさることないですわよ。」

詩音「そうですよ、おねぇに圭ちゃんも来てますけど、あの二人はなおさら気にすることないです。」

入江「それは賑やかですねぇ。お二人にもお邪魔して申し訳ないとお伝えください。」

そう言って入江はすぐに帰ろうとする。
だが、それを詩音が呼び止めた。

詩音「監督。露伴さんに用って・・・なんなんです?」

入江「いえ、本当に大したことではないんですよ。露伴さんには私が来たことだけ伝えてもらえれば大丈夫ですから。ははは。」

詩音「怪しいですねぇ・・・。私たちには喋れないことですかぁ?」

入江「いやぁ、沙都子ちゃんのメイド化計画だなんて、そんなことは全然考えてませんよぉ。はははは。」

レナ「嘘つき。」

入江「はは・・・へ?」

レナのその唐突な発言に入江が固まる。
図星だったことに加え、レナからこんな冷たい言葉が出てくるとは思いもしなかったのだろう。
だが、レナはそんな様子はなかったかのように明るく言った。

レナ「嘘つきはよくないと思うかな。かな☆」

詩音「レナさん・・・猫かぶっても無理だと思います。」

レナ「何のことかな?かな?猫さんかぁいいよねー。はぅー、おー持ち帰りー☆」

入江「あ、あははは。いやぁ、まぁ大した用じゃないんですよ。気にしないでください。」

レナ「梨花ちゃんのこと?それともオヤシロ様の祟りのこと?」

入江「い、いえ、なんのことですか?」

レナ「監督、レナは目でわかるんだよ。嘘ついてるの。」

詩音「あー、そういうことですかー。監督、残念ながら私たちもう聞いちゃってるんです。」

沙都子「どういうことですの・・・?」

詩音「監督も私たちの仲間にしちゃうってところですかねぇ。さぁ、上にどうぞ。」

入江「・・・。詳しくお聞きしないといけませんね。」

こうして入江は部屋へと上がることになった。

圭一「お、監督。どうしたんです?梨花ちゃんの診察とか?」

入江「いえ、違います。レナさんに呼び止められまして。」

レナ「監督はね、露伴さんに用があって来たんだって。」

詩音「それが今回の梨花ちゃまの件に関わってるって、レナさんが見抜いちゃったんで、お呼びしたってことです。」

入江「梨花さん、彼らに話してしまいましたね?」

梨花「話しましたです。そのことは謝りますです。ですが、やはり山狗は信用できないということを皆で話したのです。僕が相談できるのは皆だけだったのです。許してほしいのです。」

入江「・・・。もう話してしまったものはしょうがありません。そして、山狗が信用できないというのもあながち間違いではないのかもしれません。」

梨花「何かあったのですか?入江に僕が殺される話をしたことはないと思うのですが。」

入江「殺される・・・ですか。私は露伴さんからそのことを聞きました。梨花さんも露伴さんから聞いたんですか?」

圭一「やっぱり、露伴さんも知ってるのか。」

レナ「圭一くん、邪魔しちゃだめだよ。」

梨花「違いますです。露伴とは関係なく、僕は殺されることを知っていました。」

入江「そうですか。私は露伴さんから聞かされました。そして山狗が怪しいということも聞きました。」

梨花「露伴が話をしたということは、入江は僕を殺す人間ではないようなのです。」

入江「えぇ、露伴さんにもそう言われました。」

詩音「それじゃあ、私たちの仲間になってくれますよね?」

魅音「監督、梨花ちゃんが殺されたら大変なことになるでしょ?私たちもそれを止めたいんだよ。」

入江「そこまでご存知ですか。」

梨花「ボクが死んだあとにどうなるか、詳しくは知らないのですが。女王感染者が死ぬと大変なことになるのですよね?」

入江「えぇ・・・。正確には大変なことになるまえに全て処理します。」

圭一「処理ぃ?」

入江「私たちの診療所の危機管理マニュアルとして、緊急マニュアル第34号というものがあります。多数の末期患者の発生、及びそれの機密処理部隊の処理能力超過が見込まれる場合・・・。」

圭一「見込まれる場合・・・?」

入江「雛見沢症候群の病原菌を・・・全て滅菌します。」

圭一「・・・?特効薬かなんかでもあるのか?」

詩音「圭ちゃん、治療法はまだないって、さっき梨花ちゃまが言ってたじゃないですか。」

レナ「ひどい・・・。」

魅音「じ、自衛隊の管轄の研究所でそんなことするの・・・?」

入江「通常の発症の多発で機密処理部隊の処理能力を超過することは、天文学的確率でしか起こりません。ですから、女王感染者の死亡の際にしか適用されないマニュアルなのですが・・・。
女王感染者の死亡で村人全員が発症すれば、その被害は興宮へも広がります。それに加え、末期症状からの回復はまだ方法が確立していないため、発症した村人を救うこともできません。
悲しいことですが、それが被害を最小限に抑える方法なのです。」

レナ「そんな・・・。」

圭一「おい、よくわからないぞ。どういうことだよ。」

魅音「圭ちゃん、治せない病気の菌を全て滅菌するってことは・・・。感染してる人を全員殺すってことだよ・・・。」

圭一「ま、まじかよ・・・。」

沙都子「そ、そんな・・・。」

入江「そのような事態を防ぐために、山狗のような自衛隊の不正規戦部隊がわざわざ雛見沢に派遣されているわけです。」

梨花「ですが、入江も僕たちも山狗が信用できないという結論でいいのですよね?」

入江「なぜ梨花さん達がそう考えるのか教えてもらえますか?」

魅音「簡単に言うと、梨花ちゃんを殺せるのは、山狗しかいないって話だよ。」

入江「露伴さんと同じ考え方ですね。」

詩音「それに、山狗が味方なら、それでいいんです。山狗が梨花ちゃまを守って一件落着。私達は山狗が敵の場合にだけ梨花ちゃまを守ればいい。
だから、山狗が敵だと思って行動したほうがいいってわけです。」

入江「なるほど、その通りですね。」

梨花「なぜ、入江は山狗を疑うようになったのですか?入江が疑うということは、よほどの理由があると思うのですが。」

入江「山狗を疑うというよりは、露伴さんの言うことを信じる気になったという感じなのですが、実は、露伴さんに用があって来たのも、そのせいなんです。
どうやら鷹野さんが生きているようなんです。」

圭一「え?でも岐阜で死んだって聞いたぜ?おい、魅音、警察から連絡があったんだよな?」

魅音「う、うん。ばっちゃに警察から連絡が来てたから間違いないはずだけど・・・。」

入江「いえ、その死体の身元確認にミスがあったことがわかったらしいんです。先ほど大石さんからお電話を頂いたばかりなので、園崎家にも後ほど連絡が行くとは思いますが。」

詩音「でも、今まで身元確認のミスが発覚しなかったってことは、鷹野さんは仕事にも来てないってことですよねぇ?」

入江「えぇ、大石さんが言うには、車と共に行方不明ということになるそうです。」

沙都子「鷹野さんが行方不明だと、何が問題なんですの?むしろ、オヤシロ様の祟りは行方不明が普通ですわよ?」

入江「あぁ、これは露伴さんの予言なんですが・・・。鷹野さんの死体は偽装死体だ、と一昨日に予言されているんです。
大石さんはミスがあったと言いましたが、そのミスというのが偽装によって起こされたものなら・・・。」

レナ「そして、偽装は山狗の得意分野、なんだね。さっき、機密保持部隊って言ってたの、山狗のことだよね?」

入江「その通りです。」

圭一「つまり、鷹野さんが死んだフリをしていて、山狗と一緒に梨花ちゃんを狙ってるってことか。」

魅音「まぁ、絶対とは言い切れないけど、かなり怪しいってことだね。」

詩音「私は、露伴さんの存在も十分怪しいと思いますけど・・・。」

圭一「まぁ、たしかに。予言って・・・どういうことだ?」

入江「露伴さんは、富竹さんと鷹野さんが死ぬことも予言しています。綿流しのお祭りの前に、そういう内容の手紙を渡されました。」

沙都子「ろ、露伴さんは悪い人ではありませんわ!」

詩音「さ、沙都子・・・。」

沙都子「みなさんは知らないかもしれませんが、露伴さんは私を助けてくれたんですのよ。私の叔父を、追い払ってくれたんですの。その露伴さんが、悪い人なはずありませんわっ!」

圭一「そうだな、俺もそう思うぜ。露伴さんはたしかに不思議な雰囲気を持ってるが悪い人じゃあねぇ。何か今回の件について知ってるとしても、俺達の敵じゃあないはずだ。」

梨花「露伴は、僕達の敵ではないのです。これだけははっきり言えるのです。」

詩音「まぁ、いろいろ知ってそうですが、梨花ちゃまを殺すならもう殺してますよねぇ。」

レナ「そうだね、露伴さんは敵じゃないと思うかな。それで、監督も私達の敵じゃないんだよね?」

入江「えぇ、話が戻りますが、私もあなた達に協力します。本当はあなた方を巻き込みたくないのですが、ここまで知っていては止めても無駄でしょう。」

沙都子「監督・・・。」

魅音「この部活メンバーの命を狙うなんて、身の程知らずって思い知らせてやるよっ!」

詩音「ふふふ、こりゃあアメリカで受けた訓練が役に立つ時が来たかもしれませんねぇ。」

圭一「いや、これは梨花ちゃんを守るだけの戦いじゃねぇぜ。雛見沢に住む人間全員を守る戦いでもあるってことだ!!」

レナ「そうだね、絶対にそんなことさせるわけにはいかないよね。」

入江「みなさんに機密情報を漏らしたことは、私が責任を取りましょう。事態が解決してから、東京にしっかり話を通します。」

圭一「よし、それじゃあ監督も入れて、作戦会議続けるぞぉーッ!!」

一同「おぉぉーーーッ!」

露伴と大石、熊谷の車は興宮署を出て雛見沢へと向かっていた。
大石たちは露伴を送るついでに入江診療所へと向かうそうだ。
岐阜での一件が終わってから、露伴は大石たちにほとんど返答をしない。
まるで用済みになった人間の相手はしないとでも言うような態度だ。

大石「岸辺さん、もう雛見沢に着いちゃいますよぉ?何か話してくれませんかねぇ。まだ何か知ってるんでしょ?私らが知らないこと。」

露伴「・・・。」

大石の言葉どおり、車はガクンと揺れ、砂利道へと入る。
この舗装道路と砂利道の入れ替わりがまさに興宮と雛見沢の境目のようなものだ。

大石「またあれですか、今の私には教えられないってやつですかぁ?」

露伴「そうだ。”今のアンタ”に教えることはもうないよ。悪いけど。」

大石「わかりましたよ。それじゃあ、予定通りあなたを餌に祟りの主を釣り上げることにします。」

露伴「オヤシロ様は、僕なんかじゃあなくてシュークリームを餌にしたほうがいいぜ?」

大石「シュークリーム?それはヒントか何かですか・・・?」

露伴「ふふふ、どうだろうねぇ。」

熊谷「シュークリームより、なんか腹にたまる物が食いたいッスねぇ。」

大石「そうですねぇ。もうすぐ8時ですかぁ。入江の先生のお仕事があがりでしたら、一緒にお食事でも行きますかねぇ。岸辺さんもどうです?ご一緒に。楽しいお店でも行きませんかぁ?」

露伴「いや、僕は多分食事が用意されている。遠慮するよ。」

大石「あら、そうですかぁ。ひさしぶりに公費で遊べると思ったんですがねぇ。」

露伴「・・・。」

大石「ッ・・・。」

大石が車の外に視線をやり、なにかを気にする。

大石「熊ちゃん。ちょい停めて!」

熊谷「え?あ・・・はいっ!」

熊谷が急ブレーキで車を停める。
後部座席でシートベルトをしていなかった露伴は、
前の座席のシートに顔をぶつけた。

露伴「ッ。おい・・・なんだよ急に。」

熊谷「どうしたんですか?大石さん。」

大石「あの車・・・なぁにやってんですかねぇ。こんなところで。」

大石が首をせり出して覗く視線の先にはバックミラーがあった。
露伴からは角度的に見えなかったが、そこにはワゴン車が一台映っていた。

熊谷「たしかに、不審ですね・・・。気づきませんでしたよ。」

露伴「おい、なんだよ、見えないぞ?」

露伴も前のシートのほうへと顔をせり出してミラーを覗く。
たしかに一台の不審な車が路肩に停車しているのが見えた。

大石「あー、興宮SPどうぞー、聞こえてますかぁ?なっはっはっは、こんばんはさようなら。」

『こちら興宮SP、感度良好です。どうぞ。』

大石「ぇーっとぉ、車両ナンバー照会をお願いします。XX,XのXXXX。」

『復唱、XX,XのXXXX。少々お時間をもらいますよー。』

大石「はいはい。」

露伴「なんだよ、車一台っぽっちでそんな大騒ぎするのか?」

大石「警察は市民の安全を守るのが仕事ですからねぇ。市民のみなさんが気づかないところでこういう仕事もしてるんですよぉ?」

熊谷「地図だと、電電公社の施設がありますね。でも、ワゴンには何も書いてないっすよ。」

露伴「委託業者かなんかじゃあないのか?」

大石「直接聞いたほうが早そうですねぇ。ちょっくら行きますか。」

熊谷「了解っす。」

露伴「職務質問ってやつかい。おもしろそうだな、取材させてもらおう。」

こうして3人は車を降りる。
この時は露伴ですら、これが終わりの始まりだとは気づいていなかった。
終末の幕開けだということに。

『ザザ・・・鶯2より鶯1。車両が一台停車。3人降りました。・・・おそらく刑事・・・いえ、あれは・・・。・・・1人は岸辺露伴です。残りは刑事だと思われます。
そちらへ接近中、一分未満で接触します。』

「了解。全隊員注意せよ。鶯2~5はグリーンライトを持て。鶯7~8は前後100mのクリアを確認せよ。」

『待機了解。鶯4,5,聞こえたな。』

『鶯4了解。』

『鶯5了解。』

『鶯7了解。』

『鶯8了解。』

「・・・鶯より本部、鶯より本部。電話設備工作中にトラブル。私服警官2名の職質と思われる。例の岸辺露伴も同行。発砲許可を申請。」

『本部了解、許可を待て。』

露伴たちはまったく気づかないが、すでに露伴たちには2つの銃口が向けられている。
それぞれまったく別の方向から、茂みの中から露伴たちの頭部に照準を定め続けている。
露伴たちには目の前の数人の男しか見えていないが、実際には違った。
狙撃班が観測手と狙撃手それぞれ二人づつ。露伴たちが車から降りてくるのを確認した隊員も茂みに隠れている。
それに加え、少し興宮に寄った場所にもう一台のワゴンで待機する隊員もいた。
露伴たちは山狗の一小隊に完全に包囲されているのだ。

大石「どうもぉ。こんばんは。」

「スイませェん。作業中なんで入らないでもらえませんか。」

大石「お仕事中お邪魔してすみませんねぇ。警察のものでございます。」

大石と熊谷が職務質問を続ける。
露伴はそれを観察するつもりで来たのだが、それよりもなにか心に引っかかるものがあった。

露伴「(なんだ・・・なにか引っかかる気がする。胸騒ぎ・・・?)」

大石「おや、岸辺さん、どうかしましたかぁ?」

露伴「いや、なんでもないよ。」

そうこうしているうちに熊谷は彼らから電話番号を聞きだし、
それをメモして車へと走り出していった。
大石と男たちは険悪なムードでお互い黙りあっている。
露伴も何かが気になり、言葉を発する気にはならなかった。

まるで時間が止まっているかのように、誰も口を開かない。
時は止まっているのだろうか?大石はそんな錯覚を覚えた。
だが、時は動き出す。

『本部より鶯1。発砲許可。』

『鶯7,クリア。』

『鶯8,クリア。』

「鶯1より狙撃班・・・」

この瞬間。全ては決着した。
露伴と熊谷は頭を撃ち抜かれ、大石は鶯1の拳銃で心臓を撃ち抜かれる。

そうなるはずだった。鶯1がひとつのミスを犯さなければ。
普通の人間相手ならばミスとも言えないような、ほんの些細な隙を。
だが、それを露伴は逃さなかった。

露伴は、大石との会話に加わらず後ろに控えていた男の異変に気づいた。
その男は、悟られないようさり気なく作業着の胸ポケットへと手を伸ばした。
ここまでは間違っていなかった。ここまでは彼は、鶯1はミスを犯していない。

だが、次の瞬間。ほんの一瞬。時間にすれば0.何秒の世界。ここにミスが起こる。
彼は、彼の部下に狙撃を命じるよりほんのちょっぴりだけ早く・・・拳銃を見せてしまった。
だから、彼の命令とほとんど同時に露伴が叫んだ。

鶯1「オールグリーン。」
露伴「伏せろぉぉおーーーーッ!!
(天国への扉ッ(ヘブンズ・ドアー)!!!!)」

さすが警察官と言うべきか、いや、若さのおかげだろうか?
熊谷は露伴の掛け声に機敏に反応し、しゃがみこんだ。
熊谷を狙った銃弾は彼の頭上を通過する。

一方、露伴を狙撃しようとしていた山狗はその引き金を引くことなく、気を失った。
露伴が頭の真横で指をかなりの速さで動かしたあと、何か少年の顔のようなものが見えた気がした。
彼の意識に残ったのはここまでだった。

他の山狗も露伴の天国への扉(ヘブンズ・ドアー)が視界に入り、バタバタと倒れる。
大石を撃とうとした鶯1も意識を失った。だが、彼は意識を失う直前に引き金を引く。
彼が拳銃を出すのが早かったため、なんとか意識を失う前に引き金を引くことができたのだ。

パァン

ここまで、鶯1が拳銃を見せてから1秒と経っていない。
一瞬で全てが決まった。熊谷を狙撃した狙撃手と観測手以外は、
天国への扉(ヘブンズ・ドアー)の餌食となった。

露伴は気づいた。雛見沢大災害前日・・・大石の部下、熊谷が失踪している。
それが、自分がさっきから引っかかっていたことなのだと気づいた。
これに気づいたのとスタンドを発動したの、どちらが先だったか、
後で振り返っても露伴にはわからなかった。

大石「ぐぁぁあああッ!」

熊谷「お、大石さん!」

銃弾は大石の左肩を貫いた。
露伴の叫びでなんとか致命傷を免れたというところだろうか。
熊谷は大石の叫びを聞き、すぐに駆け寄ってくる。

小此木「おい、応答しろ、鶯1。おいッ!!鶯、誰でもいい!!応答しろッ!!」

『こちら鶯10、もう一台のワゴンに待機しています。』

『こ・・・こちら鶯7。鶯1~5、倒れています。もうひとつの狙撃班も応答がありません。無事なのは自分たちの狙撃班だけです。狙撃は失敗、何が起こったのかわかりませんッ!』

小此木「くそッ!なんだってんだッ!?鶯10以下、後方で待機してる連中は全員出ろッ!狙撃班ッ!クリアが確保できんなら狙撃は中止だ。時間稼ぎでもなんでもいい、力ずくで止めろッ!!」

『鶯7了解。』

『鶯10了解。』

小此木「三佐を呼べッ!!緊急事態だとな。」

「了解しました。」

小此木「岸辺露伴・・・なんだってんだ・・・、糞ッ!!」

熊谷「大石さんッ!!大丈夫っスかッ!!」

大石「ん・・・んっふっふっふ。このくらいじゃあ死にませんよぉ・・・。それより・・・拳銃を回収してください・・・、熊ちゃん。」

大石が痛みに顔を歪めながら熊谷に答えた。
熊谷は倒れている男の手元から拳銃を拾うと、
大石の撃たれていないほうの肩を持とうとする。

熊谷「歩けますか?と、とりあえず車に乗ってください!!応急処置を!!」

大石「1人で大丈夫です・・・。岸辺さん・・・無事ですかぁ?」

露伴「・・・。」

露伴は何も答えず、目を閉じて険しい表情をしていた。
大石もその反応を読んでいたのか、特に気にせずに続ける。

大石「岸辺さん・・・どういう手品か知りませんが、助かりましたよ。あなたが何かしたんでしょう・・・?」

熊谷「大石さん、はやく車にッ。」

少しの間の後、露伴が目を開き、大石に答える。

露伴「・・・どうやら僕の予定通りに事が進まなくなったようだ。」

大石「それは困りましたねぇ。んっふっふっふ・・・・・。」

露伴「古手梨花が、殺される。おそらく、もう時間がない。」

大石「古手さんが・・・ですか?」

露伴「神社に向かう。車を借りれないか?」

大石「私も・・・同行させてもらいますよ。」

露伴「好きにしろ、はやくしないと間に合わなくなる。」

大石「好きにさせてもらいます。・・・ん?」

大石が視線をまったく別の方向へとやる。
その視線の先には、茂みを駆け抜けてくる二人の男があった。

大石「ちぃ・・・まだお仲間がいたんですねぇ。」

露伴「(く・・・、時間がない。これ以上使いたくないが、天国への扉(ヘブンズ・ドアー)を使うか?)」

大石と露伴はその男たちへどう対応するかを考え、一瞬動きが止まる。
だが、熊谷は止まらなかった。大石たちと男たちの間に立ちはだかる。

熊谷「大石さん!ここは俺に任せて行ってください!!」

大石「しかし、熊ちゃん・・・。」

熊谷「大石さんはオヤシロ様の祟りを暴くんじゃないんスか!?だったら、俺にかまわず行ってください!!」

大石「熊ちゃん・・・、頼みます・・・ッ。」

熊谷「岸辺さん。大石さんを頼みます!!」

露伴「・・・。」

大石と露伴は車へと駆け出す。
熊谷は車とは逆方向に。男たちへと向かっていった。

熊谷「うおぉおおおおーーッ!!!」

鷹野「何があったの!?」

仮眠を取っていた鷹野は寝癖のついた髪を手で梳かしながら指揮車へと入ってくる。
だが、彼女が返答を求めた男は、彼女にかまう暇もないのかマイクに向かって怒鳴り続けていた。

小此木「電波妨害装置はそっちのワゴンにあるんだろうッ!?絶対に無線を入れさせるなッ!!そうだ!!かまわんからやれ!!発砲は許可しないィィィーーーッ!!
と言っているだろうが!!」

『ザザ・・・鶯10了解。』

小此木「くそぉッ!!」

そう言ってマイクを床に投げつけると、やっと彼は鷹野に気づいたようだった。

鷹野「小此木・・・これはどういうこと?」

小此木「三佐、いらしてたんですんね。」

鷹野「えぇ、起こされたわ。何があったの?」

小此木「・・・最初は電話設備の工作中のトラブルだったんですんがね。すったらん、ちょいと面倒なことになってきよったんですわ。おいッ。」

小此木はそう言って他の隊員の肩を叩き、状況の説明を促す。
自分は置いてあったコーヒーに口をつけ、落ち着きを取り戻すよう努めた。

「電話工作中に警官による職務質問がありました。隊長の判断で発砲許可を出したのですが、狙撃に失敗。現在、後方に待機していた隊員が追跡中です。」

鷹野「狙撃が失敗!?あなた達、プロでしょう?」

コーヒーを飲み干し、空になった紙コップを投げ捨てた小此木が答えた。

小此木「例の岸辺露伴とかってぇ漫画家が一緒にいたんですわ。何が起きたのかはわからんですが、その場にいた隊員が全員気絶させられてますんね。」

鷹野「岸辺露伴・・・あの男が何かしたっていうの?」

小此木「やつが何者なのかはわかりませんわ。今はやつと警官1名が車で逃走中なんですが・・・その方向っちゅうのが問題でして。」

鷹野「どこに向かってるのよ。」

小此木「こっちに向かってるんですわ。興宮の街に戻らんでこっちに向かっとるんがどうも妙なんですんね。」

鷹野「・・・何が言いたいわけ?」

小此木「こっちの作戦がバレてることはないと思いますんがね。時計の針をちょっと進めたほうがいいんじゃあないんかっちゅうことですわ。」

鷹野「大丈夫なの?予定の時間より1時間以上早いわよ?」

小此木「村の子供が何人か来とるようですがね。そっちを始末するのは簡単なこってす。岸辺露伴っちゅうのが何者かわからん以上、それが最善かと思いますんね。」

鷹野「わかったわ・・・。」

小此木「よし、Rの確保の準備を始めろ。監視中の鳳の隊員はそのままだ。待機してるやつらは準備をしろ。」

キキキィイイイイイ!!!

タイヤが悲鳴をあげながら、車はカーブを曲がっていく。
露伴たちが乗る車の後ろには、すでに山狗のワゴンが見えていた。
大石は右手だけで必死に運転するが、その差はジリジリと縮まっていく。

大石「く・・・追っ手みたいですねぇ。やっぱり、無線は通じませんか?」

露伴「あぁ、変な音しか聞こえないよ。・・・やはり僕が運転したほうがよかったんじゃないのか。」

大石「んっふっふっふ。青免持ってないと、パトカー運転させるわけにはいきません。で、やつら何者です?園崎家の連中ですか?」

露伴「・・・。」

大石「やっぱり教えてくれませんか・・・。・・・タバコ、吸わせてもらえませんかねぇ?」

露伴「こんなときになんだよ。」

大石「いえ、そのほうが集中力が増すんですよ。」

露伴は、大石がどうして突拍子もなくそんなことを言うのかわからなかった。
だが、彼の質問に答えない代わりにタバコの火をつけてやることにする。
大石の胸ポケットからはみ出した。すこし血が滲んだタバコの箱を取り出し、吸わせてやる。
そして車の中に転がっていたライターで火をつけてやった。
大石はタバコを咥えたまま話し始める。

大石「岸辺さん、私は思ったんですがね。私らが、このまま古手さんところに行くとですね。後ろのワゴンも古手さんのところに着いちゃいます。」

大石は一息、タバコを吸い、煙を吐き出す。

大石「敵を連れてっちまうのは、どうなんですかねぇ?」

露伴「しょうがないだろ。それとも後ろのやつらを倒してから行くってのかい?」

露伴の文句に大石はニヤリとしてみせた。

大石「この先にけっこう急なカーブがありますよねぇ。」

露伴「・・・?」

大石「そこからは、古手さんのところまではなかなか近い。走って行ってもそこそこの時間で着くと思います。」

露伴「降りろって言うのか?」

大石「飛び降りてください。あのカーブなら、後ろの車には岸辺さんの側は死角になります。飛び降りてから、その場に伏せてやりすごしてください。」

露伴「そうしたら、あんたは・・・。」

大石「私が古手さんのところに行っても、多分役には立ちません。むしろ怪我人がいて邪魔になるだけですからねぇ。だったら、敵を分散させたほうがいいんじゃあないですか?」

露伴「・・・。」

大石「ほら、もうカーブに着きますよッ!!」

キィイイイィイイイイイイ!!

車がカーブに差し掛かったところで、露伴は助手席から飛び出した。
大石はハンドルをクッっと動かし、反動でドアを閉める。
だが、そのせいで車は少し道から逸れた。

ドンッ!ガガッ!!

車体が路肩の岩か何かにぶつかるが、アクセルを踏み続け、無理やり走り抜ける。
後方のワゴンからは、急カーブで大石が運転を誤ったようにしか見えなかった。

大石「熊ちゃんだけにいい格好はさせられませんからねぇ。さぁて、地獄の淵まで鬼ごっこといきましょうかッ!!」

露伴だけを残し、2台の車はカーブの先へと消えていった。
他に追跡している車がないことを確認すると、露伴は立ち上がる。

車が行った道を行くのが最も早く古手神社へとたどり着く方法に思える。
だが、なぜか露伴は林を突っ切るべきだと、直感的に感じた。

露伴「スタンド使いは惹かれあうってやつか・・・。」

露伴はその直感に任せ、林の中へと走っていった。

現実と駒遊びは違う。
交互に手を指しあうなんてことはない。アレが動けばコレも動く。
駒遊びと同じなのは、最後に結末があるということだけ。
結末が生か死なのか、まだわからないけれど。

だから、ここでは少しだけ時間をさかのぼりたい。
露伴と大石が分かれる数十分前に。
露伴と山狗が出会う少し前に。

古手家では、部活メンバー達が夕食を終えていた。夕食は入江が全員に出前をとった。
彼らは夕食の準備の時間も惜しんで作戦を練っていたのだ。
作戦と読んでいいのかはわからないが、彼らなりに梨花を救う方法を悩んでいるようだった。

圭一「ふぃー、寿司なんて久しぶりに食べたぜー。」

魅音「まぁ、うちもお客さんが来たときしか食べないねぇ。」

レナ「監督のお財布の中身は大丈夫かな。かな・・・。」

入江「は、ははは。幸い例の東京からお金はたくさん頂いてますので。これくらいなら・・・大丈夫ですよ・・・。」

詩音「なんでも好きなものを頼んでいいなんて言うからこうなるんです。」

沙都子「だから、おそばでいいと言いましたのに。」

梨花「子供は遠慮しないのが礼儀なのですよ。みー。」

魅音「いやいや、遠慮して特上はやめといたよー?」

レナ「魅ぃちゃん・・・。」

子供達はわいわいと出前の食器を片付ける。
その部屋の片隅で、羽入がわさびの刺激で気絶していた。

圭一「それで、さっきの続きなんだけどさ。園崎家の力でなんとか、梨花ちゃんが48時間前に死んだってことにはできないのか?」

魅音「うーん。警察にコネがないってわけじゃあないんだけど、今すぐにそれを実行しろって言うのはどうも難しいかなぁ。」

詩音「たしかに園崎家がコネを持ってるのはお偉いさんばっかりですからねぇ。偽装の為に、末端の職員まで懐柔するには時間が必要です。」

圭一「くっそー、何か今すぐできる作戦はないのかぁ?」

沙都子「十分な効果を持つトラップにはそれ相応の準備が必要ですわよ。」

レナ「何か、他に相手の隙を見つけないと・・・。監督、他には何か・・・。」

入江「私が知る情報はかなり話したと思うのですが・・・。まだ何かあったですかねぇ・・・。」

彼らが悩んでいると、部屋の隅に寝ていた羽入が飛び起きる。

梨花『羽入ッ!起きていたの?何か思いついた?』

羽入『あぅあぅ・・・。これは・・・。』

梨花『どうしたのよ?』

羽入『露伴が・・・。』

梨花『露伴がどうしたの?』

羽入『露伴の身に何かが起きたようなのです。能力を使いました。』

梨花『この前、入江に使ったと言っていたわね。わざわざ能力を使ったということは、鷹野を見つけたのかしら。』

羽入『違うのです。今までとは違う能力・・・。敵意を感じますです・・・。露伴の身に何かが・・・。』

梨花『何が言いたいのよ?はっきり言って頂戴。』

羽入『露伴はおそらく何らかの敵と戦ったのです。』

梨花『まさか・・・。』

羽入『もう黙っていてもしょうがないのです。今日、梨花は殺されますです。そして露伴が敵と戦った。これ以上は、言う必要もないのです。』

梨花『あんた、そういえばいつも私が死ぬ日にはどこかに行っているものね。やっぱり、私が死ぬ日がわかっていたのね。』

羽入『僕は、梨花の死ぬ姿を見たくなかっただけなのです・・・。』

梨花『まぁ、いいわ。まずは事態に対処するほうが先よ。』

羽入『抗おうというのですか・・・。』

梨花『あら、自分が殺されるとわかって逃げようとするのは当然じゃあないかしら?』

羽入『当然、ですか。』

梨花『えぇ、信号が青なら進むのと同じくらい当然よ。』

羽入『・・・。(梨花、信号の青は進めではなくて、進んでもよいなのです・・・。)』

8 名前: ◆rp2eoCmTnc [] 投稿日:2008/03/29(土) 20:50:11.01 ID:RGGpyKaB0

バッ。梨花が立ち上がる。
皆、新しい作戦はないものかと悩んでいたので、
立ち上がった梨花に自然と注目が行った。

圭一「梨花ちゃん、どうしたんだ?なんか思いついたのか?」

梨花「僕を殺す人間が来ますです。」

魅音「ど、どぅいうこと?」

梨花「オヤシロ様のお告げなのです。僕は、今夜殺されますです。多分、敵はすぐ近くまで来ているのです。」

入江「梨花さん、急に何を・・・。」

沙都子「どうしたんですの?梨花・・・。」

梨花「うまく説明できないのです・・・。でも、本当なのです。」

誰もが瞬時には梨花が言うことを理解できなかった。
入江は、梨花が精神的不安定から発症したかと疑いさえした。
だが、圭一は、圭一は違った。

圭一「梨花ちゃん。冗談じゃあないんだな?」

梨花「はい。こんな冗談は言わないのです。」

圭一「よし、わかった。みんな、今すぐ梨花ちゃんを連れて逃げるぞ。」

入江「ちょっと待ってください、前原さん。」

圭一「いや、待たない。俺は仲間の言うことを信じる。だから、梨花ちゃんを信じる。、敵がすぐ近くに来ているって言うなら、話し合ってる時間なんてないぜ。」

レナ「・・・そうだね。圭一くんの言うとおりだよ。私達は梨花ちゃんを信じる。なら、話し合ってる暇なんてないよね。」

詩音「そうですね。これも山狗の件と同じです。梨花ちゃまの勘違いならそれに越したことはありません。みんなで夜の鬼ごっこでもしたと思えばいいんですから。」

沙都子「おーっほっほっほ、それは楽しそうですわね。闇夜に潜む私のトラップがかわせますかしら。」

梨花「みんな・・・。」

魅音「決まりだね!逃げ込むのは園崎家の地下祭具殿が最適だと思う。とりあえずは祭具殿の中でまた作戦を考えよう。本家に電話を入れておいたほうがいいね。」

詩音「監督、ここまでは車で来てますよね?とりあえず梨花ちゃまとおねぇ、それから沙都子を乗せて行ってもえますか?」

入江「・・・わかりました。逃げることには反対しません。ですが、車は・・・難しいかもしれません。電話も控えてください。」

圭一「監督ッ、協力してくれるんじゃないのかよ?」

レナ「そういうことじゃないよね、監督。なにか理由があるんだよ・・・ね?」

入江「えぇ。私が思うに、もし山狗が敵で、すぐ近くに迫っているとしたら、私の車はもう押さえられていると思います。山狗は富竹さんの事件以来、
梨花さんの周辺を厳重に監視しているはずです。ですから、私の車がある神社の入り口は確実に山狗に押さえられていると思います。また、電話も山狗に盗聴されている可能性があります。」

魅音「たしかに、ここから道に出るには神社の入り口を通るか、林を抜けるしかない。林が安全だとは限らないけど、入り口は確実に押さえられてることになるね・・・。」

沙都子「それでしたら、林を抜ければいいだけですわね。」

圭一「でも、林が安全だとは限らないんだろう?」

魅音「うん、園崎家へ向かう方角が安全かはわからないね・・・。林にも何人か山狗が配置されてると考えるのが妥当だよ。」

沙都子「あら、私の家の周りがただの林だと思いまして?既にいくつかのトラップが仕掛けてありますわ。林の道も全て把握してますもの、園崎家までくらいならなんとかなりますわ。」

圭一「はははっ、おもしろくなってきたぜ!よし、沙都子に先導を任せる!まずは全員で園崎家へ行くぜ!!」

「隊長。突入班の準備整いました。装備は、テイザーのみでかまいませんね?」

小此木「Rを殺しちまったらどうしようもないからな。Rへのテイザーの使用は許可しない。万が一のために出力は最小にしておけ。電話線のほうはどうなってる?」

「切断後の偽装の準備もなんとか間に合っています。」

小此木はここで一度鷹野の顔を伺う。
最後の許可を問うつもりだったが、焦る鷹野は小此木の視線に気づきもしなかった。

小此木「よし、突入班は移動を開始。突入待機位置で待て。監視中の隊員も突入時の配置へ移動。全隊員の配置が終わり次第突入する。」

『突入班了解。配置に着きます。』

『監視班了解。突入班の到着を待ちます。』

鷹野「・・・小此木。」

小此木「は、はい?」

鷹野「あなたは出なくていいの?」

小此木「本当は突入班の指揮をとっとる予定だったんですがね。刑事と漫画家のほうがありますんで、こっちに残りますわ。」

鷹野「そう。大丈夫なのね?」

小此木「えぇ、突入班の鳳7,8,9は俺の直の後輩ですんね。指揮をとる鳳2は、」

『こちら鳳4、R含む子供達が家から飛び出してきました!!林の中に駆け込んでいきます!!入江所長もいます!!』

小此木「なッ!?」

鷹野「どういうことッ!?」

小此木「作戦がばれてやがるッ!!鳳13,14はそのまま入江の車を押さえておけ。鳳4はR宅内に突入、電話を押さえろッ!!残りは全員Rを確保だッ!!」

鷹野「小此木ッ!!」

小此木「大丈夫ですんッ!!」

鷹野「クッ・・・。」

子供達は沙都子を先頭に林を駆け抜ける。
沙都子より大柄な圭一達や入江は木の枝や草にぶつかるが、そんなことは関係ない。
ただ、必死に走り続ける。

パパパパンッ

圭一「なんだッ!?」

沙都子「癇癪玉のトラップですわッ!!おばかさんがひっかかったようですわね。」

詩音「やっぱりッ、敵がいたいみたいですね!!」

魅音「くッ!追いかけてきてるやつもいるよ!!」

レナ「みんなもっと早くッ!!」

入江「く・・・はぁ・・・はぁ・・・。」

沙都子「こっちですわよ!!早くッ!!」

梨花「ッ!!」

梨花の体が林の中の斜面を転がった。
梨花は木の根を踏んだ。その木の根は梨花の右足を見事に受け流したのだ。
梨花は足をひねり、体勢を崩す。
そのまま地面へと転がっていった。

レナ「梨花ちゃん!!」

詩音「梨花ちゃまッ!!」

沙都子「へ?」

沙都子が後ろを振り返る。
梨花が倒れ、梨花より後続の人間は梨花に走りよっていくところだった。

圭一「大丈夫か!?梨花ちゃん!!」

梨花「大丈夫なので・・・あぅッ!」

梨花は自力で立ち上がろうとするが、右足に体重を任せたとたんによろける。
そのまま走り寄った圭一にもたれかかった。

入江「見せてください!!」

入江が梨花の右足首を手に取る。
その瞬間も梨花は苦痛に顔を歪めた。
入江が触診をしようと右足の靴下を下げる。
だが、触診をするまでもなく梨花の右足はどんどん膨らんでいく。

入江「これは・・・骨折しているかもしれません。折れていなくとも・・・この捻挫では・・・。」

沙都子「り、梨ぃ花ぁぁああッ!!」

梨花「逃げてッ!!みんな、私を置いて逃げて!!」

圭一「そんなことできるかッ!!」

魅音「私がおぶるよ!さ、梨花ちゃん掴まって!!」

入江「いえ、大人の私が!!」

梨花「私を連れて逃げるのは無理よ!!みんな殺されちゃう!!」

詩音「でも、梨花ちゃまが殺されるわけにはいかないんです!」

梨花「私は神社で腹を割かれて殺される!!露伴が言っていたわ!!だから、逃げて!!私が殺される前に助けてくれればいい!!いま捕まれば全員殺される!今は逃げて!!」

この極限状態では誰も露伴のことに質問はしなかった。
ただ、梨花の言うことを信じ、どうすべきか考えた。
もっとも早く結論を出したのは圭一だった。

圭一「梨花ちゃんはここに置いていく。」

沙都子「そんなッ!?」

詩音「でも、神社はすぐ近くですよ、ここに置いていったら!?」

圭一「いいから、みんなこっちだッ!!」

圭一は皆を怒鳴りつけ、沙都子を無理やり引っ張り進んでいく。

魅音「みんな、圭ちゃんに従おう。迷ってても全員捕まるだけだ!」

魅音の言葉のとおり、山狗が草木を掻き分けてくる音がもうすぐ近くに迫っていた。
誰もが納得はできず、だが、他の案が思いつかずに圭一に従った。

仲間達が去り、残された梨花は山狗と対峙する。
いや、梨花はこの時点まで敵が山狗だとわかっていなかった。
そして彼らの作業着姿を見て、初めて敵が山狗だと理解するのだった。

梨花「く・・・あいつの予想通りってわけね・・・。」

鳳7「こちら鳳7、Rを発見。負傷している模様。歩けそうにありません。」

『ザザ・・・本部了解。Rを確保せよ。他の子供達と入江所長はどうした?』

鳳7「R以外は見当たりません。」

『本部了解。残りの隊員は子供達と入江所長の確保へあたれ。Rはワゴンまでお連れしろ。』

鳳7「鳳7了解。そういうことだ、大人してくれよ。手荒なことはするなと言われてるんだ。面倒なのは嫌いなんでね。」

目の前の三人の山狗は拳銃のようなものを持っている。
もちろん、梨花に対してそれを使うことはないと思うが、抵抗すればどうなるかはわからない。
梨花は抵抗しないことを決意した。

梨花「黒幕は・・・鷹野?」

鳳8「お喋りは、しないでください。仲間に見捨てられたのは気の毒ですが・・・。」

そう言って鳳8が梨花の体を持ち上げようと近づく。

そのとき、鳳8の横を鳳7の体が横切る。
とっさに鳳8は後ろを振り返った。

そこには、鳳7に全力の蹴りを入れ終えた圭一の姿があった。
鳳9も既に地面に寝転がっている。その傍にはスタンガンを持つ詩音の姿があった。

梨花「圭一ッ!どうしてッ!?」

圭一「へへ、梨花ちゃんはここに置いていったぜ。囮としてなッ!!」

鳳8「くっ!!」

鳳8は瞬時に銃を圭一へと向ける。

鳳8「ぐぁっ!」

しかし、鳳8の手に何か金属のような、とてつもなく硬い塊がぶつかってきた。
持っていた銃を弾き飛ばされる。

まずいッ!!

彼がそう思ったときには、彼の体は宙に浮いていた。
彼の視界が地面だけになる前に、ほんの少しだけ緑髪の少女を見た気がした。
そして地面に叩きつけられると、さきほど彼の銃を弾き飛ばした鉈が彼の目の前に突き刺される。
鉈の裏側では圭一の蹴りに悶絶する鳳7がスタンガンを浴びせられていた。

レナ「梨花ちゃんちの鉈は使い慣れてないから、動くと危ないかな。かな。」

魅音「梨花ちゃんは置いていくって言ったけど、私達が逃げるとは言ってないんだなー、これが。」

入江「はぁ・・・はぁ・・・ははは、てっきり逃げるんだと思ってましたよ。」

息を切らした入江が、鳳8を組み伏せた魅音とレナに近づいていく。

入江「ここがですね、いわゆる頚動脈というやつです。よい子は真似しちゃいけませんよ?」

そう言って入江が鳳8の首に手を当てると、10秒も経たないうちに鳳8の体は急に力が抜け、ぐったりとした。

入江「ほら、今のうちに縛っちゃってください。私が手を離すと復活しちゃいますからね。」

梨花「みんな・・・。」

沙都子「梨花だけを置いて逃げたりはしませんわ。」

圭一「あぁ、説明してる時間がなかったんでな。」

詩音「私もてっきり置いて逃げるのかと思っちゃいました。」

魅音「ほらほら、無駄口叩いてないで手を動かすー。」

魅音「よし、縛り終わったね。」

圭一「よっしゃ、それじゃあ梨花ちゃんを連れて逃げるぜ!!」

梨花を魅音が背負う。沙都子の誘導に従いながら、彼らはその場を後にした。

彼らが目指していた森の中の砂利道が視界に入った。

ズザザザザァァアアッ!!!

圭一達が目指していた砂利道に車が急ブレーキで止まる。
車がしっかりと止まるのを待たずに扉が開かれ、中から山狗たちが降りてくる。
その数は6人。

詩音「6人・・・。こっちは5人しか・・・。」

梨花「もう大丈夫なのです。逃げ回ることくらいはできるのです。」

そう言って梨花は魅音から降りる。
足の痛みは大きかったが、なんとか逃げ回れることを皆にアピールして見せた。

魅音「よし、梨花ちゃんが囮として逃げ回れば、こっちは7人で1人多い!ぶちのめして車をいただくよ!」

沙都子「おーっほっほっほ。そろそろ監督が走るのも限界のようでございますしねぇ!」

入江「ははは、車になると・・・はぁ・・・はぁ・・・ありがたいですねぇ。」

圭一「よっしゃあ、行くぞ!!1人で突っ込むなよ!!仲間と連係するんだ!!」

 

レナが先頭になり飛び出していき、山狗を鉈で叩き伏せようとする。
その背後を梨花の家から持ってきた鉄パイプを振り回す圭一が守った。

沙都子が小柄さを生かして敵を撹乱しながら隙をつくらせる。
その隙を詩音のスタンガンが狙う。

梨花は囮として逃げる。
入江はトンカチを振り回して自分の身を守るのに必死だった。
この時点で6対6。

そして魅音が全体を把握し、
最も隙のある山狗を狙い次々と合気道のようなもので投げ飛ばす。

乱戦になり、組み伏せた山狗を縛り上げるということはできなかったが、
誰の目にも有利なのは圭一達に見えた。
圭一達は冷静に戦い、自分達はまったくダメージを追わずに山狗を追い詰めていく。
山狗たちは混乱し、ダメージを受け、自分達が後続の到着まで持たないであろうことを感じた。

周囲から駆けつけてくる山狗の気配を魅音が感じとる。
だが、目の前の敵はもう2人。残りの4人は今すぐには動けそうにない状態だった。

魅音「後続が来るよッ!!」

詩音「私が運転しますッ!車に乗ってくださいッ!!」

沙都子「梨花ッ!?」

入江「こ、この距離くらいなら梨花さんを抱えて走ってみせます・・・ッ!!」

入江がそう言って、全力疾走はできないであろう梨花を抱えた。
全員が敵を突破できる状態であることを確認した圭一が叫ぶ。

圭一「いっくぜぇぇぇえええええーッッ!!」

梨花「(いけるッ!!)」

パァン

魅音は万が一の場合、後続が自分達に追いついた場合。
自分が囮になってでも仲間達を逃がすつもりでいた。
だから車に対して最も後方にいた。
全員が自分より前に駆け抜けるのを確認してから走り出していた。

だから、魅音が一番最初に何が起こったのかを理解した。
後ろから数えたほうが早い位置にいたから。彼が、前原圭一が。

魅音「け、・・・圭ちゃんッ!?」

魅音のその声に、圭一より前に居た仲間達もそれを振りかえる。
そこには、既に地面に横たわり咳をする圭一の姿があった。
いや、咳ににしては不自然に体を動かしている。

圭一「がッ・・・ぐ、ぐ、ごはッ・・・。」

魅音「圭ちゃんッ!圭ちゃぁんッ!!圭ちゃぁぁあーーんッ!!」

魅音が圭一に駆け寄る。

レナ「け、圭一くん・・・・?」

詩音「嘘・・・圭ちゃん・・・。」

沙都子「圭一さんッ!」

梨花「圭一ッ!?」

入江「前原さ・・・、ど、どいてくださいッ!止血をッ!!」

入江も圭一に駆け寄り、圭一の胸に開いた風穴をどうにかしようと考える。
だが、医師である入江は、ここにいる誰よりも彼の命が助からないことを理解していた。

入江「は、あぁ・・・これは・・・止血を・・・。いや・・・診療所に・・・。」

魅音「圭ちゃんッ!!嘘だッ!!圭ちゃん、返事をしてッ!?」

圭一「・・・。」

圭一は声も出せずに、死ぬ寸前の金魚のように時折口をパクパクとしてみせた。
その様子に仲間達は呆然とし、駆け寄ることさえ躊躇った。

そうこうしているうちに後続の山狗が彼らのもとに駆けつけた。
入江と魅音を除く4人は抵抗をしようとするが押さえつけられる。

とても医療と呼べるものではないが、できる限り処置をしようとする入江。
そして圭一に泣きつき、とても抵抗するようには思えない魅音。
山狗の隊員もこれを押さえつけていいものか、彼女の顔を伺った。
圭一を撃った張本人を。彼らの指揮者を。鷹野三四を。

鷹野は何も返答をせず、ただゆっくりと圭一のもとへと歩いていく。
入江は鷹野に気づきもせず、圭一に処置をするのに必死だった。

鷹野「あらあら、入江先生。こんばんは。月の綺麗な夜ね。」

入江「た、鷹野さん・・・。やはりあなたが・・・。いえ、そんなことより、彼を診療所にッ!すぐに処置をッ!」

パァン

入江「あ・・・が・・・。」

入江の胸に。圭一とほとんど違いのない場所に。
もうひとつの風穴が開いた。

鷹野「傷の処置なら、お好きなだけ自分の傷を処置してください。入江先生。くすくす・・・。」

魅音「監督ッ!何してるの、圭ちゃんを、圭ちゃんを助けてよッ!?圭ちゃんが死んじゃうッ!!圭ちゃんを助けてよぉぉぉおおーーーーッ!?」

パァン

魅音を魅音たらしめている最も重要なものが飛び出す。
無傷の魅音の体は、ビクビクとありきたりな動きをしたあと動かなくなった。

鷹野「五月蝿いわよ。静かになさい、魅音ちゃん。頭首代行が取り乱しちゃあだめよ。くすくす・・・。あははは・・・あーっはっはっはっは!」

鷹野「鷹野より本部へ。制圧したわ。予定通り、死体袋と水を持ってきてもらえるかしら。えぇ・・・そう。あぁ、やっぱり死体袋は6つね。所長にも弾が当たっちゃったのよ。
ふふふ、しょうがないじゃない。えぇ、頼むわ。」

鷹野「さぁて・・・誰からがいいかしら・・・?」

鷹野は、組み伏せられ手足を縛り上げられた残りの部活メンバーを見渡す。
その中で、最も強く鷹野を睨み付ける彼女に鷹野の注意は向けられた。
鷹野を睨み付けるレナに。

鷹野「怖い顔ねぇ・・・レナちゃん。おねぇさん、泣いちゃうわぁ。くすくす・・・。」

レナ「鷹野さんが連続怪死事件の犯人なんですね・・・。梨花ちゃんはうまく誤魔化そうとしていたけれど、薄々気づいていましたよ。」

鷹野「あら、2年目と4年目は私じゃあないのよ?偶数の年は北条家が祟りを下してくれるの。来年はもう北条家もいないけどね。くすくす・・・。」

レナ「5年目で、村が滅ぶからですか?」

鷹野「そうよ、よく知ってるじゃない。そして私は神になる。私がオヤシロさまになるのよ。まぁ、あなたには何の話かわからないでしょうけれどね。」

レナ「・・・あははは。無理だよ。鷹野さんが何をやってもオヤシロさまにはなれない。所詮、ごっこ遊び。あなたには無理だよ。」

鷹野「・・・なれるわ。これからなるもの。」

レナ「あはは。あははははッ。」

鷹野「何がおかしいのかしら・・・。」

レナ「そんなの無理無理。だってオヤシロさまは”居る”んだもの。それに、今年はオヤシロさまの使いも来てるんだよ?鷹野さんに罰を与えに来たんじゃないかな。かな。あははは」

パァン

鷹野「気味悪い子ね・・・。次は・・・沙都子ちゃんかしら?」

詩音「やめてッ!沙都子は殺さないでッ!!」

鷹野「あらあら、自分の命乞いをしなくていいのかしら?詩音ちゃん。」

詩音「私はどうなってもかまわないッ!だから沙都子は、沙都子は助けてッ!」

鷹野「そう、じゃあ考えてあげるわ。」

パァン

鷹野「さぁて、最後になっちゃったわね。沙都子ちゃん。詩音ちゃんの頼みもあるし、殺さないでおいてあげようかしら?
ここで死ぬのと、研究の為のモルモットになるの、どっちがいい?選ばせてあげるわよ?」

鷹野は沙都子に歩み寄りながら話しかける。
だが、沙都子は俯いたままモゴモゴとつぶやくだけで鷹野に返事をしようとはしない。

鷹野「あら、沙都子ちゃん、どうしたの?ちゃあんと、大きい声でお返事しましょうねぇ?」

鷹野はそう言って俯いた沙都子の顔を持ち上げるように軽く蹴りを入れる。

沙都子「いやぁああッ!やめてッ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・」

鷹野「あら?私はどっちがいいか聞いてるのよ?ごめんなさいじゃ、わからないわよ。くすくす・・・。」

沙都子「いやッ!私じゃないんです。叔父さまッ!!やめて!!やめてくださいまし!!」

鷹野「叔父さま・・・?あぁ・・・そういうこと。」

鷹野は沙都子がジタバタともがきながら発した叔父という言葉で全てを理解する

鷹野「精神的ストレスが大きすぎて発症しちゃったのかしら。流石に子供には刺激が強かったかしらねぇ。うふふふ。」

沙都子「嫌ぁッ!!叔父様ッ!!ごめんなさいぃぃいい!!やめてくださいまし!!やめてッ、嫌ぁあ!!どうしてッ!?」

鷹野はしばらく、面白いものでも見るかのように沙都子を観察していた。
観察される沙都子の目には、もう叔父しか映っていなかった。
鷹野も山狗も、近くに倒れる仲間達も全て叔父にしか見えなかった。

沙都子「何でなんですのッ!?いやぁあああ!気持ち悪いのは嫌ぁあぁああ!!」

鷹野「うふふ・・・。何で、ですって?私と沙都子ちゃんは仲良しだったわよね。だから特別に教えてあげるわ・・・。」

鷹野は沙都子に優しく語りかけるが、沙都子には聞こえていない。錯乱し続ける沙都子に鷹野は語り続けた。

鷹野「この世はね、ババ抜きなのよ。知ってるでしょう?ババ抜き。あなた達は部活と言ってよくゲームをするらしいじゃない。」

沙都子「嫌ッ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・。」

鷹野「誰もがババを互いに押し付けあう。一人の敗者と生贄を求めて。私はそのババを引かされたのよ。だから押し付けるの。あなた達に。この村に。ババを押し付ける。
そうすれば私は敗者にならない。敗者にならなければ勝者。私は・・・神になる。私も、おじいちゃんも神になるのよッ!」

「へぇ、ババ抜きねぇ。ババを押し付けあうのはいいんだが・・・、もう一枚ジョーカーが居たらどうするんだい?」

 

その鷹野の背後からの声に、鷹野は振り返る。
だが、振り返る前からそこに誰がいるのかはわかっていた。
この声は、一度だけ聞いたことがある。岸辺・・・岸辺露伴ッ!

鷹野「あら、鬼ごっこをしてるかと思ったら、よくここに来れたわね。でも、ちょっと遅かったんじゃないかしら?」

鷹野は銃を露伴に向ける。
直前まで走っていたのか、露伴は息を切らしながら答えた。

露伴「はぁ・・・、はぁ・・・。いや、なんとか間に合ったよ。梨花を殺す人間を逃がさずに見つけられたからね。」

鷹野「・・・どこまで知っているのかしら。」

露伴「さっぱりだ。だから梨花を殺す人間を見つけたかった。」

鷹野「そう、じゃあ、おめでとう。ご褒美をあげるわ。」

パァン

 

ブシュゥゥウッ!!

露伴の左手の包帯が飛び散った。
いや、正確には露伴の左手の肉が飛び散り、
その勢いで包帯も飛び散ったのだ。
そして、鷹野が発射した銃弾は、空中に静止していた。

露伴「ふむ。やはり、僕の天国への扉(ヘブンズ・ドア-)には、無傷で銃弾をとめるほどのパワーはないようだね。」

そう、露伴は天国への扉(ヘブンズ・ドアー)の左手で銃弾を受け止めた。
それが鷹野には銃弾が空中に静止しているように見えた。
この場に居るものの中で、天国への扉(ヘブンズ・ドアー)が銃弾を止めているのを認識できたのは、
梨花だけだった。

鷹野「あなた・・・何者なのッ!?」

露伴「だから言ってるじゃないか、僕はジョーカーだよ。もう一枚のね。」

鷹野「くっ!!」

鷹野は再び引き金を引こうとする。
仮に露伴が銃弾を空中に静止できるとしても、
鷹野にはもう撃つしか選択肢が残されていなかったからだ。

露伴「2発目を撃たせてやる義理はないな。天国への扉(ヘブンズ・ドアー)ッ!!」

ドシュッ
『体が動かなくなる』

露伴が鷹野の体へと文字を飛ばす。鷹野の体が本と融合した状態になり、露伴の文字が書き込まれる。
鷹野は引き金を引けず、その場に立ち尽くしたまま動けなくなった。

鷹野「か、体が・・・、な、何してるのよ!!取り押さえなさい!!」

露伴「おっと、口は動いたか。」

山狗たちは一斉に露伴へと飛び掛ろうとする。
後続の山狗が合流したため、その数は6人どころではなかった。

だが、露伴にとって数は関係なかった。
かつて鉄平達を叩きのめしたときと同様に天国への扉(ヘブンズ・ドアー)を使って体術を駆使する。
死角がなく、人間とは思えないスピードで動き、時には重力に逆らっているかのような姿勢をとる。
そんな露伴に山狗たちは何人居ても勝てるはずがなかった。

この光景は沙都子には、複数の叔父暴れまわっているように見えた。
叔父が、自分の周りで暴れまわっている。
沙都子にとってこれ以上恐ろしいことはなかった。

だが、沙都子は違和感を感じる。
ほんの少しの違和感。それはじわじわと大きくなり、
錯乱しながらも少しずつ違和感の理由を理解していく。

叔父が暴れまわっている?違う・・・。
叔父は、叔父は戦っているのだ。

叔父は、叔父同士で戦っている。
いや、1人の叔父と、残りの叔父が戦っている。

戦っている?それも違う・・・。
1人の叔父が、残りの叔父を・・・倒しているのだ。
1人の叔父が、沢山の叔父を倒している。

あれ?そうだ、私は覚えている。
叔父が倒されるのを覚えている。

そうだ、叔父を倒してくれるのは、叔父じゃない。
叔父を倒して、叔父を倒して私を助けてくれるのは・・・、

沙都子「露伴さんッ!!」

沙都子が露伴の名を叫んだのは、
露伴が最後の叔父の延髄に回し蹴りをぶち込んだときだった。

露伴「すまない。沙都子ちゃん。帰るのが遅くなったよ。夕御飯がもう冷めちまったかな?」

沙都子「露伴・・・さん・・・。遅いですわ・・・。罰としてお夕飯は抜きですの・・・よ・・・。」

露伴「そりゃあ困ったな。昼から何も食べてないんだ。」

そう言いながら、露伴は手足を縛られ寝転がっている沙都子の頭をなでてやった。
そして立ちつくしたままの鷹野の下へと歩いていく。

鷹野「な、何よ・・・。アンタなんなのよ・・・。」

露伴「君は喋らなくていい。読むほうが楽だからね。」

そう言って、露伴は鷹野の顔のページをペラペラとめくる。
そして、無造作に顔のページを引き剥がした。
鷹野はページを引き剥がされたショックで気を失った。

露伴「さてっと、羽入はいないのか?」

露伴はそう梨花に問いかける。
だが、梨花は答えず、俯いたままだった。

露伴「・・・。」

「ここにいるのです。」

答えたのは羽入だった。
露伴の後ろにいつのまにか現れていた。

露伴「どこにいたんだよ。おまえのご主人様が死ぬかもしれないってときに。」

羽入「僕は・・・ちゃんと見ていましたのです。露伴こそ・・・こんな大事なときに・・・。」

露伴「うん?さっきも言ったが、僕は間に合ったぞ。梨花を殺す人間をちゃあんとみつけたじゃあないか。」

梨花「間に合ってないわよッ!!」

羽入の方から視線を梨花に移すと、梨花が露伴をにらみつけていた。

梨花「みんな・・・みんな殺されたわ!あんたが来るのが遅いからよ!!遅い遅いッ!全然間に合ってないわッ!!私だけ助かってもだめよッ!!みんながいなきゃ、だめなのよッ!!」

露伴「僕は・・・君を助ける約束なんてしたか?」

梨花「あんた、まだあんなことを根に持ってるのッ!?だからってッ、圭一達は悪くないじゃないッ・・・あなた・・・圭一達とあんなに仲よさそうにしてたじゃない・・・。」

露伴「彼らは僕によくしてくれた。僕も・・・彼らが好きだったよ。」

梨花「じゃあ・・・どうして・・・。」

露伴「・・・。」

梨花「なによ・・・アンタなんて来なければよかったのに・・・。皆が力を合わせても、勝てないなんて知りたくなかった・・・。何よ・・・、あんた何なのよ・・・。」

露伴「・・・。他の山狗達が来ると面倒なんでね、さっさと終わりにさせてもらうよ。・・・天国への扉(ヘブンズ・ドアー)。」

ドシュシュシュッ

露伴は梨花に天国への扉(ヘブンズ・ドアー)を使い、書き込む。
梨花はそのまま意識を失った。

羽入「露伴ッ!?梨花になにをしたのですッ!?」

露伴「”この世界では殺されるまで目が覚めない。”、そして、”この岸辺露伴と出会った世界の記憶を失う。”そう書き込ませてもらった。」

羽入「なぜなのです、露伴ッ!あなたは鷹野の味方なのですかッ!?」

露伴「勘違いするなよ。僕は誰の味方でもない。だが、漫画の題材に干渉することが嫌いでね。だから、この世界はなかったことにする。
ジョーカーが2枚あるババ抜きは、やりなおさなくっちゃあな?」

羽入「あなたは・・・最初からボク達を助けるつもりがなかったのですね。」

露伴「そうだよ。圭一君たちが殺されるところに間に合わなかったのは、わざとじゃあないがね。もし間に合っていても、助けなかったよ。」

羽入「恩を仇で返すというのですか?」

露伴「この世界に連れてきてもらったことは感謝してるよ。でも、僕が干渉して、鷹野を倒せば、それで済むのかい?」

羽入「・・・。」

露伴「鷹野以外の人間が梨花を殺しに来るかもしれないぞ?僕だって、いつかは元の世界に戻ることになる。そうしたら、誰が梨花を、村を守るんだ。」

羽入「それは・・・、でも、今見殺しにする理由にはならないのです!」

露伴「・・・。もうひとつの理由は、おまえと梨花が気に食わないからだ。傍観者を気取った神に、自分を魔女だと言い、賽を振り続けるガキ。気に食わないね。」

羽入「僕は露伴をこちらの世界に連れてきたのです。」

露伴「それで?そのあとは僕が勝手に敵を倒してくれるのか?梨花だってそうだ。入江と僕を会わせてみたりはするが、それっきり。皆が力をあわせても勝てないだって?
その皆っていうのにお前ら二人は含まれないのか?」

羽入「あぅあぅ・・・。」

露伴「ふん・・・、だから、少しばかり意地悪をさせてもらったよ。もう1つ。梨花に書き込んだことがある。それは、”羽入が全力で協力しない限り、この古手梨花は幸せになれない。”だ。」

羽入「・・・。」

露伴「まぁ、これから記憶を消されるおまえに言ってもしょうがないことだけどな。それじゃあ、記憶を消させてもらおう。天国への扉(ヘブンズ・ドアー)ッ!!」

ドシュシュッ
『この岸辺露伴と出会った世界の記憶を失う。』
『この世界では梨花が殺される直前まで目を覚ますことはない。』

羽入は意識を失った。

沙都子は不思議な光景を見ていた。
露伴が助けに来てくれた。そこまでは不思議ではなかった。
だが、露伴の近くには不思議なぼんやりと光る少年の姿がある。
鷹野は顔や体が本のページになり、それが鷹野であるのかすら疑わしい。
さらには宙に浮いた巫女服の少女まで現れた。

発症した沙都子にはスタンドが見えるようになっていた。
だから、さきほどから露伴が梨花を本にしたり、
宙に浮いた少女を本にしたりする不思議な光景に、息を呑んでいたのだ。

露伴「さて、沙都子ちゃん。申し訳ないけど、君ともお別れだ。仮に僕がこの場で君を助けても、君は発症してしまう。だが置いていけば、殺されるか、実験の材料にしかならないだろう。」

露伴はそう言いながら、沙都子を縛り付けている縄を切った。

露伴「僕には、せめて安らかにいかせてあげることしかできない。」

沙都子には、露伴の言う意味は難しくてわからなかった。
だから、今の沙都子に答えられる、精一杯の答えをした。

沙都子「私は、露伴さんを信じていますわ。だから、露伴さんの思うとおりにしてくださっていいんですわよ。」

露伴「・・・ありがとう。天国への扉(ヘブンズ・ドアー)・・・。」

ドシュッ
『安らかに逝く』

露伴の横に現れた少年が指先を光らせたかと思うと、
沙都子は体に力が入らなくなった。

そのまま地面に倒れこむが、痛みはなかった。
意識が薄れていくが、恐怖や不安はない。
むしろ、心地よいくらいだった。

意識が完全になくなるまえに、
沙都子は親友の顔を一目見ようと梨花に焦点をあわせる。

親友は顔が本になっていたが、可愛い寝顔を見せてくれた。
そして、その顔のページには、後から書き加えられたような。
他とは違う文字でこう記してあった。

“いつか、仲間達とともに幸せな昭和58年7月を迎える。”

その文字を見つけた直後、沙都子の意識は完全になくなった。

『第1小隊より本部。営林署の滅菌を終了。脱走者4名は射殺。』

『第2小隊より本部。滅菌終了。脱走者なし。』

『第3小隊より本部。脱走者10名以上。現在掃討中。制圧は時間の問題。』

『第4小隊より本部。滅菌終了。脱走者なし。』

『第3小隊より本部。脱走者13名全員の射殺を確認。滅菌を終了。』

「了解。機密保持部隊の全小隊は遺体数と点呼数の確認を厳重に行われたし。」

鷹野は、滅菌が始まるまでは不機嫌だった。
岸辺露伴という謎の男に自分達の計画を引っ掻き回された。
そして、その男は計画を止めることができるにもかかわらず、姿を消した。
計画を止めずに。それが不愉快でしょうがなかった。

だが、滅菌が始まってからは急に上機嫌になる。
彼女の振るうタクトは、他の世界と同じく、死の葬送曲を奏でた。

「三佐、滅菌の完全終了を確認。通信妨害を終了しますがよろしいですか。」

「えぇ、いいわよ。くすくす・・・。」

『施設処理部隊より定時連絡。機密搬出と・・・』

指揮車の中は続々と作戦の段階の進展の報が告げられている。
だが、1人の男が、鷹野の上機嫌を損なう話を持ってやってくる。
その男は、小此木だった。

小此木「上機嫌ですんね、三佐。例の件のお話があるんですが、」

鷹野「あら、邪魔しないで頂戴よ。この新たな神を讃える最高の讃歌を。」

小此木「讃歌ですか・・・。申し訳ありませんが、うちらも仕事ですんね。」

鷹野「わかったわ、行けばいいんでしょう?」

鷹野はそう言うと、指揮車の出口へと向かう。
彼が言う、例の件とは、鷹野を不機嫌にさせた男。岸辺露伴の話に違いない。
小此木がすぐに用件を言わないことから、他の隊員の前では話せない話なのだろう。
そう鷹野は考えた。

指揮車は営林署の敷地内に停めてあった。
もっとわかりやすく言うなら、雛見沢分校のグラウンドに停めてあった。
鷹野と小此木は校舎裏へと進んでいく。
校舎裏の中ほどまで進み、鷹野は歩みを止めた。

鷹野「このへんでいいでしょう?やつは、岸辺露伴はまだ見つからないの!?」

小此木「そ、そいつぁ申し訳ないんですが・・・。やはり診療所を襲撃したあとの足取りは掴めませんね。」

鷹野「・・・。」

小此木「・・・。」

鷹野「なに?それだけの報告の為にここに呼び出したの?」

小此木「いえ、違いますんね。実は三佐に来て貰ったんは、お願いがあるんですわ。」

鷹野「お願い?先に言っておくけど、お金はもうないわよ。これ以上の報酬の件は、東京の野村にでも言いなさい。」

鷹野は小此木が土壇場にきて、さらなる金銭を要求してきたのだと思った。
口止め料というやつだろうか。
小此木は答えずに、自分の胸のポケットから何かを取り出す。

それは、一丁の拳銃だった。

鷹野はなぜ小此木が銃を取り出したのかわからず、何もしゃべらない。
小此木も鷹野を無視し、拳銃をいじり弾倉を確認する。

小此木「三佐。一発だけ弾が入ってますん。こいつで自分の頭ぁ、ブチ抜いてくれませんか?お願い言ぅんは、これなんですわ。」

小此木はそう言いながら、笑顔で拳銃を鷹野に差し出してきた。
その小此木の笑顔のせいで、鷹野が状況を理解するのが遅れる。

鷹野「な・・・何?・・・これで頭・・・?ッ!!で、できるわけないでしょッ!!」

小此木「三佐。これは俺のせめてもの情けですん。女王の死後、そろそろ24時間経過しますんね。三佐が発症してもおかしくない時間です。」

鷹野「私が、発症すると言うの・・・?」

小此木「富竹二尉の予防薬が効かなかったんですから、ありえないことじゃありませんね。女王の死後、三佐は雛見沢症候群を発症し、錯乱。
その場にいた俺達と銃撃戦になり、やむなく射殺。そうなる予定なんですわ。」

小此木が俺達という言葉を使うと、鷹野を囲むように暗闇から男2人が現れる。
小此木を含め、3人で鷹野を囲む形になった。

鷹野「何を言ってるのよ!富竹のは私達がニセの注射を!それに、私が発症するならあなた達もッ!」

鷹野はまだ状況が理解できない。
いや、理解できていても認めたくないのだろうか。
だから、小此木ははっきりと言ってやる。

小此木「三佐が発症しようが、しまいがどっちでもいいんですわ。これは東京の野村さんが三佐を始末するために考えた予定ですんね。だから、滅菌とは関係ないんですわ。」

鷹野「嘘・・・野村・・・さんが・・・・。」

小此木「俺にも恩を感じる気持ちくらいはありますんね。ですから、自分で一発。華々しく散ってもらえやしませんか?
それなら、三佐は自らの行いに耐えられず自殺ってことになりますんでね。」

鷹野「なんで・・・なんで私が死なないといけないのよ・・・。」

小此木「当初の予定は、タイミングがあれば始末しろってことだったんですがね。あの大石とかいう刑事のおかげで予定が狂いましたわ。三佐の偽装殺人がバレたんですわ。
すったらん、野村さんは三佐を確実に消せ、と言いますんでね。」

鷹野「嘘・・・嫌・・・嫌よ。そんなの嫌ッ!!」

激昂した鷹野が小此木に襲い掛かろうとする。
だが、小此木の指は躊躇なく引き金を引いた。

パァン

小此木「恩は感じますがね、容赦はできないんですわ。」

引き金を引いた後、小此木は銃をしまった。
そして、一度だけ敬礼の仕草をした。

小此木「よしっ、急げッ!」

小此木が部下に命じると、部下は動かなくなった鷹野に銃を持たせ、引き金を引く。

パァン

パァン

小此木「よし、これで硝煙反応は残るな。銃を使用したのは俺とおまえの二人、計2発。最初の1発は三佐がこっちに向かって撃った。2発目はこっちの威嚇射撃だ。わかったな。」

「なるほど、これがトカゲの尻尾きりってやつか。」

小此木「あぁんッ!?誰だッ!?」

小此木たちは周囲を警戒していた。事情を知る隊員は少ないほうがいい。
他の者が近くにいないことに注意を払っているはずだった。

露伴「僕だよ。僕。岸辺露伴さ。」

露伴が暗闇から姿を現す。
小此木を含む、3人が一斉に露伴へと銃を向けた。

小此木「ちょうどいいところに来たんね。貴様を殺せば、俺の仕事も全部終わりになる。」

露伴「ふふふ。そりゃあお疲れ様だな。」

小此木「何者なのか・・・殺す前に教えてもらおうか。」

露伴「僕かい?僕は・・・、オヤシロさまの使い。君を殺す人間だよ。(天国への扉(ヘブンズ・ドアー)ッ!!)」

ドシュッ
“死ぬまで喉を掻き毟る”

小此木「ッ!?あ・・・んぅッ!?て、手が勝手に動ぐぞヴぉ・・・。」

露伴「富竹も、鷹野も、入江も死んだ。アンタだけ生き残るっていうのは、・・・どうもフェアじゃあないんじゃないか?」

小此木は銃を投げ出し、喉をバリバリと掻き毟り始めた。

小此木「がぁどぉ、どヴぇっぼ、どべ・・・ろ・・・。」

小此木の腕力で全力で喉を掻き毟るものだから、声が声にならない。
だが、隊員の1人が、小此木の意思を汲み取り、小此木の手をとめようとする。

だが、とまらない。両腕で小此木の左手を止めようとしても、それでもとまらない。
いくら小此木が体を鍛えているといっても、自分だってそこそこの腕力だ。
その自分が両腕で左手を止められないなんて、どう考えても異常な状態だった。

「く・・・そ、止まらねぇ。何をしやがったぁあッ!」

もう1人の隊員も事態の異常さに気づく。
彼は、露伴を排除することが事態を好転させる唯一の方法だと考え、引き金を引いた。

パァン

しかし、発射された銃弾は校舎の壁に突き刺さった。

パァンパァン

何発撃ってもかわらない。露伴の体をすり抜け、校舎の壁に傷を増やす。

露伴「おっと、この世界に居られる限界のようだな。体が透けてきた。富竹、入江、山狗・・・。」

露伴は指を折りながら何やらブツブツと喋りだした。

露伴「・・・そしてソイツ。8回目で限界か。なるほど、オ”ヤ”シロさまって名前は本当らしいな。ふふふふ。」

そう言うと、露伴の体は完全に消えた。

銃声を聞きつけた別の隊員達が駆けつけてくる。

「今の銃声はなんだーッ!?どうしたぁーッ!?」

彼らが到着した現場には、何が起きたのかまったくわからない光景が広がっていた。
銃を握り締め、横たわる鷹野。喉に手をあて、血を口から噴きだして倒れる小此木。
その横で、怯えるようにうずくまり、ブツブツと何かを呟く隊員。
また、別の隊員は壁に向かい弾の空になった銃の引き金を引き続けていた。

「おいッ!どうしたッ!何があったッ!」

「ひ、ひぃぃいい~、そこに露伴が・・・岸辺露伴がぁぁっぁああああッ!!!」

銃の引き金を引き続ける隊員は、まるで幻覚でも見ているかのように、
何もない空中を指差して怯えていた。

「ごめんなさぃぃい。オヤシロさま。ごめんなさい、ごめんなさい。祟らないでください。俺達がぁ・・・俺達が悪かったんです。ひぃいい。」

うずくまった隊員も話しかけられても、会話が成立しない。
二人とも錯乱状態だった。

「巡回班より、本部。巡回班より本部。校舎裏で発症した隊員を発見。2名を確保した。発砲したのは彼らの模様。鷹野三佐と小此木二尉も倒れている。
医者をよこしてくれ。・・・多分、無駄だと思うがな。」

無線をする隊員は彼らの様子を見て、そう呟いた。

2008年(平成20年)
6月22日(日)
北海道札幌市北区北海道大学病院—-

1人の男が、病室の部屋番号をキョロキョロと探しながら歩いていた。
その男は、ひとつの病室を見つける。
入口の横にあったホワイトボードに彼が見舞う人物の名前があることを確認する。
その名前は、”大石蔵人”。男は間違いがないことを確認すると、病室のドアを開けた。

赤坂「失礼します。」

大石「おんやぁ、その声は・・・。」

赤坂「お久しぶりです、お体は大丈夫ですか?」

大石「なっはっは、心配には及びません。大学病院だと、若い学生さんがいっぱいいましてねぇ。それが楽しみで退院を伸ばしちゃってるんですよぉ。」

大石の性格からすると、半分本気で言っているとも思えるような発言。
だが、以前会ったときと比べて目に見えてやつれた様子を見ると、
赤坂にはそれはただの強がりにしか聞こえなかった。

赤坂「はやく退院してください。私に社交ダンスを教えてくださるのではなかったですか?」

大石「んっふっふっふ。どうしましょうかぁ。若い女の子にダンスを教えるほうが楽しいですからねぇ。」

赤坂「それだけ言えるなら、本当にお元気なようですね。」

大石「なっはっはっは。若い子達と遊ぶようになってから、最近は調子がいいんですよ。生き甲斐がないと、だめですねぇ、人間ってやつはぁ。」

赤坂「生き甲斐・・・ですか。」

大石「えぇ・・・。」

赤坂「まさか、あんなに早く真相を暴くとは・・・。」

大石「本題に入りましょうか。岸辺さんの件なんでしょう?」

赤坂「えぇ。裏が・・・、取れました。」

大石「・・・そうですか。では、あの漫画に描いてあることが事実なんですね?」

赤坂「私の捜査では、確認できない部分もありましたが・・・。概ねは、あの漫画が事実です・・・。決め手は・・・。知人の紹介でなんとか巡りあえた、山狗の1人です。」

大石「そりゃぁ・・・確定ですねぇ。」

赤坂「えぇ、公にはしないという約束でなんとか話して頂きました。」

大石「そうですか・・・。」

赤坂と大石には、数ヶ月前に露伴から1冊の漫画本が届いた。
いや、漫画本というより、同人誌という表現のほうが近いかもしれない。
赤坂と大石の為だけに用意され、公の場には発表されていない露伴手作りの本だったからだ。
そしてその漫画の内容は、雛見沢大災害の真実を描いたものだった。

彼らははじめ、それを信じられなかった。
だが偶然、赤坂は過去に、当時の自衛隊関連の資金の流れを調査したことを思い出す。
その調査結果を露伴の漫画と照らし合わせると、漫画の内容を笑って誤魔化すこともできなくなった。
そして今日まで、赤坂は独自に調査を進め、その報告を大石に伝えに来たところだったのだ。

赤坂「漫画の裏については、これくらいなんですが、もうひとつ。裏をとっているうちに知ったことがあります。」

大石「ほぅ、なんですかな?」

赤坂「竜宮礼奈が、病院を退院したそうです。」

大石「そ、それはまた・・・彼女、治ったんですか?」

赤坂「えぇ、看護婦に詳しい話を聞いたところ、岸辺露伴を名乗る男が面会に来た直後、心身喪失状態から回復したそうです。」

大石「それも超能力の仕業ですかねぇ。」

赤坂「さぁ・・・。」

大石と赤坂は、もう言葉を口にできなかった。
岸辺露伴。彼は、大石達の望みどおりに真相を暴いた。
だが、真相は、大石や赤坂にとって、受け止めるには重過ぎるものだった。

××県鹿骨市雛見沢—-

1台の外車が荒れた野原に入ってくる。
いや、ここは本当は野原ではない。グラウンドなのだ。
小学校のグラウンド。もう25年も誰にも使われていないが。
ここはグラウンドなのだ。

車はそのまま、グラウンドの端にある、崩れかけた建物に近づいていく。
建物の横に車が停車したとき、どこから現れたのか1人の女性が、車に近づいてきた。

??「遅かったですね。」

露伴「すまないね。ちょっと高速が混んでたんだ。」

車からは露伴が降りたった。
そして、この露伴に話しかけた女性は、
そう、竜宮礼奈だった。

露伴「だいぶ前から着いてたのかい?レナちゃん。」

礼奈「いえ、私も遅れてきたんです。」

露伴「そうか、それならよかった。」

露伴は車の助手席を開けて荷物を取り出す。
花束と、封筒をひとつ。それからコンビニの袋をひとつ取り出した。

礼奈「あ、持ちましょうか?」

露伴「いや、自分で供えさせてくれ。」

露伴は既に花束がひとつ置かれている場所へと近づいていく。

露伴「あぁ、君らの教室はここだったね。」

礼奈「はい。だから、ここにお供えすることにしました。」

露伴も花束を供える。
そしてコンビニの袋をゴソゴソといじり始めた。

礼奈「どうしたんですか・・・あれ?」

礼奈は露伴が持つものに疑問の声をあげる。
露伴の手には、ジッポライター用のオイルの缶が握られていた。

礼奈「それ、どうするんですか・・・?お線香なら、余ってますよ?」

露伴「ははは、これはこうするんだよ。」

露伴は、そう言うと、持っていた封筒にオイルをかける。
そしてそれを花束の前に置き、火を点けた。

封筒が燃え始めると、中身が少し覗かれる。
封筒の中には、紙がぎっしりと入っていた。
だが、その紙も炎に炙られ、黒くなり。
元がどんな紙だったのかすらわからなくなっていった。

礼奈「何が入ってたんですか?封筒の中。」

露伴「今の時代は便利になっててね。漫画の原稿っていうのは、手書きで書いてもすぐにデータに取り込めちまうんだよ。」

礼奈「それじゃあ、漫画の原稿だったんですか?」

露伴「あぁ、データは出版社にもう渡してあるけどね。いま燃えているのは、オリジナルの原稿さ。」

礼奈「いいん・・・ですか?」

露伴「あぁ。もう、沼が埋め立てられて沢はないからね。綿流しの代わりだよ。」

礼奈「それで、今日を選んだんですね。」

露伴「あぁ、6月の第三か第四日曜日。それが綿流しの日。毎年、来る約束をしたんだ。」

礼奈「そうですか・・・。」

原稿が燃え終わるのを見届けると、露伴は立ち上がる。

露伴「さて、これで終わりかな。」

礼奈「あれ、帰っちゃうんですか?」

露伴「まぁ、用事は済んだからね。」

礼奈「よかったら、少しお散歩しませんか?雛見沢を。タクシーの人が迎えに来てくれるまで、まだ時間があるんです。」

露伴「・・・まぁ、特に予定があるわけじゃないが。」

礼奈「一緒に歩きたいんです。雛見沢を知ってる人と。」

露伴「・・・。僕でよければ、ご一緒しよう。」

露伴と礼奈はグラウンドを抜けようと歩き出す。

「ありがとう。」

そう、声が聞こえた気がして露伴は振り返った。

露伴「今の声は・・・。」

礼奈「どうかしたんですか?」

露伴「あぁ、いや、なんでもない。」

露伴は少しだけ嬉しそうな顔をして、再び歩き始めた。

岸辺露伴はこの後に短期連載の漫画を雑誌に連載する。
その漫画は、今までの露伴の作風とはまったく異なるものだった。

田舎の色を強く残すとある村。
そこで生きる8人の少年少女の友情を描いた作品。

従来の露伴のファンからは否定の声も出たが、
連載直後から話題を呼び、一大ブームを巻き起こす。

短期連載ということもあり、今でも続編の執筆が望まれる声が絶えない。
その、作品の名前は、

――――――――――――「ひぐらしのなく頃に」

■TIPS
もうひとつの2008年6月22日—-

岸辺露伴は、戸惑っていた。
彼が、初めてそれを体験したからだ。

露伴「これが・・・デジャヴってやつか・・・?」

露伴はとある村に来ていた。××県鹿骨市雛見沢村。
この村で過去に4年連続で起きた連続怪死事件を漫画の題材にするため、彼はこの地を訪れた。
また、明日はこの村の名物になっている綿流しの祭りの日でもある。
そちらを取材するという目的もあった。

だが、彼は初めて来たはずのこの村で、既視感を感じていた。

露伴「たしか・・・こっちに行くと、園崎家が・・・。園崎家・・・?なんだ?そりゃあ。」

自分でもわけがわからなくなりながら、足を進める。
すると、自分の予想通りの大きな門構えの家が見えてきた。

その門の前には二人の男女が立っている。
男のほうが近づいていく露伴に声をかけてきた。

??「こんにちわー。初めてお会いしますね。他所の方ですか?」

露伴「あ、あぁ、仙台から来たんだ・・・。(馴れ馴れしいやつだな。いや、田舎の連中ならこんなもんか?)」

??「へぇ、仙台からわざわざ。私はこの村に住んでる前原圭一と言います。それで、こっちが妻の、」

??「礼奈です。はじめまして。」

露伴「あぁ、僕は露伴だ、岸辺露伴という。」

圭一「露伴・・・どこかで・・・。あッ、も、ももももしかしてーッ!」

露伴「あぁ、多分その、もしか、だ。漫画家の岸辺露伴だよ。」

圭一「うおぉおおーーー、まじかよぉ!!偶然露伴先生に会えるなんてぇぇええええーーーッ!!」

圭一が年に似合わず、おおはしゃぎする。
もう40近いであろうおっさんが大はしゃぎするのを露伴は冷ややかな目で見ていた。

ゴトリ

扉の閂が抜かれる音がする。
そして扉の中から、礼奈よりも背の高い女性が顔を覗かせた。

??「お待たせー。今、沙都子と梨花が来ててねー。って、あれ、お客様?」

圭一「おい、魅音、聞けよ!この人があの漫画家の岸辺露伴先生だぞ!!」

魅音「え・・・え・・・ぇぇぇえええーーーーッ!!」

露伴は彼らに歓迎され、家へと上がらされる。
取材をしたかった露伴にとっても好都合だった。

圭一「それじゃあ、露伴先生。来年も来てくださいね!!連載のほうも期待してますよ!」

魅音「露伴先生!新連載も単行本買うから、ガンガン連載しちゃってよ!」

詩音「おねぇ、そろそろ漫画本は卒業してください。」

礼奈「あはは。先生、すみません、主人が子供で・・・。でも、色々お話が聞けて楽しかったです。また雛見沢に来てくださいね。」

梨花「来年も来ないと、オヤシロさまに祟られるわよ。」

沙都子「・・・また来てくださいませ。露伴さん。」

露伴は取材も終え、綿流しの祭りを堪能した後に圭一たちに見送られる。
取材の成果もばっちりだし、彼らはとても露伴によくしてくれた。
露伴は来年もまた来ようかな、なんてことを思いながら、手を振って別れる。

沙都子「・・・ありがとう。

・・・私達を幸せにしてくれて。」

沙都子が、露伴の姿が見えなくなる直前に、誰にも聞こえないようにボソリと呟く。
だが、隣にいた梨花にはそれが聞こえてしまっていた。

梨花「うん?どうしたの?沙都子。なにかあったの?」

梨花が沙都子のほうを見ると、沙都子の瞳からは一筋の雫がこぼれ落ちていた。

梨花「沙都子・・・?」

沙都子「昔、梨花は、圭一さんやレナさんに、別の世界を覚えているか?と聞いていましたわね。」

梨花「・・・?」

沙都子「別の世界のことを覚えているのは、圭一さんやレナさんだけではないということですわ。」

沙都子は涙を手でぬぐい、露伴の方向を見る。
すでに露伴の姿は見えなかった。

― 完 ―

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